第183話 進化の光 その5
瓦礫の山の中に半ば埋もれるようにして倒れこんでいたヴァイスセイヴァーが、火花を散らしながらゆっくりと立ち上がった。だがその姿はとても万全とは言えず、立ち上がってはいるが今にも爆発しそうな酷い有様だった。右腕はツヴァイザーゲインの攻撃と瓦礫に押し潰された事で完全に圧壊し、脚部のダメージも深刻で辛うじて立ち上がる事は出来ているが、スラスターなどは完全に死んでおり、胴体と脚部は半壊しフレームが見えている箇所があり今も火花を散らしている。現状ヴァイスセイヴァーの無事な部分は左腕と背部のブースターのみ、と満身創痍に等しい状況だった。
「いっつうう……ヴィンデルの馬鹿……」
突然の攻撃で強かに打ちつけた全身の痛みに顔を顰め、レモンはヴィンデルへの文句を口にしながら外部モニターの復旧を試みる。頭部が右半分潰れていることもあり、コックピットのモニターから確認出来るのは左半分という極めて狭い視界だったが、それでも現状を把握するには十分だった。
「……見慣れた地獄ね」
あちら側で何度も見たアインストの群れが量産型Wナンバーズの乗る無人機を襲い、その身体に寄生しアインストへと作り変える。何度も何度も、それこそ悪夢でも見続けた地獄の光景だった。
「どこに行っても逃げられないのかしらね……」
結局の所どこに行っても、別の世界へ向かったとしてもこの地獄からは逃れないのかと自嘲気味に笑ったレモンは、その視界にヴァイスセイヴァーよりも酷い状態で倒れこんでいるヴァイスリッター改を映した。
「馬鹿ね、私なんかを庇うから」
ヴィンデルにとっては自分以外が捨て駒であり、永遠の闘争の世界を作るためならばどんな手も使う。あの広域攻撃は戦略としてみれば間違いないが、友軍であるレモンとアクセルにも通達せずに行ったのは、ここでレモンとアクセルが死んでも良いとさえ考えている証と言えた。
「本当……馬鹿ね」
エクセレンに言ったのか、それともレモンが自分自身に告げたのかは分からない。だが本来ヴァイスリッター改が負っているダメージは自分が負うべき物であった事をレモンは知っている。邪龍鱗を回避したことで姿勢を崩したヴァイスセイバーが向かってくる残影玄武弾に貫かれる寸前に、オクスタンランチャーを盾に割り込んだヴァイスリッター改の姿が脳裏を過ぎった。庇うつもりがあったのか、なかったのか、それとも攻撃を受け止めた反動で偶然割り込んだのか……定かでは無いが、ヴァイスリッター改のおかげで致命的な被害を間逃れた事をレモンは認めざるを得なかった。
「……」
だが今は敵同士……動く気配の無いヴァイスリッター改にオーバーオクスタンランチャーの銃口を突きつけ、しばし葛藤したレモンはふうっと小さく溜め息を吐いた。
「やっぱり私って損な生き方をしてるわね」
振り返ると同時に引き金を引き、放たれたビームが空中から急降下して来た不知火の胴体に風穴を開け、空中に爆発の華を咲かせる。
「……本当に未練がましいわよね、私……」
ヴィンデルに殺されかけているのに、まだシャドウミラーに未練を持っている自分の愚かさに深い溜め息を吐いたレモン。普通に考えればエクセレンをここで殺すか、攫うか、それともキョウスケに対する人質として扱うかが最善だが…レモンはそのどれも選択しなかった。
「起きなさい、そのまま寝てたら死ぬわよ」
『うっ……わ、私……まだ生きてる……』
「そうね、まだ生きてるけど、そのまま寝転がってると死ぬわよ。ほらさっさと機体のコンディションを確認しなさい」
『そっちも酷い事無い? あの攻撃、貴方の所のリーダーでしょう』
辛うじて起動したヴァイスリッター改のモニターにヴァイスセイヴァーの姿が映ったのか、引き攣った声で問いかけてくるエクセレンにレモンは苦笑し、エクセレンの問いかけには返事を返せなかった。エクセレンの言う通りであり、それを否定する言葉を持たなかったからだ。
「アインストも凄い勢いで出現してるし、こんな中で半壊した機体「キッシャアアアアアアッ!!!」……インベーダーまで出て来てるみたいなのよね、このままだと私も貴方も死ぬわけ、私の言いたいこと判る?」
アインストに加えてインベーダーまで出現した事にレモンは回りくどい事を言うのをやめて、単刀直入に話を切り出す。
『まだ死にたくないから味方と合流するまでは協力ってことでしょ? 私はOKよん♪』
「OK、じゃあこの場を切り抜けるまでよろしく。それじゃあさっそくだけど……この状況どうやって逃げればいいと思う?」
『無理ゲーね、普通に死ぬわ……でもまぁ』
「2人なら何とかなるかもね」
『そういうことよね』
アインストとインベーダーに囲まれ、半壊したヴァイスセイヴァーとヴァイスリッター改のコックピットの中で、絶望的な状況ながらエクセレンとレモンの2人は笑みを浮かべ、この窮地を切り抜ける為に協力する事を選択したのだった……。
ラングレー基地を地下から破壊し出現した新たな異形――インベーダーの襲撃にギリアムやカーウァイ達の顔が凍りついた。
「馬鹿な、どこから現れたッ!!」
ホワイトスター周辺に現れたインベーダーは武蔵とカーウァイの2人が撃退した。その点からストーンサークルに出現した個体ではなく、全くの別個体が何らかの方法で地球に現れたと考えるのが普通だった。
「お前達は近づくな! 寄生されるぞッ!! あれは私達が相手をするッ!! イングラムッ!!!」
『分かっているッ!! 逃がすわけにはいかんッ!!』
インベーダーに有効打撃を与えられるのはゲッター炉心で稼動する機体だけだ。しかしそうと言っても戦闘経験のないゼンガーやレーツェルでは相手に出来ないと、ゲシュペンスト・タイプSとR-SWORD・シーツリヒターがインベーダーに向かう。だが2機が攻撃の間合いに入る前にインベーダーは分離し、小型のインベーダーを生み出す。生み出された複数の小型インベーダーが百鬼獣や、破壊された無人機をメタルビーストへと変貌させる。
【【【ゴガアアアッ!!!】】】
分離したインベーダーの大本である3体はその姿をゲッタードラゴン、ライガー、ポセイドンへと変異させる。ドラゴンは翼を広げゲッターD2へと突撃し、ライガーはR-SWORD・シーツリヒターへと襲い掛かり、ポセイドンはその強固な装甲でゲシュペンスト・タイプSの参式斬艦刀を受け止める。
『相性を考える程度の知性を持っているか……ッ』
「厄介な事だな……ッ」
R-SWORD・シーツリヒターは面攻撃と転移による強襲を主な攻撃手段にしているが、分身能力と圧倒的な速度を持つメタルビースト・ライガーならば十分に避ける事が出来る上、インベーダーの再生能力で長期戦に持ち込むことが出来る。しかし足を止めてしまえば耐久力は低く、ライガーの装甲を破壊されれば通常のインベーダーと大差なくなるという欠点があり、防御能力に秀でているゲシュペンスト・タイプSとは相性が悪い。メタルビースト・ポセイドンは装甲が厚いが機動力は見ての通りかなり低く、動き回られると追い切れず遠距離攻撃手段も乏しいので、遠くから削られると弱く接近戦を仕掛けてくるゲシュペンスト・タイプSの方が相性が良く、R-SWORD・シーツリヒターとは相性が致命的に悪かった……それを計算に入れ、ライガーへ攻撃を仕掛けようとしたゲシュペンスト・タイプSと、ポセイドンに攻撃を加えようとしたR-SWORD・シーツリヒターの出足を潰し、戦う相手をコントロールした姿は、紛れも無くインベーダーが知性を持っているという証だった。
『嘘だろ、勘弁してくれよマジで……ッ』
メキボスは闘争本能と餓えを満たす事しか考えていないはずのインベーダーが、明確な知性を見せるほどに進化した事に驚愕する。地球でこれならばホワイトスター周辺は微弱なゲッター線が感知されている事もあり、地球の個体よりも強力なインベーダーに進化している可能性を考え、仮に宇宙に逃げても詰みではないかという最悪の予想を考えたからだ。
『馬鹿な……何故、何故こんな事になるッ!! 私達は新たな理想郷へと辿り着いたのではないのか!!!』
ヴィンデルはアインストとインベーダーが互いに潰しあい、周りの破壊された機体に寄生しメタルビーストとアインスト化する光景は、ヴィンデル達が捨てたはずの己の世界のそれと同じであり、どうしてこうなったのだと声を荒げる。
『ベーオウルフはいない、それなのに何故だッ! 私達は何を間違えたというのだ……ッ』
こちら側の世界ではいなかった筈のアインストとインベーダーの姿を見て、ここに来て漸く自分が間違えたと悟った。だが余りにもそれは遅すぎた、最早この世界の住人との軋轢は埋めきれる物ではなく、再びヴィンデルにとっての地獄が生まれていた。
「……あやつらめ、漁夫の利を取りに来たか。仕方あるまい」
「大帝、あやつらとは?」
「気にする事はない、個人的な協力者だ。それよりも撤退だ、インベーダーまでもが出現すれば完全に私の舞台は閉幕だ。だが……これで良い、終わりの始まりを告げるだけの仕掛けは十分に仕込めたからな」
そう笑うブライだが、その目は鋭く細められていた。自分の舞台を潰されたからではない、自分の策略を無碍にされたからでもない――本能的でもない、様々なブライの集合体だからこそ分かる事がある。
(ふん、少しは面白くなりそうだ)
ラングレー基地の地下深くで胎動するゲッター線の鼓動――武蔵という旧西暦の死者を送り込むだけではなく、本格的にこの世界に介入しようとしている事を感じ取ったブライはそれでこそ、ゲッターを倒す意味があると言うものだと呟いた。だが今はその時ではない。ゲッターも本調子ではなく、そして倒すだけの戦力を得ていない今の状況で無理をする意味はないとブライは判断した。
「共行王。撤退だ」
『んふふふ、構わぬぞ。だがすぐにとはいかんぞ?』
百鬼帝国を移動させるには時間が掛かるという共行王の言葉に構わないと返事を返し、ブライは身を乗り出しモニターに映るゲッターD2にその視線を向けるのだった……。
ソウルゲインのコックピットのアクセルは、その額から大粒の汗を滝のように流していた。勿論戦いの疲労もあるが、最も大きいのは精神的外傷にあった。インベーダー、アインストが闊歩し、無人機がメタルビーストへと姿を変える極限の地獄――捨てたはずの己の世界を思い出させる悪夢であり、そしてそれを生み出そうとしている悪意の根源が目の前にいる。
「アインストッ!!! 貴様ぁあああああああああッ!!!!!」
キョウスケよりも最も今排除しなければならない敵――ゲッター線を手にしたアインスト、ペルゼイン・リヒカイトを睨みつけアクセルが咆哮を上げると、それに呼応するようにソウルゲインの瞳が紅く輝き、両拳を青く輝く光のオーラが包み込んだ。圧倒的な覇気、そして燃え盛る怒りと殺意――常人ならば発狂しかねない強烈な意志の力がペルゼイン・リヒカイト、そしてアルフィミィへと叩き付けられた。
『……アインスト、アインストと………私はアルフィミィですのよ』
しかしその強烈な殺意も人間ではないアルフィミィには何の効果も無く、むしろアインストと呼ばれることに不快感を示す。
「ふん、化物の癖に名前を持つなど上等すぎる。貴様はアインストで十分だ」
『……失礼な人ですの、そういう人は躾けてあげますのよ』
ゆらりとした動き……スピード等一切感じられない緩やかな動き。機動兵器ではありえない極限の脱力状態による0から100の加速からの刺突を、ソウルゲインは頭部のみスウェーバックで避けると足を振り上げ、ペルゼイン・リヒカイトを蹴り上げる。
「はぁッ!!!」
『……そう簡単には行きませんのよ』
青龍鱗を翼から射出された光弾が相殺し、煙を突っ切って来たペルゼイン・リヒカイトの切り下ろしがソウルゲインの肩に深く突き刺さり、アルフィミィはそのまま右腕を切り落とそうとしたが、それ以上ペルゼイン・リヒカイトの手にしている刀が食いこむ事はなかった。
「取ったぞッ!!!」
EG装甲の再生能力を肩部にのみ集束し、ペルゼイン・リヒカイトの攻撃を止めたソウルゲインは、固く握り締めた左ストレートでペルゼリン・リヒカイトの顔面を撃ち抜いた。
『……女の顔を殴るなんて、酷いですのッ!!!』
「化物の分際で女を名乗るなッ! どうせ声だけだろうッ!!!」
4つの鬼面から放たれたヨミジの閃光の間を潜り抜け、ソウルゲインが跳躍しペルゼイン・リヒカイトの胸部コアに拳を突き刺さる瞬間、その拳は止まった。
『……これが私ですのよ? この柔肌を見ても私を化物というんですの?』
女としての矜持か、化物といわれたアルフィミィは己の姿をソウルゲインの目の前に幻だが映し出した。16歳前後の美少女と美女の境目の、ある意味最も美しい時期のアルフィミィの姿を見たアクセルは、動きを止めた。
「レモン……?」
何かも違うが、アクセルにはアルフィミィの姿がレモンに見えた。アクセルは確かに冷酷だが人の情がない訳ではない、むしろ情に厚く義理堅いタイプの男だ。だからこそ、どこと無くレモンの面影を持つアルフィミィへの攻撃を一瞬躊躇った。
『……別の女の名前を呼ぶのはマナー違反ですのよ、本当に礼儀のなってない人ですの』
押し当てられたペルゼイン・リヒカイトの右腕、それを認識したアクセルは急激に意識が遠のくのを感じた。これ以上触れられてはいけないと分かっているのに手足が硬直し、ソウルゲインを操る事が出来ない。
『……そう、そうですの……貴方がキョウスケを憎む理由が少し分かりましたの』
触れられているからか鮮明なアルフィミィの声が、アクセルの耳を打った。一瞬何を言われたのかアクセルは理解出来なかったが、アルフィミィが何を言っているのかを理解したアクセルの顔は鬼の形相へと変わった。
「貴様……人の心にッ!!!」
『……知りたいですのよ? 貴方の心は復讐心しかない、だから私はそれを知りたいんですの……ねぇ? キョウスケに負け続けて、仲間を殺し続けたアクセル・アルマー、今どんな気持ちですの……憎い相手であるアインストに心を覗かれているのは、どんな気持ちですの』
「きっさまあああああああああッ!!!!」
『……吼えても無駄ですのよ? 貴方はもう私から逃げられない』
甘く蕩けるような声に正常な思考が失われていく。それだけではない、自分の心を乱暴に暴かれている知られたくない物までが知られる。何よりも、アクセルのその反応を見て楽しんでいるアルフィミィに腸が煮えくり返るような怒りを抱くが、その怒りも溶けて消えていく……。
『……力を与えてあげますの、大丈夫ですのよ? 痛くも、苦しくもありませんの』
ペルゼイン・リヒカイトの手首から触手が伸びてくるのをぼんやりとした視界で見つめる事しか出来ないアクセル。駄目だと分かっていても身体が動かない。
『アクセルッ!! 何をしているッ!!! くそッ! 邪魔をするなッ!!』
遠くからヴィンデルの声が聞こえるが意識が薄れているアクセルはその声もしっかりと認識出来ず、ペルゼイン・リヒカイトの伸ばした触手がソウルゲインの胸部を貫こうとした瞬間、目の前を真紅の流星が駆けぬけるのを見てその意識はドロリとした闇の中に沈み、瞳から光を失ったソウルゲインが地響きを立てて落下するのだった……。
ソウルゲインが墜落した場所とは反対側に、轟音を立ててアルトアイゼン・ギーガが墜落する。何度も地面で跳ねる衝撃で血反吐を吐きながらも、キョウスケはアルトアイゼン・ギーガの体勢を立てなおそうとするが、コックピットに鳴り響くアラートがそれをさせない。ソウルゲインとの戦いのダメージ、ツヴァイザーゲインの奇襲によるダメージは、アルトアイゼン・ギーガを以ってしても耐え切れる物ではなかった……。
「ぐうっ!?」
破砕音を立てて大きく姿勢を崩すアルトアイゼン・ギーガは倒れこみ掛けるが、操縦を受け付けないスラスターが倒れる事を許さない。どちらが上か、下かも判らない激しい衝撃の中でキョウスケが意識を飛ばさなかったのは奇蹟に等しかった。
(な、なんとか体勢を立て直さなくてはッ!)
モニターも見えない、操作を受け付けず暴走しているスラスター……幾重にも受けたダメージと暴走が重なり崩落していくパーツ……PTとしての体をギリギリで保っているアルトアイゼン・ギーガは、キョウスケの操縦を受け入れず只闇雲に加速を続ける。
『キョウスケ中尉ッ!!!』
「がぁッ!!!?」
一際大きな破砕音の後でコックピットに響いたラミアのキョウスケを呼ぶ声、それから少し遅れて全身に走った激痛に流石のキョウスケも苦悶の声を上げた。
『大丈夫ですか! キョウスケ中尉ッ!!』
「ら、ラミアか……す、すまない……助かった……」
ノイズが混じっているがコックピットに響くラミアの声で、つい先ほどの衝撃がヴァイサーガに受け止められた衝撃だとキョウスケは理解した。
「じょ、状況は……? ぐっ!!」
言葉を発するだけでも胸部に激痛が走り、口の中に血が込み上げて来るがキョウスケはそれを必死に飲み込み、ラミアに何が起きているのかと問いかける。
『インベーダーとアインストが出現し、百鬼帝国は撤退を始め、インスペクターとはこの場を切り抜けるためと一時協力をしています。ラドラ少佐がゲッターザウルスの強奪に成功し、R-SWORDが変形し辛うじて戦線を維持していますが……最早これ以上の戦闘は不可能だと判断したリー艦長達から帰艦命令が出ています』
「エク……エクセレン……は?」
自分が気絶している間に戦況が余りにも変わりすぎている事に驚きながら、ラミアにエクセレンはどうしたと問いかける。
『インベーダーとアインストに包囲されています……私は何とかエクセ姉様と合流しようとしていたのですが……その前にインベーダーに包囲されてしまったところをアルトアイゼン・ギーガが突っ込んできて辛うじて包囲網を脱し、アルトアイゼン・ギーガを受け止めたのです』
額を切ったのか、それとも興奮のせいかキョウスケの目の前が真紅に染まる。今こうして状況を把握している間もエクセレンが危険だと知って、冷静でいられるほどキョウスケは冷血な人間ではない。だがキョウスケの意志に反してアルトアイゼン・ギーガは沈黙こそしていないが、全くキョウスケの操縦に反応を示さない……こうしている間もエクセレンが、いや仲間達が危険に晒されている。
(まだ……動けるな……アルト……)
今のこの状態でアルトアイゼン・ギーガが耐えれるかという不安はあったが、最早一刻の猶予もないとキョウスケは震える手でコンソールに手を伸ばし、緊急コードを入力しレバーを引いた。満身創痍のアルトアイゼン・ギーガだが、マリオン達がアルトアイゼン・ギーガに仕込んだオーバーヒートモードは起動し、獣の唸り声のようなエンジン音が周囲に響き渡る。
『キョウスケ中尉! 今の状態では何時爆発するか分かりません! 早く通常モードにッ!!!』
「いや……駄目だな。もう操作を受け付けん……このまま包囲網を突破するッ!!!」
モニターに映るアルトアイゼン・ギーガの状態は酷い物で、右脚部は膝から反応が無く、左腕は肩から千切れており今も火花を散らしている。腰部には砕けたパーツが突き刺さっているのかモニターに映る機体状態が目まぐるしく変化し、両肩も拉げてクレイモアを使う事も出来ない……だがそれでも右手とリボルビングバンカーと最後のカートリッジが残っている事に、キョウスケは笑みを零した。
「ラミア、カートリッジを取り替えてくれ。今は押し問答をしている時間はない、後でお前の文句は全て聞こう」
『……了解、覚悟してください』
ヴァイサーガによってカートリッジが取り替えられたのを確認したキョウスケは、ひび割れたモニターに視線を向ける。殆ど外の光景は見えていないが、遠くに白銀が見える……それだけが分かれば十分だった。
「突っ切るぞッ!! ラミア続けッ!!!」
ラミアの返答を聞かずキョウスケはペダルを全力で踏み込んだ。強烈な加速によるGがキョウスケを襲うと同時に何かが千切れ飛ぶ音がし、モニターに映っているアルトアイゼン・ギーガの背部の状態が黒に染まっているのを見て、千切れたのはブースターかとどこか他人事のようにキョウスケは感じていた。
(どうせ行ったきりだ、軽くなった方が都合がいい)
これが最後の攻撃だ。止まればもうアルトアイゼン・ギーガは動かない……ならば少しでも軽くなったほうが最後の加速を十分に生かせる。
【キッシャアアアアッ!!!】
「俺の邪魔をするなああッ!!!」
飛びかかって来たインベーダーに頭部を突き出し、加速したまま体当たりを叩き込む。オーバーヒートの熱と、爆発的な加速……そしてヒートブレードホーンの一撃でインベーダーは中心から焼き切られて両断され、破砕音を立ててヒートブレードホーンが折れて吹っ飛んだ。
「おおおおおおおッ!!!」
【!?!?】
リボルビングバンカーで目の前に立ち塞がったアインスト・ゲミュートを貫くと同時にリボルビングバンカーが炸裂し、熱波を伴った衝撃波がインベーダーとアインストを纏めて焼き払った。オーバーヒートモードと暴走している動力によって可能になった一撃だがその余波はアルトアイゼン・ギーガ自身さえ焼きコックピットのキョウスケもその熱に苦悶の声を上げた。
「ふんッ!!!」
唯一無事の左足で半ば地面にめり込んでいるブレードを蹴り上げ、それを無造作に掴み目の前に立ち塞がった百鬼獣不知火を両断し、その間を抜けアルトアイゼン・ギーガは一直線にヴァイスリッター改の元へ向かった。
「なんと言う強さだ……最早死に体だと言うのに……」
少し行動するだけで機体が崩壊し、攻撃の余波にも耐えれない状態なのにアルトアイゼン・ギーガは一瞬たりとも止まることなく、何時爆発してもおかしくないほどに熱暴走をしている機体を操るのは自殺行為に等しく、今もアルトアイゼン・ギーガの熱はキョウスケを焼いている。だがキョウスケはその痛みと熱を強靭な精神力で押さえ込み、何時爆発するかも判らない、もっと言えば最早戦う術もないアルトアイゼン・ギーガを操る。
「私は私のやるべきことをする」
だがラミアとて呆然と見ている訳ではない、五大剣を振るい確実にインベーダーにトドメを刺し、烈火刃を投げ少しでもキョウスケの進む道を確保すると同時に最悪の場合に備えていた。最悪の場合――それは熱暴走が限界を超え、アルトアイゼン・ギーガがメルトダウンした場合だ。
「キョウスケ中尉、最悪の場合は後ろからコックピットを抉り出します」
『……ああ、そうしてくれ。いま脱出装置の部品が飛んで行った、これで正真正銘アルトは俺の棺桶になったが……俺はまだここでは死ねんッ』
冷静にとんでもない事を言うキョウスケにラミアはギョッとするが、逆を言えばそこまで命を賭けなければこの方位網は突破出来ないのだ。
『見えた……ッ!!!』
「でかい……トレント級かッ!!」
シャドウミラーが名付けたコードネーム「トレント」と呼ばれるアインストは、レジセイアへ変異する少し前の段階のアインストだ。変異を繰り返しているからかインベーダーも百鬼獣も取り込み、アルフィミィの指揮下から外れようとしている化物が半壊してるヴァイスリッター改とヴァイスセイヴァーへ向かっていた。
「わーお……死ぬわ、私絶対死ぬわ」
『そうね……真面目に死ぬわ、これ……』
半壊し本来の武器である機動力を使えないヴァイスリッター改のコックピットでエクセレンがそう呟き、レモンも同意する。だがエクセレンもレモンの目もまだ死んでいなかった。
「悪いんだけどさ」
『支えれば良いんでしょ? あとエネルギーも回すわ』
「わお! 私の考えてる事が判るなんてやっぱり相性良いわね。どう? この後ハガネに投降しない?」
『ふふ、それも良いけど、私あんな事されてもまだ未練あるのよねぇ……』
「本当に損な生き方してるわねえ……」
『でしょ? 私もそう思うのよね』
レモンもエクセレンも軽口を叩いているが、その間も2人の手は休む事無く動き続けヴァイスセイヴァーとヴァイスリッター改の動力を直結させ、ヴァイスセイヴァーが背後からヴァイスリッター改を抱き締めるようにし、その姿勢を保持する。
『発射と同時に腕を切り落とすわよ、その反動で後へ飛ぶ。OK?』
「マジでそれしかないとか勘弁して欲しいわね……でもま……生きてれば勝ちよね」
『そういうこと……後はタイミングだけど……』
「キョウスケとラミアちゃんに任せましょ」
今発射してもトレントの守りは貫けない。迫ってくるトレントに恐怖しながらも、レモンとエクセレンはすぐ側に来ているキョウスケとラミアが、トレントのコアを露出させてくれると信じていた。そしてキョウスケとラミアはその信頼に応えた。
「道は私が作りますッ!! 風神衝ッ!!!」
ヴァイサーガの突きと共に放たれた風の刃がトレントの身体から伸びている触手を薙ぎ払い、アルトアイゼン・ギーガが突撃する道を作り出した。
「これが最後のとっておきだ」
リボルビングバンカー・オーバーチャージを発動させた事で真紅の装甲が更に紅く輝き、残された僅かなスラスターが最後の加速をアルトアイゼン・ギーガに齎す――だがその対価は決して安くはない、加速するたびに装甲が剥がれ落ち素体が露になるが、リボルビングバンカーだけはその姿を残していた。
「どんな装甲だろうが、撃ち貫くのみッ!!!!」
【ガアアアアアッ!?】
裂帛の気合と共に繰り出された一撃はトレントの胸部周りの装甲を粉砕しそのコアを露出させる。
「エクセレン!! やれッ!!!」
「分かってるわ! ラミアちゃん、キョウスケをよろしくッ!!」
攻撃の反動に耐え切れず装甲が崩れ落ちたアルトアイゼン・ギーガをヴァイサーガが後退させた直後、ヴァイスセイヴァーに支えられたヴァイスリッター改のオクスタンランチャーEモードのフルパワー射撃がトレントのコアを打ち砕き、断末魔の悲鳴さえ上げさせずにトレントの身体がボロボロと崩れ落ちる。
「助けに来たぞ、エクセレン」
「出来ればもう少し無事な姿でその言葉を言って欲しかったなあ……でもありがと」
互いにボロボロの酷い有様ではあるが、それでも無事に合流出来たことにエクセレンは安堵の笑みを浮かべる。
『レモン様』
『はぁーい、ラミア。元気そうね、助けてくれてありがと……だけどまだ何も終わってないのよね……どうしようかしら? って何あれ……まさか……ゲッター線?』
トレントを倒し、周りのインベーダーとアインストもその数を減らした……だが状況は悪化の一途を辿りどうしたものかとレモンが口にした時、司令部が轟音と共に吹き飛び翡翠色に輝く光の柱が天を貫き周囲を眩く照らしだした。
「ドラゴン……武蔵か」
壊れかけのアルトアイゼン・ギーガのモニターでもその姿は見えていた。翡翠の光の中に浮かぶゲッターD2の姿を……。
『でも何か様子がおかしいです……あれは……繭?』
「ラミアちゃんもそう見える? 私にもそう見えるのよ……どうなってるの」
ゲッターD2のカメラアイに光は無く、まるで繭のような物が全身を包もうとしている。
『ありえないわ……だってゲッターは無機物よ、繭を作ったとしても変化なんか出来るわけがないわ……何が、何が起きているの……』
未知の現象にキョウスケ達……いや誰もが困惑と驚きを隠せなかった。ただ1人を除いて……。
『……あれは進化ですのよ、ゲッターが別の姿へとなろうとしているのですの』
半壊しているアルトアイゼン・ギーガ達を見下ろすペルゼイン・リヒカイトから、鈴のようなアルフィミィの声が響いた。
「どういうことだ、アルフィミィ」
『……進化ですのよ、ゲッターD2は龍帝へと至りて、星の海を往く……そうなる前に止めておきたいですが……まぁそれは破壊魔がやってくれるでしょう……ですから私は……』
ペルゼイン・リヒカイトは鬼菩薩を抜き放ち、その切っ先をアルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改へと向ける。
『……迎えに来ましたの、キョウスケ、エクセレン、大丈夫……痛みは一瞬ですのよ?』
和やかな空気を纏いながらも殺意を露にするアルフィミィ。大破しているアルトアイゼン・ギーガ達では戦える相手ではなく、唯一万全に近いラミアの駆るヴァイサーガが五大剣を手にペルゼイン・リヒカイトへと斬りかかり、大破しているアルトアイゼン・ギーガ達から引き離しにかかる。
『……貴女に用はないですのよ?』
決死の覚悟で単騎でペルゼイン・リヒカイトとアルフィミィに挑むラミアだが、アルフィミィは何の興味もない、邪魔だと言わんばかりの態度でヴァイサーガに蹴りを叩き込んだ。
『ぐっ……お前になくても私にはあるッ!!!』
『……しょうがありませんの……少しだけお相手してあげますの……』
たった1発、それもただの蹴りで胴体部を中破したヴァイサーガが再び飛翔し斬りかかって来るのをペルゼイン・リヒカイトは片手で受け止め、全く意に介していないと言う素振りを見せる。必死のラミアと余裕を見せるアルフィミィ――そしてインベーダーとアインストが増え続ける既に廃墟と化したラングレー基地で不気味な胎動が木霊した。
第184話 進化の光 その6へ続く
強化アルフィミィちゃんにメンタル攻撃をされ、アクセルダウン。キョウスケ達は全員ボロボロと状況は悪化の一途を辿っております。目まぐるしく視点が変わっておりますが、進化の光の話は全部同一時刻の話なので、ほぼ同時に起きている事態と思ってください。少し見難くなっておりますが、私ではこれが限界だったので許していただければ幸いです。次回はハガネの視点から入っていこうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い