第184話 進化の光 その6
インベーダーとアインストの出現によってラングレー基地での戦いの流れは大きく変わった。インベーダーとアインストは目に付く物すべてに攻撃を仕掛けてくるので今まで以上の乱戦の様相を呈し、最早自分達が生き残る事を最優先に考えて誰もが立ち回っていた。
「キョウスケとエクセレンはッ!! 後安否が確認されていないのは誰だッ!!」
「後確認出来ていないのはドラゴンと戦闘中の武蔵です! 雲の中で戦っているようで姿を確認出来ません!! キョウスケ中尉達は巨大インベーダーとアインスとの向こう側で最後に姿を確認したアイビスによると大破している模様!!」
インベーダーとアインスとの向こう側で最後に姿を確認したアイビスによると大破している模様!!」
「補給を急げ! 再出撃出来る者はキョウスケとエクセレンの救出へ向かう!!」
整備兵も負傷者が多発しており、まともな補給を受ける事すら難しい中。皆が全員に出来る最善の行動を行い、十分な補給が出来てないとしてもまだハガネ達の所まで戻って来れてない者もいる。
「満タンとはいわねぇ! エネルギーを入れてくれッ!!」
「私達を逃がすためにカチーナ中尉達がまだ残ってるんです、急いでください!!」
「分かってる! そう急かすなッ!! こっちも出来るだけの事をしている!!」
ツヴァイザーゲインの奇襲で受けたダメージは決して軽くない、キョウスケとエクセレンの他に大破寸前で分断されている者はいないが、プランタジネットに参加していた者すべてが少なくないダメージを受けている。その中でインベーダーとアインストを退けるのは至難の業であり、そしてその中を抜けてくるのはなおの事難しいのは言うまでも無く誰もが強い焦りを感じ、口調が乱暴になり喧嘩口調になるがそれはそれだけ仲間の事を思っている証拠でもある。
「艦長達はどうなってるんだ! 指示が1つもないがブリッジのクルーは大丈夫なのか」
今のハガネは整備兵や他の部署のクルーが必死になって動いており、ダイテツ達の指示がないことに焦りを覚えたのか整備兵の誰かがそう告げる。それによってざわめきが生まれるが、ボロボロの状態で包帯を紅く染めながらも再び出撃準備をしているカイが声を上げた。
「ダイテツ中佐達がこの程度で死ぬものか! 俺達は俺達の出来る最善を行なえばいい!! 今は余計なことを考えるな!!」
「しょ、少佐! 医務室で寝ていていてください! これ以上は「そんなことを言ってる場合か! 俺は出るッ!!」
止めに入った医療兵の制止を振り払い機体へ乗り込むカイの姿を見れば、今は必要なことは押し問答をする事でも不安を煽る事でもなく、この絶望的な状況の中でどれほど難しいと分かっていても絶望せず、全員で脱出する事を模索し一丸となって戦う事だと、己の行動で示すカイに触発され、ハガネの格納庫に広がり始めていた不穏な空気は一掃された。だがカイ達とて不安を抱いていないわけではなく、今も沈黙を続けているブリッジに一抹の不安が脳裏を過ぎるのだった……。
ツヴァイザーゲインの攻撃によって轟沈寸前のダメージを受けたハガネのブリッジは戦闘中ということもあり、内部から隔壁がロックされていた為、外部からブリッジの現状を把握する事は出来なかった……それでもノイズ混じりのテツヤからの撤退命令に従い、ハガネのクルーはダメージによって辛うじて浮遊しているハガネで出来る最善を行なっていた。
「はぁ……はぁ……タカクラチーフ……負傷者は……どうなっている……」
自身もツヴァイザーゲインの攻撃の余波で吹っ飛ばされ、全身打撲に加え額を切ったこともあり視界は殆ど無く、ツグミに何がどうなっているのかを問いかける。
「て、テツヤ大尉! 貴方も重傷なんですよッ!! 他人の事よりも自分の事を考えてください!!」
「お、俺はハ、ハガネの副長だ……皆の命をあずかる立場の俺が寝ていられるかッ!!」
自分自身に活を入れるように叫んだテツヤは、震える足を殴りつけ無理矢理立ち上がる。上に立つ人間としての覚悟と責務……それを成し遂げるという強い決意を見せるテツヤにツグミは掛ける言葉を失う。
「……ブリッジにいたクルー全てが負傷者です。特に重傷なのはダイテツ中佐とエイタ伍長です……今現在止血を行なっていますが、戦闘が長引けば命に関わります」
テツヤを止める事が出来ないと悟ったツグミは、テツヤが求めたとおりにブリッジクルーの負傷者の現状を伝える。
「……ぐっ……す、少し……まっ……待ってくれ」
震える手でコンソールを操作したテツヤは緊急時という事でロックされたブリッジの隔壁を解除する。
「隔壁を解除した……タカクラチーフは……応援を呼んで来てくれ……時間がない……急いでくれ……」
「は、はい! す、すぐに戻りますッ!!」
踵を返し応援を呼びにいくツグミを見送ったテツヤは立っていられず、その場に膝を付いた。
「ま、まだだ……まだ眠るな……テツヤ……オノデラッ!!」
痛みと出血で薄れていく意識を必死に繋ぎ止め、テツヤは這う様に艦長席に向かう。
「か、艦長……ご……だ、ダイテツ艦長ッ!!!」
艦長席に腰掛けているダイテツから返答がない事に気付き、アームチェアを掴んで立ち上がったテツヤは思わずダイテツの名を叫んだ。ダイテツの制服が真紅に染まり、脇腹にガラス片が突き刺さっていたからだ。
「か、艦長……ッ!! ダイテツ艦長ッ!!! だ、駄目だッ!! 死なないで、死なないでくださいッ!!!」
鍛えているダイテツだからこそ腹筋によって流血が押さえられているが、巨大すぎるガラス片を見れば臓器が傷ついているのは明らかで、テツヤは半狂乱に陥り、自身の手を鮮血に染めながら少しでもとダイテツの出血を抑えようとした。
『何をしているッ!! 大尉ッ!!!』
その時テツヤの耳を打ったのは、ダイテツの一喝だった。
「か、艦長……?」
今もダイテツは意識を失いぐったりとしている……それなのにテツヤにはダイテツの声がしっかりと聞こえていた。
『成すべきことを成せッ!! お前はワシの元で何を学んだのだっ!! 何時までワシに甘えているつもりだッ!!!』
「……ッ!!! だ、ダイテツ……艦長……ッ!!!」
幻聴だとしてもテツヤはその声に奮起した。リーにも何時までダイテツに甘えていると、ダイテツを安心させないでどうするのだと言われた事を思い出し、テツヤは強く拳を握る。
「大尉!! 救護隊が来ました!!」
「こっちだ! ダイテツ艦長が重傷ッ! 早く緊急治療室へッ!!! 誰でもいい! オペレーター席に座れ!! ここからは俺が指揮を執る!!」
今まで見たことのない覇気に溢れるテツヤの姿にブリッジに駆け込んできた救護部隊、そしてサブスタッフはテツヤの姿にダイテツを見た。
「何をもたもたしている! 急げッ!!!」
「「「了解ッ!!!」」」」
テツヤの指示に頷き皆が動き出し、救護部隊が担架に身長にダイテツを寝かせるとうっすらとダイテツが目を開いた。
「う……わ、ワシは……何が……」
「艦長。俺に……私に任せてください、必ずや全員で生き延びます。どんな状況であろうと諦めません、どうか私にお任せください」
現状を把握していないダイテツだがテツヤのその力強い声と強い意思を宿した目を見て大丈夫だと確信し、震わせながらその手をテツヤに伸ばす。
「艦長!!」
テツヤが慌ててその手を握るとダイテツはテツヤの手を強く握り締めた。
「……任せる……お前なら……出来る……」
強く強く握り締めふっと笑ったダイテツは今度こそ意識を失い、その手から力が抜ける。
「だ、ダイテツ艦長!?」
「大丈夫です! 脈はあります! 私達が死なせません!! 大尉は自分の成すべきことをしてください!」
「……ッ! ああッ!! ダイテツ艦長を頼んだッ!!」
揺らさないようにダイテツを運んでいく救護部隊を見送ったテツヤは足元にダイテツの帽子が落ちていることに気付き、それを拾い上げて自ら被る。
「艦首トロニウムバスターキャノンのチャージを始めろッ!!」
「は……はッ!? で、ですが艦首は中破」
「撃てればいいッ!! 武装は!!」
「は、はいッ!! 使用可能な火器は……40%以下です!」
「ならば全てをE-フィールドの維持に回せッ!! 全軍の避難状況はッ!!」
「現在65%です!」
「可能な限りの支援を行え、最悪機体は放棄しても構わん!! 全員の生存が最優先だッ! 全軍の撤退が完了次第報告を入れろ!! ヒリュウ改、シロガネ、クロガネに通信をッ!!」
矢継ぎ早に指示を出すテツヤに誰も口を挟む余地はなかった。今出来る最善の最適解をテツヤは選択し続けていたからだ。
『ダイテツ中佐……テツヤ大尉?』
『ほ。随分と化けましたな』
『テツヤ、ダイテツ中佐は!』
「ダイテツ中佐は重傷により現在緊急手術を行なっている為、私が臨時艦長として指揮を執っています。無事な艦は可能な限りの機体の収容を頼みます! 本艦より合図を送ります! その後ハガネの後方へ待機してください!」
頼みます! 本艦より合図を送ります! その後ハガネの後方へ待機してください!」
『ま、待ってください! テツヤ大尉、貴方は何をするつもりなのですか!』
クロガネの臨時指揮を執っているリリーが、何をするつもりだとテツヤに問いかける。するとテツヤは獰猛な、手負いの獣その物の笑みを浮かべる。
「人間の底力を見せてやるんですよ。L5戦役の焼き増しです。レフィーナ中佐、申し訳無いですがリー中佐に説明を頼みます。ハガネはエネルギーが危険域なので少しでも温存したいのです」
『了解しました、この場にいる全員の命。預けます、テツヤ大尉』
「ええ、預かりました」
レフィーナ達の敬礼に敬礼を返し、テツヤは鋭い視線で戦況を見極め、ほんの僅かな勝機を掴む為に意識を集中するのだった……。
グレイターキン改のコックピットにもテツヤの指示は届いていた。偶然というか運がいいと言うか、メキボスがまだここでは死ぬべきではないと運命が定めているとでも言うべきか……完全では無いがハガネのクルー達が撤退に動こうとしているのは把握していた。
「さてと……どうするかねえ」
飛びかかって来たインベーダーを高周波ブレードで両断すると同時に後退するグレイターキン改、ほんの数秒前までグレイターキン改がいたところを炎が焼き払う。
「やるねえ。でも俺ごと焼こうとするのは正直どうなのさ」
掌を突き出し炎を纏っているヒュッケバインMK-Ⅲ・タイプM・タイラントに向かって、メキボスがそう声を掛ける。
『貴方の機体の通信コードを知りませんから。それに……僕は貴方達インスペクターが嫌いだ』
接触通信で吐き捨てるように言うリョウトにメキボスは額を叩いて笑った。
「いや、確かにその通りだな。敵の敵は味方だしな、でもまぁ……今だけは信用してくれや!」
メガビームバスターがヒュッケバインMK-Ⅲ・タイプM・タイラントに取り付こうとしていたアインストのコアを撃ち貫き消滅させる。
『……一応、ありがとうございます』
「ははッ! 礼儀正しい奴だな。まぁあれだ、俺も死にたくねぇ、お前も死にたくねぇ。仲良くしようとは言わないが、この場を切り抜けるまでは協力しようや」
メキボスは決して馬鹿ではない、むしろ頭が回り、情も厚い男だ。この窮地を切り抜けるための最善を選択している……だからこそ両手を上げた。
「頼むからさ、その物騒な殺気を何とかしてくれよ」
『俺はお前を信用しない。それよりも雑魚を相手にしてないで手伝え』
「へいへい、分かってますよッ!!」
この場を切り抜ける上で最も大きな壁――巨大インベーダーにメタルビースト・ライガー、ポセイドンを倒さなければならないと言うことはメキボスも十分把握している……何故ならば。
(転移出来ねえからな)
ジャミングか何かが働いているのか転移出来ないからこそ、こうして共闘という道を選んだのだ。それが一番生存率が高いと認めざるを得ない上に、ゲッター合金を組み込まれたことでインベーダーとアインストに襲われるリスクが高まっているので、これが1番自分の身を守る事に繋がると分かっているからだ。
(ま、単独操縦の限界点も見えたしな、手土産は十分だろ)
メタルビースト・ドラゴンによって司令部に叩き落とされたゲッターD2――その姿を見ればゲッターD2の弱点も見えた。失態こそあれど十分にそれを帳消しに出来るだけの情報を集めれたと考えれば、ある意味シャドウミラーの強襲はメキボスにとっても都合が良かったと言える。
(それになんとでも言いようはあるしな)
ブライ達の動き、そしてインベーダーとアインストの変異型の脅威を手土産にすればウェンドロも地球人と共闘した事を咎めないだろうと考えていたメキボスだったが、突如ラングレー基地の司令部跡地から立ち上ったゲッター線の柱、そしてその中のゲッターD2を見てその顔色を変えた。
「……マジか……真ドラゴンに変異するとかいわねえよなあ……」
ゲッター線の光の柱の中で繭に似た物を形成しようとするゲッターD2――その姿はゾヴォークに伝わるゲッターの伝承、皇帝は龍帝が作りし進化の繭より生まれる……その伝承を思い出したメキボスは、恐怖にその身体を振るわせる。もしも本当に皇帝へと至るとすれば、それは武蔵と敵対する道を選んだ自分達の責任であり、再び宇宙滅亡の引き金を引いた者としてゾヴォークが滅ぼされる事を危惧して物だが……最早賽は投げられ、メキボスに出来る事は何一つとして存在せず、自分の身を守る事だけが今のメキボスに出来る事なのだった……。
本来ならばゲッターD2とメタルビースト・ドラゴンには雲泥の差がある。例え単独操縦であっても、コーウェンとスティンガーがゲッター炉心を組み込みアードラーが作り出した量産型ドラゴンをベースにしたメタルビースト・ドラゴン相手ならば、ゲッターD2が負ける道理はない。だがゲッター線の備蓄が全く足りず、今にもエネルギーを使い果たしそうなゲッターD2では出来そこないのメタルビースト・ドラゴンを相手に劣勢に追い込まれていた。
「はははっ! やっぱり武蔵は出来そこないのようだね」
「うんうん、あの新型のゲッターを使いこなしていないようだし、宝の持ち腐れだよ!」
ラングレー基地の地下に沸いた純度の高いゲッター線を求めて北米にやって来ていたコーウェンとスティンガーは、武蔵を嘲笑う。
「宝の持ち腐れではなく豚に真珠と言うのだよ、スティンガー君」
「あ、ああそうだね。ぶ、豚に真珠……正にそのとおりだよッ!!」
コーウェンとスティンガーからすれば旧西暦で破れたのは竜馬達と真ゲッターの力であり、武蔵はあくまでサポーターであり単独で戦えば竜馬達よりも格段に格が落ちるという認識であった。
「あの程度ならばインベーダーに任せて十分だ。我々は目的を成し遂げよう」
「う、うん! そ、そうだねッ! 急ごうッ!!」
新西暦のゲッター線の濃度は低く、炉心を作りそのゲッター線で身体を維持していたコーウェンとスティンガーは、自然発生した高純度のゲッター線を求めて地下へと地下へと降って行く……インベーダーの本能に突き動かされ、微塵も疑いも持たずに食欲を満たすためだけに地下へと向かう。
「お、おおお……す、素晴らしい、そ、そう思うだろ! スティンガーくうん!!」
「う、うんうん! す、素晴らしいよこれはぁ……まさか人間の拠点の地下に、こんな素晴らしいものがあるなんてッ!!!」
結晶化し水晶の様になったゲッター線を見てコーウェンとスティンガーはその目を輝かせる。体内からギチギチという虫の鳴声が響き、開かれた口から触手が飛び出し、水晶のゲッター線に喰らいついた。人の姿をしているがコーウェンとスティンガーの本質は浅ましい寄生虫であり、本能には抗えない。なまじ今まで我慢していただけに、その反動は大きく貪るようにゲッター線を摂取する。それがエンペラー達が描いたシナリオであるとも気付かずに……。ゲッター線に寄生するだけの愚かな生物に、真のゲッター線からの死の罠は、愚か者の触手が伸ばされた瞬間に発動した。
「ああ……美味い美味い……力が漲ってくる……」
「こ、これだけゲッター線を手に入れる事が出来れば、最早僕達は無敵だ!」
インベーダーの強さはゲッター線に左右される、これだけ高純度のゲッター線を摂取できればもう誰にも負けないと笑みを浮かべたコーウェンとスティンガーだが、その笑みはほんの一瞬で凍りついた。
「な、なんだ……も、戻せない……」
「あ、あがががが……ば、馬鹿な……な、何が、何が起きているのだッ!!!」
もう十分にゲッター線を摂取した。これ以上は体の崩壊を引き起こすと触手を戻そうとしたコーウェンとスティンガーだが、張り付いた触手は2人の意志に反しゲッター線を摂取し続ける。
「うげえ……」
「が、がががががががッ!!!」
ゲッター線の過剰摂取による身体の崩壊が始まり、コーウェンとスティンガーの目や鼻からドロリとした血液が流れ出る。
「あ、あぎゃぎゃやああ……ズ、ズディンガアアア」
「ゴ、ゴーウェン……」
身体の結合が維持出来ず音を立てて落ちる自身の身体を見て、これ以上は消滅すると察したコーウェンとスティンガーは必死に腕を伸ばし、取り込んだゲッター線をエネルギーとして放射する。それは結晶化したゲッター線へと命中し、乱反射を繰り返しながら結晶化したゲッター線を打ち砕く、それによって触手が溶け落ち尻餅を付いたが、その衝撃で再び身体の結合が緩み穴という穴から体液が流れ出る。
「に、逃げるよぉ……」
「う、うん……わ、分かってるよお……」
人間への擬態すら維持できなくなったコーウェンとスティンガーは互いの身体を融合させ、液状になり排気口に飛び込んだ。
【ふん、愚か者が】
【だが我々の計画通りだ。さぁ武蔵よ、受け取るが良い。今のお前に必要な物だ】
コーウェンとスティンガーの行動によって結晶化が解かれ、純度の高いゲッター線はまるで間欠泉のように噴出す瞬間を待っていた。
【だが果たして武蔵がこのゲッター線を御せるかな?】
2人の早乙女の前に現れたのは紅いマフラーで顔を隠した、ボロボロのコート姿の男だった。
【竜馬……いや、エンペラーの意志か】
【何をしに来た?】
同じゲッター線に取り込まれた者だが、早乙女博士は明確にゲッター線……延いてはエンペラーの意志には反抗的だった。そして目の前のゲッターエンペラーの意志は、様々な世界の竜馬の中で最もゲッター線と親和性の高い竜馬の姿を模しているが、中身は竜馬とは似ても似つかない存在だった。
【見届けにきた。新たなドラゴンが生まれるか、武蔵がゲッター線を制御し、己の物とするかをな……】
【悪趣味な事だ。だがワシらは信じている】
【ああ、そうだ。武蔵は新たなゲッター線の可能性を生み出す存在だ、力に飲まれたりはせぬ】
【どちらでも俺は構わない。さぁ魅せてくれ! 武蔵ッ!! ゲッター線の可能性をッ!!】
エンペラーの意思が両手を上げると同時に間欠泉のように噴出したゲッター線は、メタルビースト・ドラゴンの攻撃によって司令部に向かって叩き落され、地表を砕きながら地下へ落ちてきたゲッターD2を飲み込み、そして上空へと押し返して行った。
メタルビースト・ドラゴンの姿が太陽に隠れ、その姿を一瞬武蔵は見失った。残り少ないエネルギー、窮地に追い込まれている仲間達……それを見て冷静さを失い始めていた武蔵に、メタルビースト・ドラゴンの行動を見破れというのが酷な話だった。
『!!!』
「く、くそッ!!! しくじったっ!!!」
シャインスパークは攻防一体の必殺技だ、発動してしまえば止める手段はほぼ無いと言ってもいい。
(受け止めるしかッ!!!)
避ければシャインスパークが地表で炸裂しキョウスケ達がやられる……避けるという手段を封じられた武蔵に出来たのは、残り少ないエネルギーをほぼゲッタービームに回す事だけだった。
「ゲッタァアアア……ビィイイイイムッ!!!!」
『!!!!』
シャインスパークを止めれるとは武蔵も思っていない、だがほんの僅かでも威力が落ちれば、ゲッターD2を盾にして防ぐ事が出来る。
「ぐ、ぐぎぎいいいい……ちっく……しょうッ!!!! うわあああああああッ!!!!」
シャインスパークを受け止めたゲッターD2だったが、完全に無効化する事は出来ず。隕石のようにラングレー基地の司令部へとゲッターD2は墜落して行った……。
・
・
・
「武蔵! おい武蔵! 何やってんだ?」
「いってえ……りょ、リョウ……お前……若返ってないか?」
「はぁ? お前何言ってるんだ? 寝ぼけてないでとっとと顔を洗って来いッ!!!」
竜馬に尻を蹴られ武蔵はパジャマ姿のまま部屋から蹴りだされる。
「何やってんだ、馬鹿」
「は、隼人!? お、お前顔……」
「俺の顔がどうかしたのか?」
「いや、怪我が……」
武蔵が最後に会った隼人はフランケンシュタインのような酷い有様だった。だが目の前にいる隼人も、そして部屋の中にいた竜馬も自分と同年代の若い姿だったからこそ武蔵は混乱した。
「怪我? 何を寝ぼけている。怪我をしてるのはお前だろうが、腹に穴が空いたままゲッターに乗りやがって、無茶してるんじゃねえぞ。」
皮肉めいた口調は紛れも無く隼人の物で、だがその中に心配の色も確かに滲んでいた。
「いっつ……いたたた」
腹に穴を言われて武蔵は急に腹が痛んできたのを感じ、腹を押さえて蹲った。
「傷が開いたのか! だから入院しろと言ったんだ! リョウ! おいリョウ!! 武蔵の傷が開いた! 肩を貸せ!!」
「今行く!!」
竜馬と隼人の2人に肩を貸され、医務室に引き摺られていく武蔵。痛みはある、だがそれ以上に嬉しかった。
(リョウ……隼人……)
痛みで薄れていく意識の中、竜馬と隼人の体温を感じた武蔵は今までのは夢だったのかと困惑しながら意識を失った……。
・
・
・
「もう、武蔵君ったら無茶しちゃ駄目じゃない」
「こらこらミチル。武蔵君は怪我をしているんだ、そう説教をする物じゃない」
「でもお父様……」
「は、ははは……オイラが悪いんですよ。無茶をしたから」
ベッドに横たわった武蔵はミチルの説教ですら嬉しく感じていた。失くした物が……求めていた物が全てあるのだ。
(夢だったのかな……それともこっちが夢なのか?)
新西暦が夢だったのか、果たして目の前の光景が夢なのか……ぼんやりとした意識でも、目の前あるすべてが現実のように武蔵に感じられていた。
「おら、武蔵。お前の好きな菓子を買って来てやったぞ、これでも食って安静にしてろ」
「たまには本でも読んで知識でも付けるんだな」
「もう! リョウ君! 病人にお菓子なんか持って来ちゃ駄目でしょう!」
「で、でもよ。ミチルさん、武蔵の奴は単純だから飯を食った方が元気になるぜ?」
「そんなわけ無いでしょ! もう! これは没収よ!!」
「ああ、そんなミチルさんッ!!」
お菓子を取り上げられ武蔵は悲壮そうな声を上げ、その声を聞いて早乙女博士や隼人が笑う。武蔵にとって当たり前だった光景がここにある……もうこのままずっとここにいたいと武蔵は思ったその時だった……ベッドサイドから折り紙で作られた花が差し出されたのは……。
「はい、武蔵さん。お見舞い」
「元気ちゃん……ありがと……よ?」
差し出された花は綺麗だったのに、武蔵が受け取ると折り紙の花は色彩を失い、ボロボロの姿になる。それは紛れも無く武蔵がお守りとして持っていた折り紙であり、数奇な運命を辿り弁慶にお守りとして受け継がれ、そして再び武蔵の元へと帰ってきた大切な折り紙だった……。
「どうしたの? やっぱり痛い?」
「あ……いや……」
心配そうに顔を見上げてくる元気――そして大丈夫かと声を掛けてくる竜馬達の顔を見て、武蔵はここにいたいと思いながらもベッドから身体を起こした。さっきまで感じていた痛みは無く、パジャマ姿ではなく剣道の胴、ニッカボッカ、マント、工事現場のヘルメット――武蔵の戦闘服へとその姿は変わっていた。違う所があるとすれば、首に巻かれたボロボロの竜馬のマフラー、そして隼人の腕時計があることだろう。
「行かないと」
「どこへ行くんだ? ここにはお前が望んでいる物が全てあるんだぞ」
「そうだぞ、もう辛い思いをしなくても良いじゃないか」
「そうよ、武蔵君はあの時代の人間じゃないわ。もう良いじゃない」
「自ら苦しみを選択することはないだろう?」
「武蔵さん……一緒にいようよ。ここは優しい場所だよ?」
確かにこのまま眠っていれば優しい思い出の中でいれるだろう……だけど武蔵はそれを選ばなかった。
「オイラだってここにいたいさ、だけど……ここはオイラの居場所じゃない、オイラは行かないと」
元気の頭を撫でて振り返った武蔵の視線の先にはゲッターD2の姿があり、早乙女研究所の医務室は遠く離れていて武蔵は一瞬寂しそうに顔を伏せたが、すぐに顔を上げる。顔を上げた武蔵の瞳には強い意思の光と、隠し切れない決別の寂しさが宿っていた。
「行ってくるぜ! ダチ公ッ!!」
竜馬達からの返事はない、何故ならばこれはゲッター線の見せた幻だから……本物の竜馬達ではないから……。
【迷うんじゃねえぞ、武蔵ッ!】
【行って来い、もうこんなくだらない夢に囚われるなよ】
【気をつけてね、武蔵君】
【頑張れよ、武蔵】
【行ってらっしゃい、武蔵さん】
だけど耳ではない、心には竜馬達の声がしっかりと聞こえていた。振り返らず、武蔵は拳を突き上げた。自分はもう大丈夫だと、心配しないでくれと行動で示し、ゲッターD2に触れ再び武蔵の意識は遠退いて行った。
「……戻って来たのか」
ポセイドン号のコックピットに腰掛けていた武蔵は、すぐにメインモニターに視線を向けて驚いた。
「エネルギーが回復してる! これならッ!!」
今までガス欠だったゲッターD2のゲッター線が最大値になっているのを見て、武蔵は躊躇うこと無くリミッターを解除し操縦桿を握り締める。
「行くぜ、兄弟ッ!! 力を貸してくれッ!!!」
武蔵の叫びに呼応するようにゲッターD2のカメラアイに目が浮かび上がり、自身を包み込んでいるゲッター線の光の柱を内部から弾き飛ばし、力強くその翼を広げ再びシャインスパークを発動させ突っ込んできたメタルビースト・ドラゴンへと向かうが、その移動はゲッター線の光に包まれ肉眼では捉えられない超スピードであり、ゲッターD2とメタルビースト・ドラゴンがすれ違った次の瞬間にはメタルビースト・ドラゴンは破壊され爆発していた。圧倒的なスピードとパワー……今ここにゲッターD2の真の力が解放されたのだった……。
第185話 進化の光 その7へ続く
テツヤと武蔵の覚醒によりプランタジネットの終わりまで進んで行きます。そして覚醒武蔵とゲッターD2の大暴れが始まりますが、新技が2つ解禁されるので何が登場するのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い