進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

369 / 400
第228話 白騎士と紅き巨人と その1

 

第228話 白騎士と紅き巨人と その1

 

マオ社の一室からキョウスケ達は地球へ降下していく三つの流星――アースクレイドルを攻略する為にクロガネと合流する事になった武蔵、ラドラ、コウキの3人を見送っていた。

 

「やっぱりこうなっちまったか……」

 

「予想はしていました。恐らくこうなるであろうと」

 

当初の目的ではレイカー派の部隊に月の防衛を任せ、ヒリュウ改も降下しアースクレイドル攻略に参加する予定だった。だがレイカー派は地球連邦全体で見れば疎まれる派閥であり、応援に来た部隊は量産型のゲシュペンスト・MK-Ⅲが1機、それ以外はアーマリオン、ガーリオンととてもインベーダーやアインストと戦える機体ではなく、単独で大気圏突入が可能なゲッターD2、ゲッターザウルス、剛破・鉄甲鬼の3機だけをクロガネの応援に送り出したのだ。

 

「アースクレイドルを制圧し、クロガネが宇宙へ上がって来たとしても上をとられていては全滅のリスクが高まるだけだ。戦力を分散する事になるが、奪還した月を再び奪われるわけには行かない。これが最善手だ」

 

「それにキョウスケが宇宙に残る事に意味がある」

 

キョウスケが宇宙に残る事に意味があるというカイの言葉に、キョウスケは分かっていますと言って頷いた。

 

「俺が宇宙に残る意味……アースクレイドル攻略中にアルフィミィとアインストの乱入を避ける為ですね」

 

「ああ。アースクレイドルには間違いなく龍王鬼達がいる。その中でアインストが乱入してくればラングレーの二の舞だからな」

 

ラングレーに現れたアインストは、今まで出現していたアインストよりも遥かに強力な個体が多かった。龍虎皇鬼、ゲッターノワールと戦う中でアルフィミィとアインストの乱入は絶対に避けなければならないことだった。

 

「宇宙に出現するアインストは強力な個体が多い、俺達も決して楽な戦いではないという事を肝に銘じてくれ」

 

「覚悟の上です。それに、俺にはやるべき事がありますから」

 

表情こそ普段と同じだが、その胸の内に燃えている炎の存在は誰の目から見ても明らかだった。アルフィミィが出現すればアルフィミィに連れ去られたエクセレンが現れる可能性も当然強まる。それがキョウスケにとって辛い選択を強いる可能性はカイもギリアムも分かっており、その上でキョウスケに宇宙に残るように命じたのだ。

 

「エクセレンをアインストから取り返せるとしたらキョウスケ……お前以外にはいない。辛い選択を強いるかもしれないが……皆が望む可能性を掴めるのもキョウスケ、お前しかいない」

 

エクセレンを取り返す為にはキョウスケの存在が必要不可欠だと言うカイにアイビスが手を上げた。

 

「えっと、それはキョウスケ中尉とエクセレン少尉が恋人だからでしょうか?」

 

「いや、違う。カイ少佐、ギリアム少佐。それは俺とエクセレンにだけある共通性が理由ですね?」

 

アイビスの質問にキョウスケは違うと言って自分とエクセレンにだけにある共通性が理由だろうとカイ達へ問いかける。確かに恋人という繋がりも決して的外れという訳ではない、だがそれよりも強い繋がりにキョウスケは思い当たる節があった。

 

「その通りだキョウスケ。お前とエクセレンについての話を詳しく聞かせてもらいたい」

 

ギリアムならばキョウスケとエクセレンの関係性について既に調べがついているのは間違いない、その上で自分から話すようにと促したギリアムにキョウスケは頷き、ゆっくりと口を開いた。

 

「ずっと考えていた。俺とエクセレンだけにアインストの声が聞こえる理由はなんなのかと、色々と考えてみたのだが……1つだけ、俺とエクセレンにだけある共通点……シャトル墜落事故ではないかと俺は考えている」

 

「あの事故か……」

 

「イルム中尉はその事故の事を知っているんですか?」

 

シャトル事故と聞いて納得したと言う表情で頷くイルムにリョウトが知っているのかと尋ねる。

 

「勿論知ってるぜ、ギリアム少佐もカイ少佐も知ってるだろうし、カチーナ中尉はどうだ?」

 

「勿論あたしも知ってるし、ラッセルの奴も知ってるだろうよ。勿論レフィーナ中佐にショーン副長もな」

 

軍属経験の長いものは皆知っている事故であり、キョウスケの言葉だけで察する者もいる。だがマサキやリューネ、それにDC側だったバンはシャトル事故と聞いても何があったのか分かる筈もない。

 

「どんな事故だったのだ。話を聞く限りではかなり凄惨な事故だったように聞こえるが」

 

「士官候補生達が乗ったシャトルが大気圏突破直後に爆発炎上し、墜落……生存者は僅か2名という大惨事になった事件だ」

 

生存者が僅か2名と聞きマサキ達が信じられないと目を見開き、キョウスケは小さい溜息を吐いた。

 

「一部じゃかなり有名な話だ。えらく運の強い新人が来るって話題になったしな。不謹慎ではあるけどな」

 

たった2人の生存者ともなれば否が応でも噂になるのは当然だ。その運の良い新人が欲しい、あるいは不吉だから転属拒否。そのどちらかが十分に考えられる内容に、リョウト達は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「イルム中尉、その事故の原因は何でございましょう? それほどの大事故、調査が行われて……いないのですか?」

 

ラミアが詳しい事故の原因を尋ねようとし、イルムが何ともいえない表情を浮かべているのに気付き、調査が行われていないのかと尋ねる。

 

「詳しい発表は軍内部では行なわれていない。上級士官、それこそ大佐クラスにだけ詳しい内容が伝えられ、俺達下っ端は機体の整備不良だと聞かされてるが……本当は違うんでしょう? ギリアム少佐」

 

「ああ。事実は全く異なるものだ。当時の軍上層部はシャトル事故の真実を公表するよりも、隠蔽する事を選んだ」

 

事故の詳細を調べる事を禁じ、隠蔽する事を選んだと言うギリアムにキョウスケは頷いた。

 

「俺も査察部からこの事故について語るなと命令されました」

 

「だろうな、あの当時はシュトレーゼマン議員が幅を利かせていた。シャトル事故の件が広がる事をシュトレーゼマン議員達は防ぎたかったんだ」

 

連邦議員まで関わる程だと聞き、シャトル事故の案件がその当時の地球圏を混乱させるだけの何かがあったと、ブリーフィングルームの全員が悟った。

 

「ギリアム少佐。シャトルに何があったのですか?」

 

スレイが単刀直入に問いかけるとギリアムはキョウスケに目配せし、キョウスケが頷いたのを見て何があったのかを語り始めた。

 

「あの事故はシャトルに「何か」が衝突し、引き起こされたものだった。当時のシャトルのカメラの映像などは消去されてしまい復元するのが不可能だったが、僅かな資料にはエアロゲイターの偵察機だと推測されている」

 

「何とぶつかったかにまで禁止されるほど情報規制がされてたのか? ギリアム少佐」

 

推測という言葉にマサキが何がぶつかったかまで残す事を禁止されていたのか? と尋ねるとギリアムはきっぱりと違うと告げ、本当に分からないのだと言葉を続けた。

 

「シャトルの残骸には巨大な質量がぶつかった痕跡があった。だが衝突した物体の破片が回収されなかったのだ」

 

「それおかしくない? だってシャトルにはぶつかった痕跡があるんでしょ? なんで破片が回収されてないのさ、おかしいじゃないか」

 

「確かにそうですよね、エアロゲイターの偵察機って言うとバグスですよね? 残骸の回収の話はよく聞いたんですけどね。確かそうだよね? ツグミ」

 

「え、ええ。確かにバグスの残骸はよく回収されてたわね。連邦の方でも回収されていたと思いますけど……違いましたか?」

 

その当時DCに所属していたアイビスとスレイ、そしてツグミがギリアム達に尋ねるとカイがその問いかけに返事を返した。

 

「ああ、こちらで撃墜、あるいは墜落したエアロゲイター機の破片は回収されていた筈だ。俺も数機のバグスを撃墜し、サンプルとして無傷の機体も回収したが……破片が残らないと言うのは……なんだ、イルム、ラミア。その顔は」

 

「いや、カイ少佐。無傷で回収したって……バグスをか?」

 

「……そんな事が可能なのでございますのでしょうか?」

 

バグスを無事なまま回収したと聞いて信じられないという表情を浮かべているのはラミア達だけではなく、話を聞いていたマサキ達も動揺の表情を浮かべていた。

 

「そう難しいものじゃないぞ? 何度も回収された破片から動力部の場所は特定出来ていたからな、後はその動力部を破壊すれば回収は容易い。なぁ? ギリアムよ」

 

「ああ、俺もやったぞ。ただまともにデータ取りもせずに破棄されてからはやらなくなったな」

 

「そういえば……エルザムの奴もやったと言っていたな」

 

カイとギリアムが分かる分かると頷きあっているのを見てマサキ達はドン引きしていたが、思い出したように呟いたバンの言葉に教導隊がどこかおかしいのだと悟り、何とも言えない表情を浮かべつつも納得したように頷いた。

 

「確かに皆が思うように破片が回収されなかったのは不自然な点だが、それを上回る不自然な点があった。あれだけの事故に関わらずキョウスケとエクセレンは生きていた。そればかりかエクセレン、彼女に至っては焼け焦げ所か、身体や衣服に何の損傷も無かったという」

 

ギリアムのその言葉に、キョウスケは座っていた椅子を引っくり返しながら立ち上がった。

 

「馬鹿なッ! あいつは、あの時……ッ! ギリアム少佐、本当にあいつは無傷だったんですか」

 

キョウスケのその姿は尋常な様子では無く、本当に無傷だったのかと真剣な表情で問いかける。

 

「ああ、間違いない。政府と上層部はその異常事態を目の当たりにし、シャトル事故の詳しい調査の禁止、それと本来はラングレーに着任する予定だったキョウスケを伊豆基地預かりとし、エクセレンだけがラングレー基地へと配属されたとある」

 

ギリアムから自分が知らなかった軍内部の話を聞き、キョウスケは唖然とながら馬鹿なともう一度呟いた。

 

「キョウスケ、お前がそれだけ動揺する理由は何だ。お前はその時何を見た?」

 

カイの問いかけにキョウスケはその当時の事を思い出すような素振りを見せながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「凄まじい衝撃と爆発音がシャトルに響き、目の前が爆煙に覆われた時……俺は反射的にエクセレンを庇いました。ですがあの時……俺の見間違いで無ければ……シャトルの破片によってエクセレンは間違いなく致命傷を負っていました。そんなエクセレンが無傷な訳が無い、あいつの身体に傷はありませんでしたが、エクセレンは皮膚の再生治療を受けたと思っているはずです」

 

傷が無いと断言したキョウスケの言葉は男女の営みを連想させるが、頬を赤らめる者はいない。キョウスケの話は余りにも深刻であり、そして最悪の事態を連想させたからだ。

 

「もしかしたら、シャトルに衝突したのは エアロゲイターではなく……」

 

ギリアムの言葉を遮るように、マオ社のブリーフィングルームに警報が鳴り響いた。

 

『月面にアンノウン接近中! 総員第1種戦闘配置ッ! 繰り返します! 月面にアンノウン接近中! 総員第1種戦闘配置ッ!』

 

ユンの言葉を最後まで聞かずに、キョウスケは弾かれたようにブリーフィングルームを飛び出していた。

 

(エクセレン……お前なのか)

 

言葉にするのならば虫の知らせとでも言うべき物を感じたキョウスケは背後からの制止の命令にも足を止めず、格納庫へと走っていくのだった……。

 

 

 

 

真っ先に飛び出していったアルトアイゼン・リーゼの姿は、ヒリュウ改のブリッジからも見えていた。

 

「迅速な対応と褒めたい所ですが……無断出撃ですな」

 

「はい、まだ出撃命令は出していません」

 

出撃命令を聞かずに飛び出していったキョウスケに、レフィーナとショーンは揃って渋い表情を浮かべる。だがそれはキョウスケの無断出撃についてではない、命令も聞かず勝手に出撃した理由に思い当たる節があったからだ。

 

「キョウスケ中尉から通信が入っていますがどうしますか?」

 

「メインモニターに回してください」

 

ユンからの通信を受けるか否かの指示を仰ぐ言葉に、レフィーナはすぐにメインモニターに通信を繋げる様に指示を出す。

 

「キョウスケ中尉。無断出撃と言いたいところですが……理由があるんですよね?」

 

『艦長、副長。処罰は後で受けます。ですが今俺は出撃しなければなりませんでした……あいつが来ています』

 

キョウスケのその言葉の後に、ヒリュウ改の正面にヴァイスリッター改が姿を見せた。

 

「ヴァイスリッターですか……アインストに寄生されているようには見えませんが……」

 

「自力でアインストを振り切ってきたとは思えませんね」

 

損傷も何もない、新品同様のその姿に戦って逃げてきた姿には見えず、レフィーナもショーンも口にしなかったが2人の脳裏には最悪の予想が過ぎった。

 

「艦長! ヴァイスリッターから通信が入っていますッ!」

 

「すぐに繋げ、通信は格納庫にも流してください」

 

険しい表情のレフィーナの指示に頷き、ユンはヴァイスリッターからの通信がヒリュウ改と格納庫に繋げられる。

 

『はぁい、お待たせしましたッ!  エクセレン・ブロウニング、ただいま帰還いたしました~ッ!』

 

ブリッジに響いたのは底抜けに明るいエクセレンの声。その声にレフィーナは沈鬱そうに目を伏せた。エクセレンという人物を知っていれば、この状況でこんな明るい口調で通信をつなげて来るはずが無いからだ。

 

「……ちっ」

 

「エクセレン……ッ!」

 

「エクセ姉様……ッ」

 

格納庫で出撃準備をしていたカチーナ達も顔を歪めた、念動力者などでなくとも、今のエクセレンが異常だと言うのは付き合いの長いカチーナ達ならばすぐに分かる事だった。

 

「エクセレン少尉、 相変わらずみたいだけど……」

 

「どこかおかしいのだな?」

 

アイビスやスレイはエクセレンとの付き合いが短いので普段通りのエクセレンだと感じたが、カチーナ達の顔を見れば違うと理解した。

 

『何があったか説明したいから着艦を『もういい、くだらない茶番にこれ以上付き合うつもりはないぞ、アルフィミィ』……へ?』

 

近づいて来たヴァイスリッター改に向かって、アルトアイゼンリーゼがリボルビングバンカーの切っ先を向ける。

 

『ちょいちょい、キョウスケ……冗談きっつくない? アインストから必死に逃げてきた恋人にすることじゃないわよん?』

 

『……エクセレンは普段こそあんな調子だが、こんな時に軽口を叩くような真似はしない……もう1度言う、茶番はうんざりだ。アルフィミィッ!』

 

凄まじい怒気と覇気をモニター越しにも伝わって来てレフィーナ達は息を呑んだ。だがそれも当然だ、自分の愛する女性が操り人形にされ、利用されている光景を見て冷静でいられるわけが無い。

 

『もう……キョウスケったら……そ……んなこと言わ……な……』

 

エクセレンの言葉が途切れ途切れになり、その言葉にノイズが走り、モニターに映っていたエクセレンの身体がまるで糸が切れた操り人形のように脱力する。それと同時に、ヴァイスリッター改の装甲がメキメキと音を立て変異を始める。

 

『……ちっ! これがお前のやり方か、アルフィミィッ!』

 

PTの原型を留めないほどに巨大化し、最早PTではなく準特機、いや特機と呼べるサイズのアルトアイゼンリーゼに匹敵するサイズに巨大化したヴァイスリッター改の背中の装甲が弾けた。蝙蝠のような翼が生え、機体各所にアインストの外骨格のような装甲が展開され、関節部はアインストグリートの触手が束ねられ構築された物へと変化する。そしてヴァイスリッターのカメラアイが紅く染め上げられ、ラインヴァイスリッターへと変貌を遂げるとその隣にペルゼイン・リヒカイトがその姿を現す。

 

『……キョウスケ、迎えに来ましたの。とりあえず邪魔はさせませんですのよ、エクセレン』

 

『……』

 

ペルゼイン・リヒカイトとラインヴァイスリッターがそれぞれ右手と左手を上げると、視認出来るほどの強固なエネルギーフィールドがヒリュウ改とマオ社を包み込んだ。

 

「な、謎の力場によってハッチが開きませんッ! い、いえ、それだけではありません! 電子機器が次々とシステムダウンしていきますッ!」

 

「なるほど……本気でキョウスケ中尉を迎えに来たと言うわけですか、あのお嬢様は……ッ! 参りましたね、これは……ッ」

 

ラインヴァイスリッター、そしてゲッター線を取り込み進化したペルゼイン・リヒカイトを相手に完全に孤立したアルトアイゼンリーゼ。だがその絶望的な状況の中でもキョウスケの心は折れていなかった。

 

『アルフィミィ、エクセレンは返してもらうぞッ!!』

 

『どうして貴方は私を見てくれませんのッ! 私は、私はッ……もういいですのッ! 力づくで貴方を連れて帰りますのキョウスケッ!』

 

『ッ!』

 

アルフィミィのヒステリックな叫びを合図に、エクセレンを取り返すためのキョウスケの孤独な戦いの幕が切って落とされるのだった……。

 

 

第229話 白騎士と紅き巨人と その2へ続く

 

 




アルトアイゼンリーゼ(単機)VSラインヴァイス&ペルゼインリヒカイト(進化態)の無謀極まる戦闘開始です。今回はちょっと短くなりましたが、次回はその分ボリュームをあげたいと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。