第249話 不屈の意思 その1
クロガネの格納庫の一角に金色の魔龍と白銀の虎……すなわち龍王鬼と虎王鬼が固定され修理が行なわれていた。敵である筈の龍王鬼もその格納庫の前にいて上機嫌に笑いながら日本酒の瓶に口をつけてそれを水のように飲み、乱暴に袖でぬぐって満足そうに笑った。
「いやあ悪いな! 俺様の龍王鬼の面倒まで見てもらってよ!」
龍王鬼は大声で笑いながらビアンの背中を叩き、ビアンは大きくつんのめった。
「おっと、悪いな。俺様はどうも手加減は苦手でよ」
「い、いや、大丈夫だ。君からの情報はとてもありがたいし、何よりも停戦協定を結んだ以上は我々も君と敵対する意図はない」
龍王鬼と虎王鬼は共行王達と共に百鬼帝国に帰る事も可能だったが、それをしなかった。
「ヤイバ達がヒリュウにお世話になってるらしいじゃない? ならあの子達と合流する方が先かなって」
龍王鬼達が戻るのを待ち龍王鬼達同様百鬼帝国に置いていかれたヤイバ達はヒリュウ改と共に行動しており、ヤイバ達と合流する為に龍王鬼と虎王鬼はクロガネへ残ったのだ。
「約束は守るぜ。百鬼帝国も大帝もいねえし、今の俺様達にお前達と戦う理由はねえからな」
「というかボロボロすぎて全力で戦えない中で戦っても面白くないしね」
「それな! はっはははははッ!!」
今のボロボロの状態で戦っても面白くないという龍王鬼達らしい理由で、龍王鬼達とビアンは停戦協定を結ぶことが出来たのだ。
「すこーし位なら手伝ってやるぜ? お前らとアクセル達の戦いは俺様も見てえからよ」
「良い戦いは近くで見ないとね」
龍王鬼達という規格外の相手とアクセル達シャドウミラー、あるいはインスペクターに挟まれるという最悪の状況を避けられ、そして超鬼人である龍王鬼と虎王鬼の情報が入ると考えればビアン達の方が圧倒的に益があった。だからこそビアンは貴重な資材を使い、龍王鬼と虎王鬼を修理する事を選んだのだ。
「ビアンさん! すぐにブリッジに上がってください!」
「武蔵君? どうした、何があった」
「地球の上のでかい丸いやつ! あの周りにインベーダーとアインストが大量発生したそうです!」
「なんだと!?」
武蔵から告げられた信じられない言葉にビアンは血相を変え、すぐに行くと叫んで武蔵と共に格納庫を出て行く。
「どうする? 龍」
「勿論行くに決まってるだろ! 行こうぜ虎ッ!」
「そうこなくっちゃねッ!」
そして龍王鬼と虎王鬼の2人も面白そうだと笑い、武蔵とビアンの後を追って格納庫を飛び出すのだった……。
シロガネとハガネの修理の為に伊豆基地に滞在していたリーは突如響き渡った緊急警報に顔を上げた。
『リー中佐ただちに司令部へ、繰り返しますリー中佐はただちに司令部へ出頭してください』
「ここは任せるッ!」
部下の返事を聞かずにシロガネのブリッジを飛び出したリーは走りながらボタンを締め、ネクタイを締めなおし帽子を被る。
(ただ事ではないぞ、なんだ。何が起きた。まさかテツヤ達がやられたのか!?)
司令部に向かう道中でスクランブルで出撃していく偵察機や量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲを見て、アースクレイドルの攻略に向かったテツヤ達と月面奪還へ向かったレフィーナ達に何かあったのではないかと思い、走る速度を更に早めた。
「レイカー司令。遅れて申し訳ありません! リー・リンジュンただいま出頭しました!」
司令部に入ってすぐに敬礼したリーはメインモニターに映されている光景に目を見開いた。
「これはッ!?」
それは大量などという言葉では片付けられないほどに密集したアインストとインベーダーの姿だった。僅かに見える巨大な建造物……ホワイトスターの姿からL5宙域だと理解したが先日まで百鬼獣こそ確認されど、影も形もなかったアインストとインベーダーの群れにリーは言葉を失った。
「現状は理解してくれたな、リー中佐。我々が警戒していたシャドウミラー、インスペクターを遥かに上回る脅威が我々の頭上に現れた」
無機物・有機物問わず寄生するアインストとインベーダーは、サカエのいう通りシャドウミラー・インスペクターを遥かに上回る脅威だ。
「ヒリュウは、ヒリュウはどうなったのですか!?」
「心配するな。レフィーナ中佐達は宇宙方面の連邦軍と協力し、辛うじてアインストとインベーダーの進撃を押さえ込んでいる。だが、それも長くは続くまい。早急に支援部隊を送らなければならない」
「ならばその任は我々に「ならん。リー中佐。貴君には命令が下るまで伊豆基地での待機を命ずる」な、何故ですか! レイカー司令!」
出撃を禁じられたリーが声を荒げ、レイカーに詰め寄るがそれはサカエによって阻止された。
「リー中佐。我々は君にしか出来ない任務を任せる為に待機命令を出したのだ。支援はリリー中佐にハガネを預けて送り出す」
「リリー中佐に?」
元コロニー統合軍であり、マイヤーの副官だったリリーならばスペースノア級の指揮も取れるのは間違いない。
「私の派閥の人員で固めている。案ずる事はない、だが問題はそこから先だ。恐らくL5宙域に上がるのはハガネ、そしてクロガネに留まるだろう」
「他の部隊は」
「……一部義勇軍とほんの僅かな連邦軍がL5宙域に向かっている。だが殆どは地球の守りを固めることを選んだ」
鬼の策略ではない、鬼の策略であればどれだけ良かったか、サカエの顔を見ればそれは今の連邦議員と軍上層部の命令である事は一目瞭然だった。
「テツヤ達はもう宇宙へ?」
「1時間前に宇宙へ向かうと連絡があった」
「いくらなんでも無茶だッ!」
アースクレイドルを攻略してすぐ、休む間も修理をする間もなく宇宙へ向かうのは自殺行為だ。上官の前だと分かっていてもリーは声を荒げずにいられなかった。
「我々も無策ではない、リー中佐あれを見ろ」
海底のドッグから浮上してきたハガネはリーの知るハガネとは別物になっていた。艦首トロニウムバスターキャノンが縦長の砲門に改造され、艦艇と艦尾に大型のカートリッジを装着していた。
「使い捨てになるがトロニウムバスターキャノンを連射し、なおかつ広域に発射出来る。あれで一時的にL5宙域のインベーダーとアインストを殲滅する。恐らく再びアインストとインベーダーは出現するだろうが、体勢を立て直す時間稼ぎは出来る」
「時間稼ぎの為にスペースノア級を使い捨てるのですか!?」
「必要なことだ。我々には時間が無い、その時間を作る為にスペースノア級が必要ならばそれを使うまでだ」
まず間違いなくトロニウムバスターキャノンを連射すればハガネは大破する。大破しなくとも、スペースノア級のハガネと言えど致命的なダメージは避けられない。それでも必要なことだと言うレイカーにリーは口を閉ざした。
「我々が成すべき事はなんですか、レイカー司令」
「君達に頼みたいのは人類の最後の希望……我が基地の特殊ドッグで修理されているあの機体を輸送してもらう」
「まさか……正気ですか!?」
伊豆基地地下の特殊ドッグに搬入されている機体をリーは知っている。余りにも危険、まともに稼働するとはリーには思えなかった。
「インベーダーとアインストに寄生されていたアルタードを使うというのですか!?」
「それが必要なことならば、我々に形振り構っている時間はない」
現在急ピッチで伊豆基地の地下で修復されているメタルビースト・アルタードいや、SRアルタードを運用する為それをリュウセイ達に届ける事。それがレイカーからリーへ下された命令なのだった……。
ヒリュウ改に着艦したグレイターキン改からメキボスが顔を出し、ヘルメットを投げ捨てパックの水を口に加えながら整備兵に向かって叫ぶ。
「おーい! 予備のプロペラントタンクくれッ! すぐに出るッ!」
「すぐ準備する! 3分だ! 3分は休めッ!」
「1分だ! 戦線が崩れちまうだろうがッ!」
グレイターキン改、サイバスター、ヴァルシオーネの3体のMAPWによる波状攻撃、それがアインストとインベーダーの進攻を防げている要因だった。だがここでグレイターキン改がエネルギー切れを起こして陣形が崩れた。すぐに立て直さないと崩れると叫ぶメキボスに整備兵達は大慌てでプロペラントタンクの準備を始める。
「こっちは供給パイプを用意しろッ! もう敵陣の目前まで突っ込んでぶちかますなんてやってる暇ねえぞッ!」
「こっちも急いでくれよ! やばいから」
ゲシュペンスト・MK-Ⅲカスタムのカチーナ、ヴァイスリッター・アーベントから顔を出したアギーハが同時に叫び、整備兵達が大慌てでパイプの準備を始める。
「ぜはあ……ぜはあ……死ぬ、死ねる」
「はぁ……はぁ……まだだ。そんな事を言ってる余裕があれば大丈夫だな……はぁはぁ……」
カートリッジの交換作業中の為休憩を取っているアイビスとスレイの顔にも疲労の色が濃かった。
『8時、12時、7時の方向にアインストとインベーダー出現ですッ!』
「くそがッ! 少しは休ませろッ!!」
「ほんとだよッ!」
ネビーイームから無尽蔵に現れるアインストとインベーダーの群れが確認されてから6時間。僅かな休息を挟みながらカチーナ達はほぼほぼ6時間ぶっ通しで戦い続けていた。
『……無理ぃ……ラミアちゃん交代してぇ……』
『分かりましたエクセ姉様ッ! ヴァイサーガ。ラミア出るぞッ!』
『エンジンの出力が上がらないんです! 交替お願いします!』
『今度は僕とリオが出ます! 行くよ。リオ!』
『分かった』
体力と機体の限界まで戦い、僅かな時間休息をとり再び出撃する。そんな無茶な中でいつまでも集中力が続く訳も無く、徐々に被弾が目立ち始めてきた。
「エネルギー充電完了したぞ!」
「しゃあ行くぞッ!」
グレイターキン改が飛び出してすぐサンダークラッシュの放電音が響き、少し遅れてアインストとインベーダーの悲鳴が木霊する。
「ヒリュウの艦首のタンクを出しました、そちらのパイプと直結してください!」
「分かった、行くぞ、アギーハッ!」
「ああ、もうやってやるよッ! あたいだって死にたくないからねッ!」
機体の全長よりも長いビームライフルを抱えて出撃するゲシュペンスト・MK-Ⅲカスタムとヴァイスリッター・アーベント。
「あたしも」
「もう少し休んでろ! キョウスケ中尉と交替だ!」
「わ、分かりました」
アインストとインベーダーがこの防衛線を突破すればすべてが終わる。それが分かっていたから全員奮闘していた。だがそれにも限界が見えてきたその時だった。
『全機へ通達! これよりハガネはトロニウムバスターキャノンを発射します! 各員は射線から離脱してください!』
オーバーブーストで大気圏を突破してきたハガネの広域トロニウムバスターキャノンによって1度目のアインストとインベーダーの襲撃を防ぐ事が出来たが、その反動でハガネは大破。そしてパイロット達も機体もボロボロと、満身創痍等と言葉では片付けられないほどに疲弊するのだった……。
状況は誰の目から見ても最悪だった。メキボス達からネビーイームがアインストとインベーダーの巣窟になっているということは、カイ達も聞かされていた。
「だとしてもこれをなんとかしろと言うのは無茶がすぎるだろう!」
『だなあ、おっさん!』
「おっさん言うんじゃない!」
『はははははッ! 悪い悪い』
その状況を切り抜けるためには敵であるヤイバ達との協力も必要だった。
『やれやれだ。何故こうも化け物ばかり増える』
『お前自分もその化物に含まれるって分かってるか?』
『……否定はできんな』
『まとめて薙ぎ払うよ!』
『心得た』
百鬼帝国に置いていかれたことで地球圏へと残った闘龍鬼、風蘭、ヤイバ、龍玄の4人の鬼によって辛うじてヒリュウ改は戦線を維持できていた。
「不味いですね……」
「ええ、不味いですな。ハガネは大破、次の進撃は防げないですぞ」
ハガネによって第一陣のアインストとインベーダーの攻撃は留めることが出来たが、それから僅か3時間で再びアインストとインベーダーの群れは地球に向かって来ている。キョウスケ達が出撃できるほど回復していないのでカイ、ギリアム、イルムの3人と闘龍鬼達、そしてハガネに乗ってきていたLB隊とトロイエ隊と、僅かな連邦軍と統合軍の生き残りで全力を尽くしているがアインストとインベーダーの襲撃は抑え切れていない。
「艦長。私が何を危険視しているか分かっておりますか?」
「進化個体がいないですね?」
「その通りです。アインストもインベーダーも進化個体がいない。この襲撃は間違いなくこちらの戦力を学習しようとしての物でしょう」
アインストとインベーダーの大群が地球や月、コロニーにつけば全てが終わる。出し惜しみをしている余裕などあるわけも無く全力で戦う事になる。そしてアインストとインベーダーはそれを学習してより強い個体を生み出そうとしている。
「突破口を見出さない事には、取り返しの付かないことになる」
進化個体が増えればなんとか維持出来ている戦線も一気に崩れかねないが、この戦況をひっくり返す一手はレフィーナ達に無かった。
「艦長! 11時の方角からアインストとインベーダー出現! 数……ひゃ、百越えです!」
「くっ! キョウスケ中尉達に出撃を」
100を越えるアインストとインベーダーを食い止めるのは戦力が足りない。まだ休ませてやりたいという気持ちはあったが、そうも言ってられず出撃をとレフィーナが言いかけた瞬間……ヒリュウ改の前に漆黒の穴が展開された。
『武蔵、着きましたよ』
グランゾン、そしてそれから少し遅れて真紅に輝くゲッターD2が姿を見せた。
『しゃあッ! 行くぜええストナァァアアアアッ!! サァァアアン……シャインッ!!!』
武蔵の怒号と共に放たれたゲッター線の輝きが宇宙を翡翠色に染め上げ、L5宙域を埋め尽くしていたインベーダーとアインストは全て消え去った。
『ヒリュウ改応答せよ。こちらはクロガネ臨時艦長テツヤ・オノデラ。繰り返す、ヒリュウ改応答せよ』
ワームホールから姿を見せるクロガネの姿にレフィーナは心の底から安堵の溜息を吐いた。だがこれは終わりではなく、始まりだった。
アインストとインベーダーと人類の生存をかけた戦いの始まりほんの一幕に過ぎないのだった……。
第250話 不屈の意思 その2へ続く
今回は少し短いですが合流なのでここで1区切りとします。次回はどうするかの話し合いと最後の味方の強化の話を2話ほどしてホワイトスターへ焦点を向けていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い