第251話 魔星へ巣食う邪鬼 その1
クロガネ・ヒリュウ改の前を進む龍虎皇鬼達の姿にグレイグは何とも言えない表情を浮かべるが、同じくクロガネに保護されたままのブライアンとグライエンはなんでもないような表情をしてその肩を叩いた。
「敵ではあるが今は味方だ。警戒するなとは言わないが表情に出してはいけないよ」
「まだ若いなグレイグ、そしてテツヤ大尉もな」
若いと言われた2人は苦笑する。グレイグもテツヤも他の軍人よりも柔軟性はあるが、流石にブライアン達レベルの柔軟性を求めるのはまだまだ酷だった。
「武蔵君。ゲッターの調子はどうかね?」
『ゲッターVとクロガネの炉心から少しずつエネルギー供給してるのと宇宙だから回復は大分早いですね。ホワイトスターに到着する頃には戦えると思いますよ』
ゲッターD2が万全の状態で戦えるという武蔵の報告を聞いて、グライエンは安堵の溜息を吐いた。
「またもL5宙域が地球の命運を分けることになるとはね……まだ遺体の回収も済んでいないのに……」
オペレーションSRWで戦死した軍人の遺体の多くは今だ破壊された戦艦やPTの中に残されている。回収作業は行なわれていたがインスペクターの襲撃によって中断されたことを思い、ブライアンは渋い表情を浮かべる。
「そうだな。だが私はL5宙域が戦域になって良かったと思っているよ。ここで死んだ英霊には悪いと思うがね」
「グライエン議員、それは一体何故ですか?」
遺体の回収に最も力を入れていたグライエンの言葉にグレイグがどういうことかと尋ねる。
「未来ではホワイトスターが原因で全てが狂った。この戦いの中でホワイトスターを破壊出来れば、絶望の未来へ続く道が1つ途絶える。無論遺族やこの場で散った者達の事を思えば、それは許される所業ではないだろう。だが我らの進む道には前しかないのだ」
「私も同意見だ。ホワイトスター周辺のアインストとインベーダーの増殖を考えれば、ホワイトスターがプラントになっているのは間違いない。地球を守る為に、そしてアインストやインベーダーに寄生され彼らが利用されるようにする為にもこれしかないのだよ」
非道、外道ではある。だがインベーダーとアインストの脅威、そしてラミア達から告げられた未来の事を思えば、こうするしかないのだとビアンとグライエンは決断したのだ。
ビアンとグライエンは決断したのだ。
「失礼しました。理由も知らず批難をして申し訳ありません」
「気にする事はない、私は戦場に立って戦えないんだ。安全な所であーだ、こーだという嫌な奴くらいに思ってくれたまえ、責任は全て私が受け持つ」
この決断を下したグライエンが1番辛いのだ。地球を守る為に戦った戦士の亡骸を回収することも出来ず。これから起きるであろう戦いで消し飛ばすことになることに心を痛めているのはグライエンとビアンに他ならない。
「我らに退路は無い、敵であれ、なんであれ、その全てを使い地球を守る。それがここで死んだ彼らへの供養となる」
地球を、そしてその地球へ残っている者達を守る為に形振り構ってられない。戦う事だけがビアン達に出来る事であった。
「アインスト、インベーダーを確認しました!」
「総員戦闘準備!」
クロガネとヒリュウ改のモニターにはL5宙域全域を埋め尽くす、夥しい数のアインストとインベーダーの姿が映し出されていた……。
L5宙域へ浮かぶ残骸に寄生したメタルビースト、そして寄生体へと変化したアインストとインベーダーを見据えて龍王鬼は小さく舌打ちした。
「化け物に戦いの中の矜持を求めるのは無理だって分かってるが、腹が立つぜ」
『そうね、眠らせてあげないとね』
「おうともさ」
戦いの中に矜持と誇りを持つ龍王鬼達からすれば、死者を無理矢理戦わせるアインストとインベーダーは唾棄するほどおぞましいものであったし、許せないものであった。
「ぶっ潰すぜ! 続けッ!」
龍虎皇鬼の咆哮が宇宙空間に響き渡り、その叫び声に萎縮したメタルビースト・ゲシュペンストに龍虎皇鬼が飛び掛る。
「おらぁッ!」
【!?!?】
龍虎皇鬼の鋭い爪で頭から両断されたメタルビースト・ゲシュペンストは再生も出来ず爆発し、その爆煙を突っ切ってメタルビーストの一団の前に飛び出した龍虎皇鬼の胸は大きく風船のように膨らんでいた。
「悪いな、俺様には安らかにあの世に送ってやるなんて真似は出来なくてよ! そのかわり苦しむのは一瞬だぜッ!!」
龍虎皇鬼の口から吐き出された炎はメタルビーストを飲み込み、その装甲をドロドロに融解させ次々と爆発させる。
『風に連れて行って貰いな、あんた達が正しい事をしていたなら地獄には行かなくてすむだろうさ!』
『地獄の鬼であれと慈悲はある。もう眠るが良かろう』
風神鬼の放った光り輝く風と雷神鬼の雷に飲み込まれメタルビースト達は次々と再生出来ずに爆発していく。
「おらっ! さっさと行け!」
『時間を掛けてるとどんどん増えてくるわよ』
龍王鬼の一喝を受け、クロガネとヒリュウ改は龍虎王鬼達によって作られた包囲網の穴を抜け、ネビーイームへと突き進む。
「ヤイバ! 闘龍鬼! ギリギリまで見てやりな!」
『あいよ! 行くぜ闘龍鬼!』
『しばしそばを離れます』
龍王鬼の命を受け、闘刃鬼と闘龍鬼がクロガネとヒリュウ改の前についたのを確認し、龍王鬼はデブリから姿を見せた巨大なインベーダーとアインストの融合態を睨みつけた。
「それはてめえが使って良いようなもんじゃねえぞッ!!」
ハガネやヒリュウを遥かに上回る巨大戦艦であり、4つの砲塔を持つ超大型戦艦アルバトロス級グレートアーク。オペレーションSRWの旗艦であり、ノーマン・スレイ准将が乗っていたその戦艦の残骸すらもメタルビーストへと成り果てていた。
「ぶっ潰すぞ、あれさえ潰せばここら辺のアインストとインベーダーはしめえだ」
『龍王鬼様、あたしと龍玄で砲塔を潰しますね!』
『勇敢な者達があのように終わるのは忍びないからな』
別に龍王鬼達がノーマン達の縁者と言う訳ではない、だがオペレーションSRWの事の顛末は龍王鬼も知っている。地球を救う為に、勝てないとわかっていても前に出た勇敢な戦士達として敬意を払っていた。その敬意を払っていた者達がメタルビーストとアインストにされ、尊厳を奪われた姿は龍王鬼の逆鱗に触れた。
【キシャアアアアアッ!】
『死んでて良かったんだろうね、化け物にならずにさ。だけどそんな姿で生きながらえたくはないだろ? 早くあの世に行っちまいなッ!』
風蘭の言葉は刺々しいものであったが、その言葉に込められていたのは憐憫の感情だった。鬼であっても、人間に近い感性を持つ風蘭もまたグレートアークがメタルビーストと化した姿は許せるものではなかったからだ。
4つの砲塔のうち2つが動き出し、巨大なインベーダーの瞳が風神鬼を睨みつけるとのと、風神鬼が手にした剣で円を描くのは全く同じタイミングだった。
【シャアアアアッ!!】
宇宙空間を焼き払う青黒いビームがメタルビーストの咆哮と共に放たれる。それは直撃すれば風神鬼を跡形も無く消し飛ばすほどの威力を秘めていたが、そのビームは風神鬼の前に展開されていた丸いバリアによって受け止められた。
『これはあたしの趣味じゃないんだけどさ、お前見たいな化物相手なら使う事に躊躇いはないよ! 自分自身の力で消し飛びなッ!』
PBSフォーメーションのエネルギーに風神鬼のエネルギーが加えられ反射されたビームが、インベーダーに寄生されたグレートアークの2つの砲塔を跡形も無く消し飛ばした。
『どれ1つ俺も本気を見せようか、人の尊厳を踏み躙る悪鬼よ』
雷神鬼の巨体が開く。僅かに見えていた雷神鬼の頭部は巨大なアーマーを装備していた百鬼獣の胸部だった。分離した胸部そこから頭部と手足が展開され、それが更に変形し巨大な兜を被った鬼の頭部へと変形する。その下では脱ぎ捨てられた巨大なアーマーが、その姿を更に変形させ重厚な鎧を身に纏った人型へと変形する。
『龍玄と雷神鬼が奥義、しかとその身で受け止めよッ!』
頭部に変形した雷神鬼が巨大な鎧と合体し龍虎皇鬼の巨体を優に上回る巨鬼となる。
『ぬうんッ!!』
その周囲に浮かぶ太鼓型のビットを雷神鬼がその拳で打つ度に宇宙空間に蒼い白い稲光が走り、雷神鬼の周囲を埋め尽くす。
『ぬおおおおおッ!!!』
大きく振りかぶった雷神鬼の右ストレートが太鼓を撃ち抜くと、雷神鬼の周囲に留まっていた雷全てが1つに纏まり巨大な熱線となりアインストが寄生した砲塔から放たれたビームを飲み込み、そのまま2つの砲塔さえも飲み込んで消し去った。
「じゃあな、ノーマン・スレイ。出来ればあんたが指揮を取るその船と戦いたかったぜ」
【ギッ! ギャアアアアアアアアアアッ!!!】
4つの砲塔を失い、風神鬼の風の刃と雷神鬼の雷によって迎撃する機銃も失ったメタルビースト・グレートアークに龍虎皇鬼を食い止める術などあるわけも無く……。
「じゃあな! てめえらに迎えがあることを祈ってやるぜッ! 邪龍剣……逆鱗……だぁぁあんッ!!!」
龍虎皇鬼の渾身の一閃によってメタルビースト・グレートアークは艦首から両断され、宇宙空間に鮮やかな紅い華を咲かせた。
「俺様の剣は介錯の剣じゃないんだがな」
『良いじゃない、たまにはこういうのも悪くないんじゃない?』
「ふん、まぁ虎がそういうならそうしといてやるか。おい! 風蘭!』
『もうやってますよ、龍王鬼様』
『ふふ、優しいんだから』
「うっせ! 行くぞ』
『『はーい』』
『参ろうか』
風神鬼が作り出した風、そして虎王鬼が札で作り出した華がこの場で散った者達の鎮魂を祈るかのように、L5宙域を彩るのだった……。
ホワイトスターへの進路の確保役を引き受けた龍王鬼達の戦いをブリッジで見ていたレフィーナは完全に言葉を失っていた。龍王鬼一派の強さはレフィーナも当然知っていたが、それを知っていてもなお上回る強さを龍王鬼達は見せ付けていた。
『凶暴なだけでは俺には届かん』
闘龍鬼の4つの腕が振るわれる度に量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱを素体にしたメタルビースト・ゲシュペンストは砕け散る。
『行くぜ行くぜ行くぜッ!!!』
両手足に炎を宿し宇宙空間を駆け回る闘刃鬼の打撃はアインストのコアを打ち砕き、再生すら許さずに消滅させる。
「いやいや、圧倒的ですな。ここで戦わなくて良かったと思うべきですかな」
「……龍王鬼達が戦いへの美学を持つタイプで良かったと思っています」
ここで仮に龍王鬼達と戦えばホワイトスターでの戦う余力を失う事になる、そしてホワイトスターでの戦いを終えた後に奇襲を受ければ反撃すら出来ずに撃墜されるだろう。龍王鬼が戦いへの美学と独自のルールを持つからこそ成立した奇跡的な共闘であり、もしもほんの少し歯車がずれていたらと考えるとレフィーナとショーンに冷たい汗が流れ落ちた。
『こんな所だろう。俺達はこれで帰還する』
『今度は邪魔者が入らない時にやろうぜ、じゃあなッ!』
圧倒的な力を見せつけた闘龍鬼と闘刃鬼はクロガネとヒリュウ改をホワイトスターへ突撃できる位置までエスコートすると、そのまま反転して宇宙の闇の中へと消える。
「アフターフォローもバッチリですな、もしもあの2人が人間なら是非スカウトしたいレベルです」
「確かにそうですね」
戦闘力だけではなく人格面も非常に優れている。鬼でなければ、手を取り合う未来もあっただろうが……それはあり得ないIFの話だ。
『レフィーナ中佐。そちらもゲッター線放射装置を射出してくれますか、体勢を整える時間を取る為に』
「了解です。ユン、ゲッター線放射装置を射出してください」
レフィーナの指示に頷いたユンがコンソールを操作し、クロガネとヒリュウ改からポッドが射出され周囲を翡翠色に染め上げる。
『時間的に言えば30分というところか。ギリギリだと思うが、どう思うかね? レフィーナ中佐』
「私もそれが良いと思います。テツヤ大尉も同じ意見ですよね?」
『ああ、俺も向こうの出方を見たいと思っている』
ホワイトスターがアインストとインベーダーの巣窟になっているのは間違いない、ではそこにいるはずのインスペクターの頭領であるウェンドロ、シャドウミラーのヴィンデル、レモン、アクセルの4名がどうなっているのか状況を掴む必要があった。
「インベーダーとアインストに寄生されてる前提で考えるべきでしょうか?」
『その可能性が高いが、その通りと思うのは危険だ。レモン・ブロウニングはゲッター炉心を実用段階にしている可能性が高いとラミアとエキドナが教えてくれた』
「となると我々と同じ手段を持ってる可能性がある訳ですな。ビアン博士」
『ああ。ゲッター線バリアで自分達の勢力を守っていた場合奇襲を受ける可能性が極めて高い、そうでなくともシャドウミラーには特攻用の機動兵器がある、それとゲッター線を併用されていた場合轟沈のリスクが爆発的に高まる。このゲッター線に反応するかどうか、それを見極める限界が30分、もう1つ突貫するというのはあるが、その場合は……』
「安全な区画の確保が急務になるわけですね?」
ショーンの言葉に頷きながら補足を付け加えるビアンにレフィーナがそう尋ねるとビアンはその通りと笑った。
『ただホワイトスター自体もアインストとインベーダーに寄生されている可能性もある。ホワイトスター攻略は急務であるが無策で挑むわけは行かないのだよ』
大まかな作戦はここに来るまでに決まっているが、メキボス達がホワイトスターを脱出してから5日。5日もあればアインストとインベーダーがホワイトスターを制圧するには十分な時間であり、そして5日も断食をし、そんな餓えた者達の前に極上の餌があればジッとなどしていられるわけが無かったのだ。
「どうも我々の想定通りですな。艦長?」
「総員出撃してください!」
『こちらも出撃だ! 急げッ!』
ホワイトスターの表面から蔦とコールタールのようなものが溢れ出し、インベーダーとアインストへと変貌していくなか、ホワイトスターの天頂分が内部から破壊され、巨大な鉤爪が破壊されたホワイトスター外周部を掴みゆっくりと這い出してきた。
【◎△$♪×¥●&%#?!】
アインストとインベーダーに寄生され、有機物と無機物の中間の異形へと成り果てたディカステスに裁判官としての面影は無く、そしてその異形の化物から発せられるウェンドロの声にもまた知性も理性も感じられず、ウェンドロもまたおぞましい化物へと成り果てているのだった……。
第252話 魔星へ巣食う邪鬼 その2へ続く
と言う訳で今回は短かったですが、デモステージということでこういう形にして見ました。次回はディスカティス変異態との戦いをメインに長編で書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い