進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第46話 暴走ゲッターロボ! その4

第46話 暴走ゲッターロボ! その4

 

それは異常な光景だった。エネルギーが機体の姿を取り暴れ回る。新西暦……いや、どんな時代でもありえない現象が今目の前で繰り広げられていた

 

(これが……ゲッター線の本当の力なのか……ッ!?)

 

ゲッター線、旧西暦に存在していた未知のエネルギー……その力を、その存在の意味を初めてビアンは理解した

 

「がっ!? まさか……これほどまでとは……俺の想像を完全に超えていたな」

 

「……」

 

イングラムの問いかけにも武蔵は何の反応も示さない。先ほどまでの暴れようが嘘のように大人しいが、その大人しさが余計に不気味さを煽る

 

「だが俺もそう簡単にやられるつもりはない!」

 

R-GUNが両手に持ったライフルでゲッターロボを狙う、90m近い巨体のゲッターロボだ。正確に狙わなくても当たる……誰もがそう思っていた

 

「き、消えた!?」

 

「どこに行ったんだッ!?」

 

ゲッターの姿は眩いゲッター線の光と共に消えた。レーダーにも、ゲッター線測定器にも何の反応も示さない。今この瞬間、完全にゲッターロボの姿は北京の上空から消え去っていた……

 

「がはっ!?!?」

 

「……」

 

イングラムの苦悶の声と共にR-GUNの身体が緑の閃光に弾き飛ばされる、そして弾き飛ばされた方向には既にゲッターロボが待ち構えており、その手にはゲッター線で出来た両刃の斧が握られていた

 

「ぐっうっ! な、何が起きて……ぐあっ!?」

 

ゲッタートマホークによる一閃は辛うじて回避したが、追撃に繰り出された右拳がR-GUNの頭部を捉え、R-GUNがビルに背中から叩きつけられ、R-GUNが叩き付けられたビルが倒壊し始め、その残骸の中に埋まりその姿が見えなくなる。

 

「……」

 

手にしていたゲッタートマホークが消え去り、やや猫背になったゲッターがゆっくりとゼカリア達に視線を向けたと思った瞬間。ゼカリア達の上半身が両断され宙に舞う。一瞬遅れて爆発するゼカリア達の残骸で何が起こったのか理解した

 

「いかん!! 気をつけろ! PTは敵として認識されているぞ!!」

 

慌ててオープンチャンネルでビアンは叫んだ。今の武蔵に意識はなく、ゲッターロボが完全に暴走している形だ。恐らく、さっき静止していたのはR-GUNの姿を見失い、R-GUNを探している間にR-GUNと似たサイズのゼカリアをR-GUNと誤認したからだ

 

「!!!」

 

瞬間移動にしか思えない超高速移動、ゲッター線の光が尾のように動きそれによってゲッターの動きを予測できる。だがそれが徐々にハガネやヒリュウ改へと近づいている姿を見て、ビアンがそう叫ぶ。だがそれは余りにも遅すぎた

 

「ぐっ! 武蔵さん! 止めて下さい! 僕です! リョウトです!!」

 

「……」

 

リオンを改良したのか、両腕をPTの腕に換装した機体のパイロットが武蔵に声を投げかける。だが武蔵は何の反応も示さず、その場で回転したゲッターの胴回し蹴りのような強烈な一撃が叩き込まれ、背面が傍にあったビルにその機体の姿が深く深くめり込みビルの中に完全に消えてしまう

 

「リョウト君!」

 

「動くな!!」

 

ヒュッケバインが動こうとしたが、隊長機の一喝で動きを止める。すると、ゲッターの目が観察するように動き……唯一動いていたハバククに飛び掛り、その首を引きちぎり拳を何度もハバククの胴体に叩き込む

 

(敵性反応に自動的に報復しているのか)

 

先ほどの機体は説得を試みただけだが、その両腕のビームキャノンの銃口に反応し、ゲッターロボは攻撃を繰り出したのかもしれない。つまり動く事がなければ、ゲッターは反撃にすら動かない可能性もある。

 

「まだゼンガー達の意識は戻らないか!?」

 

外からの説得が届かないのならば中、イーグル号とジャガー号に乗り込んでいるゼンガーとエルザムの意識が戻る事が武蔵を正気に戻し、ゲッターの暴走を止めるただ1つの方法だ。

 

「駄目です、通信にノイズが走っていて、声が届いているかも怪しいです!」

 

何故急にゲッターが暴走したのか……ビアンに思い当たる節は1つだけ、地下に眠っていた早乙女研究所から持ち出した新ゲッターロボの炉心……それがゲッターに何らかの影響を与えた可能性が極めて高い、こうなったら新ゲッターロボで暴走しているゲッターロボを取り押さえるしかない。ビアンが決意して艦長席を立ち格納庫に向かおうとした瞬間ゼカリアがゲッターに飛び掛る、ゲッターの無造作に振るわれた左腕でゼカリアは両断される……だがゼカリアの影から2機のPTが飛び出す

 

「この距離貰ったッ!!」

 

「一意専心ッ!!」

 

赤いPTと改良されたヒュッケバインだろうか? 赤いPTの腕につけられた杭打ち機とビームソードがゲッターを捉え、その全身を覆っているゲッター線を僅かに剥がす。ゲッター線で出来た身体から、ゲッター1の赤い装甲が姿を見せる

 

「……」

 

だが攻撃を仕掛けた2機のPTをゲッターが見逃すわけもなく、即座に反撃の拳が繰り出される。

 

「あんな手があったか!」

 

だがその攻撃はゼカリアへと吸い込まれ、赤い機体達に攻撃は向かわない。そこまで正確な敵識別は出来ないのか、自分を攻撃した相手よりも動いている敵を優先するらしい。PT達が停止するとその攻撃の矛先はPTではなく、エアロゲイターへと向けられていた。そして静止したPTは再びゼカリア達が動き出すのを待ち、ゼカリアの影からゲッターへと攻撃を繰り出す。攻撃のチャンスは一瞬であり、さほど有効打撃を与えているようには見えないが、ゲッター1を覆っているゲッター線を剥がすことには成功している。そしてゲッター線を引き剥がすことが、硬直していた戦況を変える一手となった。

 

『ぐ……こ、こちら……エ……ザ……ザザザ……』

 

今まで音信不通だった通信が若干だが回復し、エルザムの声がクロガネに届いたのだ。ビアン達は意識を失っていると考えていたが、高密度のゲッター線によって通信が妨害されていただけだったのだ。それが何度か攻撃で本体から僅かにゲッター線を消す事によって通信が一瞬だが回復した……それはある仮説をビアンに連想させるには十分な結果だった

 

「総帥! 今一瞬エルザム様との通信が回復しました!?」

 

やはりゲッター1を覆っているゲッター線が全ての元凶であると判断したビアンはオープンチャンネルでゲッター1を覆っているゲッター線を剥がす事がゲッターの暴走を止める方法だという自らの推論を声を高らかにして叫んだ

 

「ハガネ、ヒリュウ改のPT隊よ! 良く聞いてくれ! ゲッターを暴走させているのはゲッターを覆っているゲッター線だ! それを引き剥がせば、ゲッターの暴走は止まるッ! 武蔵君を助ける為に力を貸してくれ!!」

 

ビアンはそう叫ぶと浮かしかけた腰を再び艦長席に戻す

 

「総員対衝撃、対閃光防御! クロガネで突っ込むぞッ!!!」

 

艦首エクスカリバー衝角でゲッター1を覆っているゲッター線を引き剥がす事を考え、クロガネでゲッターへと突撃する事を決める。最悪クロガネが轟沈される可能性はある――だがゲッターロボこそがエアロゲイターと戦うための最大の切り札になると考えていたビアンと、短い時間だが武蔵と触れ合ったクルー達に迷いはなく、ビアンの命令を復唱し、クロガネのエクスカリバー衝角が音を立てて始動を始めるのだった……

 

 

 

 

オープンチャンネルによって告げられるビアンの言葉はハガネにまで届いていた。ゲッターロボが暴走していること、そして武蔵を助ける方法がゲッター1を覆っているゲッター線を全て引き剥がすことだと

 

「リュウセイ、ライ。正直言って、俺は今のお前達には出撃して欲しくないと考えている」

 

ハガネの格納庫に回収されているR-3パワードとグルンガスト、R-GUNに撃たれ、頭部と右腕を破損し、胴体部も変形しているR-3からは今も整備員達の必死の救助活動が続いている。そしてグルンガストのイルムも短時間とは言え、ゲッターロボに締め上げたれた事で右腕と左足が圧壊し、イルム自身もコックピットの中でシェイクされ頭に包帯を巻いている

 

「ロブ、それでも俺は……」

 

「判ってる、判ってるさ。俺にも誰にも今のリュウセイとライを止められないのは判っている、出撃準備はする。だけどこれだけは覚えておいててくれ、全力稼動は良くて3分、稼動にセーブを掛けても5分だ。攻撃に至っては1回出来るかどうかだ……チャンスは1回、これを忘れるな」

 

SRXへの合体に失敗した衝撃は想像以上にR-1、R-2に負担を掛けていた。出撃したとしても的になるか、それとも盾になるか……たった1回だけ許された攻撃のチャンス……

 

「すまねえ、ロブ。ありがとよ」

 

「オオミヤ博士、感謝します」

 

R-1とR-2に乗り込むリュウセイとライ、起動していくR-1とRー2だが機体各所から異音が響き、稼働時間が10分未満、そして攻撃のチャンスが1回しかないっと言うのが嘘でも偽りでもないと2人は一瞬で悟った

 

『クロガネ突撃ッ!!!!』

 

ハガネからリュウセイ達が出撃すると同時にクロガネがゲッターへと突撃していく、それは命中すればゲッター線に包まれ暴走しているゲッター1ごと破壊しかねない一撃だった

 

「!!!」

 

『ぐっ! ば、馬鹿な!? ぬ、ぬおおおおおッ!?』

 

だがゲッターは信じられない事に、クロガネを一瞥すると、上半身を突き破るようにゲッター2に酷似した新しいゲッターロボの上半身が姿を見せ、鋭く鋭利なドリルを突き出した

 

『出力を上げろ! 押し切るぞ!』

 

『だ、駄目です! く、クロガネの出力低下! 100……95……87……回転衝角維持できませんッ!!』

 

クロガネの突撃はゲッターの上半身から生えたゲッター2のドリルによって完全に防がれ、回転が止まると同時に上半身から生えていた上半身が消え、代わりに伸縮自在の腕が胸部から飛び出しクロガネを締め上げる

 

『変形もせずに、全てのゲッターの能力を行使できるのか!? いかん! 総員対衝撃防御ッ!!』

 

「ガアアアアアアアアーーーーーーッ!!!」

 

獣のような咆哮と共にクロガネを締め上げている腕が伸び、半回転したゲッターはまるでハンマーのようにクロガネをヒリュウ改に向かって叩きつける。

 

『ぐっ! 副長! ヒリュウ改の損傷度は!?』

 

『く、クロガネとの追突で50%を越えました!! いやはや、とんでもない化け物ですな。ゲッターロボと言うのは』

 

レフィーナとショーンの慌てた声が北京の上空に響き渡る。まさか戦艦を投げ飛ばすなんて想像もしていなかったPT隊に痛いほどの沈黙が広がる、ゲッターの強さを知っているつもりだったが……それはまさしく知っているつもりだったのだと改めて思い知らされていた

 

 

『……リュウセイ、チャンスは1度……お前はそれをどちらに使う』

 

ライの問いかけにリュウセイは迷う事無く告げた。今やらなければらないのは、ゲッターロボの暴走を止めるか、それともイングラムを撃墜するかの2つに1、そしてそのどちらも1回で決めれる保障はないのだ。

 

「武蔵だ、俺はゲッターロボの暴走を止める、俺は武蔵を助ける」

 

『……そうか、俺と同じで安心した。必ず止めるぞ、ゲッターロボを』

 

ライの言葉に力強くリュウセイは返事を返す、ゲッターロボが暴走したのはアヤが撃たれた事が切っ掛けだ。自分達の為に武蔵が怒っている……それを止めるのは誰でもない、自分達がやるべき事だとリュウセイとライは感じていた

 

「ぐっ! ぐううーーーッ!!」

 

『ど、どうした!? 何があった!』

 

ハガネから出撃すると同時に苦悶の声をあげるリュウセイと、膝を付くR-1の姿にライは慌ててR-1に通信を繋ぐ

 

「わ、わからねえ……あ、頭が割れる……」

 

歯を食いしばりその痛みに耐えているであろうリュウセイの呼吸は非常に苦しそうだ

 

「リュウセイ、それにライディース少尉!?」

 

「お、お前たち大丈夫なのかよ!?」

 

「火花散ってるわよ!? あんた達なんで出撃してきたの!

 

ビルドラプターを先頭に、ジャーダとガーネットの量産型ゲシュペンストMKーⅡが後退してくる。だがビルドラプター達はそれぞれアーマリオン、ガーリオン、そしてヒュッケバインMK-Ⅱを牽引していた。一切の共通点が無いように見えるが、ライはその不規則な面子にある共通点を見出した。

 

『これは……リュウセイ! T-LINKシステムをOFFにしろッ!!』

 

ライの言葉でT-LINKシステムをOFFにしたのか、R-1が再び立ち上がる

 

「ライ、なんでT-LINKシステムをOFFにしろって言ったんだ」

 

『R-1、アーマリオン、ガーリオン、ジガンスクード、ヒュッケバインMK-Ⅱ、そしてグルンガスト弐式……それには共通点がある。念動力者であるか、どうかだ』

 

暴走しているゲッター1、上空に佇むゲッターの姿は元の40M級から倍近い巨体の90Mとなっている。全身はゲッター線で構築されているのか、緑の光に満たされているがその胸部部分にカメラアイの光が消えたゲッター1の姿が見えている

 

『出て来たと言うことは戦えると判断するぞ、リュウセイ少尉、ライディース少尉』

 

「大丈夫です、キョウスケ少尉。俺も、ライも戦えます」

 

リュウセイの言葉にアルトアイゼンが満足そうに頷くと、上空で停止していたゲッターの首が凄まじい勢いでアルトアイゼンに向けられる。

 

『良いか、動くな。動けばゲッターに狙われる、不本意だがエアロゲイターの攻撃に合わせて、攻撃を叩き込め』

 

ハバククが変形し、ビーム砲を向けるとアルトアイゼンではなく、ゲッターの首がハバククに向けられ瞬間移動もかくやと言うスピードでハバククの前に移動する

 

「!!!」

 

拳を両腕の側面の刃でハバククを切り裂き、破壊していくゲッター。その執拗な攻撃と一切の容赦を持たない非情とも取れる攻撃はその蝙蝠の羽のせいもあり、悪魔のように見える。だが、それでもゲッターは避難が完了している地区でしか暴れていない。そしてシェルターのある場所でも暴れていない、それが暴走していても武蔵の意志が残っている証のように思えていた。

 

「そろそろ、動きを止めてくれないかしら!!」

 

「この化け物がッ!!」

 

ハバククを攻撃するのに夢中なゲッターの無防備な背中にオクスタンランチャーとスプリットミサイルが直撃し、ゲッター1を覆っているゲッター線がまた少し霧散する。

 

「……ギロリ」

 

攻撃を受けたことでゲッターが振り返り、その目でヴァイスリッターと赤い量産型ゲシュペンストMK-Ⅱを睨みつける、腹部にエネルギーが収束していく

 

「ゲッタービームをこんな所で撃つ気か!?」

 

ゲッタービームの破壊力は何度も見ているから知っている、今正にヴァイスリッターにゲッタービームが放たれようとしたその時

 

「!!!」

 

ゼカリアのレーザーブレードがゲッターの胸部を捉える。その攻撃でゲッターの興味はゼカリアへと移動し、ゼカリアの頭を片手で掴み吊り上げ、その下半身をゲッタービームで吹き飛ばし、頭部を握り潰して投げ捨てる

 

「……キョウスケ少尉。俺に考えがあります」

 

今までのゲッターの攻撃、そしてゼカリア達に比べて軽症なハガネのPT隊を見て、ライはある作戦をキョウスケに告げる

 

『分の悪い賭けだぞ、しかも命を賭けるのはお前だけだ』

 

「リスクは覚悟の上です、ですがキョウスケ少尉とリュウセイなら決めてくれると信じています」

 

ライの言葉にキョウスケは小さく笑い、ライの提案を受け入れた

 

『良いだろう、お前の作戦に乗ってやる』

 

『だけどライ! 失敗したらお前が!』

 

「なんだリュウセイ、自信が無いのか? 俺はお前なら出来るとチームメイトを信じているのにか」

 

ライの挑発するかのような言葉に息を呑んだリュウセイ、R-2に伸ばしかけた腕を引っ込め

 

『そこまで言ったんだ、絶対決めろよ』

 

「当たり前だ。お前こそしくじるなよ、チャンスは1度だ」

 

再び上空に滞空するゲッター、その姿を見つめR-2がその背中に背負ったハイゾルランチャーをゲッターに向ける

 

「……」

 

「そうだ、俺だ。お前を狙っているのはこの俺だッ!!」

 

ゲッターの視線が向けられると同時にハイゾルランチャーの収束射撃と両手に持ったツインマグナライフルの銃弾がゲッターに向かって放たれる

 

「!!!」

 

瞬間移動としか見えない異常な機動で放たれる攻撃を回避しながら、ゲッターがまっすぐにR-2に向かって降下する

 

「ちょ!? 何してるの」

 

「ちい! 何を考えてやがる!!」

 

「リューネ!」

 

「判ってるよッ!」

 

ゲッターをR-2に向かわせまいとエクセレン達がゲッターを攻撃しようとした瞬間キョウスケの怒声が響いた

 

『邪魔をするな! ライディース少尉の命を賭けた賭けだ!』

 

その怒声にエクセレン達の動きが止まった瞬間。R-2は強化パーツをパージして、一気に後退する。ゲッターの腕が強化パーツを貫くと同時に爆発し、ゲッターはその動きを一瞬硬直させた。

 

『リュウセイ少尉! これで決めるぞ!!』

 

『ああ!! ライの作ってくれたチャンスを無駄にはしねえッ!!』

 

ビルの影から飛び出したアルトアイゼンのリボルビングステークがゲッターの胴体を捉える

 

『全弾持って行けッ!!!』

 

「!!!!」

 

6連続でステークが打ち込まれ、ゲッターの姿が初めてぶれた。6発目で吹き飛んだゲッターに向かってスクエア・クレイモアが打ち込まれる。だがそれは急上昇したゲッターによって回避される。だが逃がす物かとR-1が損傷し、動きの遅いゲッターを追って地面を蹴る。

 

『武蔵!! 武蔵!!! 戻ってきやがれえええええッ!!! 武蔵ーーーーーッ!!!』

 

ビルを踏み台にしたR-1がそれを追いかけ、一瞬硬直したゲッターの胸部に渾身のT-LINKナックルが叩き込まれ、R-1がシステムダウンを起こし墜落するのと同時にゲッターが動きを止めた

 

「ふふふ、この時を待っていたぞ! メタルジェノサイダーッ!! デッド・エンド・シュートッ!!!!」

 

だがその瞬間ビルを吹き飛ばし、R-GUNがメタルジェノサイダーの光の中にゲッターの姿が消える

 

「てめえ! 生きてやがったのか」

 

「ふふふ、チャンスを待つのは当然の事だ。だがこれでゲッターは消えた、お前達に残された勝機はたった今潰えた」

 

勝ち誇るイングラム、そしてその周辺に再びゼカリア達が姿を見せる。疲弊しきったこの状況での増援にキョウスケ達……だが希望はまだ潰えてはいなかった

 

『『『おおおおーッ!!!』』』

 

爆煙の中から姿を見せるゲットマシン……そして北京に響き渡る武蔵の……エルザムの……ゼンガーの雄叫び。ライ達は賭けに勝ったのだ、T-LINKシステムをフル稼働させ、ゲッター線に干渉するという大博打にライ達は見事勝利した。そしてその証が上空を舞うゲットマシンの姿なのだった……

 

 

 

 

ビアンはゲッターのコックピットでゼンガーとエルザムが気絶している。そう考えていたが、それは半分当たりで半分正解だった。ゲッター1が暴走しているときはその殺人的な加速で確かに意識を失っていた、だがゲッター1がゲッター線に包まれた時からその殺人的なGかから開放され、ゼンガーとエルザムは何度もクロガネとの通信を試みていたのだ

 

「こちらエルザム! クロガネ、応答を! こちらエルザム! クロガネ、応答せよ!」

 

必死に通信機に向かって叫ぶが、通信機にはノイズが走り通信が一方通行でも繋がっているのか、それとも完全に繋がっていないのか、それすらもエルザムには判断がつかなかった

 

「ゼンガー、どうだ。操縦は取り返せたか?」

 

「駄目だ……オープンゲットのレバーも動かない。一体どうなっているんだ」

 

高密度のゲッター線に包まれているゼンガーとエルザムはゲッター線の光の中それぞれのゲットマシンのコックピットの中で浮遊しているような感覚を体験していた。

 

「武蔵君! 聞えるか! 武蔵君!」

 

「武蔵! 武蔵聞えるか!!」

 

外に通信が繋がらないならゲットマシン同士の通信をするしかない、ベアー号の武蔵に2人で通信を試みる。ノイズが走るベアー号のコックピットの中では全身をゲッター線の光に包まれ、その目すらもゲッター線の光に変わっている武蔵が力なくベアー号の操縦桿を握る姿が映し出されるだけに留まり、とても通信が繋がっている素振りは無かった。

 

「ゲッター線が暴走しているのか」

 

未知のエネルギーであるゲッター線……恐らく今の武蔵の精神状態はゲッター線とリンクしているのだろう。ゲッター線の輝きが増す度に、武蔵の身体に幾何学模様が浮かんでいく、そしてそれはエルザムとゼンガーにも広がろうとしていた

 

「がっ!?」

 

「ぐっうっ!?」

 

足元から広がってくるゲッター線の光、その光が身体の中をかき回すような不快な感覚にゼンガーとエルザムは苦悶の呻き声を上げる。だがそれと同時に2人の脳裏には武蔵の声が響き始めていた

 

【もう嫌だ……なんでこんなことになるんだ】

 

【どうして人間同士で争うんだ……】

 

【恐竜帝国! やらないと……オイラが戦わないと】

 

【リョウも……隼人もいないんだ……オイラが戦わないと、皆……皆死んじまうんだッ!】

 

【どうして……どうしてビアンさんもオイラもこんなに憎まれないといけないんだ】

 

【ゲッターロボは正義の味方なんだ。こんな酷い事をする為に作られたんじゃないッ!!】

 

【こんな……こんな子供になんてひどいことをするんだッ! アードラーッ!!!!!】

 

【なんで、なんでなんで……アヤさんを撃ったんだッ!!!】

 

【なんでだよ……オイラやリョウ……隼人は何の為に戦ったんだよ……こんな未来の為に……戦ったんじゃない……】

 

【わからねえ……オイラにはわからねえよ……リョウ……隼人……早乙女博士……誰でも良い……オイラにどうすればいいのか……オイラに何をすればいいのか……教えてくれよ……】

 

【ドジで間抜けなオイラには……何にも……何にもわからねえんだよ……誰でも良い……教えてくれ……教えてくれよ……】

 

それはこの世界に来てからずっと武蔵が抱えていた悩みだった……声にならない声、助けを求めるその声……それがゼンガーとエルザムの脳裏に響き続ける

 

「……これほどまでに己を追詰めていたのか……武蔵」

 

「……気付くべきだったんだ……私達がッ!!」

 

武蔵はあくまで何の訓練も受けていない高校生だ。それが地球を守る為にゲッターロボのパイロットとなり、地球の……人類の未来の為に戦い……そして死んだ。

 

「どうして気付かなかったんだッ!」

 

コンソールに拳を叩きつけるエルザム。武蔵が旧西暦で戦えたのは、きっと爬虫人類と言う明確な人間では無い敵の存在が大きかったのだろう、そして何よりも仲間の存在があったからだ。だが自分を知ってる人間が誰もいない未来に突然投げ出され、そして人間同士の争いに巻き込まれ、それでも戦っていた武蔵が胸の内にストレスを感じていない訳が無いのだ。それがアヤが撃たれた事を引き金にして、今まで胸に秘め続けていた闇が姿を現し、それがゲッターロボの暴走に繋がったのだ。なんとしても武蔵を正気に戻さなければ、ゲッターロボの暴走は続くだろう。それだけの闇を武蔵は抱えていたのだ

 

「これは!?」

 

「外からの攻撃か!」

 

一瞬ゲッター線の光が消え外が見えた。ハガネやヒリュウ改のPT隊がゲッターに攻撃を与え、そしてゲッターを暴走させているゲッター線を引き剥がしているのだ

 

「……う……」

 

武蔵の声がイーグル号、ジャガー号のコックピットに響く、それは小さな声だった。それでも確かにゼンガーとエルザムには聞えてきた

 

「ゼンガー、チャンスは1度だ」

 

「……判っている」

 

強烈な一撃が叩き込まれ、ゲッター線がゲッター1から引き剥がされた時。その瞬間しか武蔵にはその声が届かない

 

『そうだ、俺だ。お前を狙っているのはこの俺だッ!!』

 

ゲッターの身体に激しい振動が走り、僅かに見えた外からR-2の姿とライの姿が見えた

 

「「武蔵ッ!!!」」

 

「う……うう……」

 

だがそれでもまだ衝撃が足りないのか、武蔵を目覚めさせるにはまだ足りない

 

『リュウセイ少尉! これで決めるぞ!!』

 

『ああ!! ライの作ってくれたチャンスを無駄にはしねえッ!!』

 

ビルの影から飛び出したアルトアイゼンのリボルビングステークがゲッターの胴体を捉える

 

『全弾持って行けッ!!!』

 

「やれ! キョウスケッ!!!!」

 

届かないと判っていてもゼンガーはキョウスケの名を叫んだ、そして凄まじい衝撃が6度ゲッターに叩き込まれる

 

「「武蔵ーッ!!!」」

 

「う……ぜ、ゼンガー……さん……エル……ザム……さん……」

 

リボルビングステークの衝撃でゲッター線が大分剥がされたのか、やっと2人の声が武蔵に届いた。

 

『武蔵!! 武蔵!!! 戻ってきやがれえええええッ!!! 武蔵ーーーーーッ!!!』

 

「「武蔵ーーーーーッ!!!」」

 

外と中からの自分の名を叫ぶ声……それに武蔵が気付き、顔を上げたとき武蔵の全身を包んでいたゲッター線は消え去っていた

 

「すいません……ご迷惑を掛けました」

 

R-GUNからの砲撃をオープンゲットして交わした武蔵の謝罪の言葉が響く

 

「いや、謝るのはこちらだ。良く戻ってくれたぞ、武蔵」

 

「……クロガネに戻ったら話をしよう。私達には会話が足りない」

 

自分を気遣う言葉に武蔵はぐっと涙を堪え、手の甲で乱暴に涙を拭う

 

「まだ戦えますか?」

 

武蔵の問いかけに2人は勿論だと返事を返す。武蔵はその言葉に笑みを浮かべ、ベアー号の操縦桿を強く握り締める。

 

「行きます!!」

 

「「ああッ!!」」

 

ゲットマシンが反転し、機首を下にして急降下していく、その動きに迷いは無く……そして先ほどまでの狂ったような激情の色も無い。

 

「「「おおおーーッ!!!!」」」

 

ゼカリア、ハバククの弾雨を回避しながらゲッターはその加速を高めていく。

 

「チェンジッ!! ゲッタァアアアーーーッ!! スリィィィイイイイイイーーーーッ!!!!」

 

地面にぶつかる前にゲッター3へと合体する。そのカメラアイには力強くも優しいゲッター線の光が宿っているのだった……

 

【ははははーーッ!! そうだ! それで良いのだ! 武蔵! ゲッター線とは人を繋ぐ力、人の思いこそが真なる進化の扉を開くのだッ!!!】

 

【なるほど、それもまたゲッター線の真理か……破壊と創造……それこそがゲッター線の真の姿か】

 

そして復活したゲッター3を見つめる『2人』の早乙女博士の姿がある。ゲッター線に一度は飲まれてもなお、自我を取り戻しそして再び元の優しい心を取り戻した武蔵を眩しそうに見つめる、だがその目はそれだけではなく、非常に悲しげな物でもあった。

 

【許せ、許せよ武蔵。お前はもうゲッターから逃げられぬ。未来永劫続く戦いからは逃げられぬのだ】

 

【ゲッターに関わる者の宿命だが、お前が酷な運命を背負うのはどこの世界でもかわらぬのだな】

 

2人の早乙女は悲しそうに、この運命に武蔵を引きこんだ己達を悔いていた。そして強い風が吹いた時2人の姿は忽然と消えていたのだった……

 

 

第47話 暴走ゲッターロボ! その5へ続く

 

 

 




新の最終回の竜馬の暴走を今回はオマージュして見ました。ゲッター線に囚われるほどに武蔵のゲッター線適合率は上がっておりました、
そしてゲッター3を見つめる2人の早乙女博士、どの世界の早乙女博士かは判っているともいますが、一応前の早乙女博士が「世界最後の日」の早乙女博士、そして後者の早乙女博士が「新」の早乙女博士と言うイメージで書いておりますのでご理解よろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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