進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第49話 巴武蔵②

第49話 巴武蔵②

 

暫くの間ハガネとヒリュウ改と行動を共にする事になった武蔵は北京から伊豆の極東基地に居た。レイカー自らが武蔵がオペレーションSRWに参加してくれるのかと云う事を聞く為とクロガネに保護されていたリシュウとマリオンの2人を受け渡すと言う為だった。

 

「こうして顔を見合わせるのは初めてだな、レイカー・ランドルフだ。伊豆基地は君を歓迎する、巴武蔵君」

 

「え、あーどうも、少しの間ですけどお世話になります」

 

小さく頭を下げる武蔵にレイカーは笑みを浮かべ、椅子に座るように促す

 

「そんなに緊張することも無い、ここに居るのは私だけだからな。これは信頼の証と受け取って貰えるとありがたい」

 

1つの基地の司令が護衛も無しにDCの中心人物と縁の深い武蔵と話をする。これはサカエを初めとした伊豆基地の全員に反対されたが、武蔵からの信頼を勝ち取るためと言う事で強引にレイカーが話を進めたのだ。

 

「今の地球圏の状態は武蔵君も理解していると思う。そして逆に私達が知らないことも武蔵君は知っている、君がビアンから託されている話を私にも聞かせてくれないか?」

 

穏やかな口調だが、その目と声の感じは武蔵にとってはどうしても早乙女博士を連想させた。

 

「オイラ馬鹿だから、上手く説明出来ないですけど……ビアンさんはオイラだけじゃなくて、他にも旧西暦の人物がこの世界に居ると考えているそうです。あ、でも人間だけじゃなくて物とかもですけど……」

 

「ジュネーブに現れた量産型ドラゴンや浅間山地下の研究所の事は私達も把握しているよ」

 

レイカーの言葉に明らかにほっとした様子の武蔵は話を進める。

 

「ただその……この世界に居るのがゲッターと戦っていた敵って言うのが問題です」

 

恐竜帝国に北京で確認された触手を操る怪人、そしてメカザウルス……武蔵とは異なり敵性反応を示した者ばかりだ

 

「それらの敵に関してだが、ゲッターロボで何とかなるのかね?」

 

「……正直五分五分だと思います。北京の事はダイテツさんから聞いてますよね?」

 

武蔵の声にレイカーは勿論聞いていると返事を返す。ゲッターロボの暴走、エネルギーがそのまま形になったような姿でハガネとヒリュウ改、そしてエアロゲイターを相手に戦ったということは把握している

 

「オイラは専門家じゃないし、早乙女博士に話を聞いたってそれも時間が経ち過ぎてもううろ覚えです。でもゲッターロボが作られた段階でもゲッター線は未知のエネルギーでした」

 

「……まだ暴走する可能性はあると?」

 

「……正直判りません、リミッターの新設である程度は大丈夫だとは思うんですが」

 

それでもある程度と武蔵は付け加えた。それだけ浅間山の地下で見つけたゲッターロボとゲッター炉心を組み込んだゲッターロボは未知数の部分が余りにも多すぎた……だがそれでもゲッターロボの力はオペレーションSRWでは必要になる。レイカーはそう考えていた

 

「もし暴走する危険性があるとしても、オイラとゲッターロボを信じてくれるなら、オイラとしては力になりたいと思っています」

 

「それは私からも頼みたいことだよ武蔵君。私達に協力してくれると言うことでいいんだね?」

 

「はい、でもただ……ビアンさんに呼ばれたらまたそちらに合流することになると思いますが……」

 

DCに所属していると言うわけではない、だが連邦を完全に信用出来ない武蔵。レイカーはそれも仕方ないことだと認め

 

「君は善意の協力者だ。軍属ではないからそれは認めよう。事前に一声くらいは掛けて言ってくれれば何も言いはしない」

 

拘束するのではなく武蔵の意志を尊重するという形で武蔵を伊豆基地に迎え入れることにした

 

「これは伊豆基地で使うカードキーだ。基本的には自由に行動してもらって構わないが、そのカードキーで開けられない場所には入室禁止だ。判ったね」

 

判りましたと返事を返す武蔵、いまどき珍しい……いや、旧西暦ではこんな青年が普通に居たのだなと苦笑し、武蔵を部屋の外に居た軍人にヒリュウ改のメンバーが集まっているブリーフィングルームに案内するように命じる

 

『レイカー、巴武蔵の協力は得れたのか?』

 

「はい、条件付ではありますが快く協力を了承してくれました」

 

ノーマンへ武蔵が協力してくれる事を伝えたレイカーはそのまま、ノーマンと話し合いを始める。信頼していたイングラムの裏切り……ただしこれは洗脳されている可能性があるとは言え、そのままにしておくことが出来ない事態だ。伊豆基地の防衛システムを全て知っているのだからどこから奇襲が起きるかは判らないのが事実。可能な限りの防衛策を練る必要がある

 

『レイカー、良い知らせと悪い知らせが1つずつある』

 

「……では悪い知らせからお聞かせ願えますか?」

 

ノーマンはその顔を曇らせ、今朝部下から伝えられた話をレイカーへと伝えた

 

『ジュネーブで回収されたゲッターGと量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの全てが何者かに強奪された』

 

「な!?何故そんなことに!?」

 

『判らない、監視カメラや基地の防犯システムが一切反応しないままに強奪された』

 

機動兵器を誰にも感知されずに強奪する、その悪魔のような所業にレイカーは絶句した。量産型はまだしも、オリジナルのゲッターGの強奪は余りにも痛い

 

『捜索は行っているが、痕跡も無い。ゲッターGを見つけるのは難しいと思って欲しい』

 

修理しホワイトスター攻略で使うつもりだっただけにゲッターGの強奪は余りにも痛い、これがエアロゲイターの強奪だったとなると量産型が再び敵になる可能性もあるのだから

 

「では良い知らせは……?」

 

『元教導隊のギリアム少佐と軍を退役したラドラ・ヴェフェス・モルナ元少佐が近い内に伊豆基地へ合流する』

 

ゲッターGの強奪と比べると良い知らせとは到底言えないが、それでも元教導隊が2人も配属されるのは大きい。その知らせを最後にノーマンとの通信は途絶えたが、状況はますます悪くなっている。レイカーは背もたれに深く背中を預け、溜め息を吐くのだった……

 

 

 

 

ヒリュウ改のメンバーは全員伊豆基地のブリーフィングルームに集まるようにと指示が下されていた。

 

「キョウスケ、なんでヒリュウ改のメンバーだけなんだろうね」

 

「……判っていてて聞くな」

 

「えーあたしわからなーい♪」

 

抱きつくようにして笑うエクセレンにキョウスケは眉を顰めながら、エクセレンを椅子に座らせる

 

「ぶーぶー、恋人にする反応じゃないわよ」

 

「……無理にふざけるな」

 

睨まれたエクセレンは小さく溜め息を吐いて、さっきまでの様子と一転して静かになる。今までの悪ふざけはただ場を盛り上げようとしていただけで、彼女自身も相当な不安と心配を抱え込んでいた

 

「ブリットのやろーはどうした?」

 

「無理にでも引っ張ってこようとも思ったんですが、武蔵と1悶着あったようですからトレーニングルームに押し込んできました」

 

カチーナの問いかけにキョウスケはそう返事を返した。全員集合と言われていたがクスハが攫われた事で冷静さを失っているブリットにはどんな話も意味がないと判断し、そんなに暴れたりないならとトレーニングルームにブリットを押し込んでからキョウスケはブリーフィングルームに訪れていた

 

「ブリットの奴、相当荒れてたしな」

 

「はっ! 攫われたなら奪い返しゃあ良いんだよ」

 

「中尉……いえ、その通りですね」

 

ヒリュウ改のメンバーがそんな話をしているとブリーフィングルームの扉が開き、武蔵が部屋の中に入ってくる

 

「えっと、巴武蔵です。タクラマカン砂漠と北京では迷惑を掛けたみたいで、本当すいませんでした」

 

部屋に入ってくるなり謝罪をするという武蔵……それにはキョウスケ達も面を食らったが

 

「謝るのは随分と良い心構えだな、あたしはカチーナ、カチーナ・タラスク。こっちはラッセル・バーグマン、ヒリュウ改のオクトパス小隊の隊長をしてる。それとタクラマカンはすまなかった、あたしがタスクに攻撃しろって命令したんだよ。わるかったな」

 

さっぱりとした気質のカチーナは武蔵の謝罪で、タクラマカン砂漠と北京での暴走を許し自己紹介と自分の補佐のラッセルの紹介を始める。

 

「カチーナさんと、ラッセルさんですね。よろしくお願いします」

 

「さん付けって言うのはなれねえな、カチーナでいいぜ、カチーナで」

 

さん付けはいらないというカチーナと年上を呼び捨てにするわけにはと言う武蔵。最初の謝罪とそのやり取りで武蔵の人隣と言うのが大分理解出来た、真面目で誠実でそして年上を立てることが出来る青年だとキョウスケ達は判断した。

 

「キョウスケ・ナンブだ。キョウスケで良い」

 

「……その声……もしかして赤いカブトムシの」

 

赤いカブトムシの言葉にキョウスケを除いた全員が噴出す、確かにアルトアイゼンはその頭部の角もありカブトムシに見えなくも無い

 

「ぷっ、あはははッ! 武蔵は面白いわね。あたしはエクセレンよ、よろしくね」

 

「白い飛んでる奴の……女の人だったんですね」

 

「んふふふ、びっくりした?」

 

からかうように武蔵に視線を向けるエクセレンに武蔵が顔を赤くすると、面白い玩具を見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべるエクセレン。

 

「あ、そうだった。そうだった、えーっとレオナさん? って人はいますか?」

 

「レオナちゃんに何のようだよ?」

 

タスクが前に出ようとするが、レオナ本人がそれを押しのけ武蔵の前に出る

 

「私がレオナよ、何のようかしら?」

 

後ろでレオナちゃーんと半泣きのタスクを無視して武蔵に何の用事か問いかけるレオナ。武蔵は着ていた服のポケットから便箋を取り出す

 

「ユーリアさんとリリーさんからお手紙を預かってます。後で目を通してください」

 

ユーリアとリリーの名前に驚いた様子のレオナ。だが便箋には紛れも無くユーリアとリリーのサインがある

 

「そうでしたね。武蔵はDC側なんですよね?」

 

「別にDCって訳じゃないですよ。一番最初に出会ったのがエルザムさんとビアンさんで、話も聞かないで追い回してきた連邦はあんまり好きじゃないって言うか……あ、なんかすいません」

 

冤罪で追われていたから連邦は余り好きではないと公言する武蔵、だが隠されるよりもそうして直接言われた方が気分も楽と言う物でキョウスケ達は気にするなと言って笑う

 

「そういえば、マリオン博士とリシュウ先生を連れてきたのは武蔵らしいけど、ボスは?」

 

「ボス?……ああ。ゼンガーさんですか、全身打撲でダウンしてます」

 

「……ゼンガー隊長がか?」

 

信じられんと言うキョウスケだが、続いた言葉で納得した

 

「あの赤いカブトムシ……ゲシュ……ゲシュ……なんとかMK-Ⅲでしたっけ? あれの10倍はゲッターの乗り心地は悪いですからね。しかもあれだけ暴れまわれば……普通の人ならダウンするかと……」

 

アルトアイゼンの10倍は酷いと言われ、アルトアイゼンのシュミレーターを試した全員は思わず絶句した

 

「じゃ、もしかして色男のお兄さんも?」

 

「……えっともしかしてエルザムさんですか?……そのエルザムさんもダウンしてます」

 

教導隊であり、エースパイロットの2人を再起不能寸前にしたと言うゲッターロボに思わず絶句するカチーナ達。だが北京でのあの強さを見ればそれも仕方ないと妙に納得してしまった

 

「じゃあ、俺は随分と手加減されてたわけだ」

 

「えっと何に乗っていたかは知りませんけど……怪我はさせないように本当に注意しましたよ」

 

ジガンスクードでもゲッターロボと戦えばスクラップになっていたかもしれない、そう思い顔を青ざめさせ、そしてそんなタスクを見て武蔵は謝罪した。

 

「まぁ良いけどよ、もしかしたらあたしもゲッターに乗れるかなあとか思っただけだ」

 

「それでしたらシミュレーターを試してくれますか? 乗れるならオイラとしては大歓迎です」

 

それならシミュレーターを試してみるかと言う話になり、シミュレータールームに向かったカチーナ達だが……その殺人的なGと加速に耐え切れず、1人、また1人と倒れ

 

「ほんと、すみません」

 

ダウンしているカチーナ達に武蔵は深く頭を下げながらもう1度謝罪の言葉を口にするのだった……

 

 

 

 

都内の薄暗いBARの中に2人の男の姿があった。紫の髪の優男と言う風貌の男と、険しい顔付きの無骨な男が並んで手にしているウィスキーグラスを呷る

 

「ラドラ、本当に私と一緒に来るのか?」

 

「……ああ、軍に戻る気は無いが……ノーマン・スレイ准将から特例として一時的な復帰が認められた」

 

オペレーションSRWを実行するためには戦力が必要だと考えたノーマンは、退役した軍人やDCの兵士でも協力的な兵士を特例として釈放しオペレーションSRWに向けての戦力として徴収する事を決めた。そして、それに伴いラドラにも声が掛かったのだ

 

「私が言っているのはハガネには武蔵がいるんだぞ、良いのか?」

 

「……爬虫人類だった俺ならば会うことは選択しなかっただろう。だが今の俺はキャプテン・ラドラではなく、ラドラ・ヴェフェス・モルナと言う人間だ」

 

だから武蔵と会うことに何の問題もないと断言するラドラ。その姿に意志は固いと判断したギリアムは深く溜め息を吐く

 

「恐竜帝国の生き残りと戦う事になるかもしれないぞ」

 

「ならば、それこそ俺がやるべき事だ。さまよい歩く同胞を終わらせるのもまた元キャプテンとしてやるべきことだ」

 

ギリアムはラドラに軍に戻る事を止めさせようとして、恐竜帝国の話を持ち出した。だがラドラはそうであったとしても、オペレーションSRWに参加する事を決めたのだ

 

「武蔵には借りがある、それを返すだけだ」

 

「判った、もう止めないさ」

 

自分と同じくこの世界とは別の世界を知るラドラの意志を尊重することをギリアムは決めた。

 

「お前のゲシュペンスト・シグを見た。凄まじい機体だな」

 

「ふっ、良いだろう。テスト機で廃棄されるゲシュペンストを何年も改造したんだ」

 

自慢の愛機の話になり饒舌になるラドラ。今の連邦はゲシュペンストではなく、ヒュッケバインを量産することを決めた。だがギリアムを初めとして現場でゲシュペンストを愛用していたエースやベテランはこの決定には少なからず不満を持っていた

 

「良くあそこまで改造したよ」

 

「フレームから改造しているからな、ヒュッケバイン系のテストフレームも入手した」

 

「……お前どうやってそれを手に入れた?」

 

蛇の道は蛇さと笑いグラスを口につけるラドラ。だがそれだけの事をしてもゲシュペンストに再び日の目を当てたいとラドラは思い行動していたのだ

 

「リオンやヒュッケバインは好かん」

 

「確かにな……量産には向いているそうだが、操縦系がどうもな」

 

ゲシュペンストに慣れているギリアム達にはリオンやヒュッケバインはどうしても歓迎出来る機体ではなかった。

 

「だがそれも時代の流れと言うのならば受け入れざるを得ないのかもしれん」

 

「……何故そんなに沈んだ考えを持つ?」

 

「沈んだ考え?」

 

そうだとラドラは断言し、飲み終わったグラスを乱暴に机の上に置く。

 

「上層部の無能の決定など知ったことではない、俺は武蔵に借りを返すためにSRWに参加する。だがしかしな、俺はそれで終わるつもりなどない、ここでゲシュペンストを再び再評価させてみせる」

 

ラドラの言葉にギリアムは驚いた表情をする、そのギリアムを見てラドラはふんと鼻を鳴らす。

 

「賄賂に買収、そんな物で本当にいい物が埋もれるなど俺は認めんぞ。俺はゲシュペンストの有効性をもう一度見せ付けてやる、ゲシュペンスト・シグでな」

 

「……そうか。その発想があったか」

 

何故自分は諦めていたのかとギリアムはラドラの言葉で気付いた。どうしてゲシュペンストが歴史に埋もれる事を認めてしまっていたのだと……ラドラの言葉で思い知らされた。

 

「その気があるなら、1度ついて来い。シグに使うはずだった、強化パーツや追加装備をいくつかピックアップしてやる」

 

2人とも酒豪ではある、4~5杯のウィスキーで酔い潰れる訳も無い。会計を済ませ、2人はBARを早足で後にする

 

「お前のラボは近いのか?」

 

「山奥に隠してあるから遠いが、問題は無かろう。タクシーで近くまで行って、そこからは歩きだ」

 

アルコールを抜くには丁度いいかもしれないなと呟き、ギリアムは手を上げてタクシーを止める。3日後の伊豆基地への合流、それまでにゲシュペンスト・タイプRを強化するのも悪くは無い

 

「カイも呼んでやりたいな」

 

「呼べるなら呼んでやれ。今のゲシュペンスト・シグは5代目だ、0~4号機に使った武装や、強化パーツは残っているぞ、試作型で悪いが2機ほど予備もある」

 

同じゲシュペンスト乗りのカイも交えてやりたいというギリアムにラドラはカイやギリアムの操縦の癖に会う装備もあるぞと笑う

 

「いや、まずは見てみよう。その後に軍のトラックを借りて武装を運搬して……3日でなんとかなるか?」

 

「なんとでもなるさ、機体の各所に少しだけ装備するという手もあるだろう?」

 

これからの戦いは激戦になる、ゲシュペンストで遅れを取らないように、そしてゲシュペンストは決して時代遅れではない事を証明する為にラドラとギリアムは立ち上がる。正史よりも早く、「ハロウィン・プラン」が始動を始めるのだった……

 

 

 

 

ホワイトスターの薄暗い通路に足音が響く、険しい顔で通路を進んでいた女……ヴィレッタは部屋の扉を開ける

 

「イングラム、気分はどうかしら?」

 

「……最低だ、ヴぃ……待て、お前は誰だ、何故俺の名前を知っている。ここはどこだ。ラーカイラムか?」

 

イングラムの反応を見てヴィレッタは悲しげに俯き、手にしていた液体食糧と水を机の上に置く

 

「私はヴィレッタ・プリスケン。貴方が作り出したバルシェム、そしてここはネビーイーム」

 

「ネビーイーム……バル……っ! ヴィレッタ……か。すまない、また迷惑を掛けたようだな」

 

ベッドの上から体を起こすイングラム、だがその顔には色濃い疲労の色が浮かんでいる。

 

「ねえ、イングラム。貴方に何があったの?」

 

「……それを知りたいのは俺の方だ」

 

北京でゲッターロボと戦い撤退した後のイングラムは情緒不安定に陥っていた。記憶が混濁し、ヴィレッタの事を忘れたり、自分が今どこにいるのかさえも把握していない様子だった

 

「イングラム……まだ大丈夫なのかしら?」

 

「どうだろうな……とっくに俺は壊れきっているのかもしれん」

 

自嘲気味に笑うイングラムは机の上の液体食糧に口を付けるが、殆ど口にせず机の上に戻す。

 

「駄目よ、イングラム。それだけでも飲まなければ……」

 

「すまない、だが駄目なんだ」

 

今のイングラムは衰弱しきっている。自分の記憶ではない記憶、知らないのに知っている記憶に悩まされ、精神だけではなく肉体までもが弱りきっている

 

「……ヴィレッタ、悪いがあそこにあるファイルを取ってくれ」

 

「?……ええ、良いわよ」

 

部屋に取り付けられている唯一の家具とも言える本棚を指差し、その中のファイルを取ってくれとヴィレッタに頼むイングラム。

 

「……」

 

「どうかしたの?」

 

ファイルを差し出されても一向に受け取らないイングラムに心配そうにどうしたの? と尋ねるヴィレッタ。イングラムはファイルを受け取り、真剣な顔でヴィレッタに言葉を投げかける

 

「ヴィレッタ、もし俺が俺ではない俺になった時……その時は頼むぞ」

 

イングラムの言葉に判っているわと返事を返し、部屋を出て行くヴィレッタの姿を見送ったイングラムは隈のある顔で部屋の隅に視線を向ける

 

「それで、お前は俺に何をさせたい、お前は誰なんだ」

 

【……】

 

亡霊のように部屋の隅に立つ銀髪の少年……自分にしか見えないその少年にイングラムは参っていた。今だってそうだ、ファイルをヴィレッタに取らせたが、目の前にいる少年にヴィレッタは全く気付かなかった。

 

「……ふふふ、ここまで壊れているとは我ながら情けない」

 

何を言うでもない、ただ見ているだけの少年。それが自分の精神が生み出した罪の意識の表れなのだと判断しイングラムは壊れたように笑う

 

「ぐっ! あっぐっ! があっ!!」

 

その瞬間に襲ってきた脳に直接針を刺されているかのような、気が狂いそうになる痛みに頭を押さえ歯を食いしばり苦しみ悶えるイングラム。その姿を見つめながら少年は消えていく……因子が満たされようとしている、自らの使命を果たせと言う言葉をイングラムに向かって呟き、現れた時と同じ様に唐突に消えて行くのだった……

 

 

 

第50話 栄光はこの胸に! 復活のキャプテン・ラドラ その1へ続く

 

 




ハロウィンプランの前倒しフラグと、イングラムがかつての世界の記憶に悩まされていると言うフラグを用意してみました。だってねえ……リヴァーレってなんか好きじゃないんですよね、まぁ黒い天使が出るとは言い切れませんけど……ゲッター線とゲッターロボによって久保の干渉が本格的になっているイングラム、彼にどんな結末が待っているのか今後の展開を楽しみにしていてください

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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