進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第55話 届かぬ声 その2

第55話 届かぬ声 その2

 

量産型ゲシュペンストMKーⅡ・カスタム。改でもカスタムでも好きに呼べとラドラは言っていたが、ギリアムはそのコックピットの中でこの機体に既に量産型の名前は必要ないと感じていた。確かに操縦に安定感を感じられないと苦言を呈した事は認めよう、射撃と飛行能力に特化した機体だ。機動力の強化に自重を極限まで下げる必要があり、装甲も致命傷になりかねないコックピット周り以外は非常に軽装甲だ。武装とフライトユニットが一体になった強化装甲で防御力を補っているが、それでも戦闘機よりマシと言う程度の防御力。当たらなければどうと言うことは無いと言っていたラドラの言葉を思い出し、ギリアムは苦笑することしか出来なかった。

 

『わお、ギリアム少佐。とんでもないのを隠してましたね』

 

「ラドラに言ってくれ、エクセレン少尉」

 

まさかこんな物を隠れながら作っているなんて誰も考えていないだろう。性能は現行機を遥かに越えている、恐らく一部のスペックは完全にヒュッケバインを越えているだろう。恐竜帝国……すなわち、メカザウルスの技術を流用されているのだ。それは間違いないだろう……。

 

「エクセレン少尉、ライガーは私が面倒を見よう。バグスやスパイダーを頼めるか?」

 

『……えっと、正気ですか? 確かに大型になってますけどノーマルのゲシュペンストと大差ないんじゃ』

 

自殺志願でも勝ち目の無い戦いでもない。隼人が乗っているライガーならまだしも、自動操縦でゲッター炉心でもないライガーに負ける訳が無い、それにエクセレンは生粋のゲシュペンスト乗りと言うものを甘く見ている。ギリアムはエクセレンの言葉にそう感じたのだ、ゲシュペンストの性能を100%に引き出せるゲシュペンスト乗りの動きを見せてやると言わんばかりに口角が上がるのを実感しながらギリアムはヴァイスリッターに通信を繋げる。

 

「大丈夫だ、マサキやリューネにも私の心配はいらないと伝えてくれ」

 

ペダルを軽く踏み込む、その軽い踏み込みからは想像も出来ない重力が一気に襲い掛かってくる。ノーマルスーツ、しかもラドラにはテスラ・ドライブの技術は無いので勿論その凄まじい重力を歯を食いしばって耐える。ゲシュペンストの接近に気付いたバグズとバードが動き出すが……それは余りに遅すぎた。本当にギリアムを止めたければ、追いかけるのではない。攻撃を仕掛けることで、僅かでも照準を逸らすべきだった。ただし、照準を逸らした所でギリアムの攻撃を避けられる訳ではない。100%撃墜されるのが、僅かに……そう、本当に僅かに低下するだけの差であったとしても、無人機は追いかけるのではなく攻撃を仕掛けるべきだった。

 

「遅いッ!」

 

擦れ違い様に頭部にビームキャノンを叩き込み、そのままペダルを踏み込みこんで急加速し、地表のスパイダーの放ったスパイダーネットをかわすゲシュペンスト。残像を残す超高速移動、それは現行の機体を遥かに上回る速度だった。

 

「速い!? サイバスターと互角か!?」

 

マサキがそう叫ぶが、なんてことは無い。ただの緩急を付けた加速で、動きを速く見せているだけに過ぎない。用は単純に操縦技術によって生まれるトリックだ。

 

「!!」

 

「遅いと言っているのが判らないのか?」

 

ライガーのドリルアームが向けられる。だがギリアムは隼人と言う、ゲッター2やライガーの力を最大に引きだせるパイロットを見ている。そしてもっと速い、そしてもっと強いライガーをギリアムは知っている。それからすればエアロゲイターの技術で再現されたライガーだったとしても、取るに足らない敵に過ぎなかった。

 

「!?!?」

 

「言ったはずだ、遅いとな」

 

ビームサーベルで両手足を一瞬で切り落とし、踵落としをライガーの顔面に叩き込み地面に叩きつける。オイルを鮮血のように撒き散らし、肘から先の無い手を必死にゲシュペンストに向けるライガーは力尽きたようにオイルの中に沈む。

 

「!」

 

「人工知能でも恐怖はあるか、だが逃がしはしないッ!」

 

背を向けて飛翔するライガーを追いかけるゲシュペンスト、夜空を蒼い流星が何度も何度もぶつかりあう

 

「駄目だ、あのスピードには割り込めねぇ」

 

「……操縦の腕が違いすぎるね」

 

「あれが……教導隊」

 

ライガーの脅威を知っているエクセレン達はいつでもギリアムの支援に入れるようにしつつも、バグスやアルトアイゼン等の陸上機と戦うソルジャー、ファットマンへの攻撃を行う。

 

「そこだッ!」

 

「良い感じだ」

 

上空からの狙撃で動きの鈍ったソルジャーとファットマンがそれぞれ、アルトアイゼンのリボルビングステークによって動力部を貫かれ爆発し、そしてグルンガストの計都羅喉剣の一撃で両断される。だが倒した数以上のソルジャーとファットマンが足並みを揃えてアルトアイゼン達へとに迫る。

 

「ちっ、ブリット。先に行け、俺とイルムガルト中尉でこじ開ける」

 

「はっ、はいっ!!」

 

このままでは敵に囲まれ、思うように動けなくなるだけだと判断しキョウスケがブリットにそう指示を飛ばす。

 

「では私はブルックリン少尉のサポートで良いですね!」

 

「クスハ曹長を頼む」

 

量産機と言えど、グルンガスト弐式は特機だ。ソルジャー達との戦いで消耗した状態で戦えば、撃墜されるリスクが上がる。友軍機が少ないのは承知しているキョウスケだが、武蔵とカイ、そしてギリアムとラドラの4人が入った事で戦線を分ける事を決断したのだ。キョウスケが戦線を分ける事を決断した時、空中でのゲシュペンストとライガーの戦いにも大きな変化が生まれようとしていた。

 

「!!」

 

「ふっ、少しは学習したか」

 

ドリルアームと見せかけたチェーンアタック。それは、ゲシュペンストではなく、追従して飛んでいたバグスを粉砕する。動力部が破壊された事で近距離で爆発したバグスによってゲシュペンストの姿勢が僅かに崩れた。

 

「!」

 

その隙は見逃さないと言わんばかりに反転したライガーがドリルアームを翳し突っ込んでくる。必中のタイミングなのは確実……それはライガー自身も見ていたエクセレン達もそう感じた。

 

「言った筈だ……遅いとな」

 

「!?!?」

 

ドリルアームがゲシュペンストを捉えたと思った瞬間、ゲシュペンストの姿は空中に溶ける様に消えた。そして混乱するライガーの胴体に上空から降り注いだ光の矢が貫き、下半身と上半身を両断されたライガーはそのまま墜落し爆発炎上した。

 

「ステルス・ミラージュか。エネルギーの消耗こそネックだが、良い装備だ」

 

メカザウルスの技術を応用されたオーバーテクノロジー。今見せた分身ものその応用だ、ライガーを余裕で一蹴したギリアムにエクセレン達も言葉も無い、だがそれはギリアムからすれば当然の結果と言えた。

 

「エクセレン少尉、マサキ、リューネ。まだ気を緩めるな、敵はまだいるのだからな」

 

一番厄介だと思われるライガーは早々にギリアムによって破壊された。だがソルジャーやファットマン……バグスやバードと言った無人機は健在だ。

 

「あ、ああ、判ってる!」

 

「クスハも助けないといけないしねッ!」

 

ギリアムの言葉に我に帰った様子のマサキとリューネを見て、ギリアムは小さく笑い。次の瞬間には真剣な表情となり、自身を狙う無人機との戦いに身を投じるのだった……。

 

 

 

 

カイは通常のゲシュペンストの倍……いや、4倍近い重量を持つゲシュペンスト改の操縦桿とペダルの重さに顔を歪める。だがこの重さはこのパワーを押さえ込む為に必要な重量と言うことはカイも十分理解していた。

 

(反マグマ原子プラズマジェネレーター……か)

 

マグマの熱によって擬似的なプラズマを発生させるとラドラは言っていた。エネルギーを消耗しても、一定の時間が経過すればエネルギーが回復する。その説明を聞けば、無限動力を連想させる。だが現実はそれほど甘くは無い、一定の時間と言うのが最大の弱点だ。

 

(僅かに、僅かにだが回復しているが……これでは焼け石に水だな)

 

メカザウルスと一戦してからの連戦、僅かにエネルギーは回復している。だが全力戦闘に耐えれるエネルギーではない、不幸中の幸いはカイのゲシュペンストは格闘戦特化に製作されている。射撃兵器を一切搭載していない為、エネルギーの消費は移動と、背部フライトユニット、そして両腕のメガ・プラズマステークに使用されるだけだ。だが射撃武器を搭載していないという事は、牽制などに利用出来る武器が一切無いと言う事だ。

 

「カイ少佐……支援します」

 

「ラトゥーニ少尉か、すまないが頼む。ポセイドンの懐に入るまでで良い」

 

ビルドラプターが小さく頷き、その手にしているメガビームライフルの引き金を引く。並みのPTなら一撃で戦闘不能に追い込みかねない、ビームが命中したのにも拘らず2機のポセイドンは地響きを立てて近づいてくる。その姿にダメージらしい姿は見られない、その外見通りの凄まじい装甲だ。

 

「武蔵ッ!」

 

「おうよッ!!」

 

シグの手を踏んでゲッター1が飛び上がり、そしてゲッターを上空へと勢い良く投げ飛ばす、ポセイドン達を悠々と飛び越えて、その先の地表に着地すると地響きを立ててドラゴンへと突進していく。一方ゲッターを投げ飛ばしたシグは両手のエネルギークローを展開し、ポセイドンの前に立ち塞がる。

 

『カイ、判ってるな?』

 

「言われなくてもな」

 

アルトアイゼンやグルンガスト、そしてジガンスクードは確かに優秀な機体だ。だが今もなお転移でソルジャーやファットマンが現れているのを見る限り、そちらに向ける必要がある。つまりこの2機のポセイドンは俺とラドラ、そして支援に入っているラトゥーニの3人で対応しなければならない。

 

「ポセイドンの首が開いたら、お前は後退しろ小娘。そのPTの重量では耐え切れんだろうからな」

 

「おい、ラドラ。もう少し言い方って物を……聞けッ!!!」

 

カイの言葉を無視し、ポセイドンに突っ込むシグ。その後姿を見て、カイは叫ぶがラドラは通信をOFFにしており返事は来ない。

 

「すまないな、悪い奴では……「はははっ!! 欠伸が出るぞッ! この木偶の坊がッ!!」……無いと思う」

 

「……あの、少佐。私は……大丈夫です」

 

思いっきり悪役のような笑い声を上げながらラドラの駆るゲシュペンスト・シグは突撃した勢いでポセイドンの顔面に蹴りを叩き込み地面に叩きつける。

 

「!」

 

「何だ、木偶の坊が不服か? ならばガラクタだッ!!」

 

足を振り上げ踏みつける、それが何度も何度も容赦なくポセイドンに叩き込まれていく。その光景を見て、カイはラドラはあんなに好戦的だったか? と心の中で呟く。

 

「ショットガンでの面射撃の方が良いですか?」

 

「それで良い、その後は距離を取って狙撃での支援を頼めるか?」

 

カイの言葉に了解と返事を返すラトゥーニ。カイはそんなラトゥーニを見て小さく笑い、ペダルを小刻みに踏み込みながら、上空に視線を向ける。そこには青いゲシュペンストが自由自在に空を舞う姿が見える。

 

「そこだッ!!」

 

「ちょ、ちょっと少佐。もう少しヴァイスちゃんの事を考えてくれますか!?」

 

ヴァイスリッターを駆るエクセレンが文句を言うが、ギリアムのゲシュペンストはますます加速しヴァイスリッターを引き離しに掛かる。その姿を見てカイはコックピットで苦笑する、だがそれと同時に無理も無いと考えていた。ヒュッケバインの量産で数を減らすであろうゲシュペンストに悲しみを感じていた。だがラドラの改造で現行機を上回る性能を持つと言う事が判った、量産には向かない。それは判っているがエースパイロット用の機体として考えればラドラの開発したゲシュペンストは最高の機体と言える。まだ、俺もゲシュペンストを降りる気は無いのだ……だから生まれ変わったゲシュペンストの力を見たいと思ったのだ。

 

「お前の全力を見せて貰うぞ、ゲシュペンスト」

 

リミッターを解除することはない、だが両腕のメガ・プラズマステークが放電し周囲に陽炎が生まれる。全力でペダルを踏み込み、操縦桿を握り締める。フライトユニット……とは名ばかり、両腕の肥大化したメガ・プラズマステークの重量で低下した速度を補う為のユニット。言うならば、重量に負けずに十分な加速を得る為の外付けのブースターに過ぎない。4つのバーニアが火を噴く、今か、今かとゲシュペンストが叫んでいるのが判る。

 

「!!!」

 

ポセイドンの首の装甲が開いた。それと同時にビルドラプターのM-13ショットガンがポセイドンを貫き、僅かに暴風が放たれるタイミングが遅れる。そしてその隙をカイが当然見逃す事はなかった。

 

「改良されたプラズマステークの威力を思い知れッ!」

 

カイが再度力強くペダルを踏み込むと同時にゲシュペンストの姿は掻き消え、次の瞬間には地上から上空に伸びる雷の柱が地表を大きく揺らす。

 

「な、なんだ!? 何が起きた!」

 

「敵の新しい攻撃か!?」

 

その凄まじい音に混乱が広がり、それがカイの乗るゲシュペンストの攻撃による物だと判ると、どんな攻撃だったんだと言う動揺が広がり、凄まじい音を立てて放電している両拳を見て今の一撃がプラズマステークによる一撃だと判ると今度はどれだけ強力なステークが装備されているのかと言う動揺になる。

 

「!!!」

 

「まだ動くか、ならもう少し付き合ってもらおうかッ!!」

 

ポセイドンはプラズマステークのアッパーによる一撃で胴が陥没している。だが無人機なのでその程度で動きを止める訳が無い、腕を振り上げ殴りつけて来るのをカイは避けるのではない、腕の装甲で受け止める事にした。

 

(防御力は攻撃力に匹敵するか、一直線になれば相当な速度、そして高い攻撃力と防御力……か。まるでアルトアイゼンだな)

 

ポセイドンの攻撃を受けて、防御力を確かめるという意図はなかった。ただ、重量級のゲシュペンスト改なので敵の攻撃の範囲外まで脱出出来るかどうか不安があったので、防御することにしたのだ。結果は殆どノーダメージであり、その攻撃力と防御力にカイはアルトアイゼンと似たコンセプトと理解した。だがアルトアイゼンよりも尖ったカスタムを施されているがそれは、格闘戦に特化しているが故にカイにとっては丁度よい機体だった。

 

「興が乗った、受けるが良いッ! これがゲシュペンスト究極の一撃だッ!!!」

 

シグの両肩と両足の装甲が展開される、あれは機体の熱を排熱する為の物だと見ている全員が思った。だが、次の動きを理解出来た者はカイとギリアムの2人だけだった。

 

「ふっ、面白い」

 

「昔を思い出すだろう?」

 

その動きに合わせるようにカイのゲシュペンストも空手を思わせる構えを取り。地面に踏み込みの跡をつけながら2機のゲシュペンストが同時に拳を打ち合わせる。

 

「「!!!」」

 

そしてポセイドンも同時に胸部の装甲を展開し、暴風による攻撃がゲシュペンストに向けられている。だがゲシュペンストは全く怯むそぶりを見せず、同時に地面を蹴り空中で反転する背中合わせで右足をポセイドンに向かって突き出す

 

「この技は叫ぶのがお約束でな」

 

「教導隊名物とでも思って貰おうかッ!」

 

ポセイドンの暴風……ゲッターサイクロンもどきが2機のゲシュペンストを押し返し、吹き飛ばそうとする。だが、ゲッター線ではなく、ただの動力のポセイドンではゲッターサイクロンの威力を半分も再現できておらず、恐竜帝国と新西暦の技術のハイブリッドであるゲシュペンストMK-Ⅱ・カスタムとの機体性能の差にその攻撃はそよ風に過ぎなかった。背部のブースターによって得た膨大な推進力を押し返す事は叶わず、自分に向かってくる白銀と真紅の流星を少しでも遠ざけようと無駄な抵抗を続ける事しか出来なかったが……そのカメラアイに映されている――。

 

「「究極ッ! ゲシュペンストキックッ!!!!!」」

 

ラドラとカイの叫びが重なり、暴風を一瞬で突き破り2機のゲシュペンストの飛び蹴りはポセイドンの胴を貫くが、それでもゲシュペンストの勢いは止まらない、ビルをなぎ倒し、道路に深い傷を刻みながらやっと止まった2機のゲシュペンストは前を向いたまま拳を打ち合わせる。それと同時にポセイドンは爆発し、巨大な火柱が街の中央に上がるのだった……そしてその2人の動きを見てギリアムが小声で自分は除け者かと呟き、そして八つ当たりするかのようにバグス達に向かって行き。エクセレン達が何もすることが無いと思うような凄まじい勢いでバグス達の撃墜を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

カイとラドラの雄叫びを聞いた武蔵はベアー号の中で小さく苦笑する。2人を馬鹿にしたわけではない、だが教導隊名物と聞いてもしかしてエルザムやゼンガーも叫ぶのだろうかと想像するとこみ上げる笑いを堪える事が出来なかったのだ。事実、2人が叫んでいるところを何度も見ているし、伝統なのかな? と思うのは当然だった。

 

「何よそ見してやがるんだ!!」

 

「別に余所見なんかしてねえッ!!」

 

振り下ろされたダブルトマホークと切り上げたゲッタートマホークがぶつかり合い、凄まじい衝撃がゲッターロボとドラゴンを中心にして発生する。

 

「ぐ……ぐぐううッ! てめえを見ると頭が割れそうにいてぇんだよ!!!」

 

「知るか!!」

 

火花を散らしながらダブルトマホークをゲッタートマホークで切り払うゲッターロボ。だがゲッタートマホークには細かい皹が幾つも入っており、砕けるのも時間の問題に見えた。

 

「トマホークブゥゥメランッ!!!」

 

「舐めんなッ!!」

 

力任せに投げ付けられるダブルトマホークブーメラン。ゲッターロボはそれをスライディングでかわし、呆然としているドラゴンの顔面に拳を突きたてる。

 

「ぎっ! くそがくそがくそがッ! バリアはどうなってるんだ!」

 

エアロゲイター……いや、バルマーの技術で複製されたゲーザの駆るドラゴンはアードラーが複製したドラゴンよりも高い性能を持ち、動力炉を複数積む事でゲッター線ではないが高い出力、そしてその出力から齎されるバリアにより、高い攻撃力と強固な装甲を持つ機体として作成されていた。だがゲッターロボの攻撃に対してはバリアが発動せず、ゲーザが苛立った様子で叫ぶ。

 

「くそくそッ!! てめえは邪魔なんだよッ!!」

 

「オイラもお前が邪魔だぁッ!!」

 

ゲッターロボとドラゴンの拳が交差し、互いの頭部を穿つ。だがよろめいたのはゲーザのドラゴンであり、ゲッターロボは即座に左拳でドラゴンの胴体を穿つ。

 

「がはっ!?」

 

頭部ではなく、胴体を武蔵が狙った理由、それはパイロットがどこにいるのかを特定する為だった。異星人とは言え、やはり武蔵には誰かを殺すことに抵抗……があるわけではない。これが同じ人間ならば、武蔵は躊躇いコックピットを引きずり出すという事を選択肢に入れただろう。だが相手は異星人であり、そして罪も無い人間を殺している。その段階で既に、エアロゲイターは武蔵にとっては恐竜帝国と同列……つまり殺す対象に入っているのだ。

 

「おりゃあッ!!!」

 

「がっ!? ぐっ、て、てめえコック……げぼっ!?」

 

正拳から、ドラゴンの首を掴んでの膝蹴りが容赦なくライガー号に叩き込まれる。ドラゴン号に搭乗しているのなら外から確認出来る、だがそこに人影が無い以上、パイロットはライガーか、ポセイドンのどちらかになる。ゲーザを殺すと決めた以上武蔵に躊躇いは無い、容赦なくライガー号に攻撃を叩き込む。

 

「誰かを殺すって事は、殺される覚悟があるって事だ。オイラは少なくとも、そう思ってる」

 

いくら爬虫人類だとしても、生きている生き物だ。最初は武蔵も躊躇いがあった、話し合えば判るんじゃないかと言う理想を抱いた事もある、そのつど竜馬や隼人に怒られていたが、元々心優しい武蔵には誰かを傷つけるということに抵抗があった。だが武蔵は見た、見てしまったのだ。生きたまま食い殺される人を、達磨にされ絶望と恐怖に顔を歪めたまま死んだ者を、メカザウルスの攻撃で骨すら残さず死んでしまった家族を泣きながら弔う者を見た。それから武蔵には躊躇いはなかった、今までは降りかかる火の粉を払う為に殺していたが、そこからは積極的とも受け取れるように爬虫人類を敵視するようになった。武蔵は目を閉じて、大きく深呼吸をする。その目が開かれた時、武蔵の瞳には全てを飲み込むような怒りの色が浮かんでいた。

 

「懐かしい……とでも言うべきか」

 

「ラドラ、お前、あの殺気で良く懐かしいなんて言えるな、俺でも一瞬息を呑んだぞ」

 

ラドラのささやくような呟きが聞えたカイは信じられんと言う様子でラドラに声を掛ける。

 

「ふふふ、竜馬や隼人もあんな感じだぞ、いや、あの2人はもっと激しいか、武蔵はまだ温厚な方さ」

 

「……俺は武蔵で良かったと思うな」

 

会話をしながらもソルジャーとファットマンを撃墜するカイとラドラ。だがその間も武蔵の殺気と怒気は劇的に高まっていく……それこそ、心臓の弱い者ならば、それだけで死んでしまうような凄まじい殺気と怒気だ。

 

「離れるように言っておけ、今の武蔵に普段の気遣いは出来ないぞ」

 

「……そのようだな、全機に通達。ゲッターロボに近づくな、繰り返す。ゲッターロボに近づくな」

 

カイのゲシュペンストから連邦兵士のみに伝わる広域通信で武蔵に近寄るなと警告が告げられる。武蔵が気遣っているから、曲がりなりにも連携して戦う事が出来ていた、だがその武蔵が怒りで我を見失いかけている今。近づくことは危険だとカイは判断したのだ、そしてその判断が正しかったと言う事がすぐに証明された。

 

「だからてめえも殺される覚悟は出来てるんだろうなあッ!!!」

 

「ひっ!? ゲッターを止めろ! 俺に近づけるなあッ!!!」

 

今までの殺気や怒気がなんだったんだとでも思うような強烈な殺気と怒気がゲッターロボを中心にして戦場全体を包み込むようにして広がっていく。

 

「!?」

 

「い、今のは……」

 

「殺気って奴か……」

 

周りにいたキョウスケ達でさえも竦む強烈な殺気、それを至近距離から叩きつけられたゲーザは息を呑み、ゲッターロボ……いや、武蔵から逃げるように空中にドラゴンを向かわせる。

 

「逃がすかッ!!!!」

 

だが1度敵と定めた以上武蔵がゲーザを見逃すわけが無い。逃げ出したドラゴンを追ってゲッターロボが翡翠色に輝くゲッター線を身に纏い、空中へと身を躍らせるのだった……。

 

 

 

 

ゲーザの命令に従い、ファットマンやソルジャー、そしてバグス達が一斉にゲッターロボへと殺到していく。

 

「邪魔だッ! てめえ! 逃げるんじゃねえッ!!!」

 

トマホークで、拳で蹴りで次々に破壊され、一瞬たりとも足止めは出来ず。ゲーザのドラゴンはゲッターロボに追いかけられては、空間転移で応援を呼び、その度にゲッターに粉砕され逃げるという事を繰り返していた。

 

「クスハ曹長!」

 

だがそれはキョウスケ達にとって、最大の好機となっていた。エアロゲイターからの妨害もなく、グルンガスト弐式に接触する最大のチャンスだった。それこそ、数で取り囲みグルンガスト弐式を捕縛することすら可能と思えるほどの好機、この好機を逃すわけには行かないとアルトアイゼンがグルンガスト弐式……いや、クスハに向かって叫ぶ。

 

「……お前も……敵……破壊……する」

 

「……戦う事になるとは不運だが、生きていただけで儲けものか、ブリットも心配している……帰って来てもらうぞ、クスハ曹長」

 

「……ブ……リット……?」

 

アルトアイゼンのリボルビングステークが弐式の腕関節に向かって突き出される。だが念動フィールドによって軽減されてしまい、弐式の装甲を貫く事が出来ず反撃に繰り出された計都瞬獄剣による横薙ぎの一撃を飛び退いてかわすアルトアイゼン。

 

「ちっ、中々厄介な物だな」

 

弐式を破壊できず、しかし相手はこちらを殺しに来ている。クスハの操縦技術はさほど高い物ではないが、弐式と言う強固な装甲と攻撃力を持つ特機相手ではPT達では分が悪い。

 

「クスハ!!」

 

「お前は……敵だ……」

 

「そうじゃない、俺は……!」

 

「敵は……破壊する……!」

 

「クスハ! 私よ、リオ・メイロンよ!!」

 

「目の前の敵は……全て破壊する……」

 

「私が判らないの!? ねえ、クスハ! どうしちゃったのよ!?」

 

攻撃することに躊躇いのあるブリットとリオが必死にクスハに声を掛けるが、クスハは何の反応も示さず。敵は破壊すると機械的に何度も繰り返し呟く、その姿にブリット達の知るクスハの面影はどこにもない。

 

「行動不能に追い込むしかないだろう」

 

「ちっ、しかたねえ。リューネ、やりすぎるなよ!」

 

「判ってる!」

 

言葉による説得は不可能と判断し、グルンガスト弐式への攻撃が再開される。だが、クスハを見捨てる訳にも行かない以上どうしても攻撃は威力の低い物に限られる。

 

「……マキシ・ブラスター……」

 

「ファイナルビームッ!!!」

 

グルンガストと弐式の胸部のビーム同士がぶつかり、対消滅し、その隙にとサイバスターとヴァルシオーネが高速で急降下し、弐式に向かってディスカッターとディバインアームを振るう、肩と左腕に命中し弐式の装甲から火花が散る。だがダメージは殆ど通ってないのは、明らかだった。

 

「……損傷軽微、戦闘を続行します。ブースト……ナックル……発射」

 

「駄目か……リューネ!」

 

「ぐっ! これは不味いね」

 

サイバスターは回避することが出来たが、ヴァルシオーネはブーストナックルの直撃を受けて大きく吹き飛ばされる。当たり所が悪かったのかヴァルシオーネの高度は僅かに落ちている

 

「リューネさん! 下がってください!」

 

アーマリオンがサイバスターとヴァルシオーネを庇うように前に出て、両肩のミサイルクラスターを弐式に向かって放つ。当然、弐式の装甲も念動フィールドも貫けない事はリョウトも先刻承知、これは布石なのだ。

 

「ギリアム少佐、後はお願いしますね」

 

「任せておけ」

 

ヴァイスリッターの放ったオクスタンランチャーのEモードがミサイルクラスターを貫き、爆発によって弐式の視界が塞がれ、その一瞬で弐式に肉薄したギリアムのゲシュペンストがビームソードを2本的確に弐式の脚部に突きたてる。

 

「……脚部損傷……60%……機動力……低下します」

 

脚部に突き立ったビームソードによって、弐式は姿勢を大きく崩し膝をその場についた。

 

「行くぞラドラ!!」

 

「ああ。判っている」

 

両サイドからゲシュペンストシグとカスタムが弐式の両腕を掴み拘束する。出力を上げて振り切ろうとする弐式だが、ラドラとシグも振りほどかれまいと、腰を深く落とし弐式の両腕を抱え込むようにして、その動きを全力で抑え込む。

 

「良し、弐式を回収する。その後、ハガネとヒリュウ改の……」

 

キョウスケの言葉は最後まで告げられることは無かった……弐式の動きを完全に止めた。これでクスハを助ける事が出来るとほんの一瞬……そうほんの一瞬警戒が緩まった……その一瞬が命運を分けた。

 

「くたばれ! この人形がッ!!」

 

ゲッターに追いかけられ、このままでは撃墜されるとと判断したゲーザはあろうことか、弐式に向かって頭部のビームを放ったのだ。

 

「くそったれッ!!!」

 

その光景を見ては、武蔵もドラゴンを追いかける訳には行かず反転し急降下する。

 

「ゲッタービームッ!!!!……ぐっ! ぐあっ!!!」

 

ドラゴンのビームの出力は武蔵の想像以上に高かった、照射が始まったばかりのゲッタービームでは完全にドラゴンのビームの威力を殺す事が出来ず、背中からビルに叩きつけられゲッターロボの姿はビルの瓦礫の中に消え、ビームの余波でアルトアイゼンたちも完全に弐式から吹き飛ばされる。

 

「ぐっ!」

 

「ああう……っ!」

 

「うっ……頭が……」

 

「な、なにこれ……怖い……誰! 誰が私達を見ているのッ!!!」

 

「誰……誰だ! 俺を見てるのは誰だ」

 

「み、見られている……うっ……なんですの、この不快な感覚は!」

 

ゲッターロボのゲッター線の輝きが周囲を照らす、その瞬間一部の人間……恐らくこの場にリュウセイとアヤもいればその感覚を感じていただろう。どこかから、姿の見えない何者かが自分達を見ている視線に恐れと不快感を感じ取っていただろう。

 

「ク、クスハ! 正気に戻れっ!!」

 

だがブリットはその不快感と恐怖に耐え、クスハに必死に声を掛ける。

 

「う……うう……お前なんか……殺してやる……」

 

「やめるんだぁぁぁっ!!」

 

計都瞬獄剣が振り下ろされようとした時、ブリットの叫び声が周囲に響き渡り、クスハとブリットは殆ど同時に強烈な頭痛に襲われた。

 

「ううっ……ああっ……あ……頭が……頭が……痛い……」

 

「! 意識が戻ったのか!? クスハ! 俺だ! ブリットだ! 俺の声が聞えるかッ!!!」

 

「あ、ああ……た、助けて……」

 

「クスハ!!」

 

救いを求めるように伸ばされる弐式の腕、ブリットにはそれがクスハが自分に助けを求めていると思いに即座にその腕を掴もうとした。だが続けて紡がれたクスハの言葉にブリットは動きを止めてしまった。

 

「……助けて……リュウセイ……君……」

 

「ク、クスハ……お前……!」

 

だがクスハが呼んだのは自分の名前ではなく、リュウセイの名前。そのことにショックを受け、ブリットの動きが止まった。そして次の瞬間には空間転移で弐式の姿はブリットの目の前から消えていた……。

 

「い……行ってしまった……クスハが……クスハが行ってしまった……」

 

助ける最大のチャンスだった。だがブリットは自分ではなく、リュウセイの名前が呼ばれた事にショックを受けて、足を止めてしまった……怒りの余り、ブリットはコンソールに拳を叩きつける。

 

「く、くそ……ッ!! くっそおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

自分への怒り、そしてクスハを助ける事が出来なかったことに対する嘆きが込められたブリットの悲痛な叫びが、オープンチャンネルで周囲に響き渡る。

 

「敵機、撤退しました!」

 

「クスハのグルンガスト弐式は……」

 

「……機体が行動不能に陥る前に撤退……救助は失敗したようです……」

 

「そうか……」

 

ハガネのブリッジからでもブリットとクスハのやり取りは見えていた。そしてその後の悲痛の叫びもだ。

 

「……これより伊豆基地へ帰還する。ギリアム少佐達にハガネ、もしくはヒリュウ改に同乗するか、確認を取ってくれ」

 

ダイテツはテツヤとエイタにそう告げて背もたれに深く背中を預ける。エアロゲイター側の人間もゲッターロボを持ち出してきた、確かにゲッター線では稼動していないが、それでも十分な脅威だ。しかし、何故量産の利かないゲッターを選んだのか、ゲッター線で稼動していない以上、そこまでゲッターの姿を模す事に執着する必要は無いはずだ。

 

(何か……あるのかもしれんな)

 

ゲッターロボ……いやゲッター線が何かをこの世界に齎そうとしている。たかがエネルギーなのに、ダイテツはゲッター線が恐ろしく感じた。これが上層部がゲッターロボを恐れる理由なのか、それともゲッター線を有効利用する為にゲッターロボを徴収しようとしているのか……。

 

「大尉、曹長、お前達は見えたか?」

 

「何がでしょうか? 艦長」

 

「何か気になることでもありましたか?」

 

2人の返答にダイテツは誤魔化すように、ゲッターロボから溢れた翡翠の光だと呟いた。全く、本当にどうかしている……。

 

(巨大なイーグル号とそれと戦う化け物が見えた等とな)

 

これでは上層部の批判が出来ないと心の中でダイテツは呟いた。あの一瞬、上空に見えたハガネよりも遥かに巨大なイーグル号とそれと戦う複数の目を持つ化け物がいたと思うなんてと苦笑する。ダイテツは頭を振り、ハガネへと帰還するPT隊と離脱する、ギリアム達を見送るのだった……。

 

 

第56話 暗躍する影

 

 




ダイテツ艦長、ゲッペラーとインベーダーを目撃する。今回は気のせいだと思ったようですが、残念気のせいではなかったりします。ゲッターロボからゲッター線が放出された時に見てしまったって感じですね、次回はインターバルと別のサイドの話を書いていこうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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