進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第56話 暗躍する影

第56話 暗躍する影

 

ハガネとヒリュウ改が伊豆基地へと帰還した頃、日本から遠く離れたアフリカ、アースクレイドルではあるプロジェクトが進行していた。

 

「オーガシステム、実に面白いシステムですな。コーウェン博士、スティンガー博士」

 

「いやはや、これを実行出来たのは、アースクレイドルだからですよ。イーグレット博士、ねね、そうだろう? スティンガー君」

 

「う、うん。アースクレイドルと、マシンセルのおかげだよ」

 

イーグレット、コーウェン、スティンガーの3人の顔には笑みが浮かんでいる。だがそれは狂気に満ちた、恐ろしく邪悪な笑みだった。その視線の先にはまるで心臓のように脈打つ機械が鎮座していた。

 

「貴方達によって提供された生体金属とマシンセルによって作られたオーガシステム、これが実用段階になれば世界は大きく変わる。貴方

達が私に提供してくれたゲッター炉心と共に、究極の機動兵器が生まれる」

 

「いやいや、提供したといっても図面だけじゃないか、イーグレット博士。それを作り上げたのは貴方の才能だ」

 

「す、素晴らしいよ、あれは僕達ともう1人、早乙女だけが作れる物だ。それを複製した君には正直脱帽するよ」

 

2人の心からの賞賛にイーグレットは気恥ずかしそうにする、今まで人を見下していたイーグレットだ。だが自分を完全に上回り、そして未知の技術を提供してくれる2人は既に自分よりも格下の研究者ではなく、尊敬すべき恩師とも言える存在になっていた。

 

「……まだまだです、あれほど大型でしかも軽量化もサイズダウンも出来ない炉心は不完全としか言えない」

 

「その向上心を私達は認めているよ、しかし、良いのかい? 本当に炉心を貰っても、研究に必要ではないのかね?」

 

「はい、図面はもう私の頭の中に叩き込みました、それにそれがあると、自分の未熟さを思い出し悔しい思いをします。何時の日か、もっと素晴らしい炉心を作り上げるためにもお持ちください」

 

イーグレットの言葉に頷き、アースクレイドルで作られたゲッター炉心が2人が乗るトラックの後部座席へと積み込まれる。それは2人がアースクレイドルを後にする瞬間が近づいていると言う事で、イーグレットは何度も話をした。それでもどうしても諦める事が出来ない事を2人に提案した。

 

「オーガシステムが実用段階になるのはもう少し時間が掛かります、それでも行ってしまわれるのですか? 貴方達ならば、私と、私の息子達共に新しい秩序を見届ける事が出来る筈だ」

 

「その言葉はとても嬉しい、私達の理論を知り、そしてそれを発展させた貴方は我らが同胞に等しい、だが、だからこそ私達と貴方の道は相容れられぬ」

 

「……とても、とても、残念だけどね。どうか僕達の理論をより進化させ、そして更なる高みを目指して欲しい」

 

コーウェン、スティンガーがイーグレットに手を伸ばし、イーグレットは両手で2人の手を握り締める

 

「貴方達だけだ、私の思想に共感してくれたのは、今の人類は淘汰されるべきなのだ。真に優れた人間だけが生き残るべきと考える私を認め、そして私の研究に協力してくれたのは貴方達だけだ」

 

普段は俺と言うイーグレットが私と繰り返し告げる、それだけ認められ、そして研究に協力してくれた事が嬉しくて堪らないのだろう

 

「人類は繁栄しすぎた、それを間引いて優秀な人間だけを集めようと思うのは当然のこと」

 

「うんうん、特に異星人の攻撃がある今ならそう思うのは当然だよ、今の上層部は腐りきっているからね」

 

イーグレットと同調するような事を言う2人だが、その目と表情は悪意に満ちており、イーグレットの今の考えが2人に思考誘導された結果と言うことを如実にあらわしていた。

 

「どうか、お2人もご無事で、マシンナリーチルドレンが完成したらまたご連絡します。それまでご健在で」

 

「ええ、貴方の事は忘れませんとも」

 

「い、イーグレットも元気で」

 

最後まで名残惜しそうにしているイーグレットに背を向けて、2人はアースクレイドルを後にする。もう、ここでやるべき事は……種は撒き終えた。ならば次の舞台に上がる時が来たのだ。

 

「スティンガー君、やはり隠れた天才と言うものはいる者だねえ」

 

「そ、そうだね、まさか炉心を再現できるとは、いやはや、人間も捨てた者じゃない」

 

「ゲッター合金じゃないから、そこまで凝縮出来ないけどね」

 

イーグレットが作り出したのはあくまで炉心もどき、ゲッター合金を精製できないのだから完全なゲッター炉心とは程遠い。だが、それでも今の力を失い弱りきっている2人には力を回復させる最高の存在だ。

 

「インベーダーを作る事が出来ず、まさかの生体金属になるとは驚きだねえ」

 

「う、うん、でもいつか彼らも我らの同胞になる」

 

2人がアースクレイドルにいたのは、アースクレイドルをインベーダーの苗床にするつもりだったからだ。だが今の不完全な2人では機械をインベーダーにすることが叶わず、何故かアースクレイドルのマシンセルと融合し、生体金属と化した。これは2人にとっても計算外であり、嬉しい誤算であった。これがより発展されていけば、自己再生能力・自己進化能力を持つメタルビーストと遜色のない生物兵器が生まれることになるだろうからだ。

 

「あ、あのマシンナリーチルドレンだっけ、どう思う?」

 

「インベーダーもどきかな、いや、この時代の技術でインベーダーを再現するとああなるのかもしれないね」

 

ゲッター炉心とマシンナリーチルドレンの技術が合成された事で生まれた新型マシンナリーチルドレン、いや、2人からすれば劣化したインベーダーだが、この世界では革新的な技術であることは間違いない

 

「僕達にも1つくれるなんて優しいねえ」

 

「そ、そうだね。しっかりと育ててようね」

 

トラックの中に積み込まれていたカプセルの中にはゲッター線の光とその中で眠る少年の姿があった。これはイーグレットからの2人に対するサプライズだったのだろう、まだ目覚めるのには時間が掛かるが目覚めた時に使える手駒が増えた事を喜ぶべきだと考えていた。

 

「次はどこに行こうか? 色々と調べてまだまだこの世界には天才がいる事が判ったじゃないか。あのカオル・トオミネに、ヴィルヘイム・V・ユルゲンだっけ? あの2人も使えそうだと思うよ」

 

「い、いやあ、僕はあれだよ。アギラ・セトメだっけ? あれが面白いと思うねえ」

 

この世界で優れている人材を見つけて、それらが求める情報と技術を与える。それが今の2人の主な目的になっていた……ゲッター線を使える人間を増やし、この世界をゲッター線で満たす事。本当ならば、もっと手っ取り早い手段を取りたい。だがそれが取れない理由があるのだ。

 

「人材か技術か、難しい所だねえ。でもこの思い通りに行かない感じが面白いね」

 

「う、うん。面白いよねッ!! じ、人材を見つけるのか……そ、それともこの世界に眠っている遺産を見つける。どっちを優先する?」

 

「難しい所だねえ、でも良いじゃないか、時間はたっぷりある。旅を楽しむつもりで長い目で考えようじゃないか」

 

悪意の化身は笑う、この世界にもっと混乱を、もっと破壊を、そしてもっと進化の光を――悪意の化身は旅をする。再び、地球をインベーダーの楽園にすることを夢見て……。

 

 

 

 

 

ブライアン・ミッドクリッドが臨時大統領に就任した事により、ノーマン・スレイ少将を初めとする異星人との徹底抗戦派が力を付けて来た。降りかかる火の粉は払うが、積極的な戦いを好まないブライアンにとっては余り望ましい展開ではないが、それでも必要なことだと我慢し、書類整理をしていると秘書官がノックと共に入室してくる。その姿を見て、ブライアンは内心溜め息を吐いた。

 

「臨時大統領、本日15時よりグライエン・グラスマン委員長が面談を希望しております」

 

神経質そうな銀髪の男性の言葉にブライアンは深く溜め息を吐く

 

「君は僕とウィザード、どちらの補佐官なんだい? アルテウル・シュタインベック」

 

「勿論私はブライアン・ミッドクリッド大統領の補佐官です」

 

笑みも浮かべず淡々とした口調で告げるアルテウルにブライアンはもう一度溜め息を吐いた。

 

(優秀な男だ、だが……そこが知れない)

 

複数の秘書官を持つのが大統領の仕事には必要だ、だがアルテウルはそれを1人でこなす。こんな優秀な男を送り込んできたグライエンの真意がブライアンには読めなかった。

 

「そんなにもグライエン委員長の提案を飲む事は出来ませんか?」

 

「出来ないねえ、量産型ゲッターロボ計画は荒唐無稽すぎるよ」

 

「ではムサシ・トモエをこの戦いの功労者として、軍に迎え入れることもですか?」

 

「それは彼が望まないだろうねえ」

 

グライエンが望むのは地球の守護者とし、そして剣としてゲッターロボを受け入れる事である。恐竜帝国の詳細を公表し、それと戦った武蔵を英雄とするべきだと言っているのだ。

 

「確かに彼は英雄だ、それは僕も認めるよ。彼の戦歴は素晴らしい、それに非常に好青年だとも聞いている。だがね、連邦の上層部が指名手配し、追われていた人間に軍から声を掛けることが出来ると思うかい?」

 

「……難しいでしょうな」

 

「難しいなんてものじゃない、それに小国ではあるがリクセント公国が彼を囲い込もうとしている。あの幼いが、優秀な女王と事を構えるのは今は得策じゃない」

 

連邦、そして連邦政府に届けられたシャイン皇女の抗議文を思い出し、ブライアンはうへえっと呻く。幼子と言って馬鹿にすることは出来ない……彼女は生まれながら王の気質を持つ者。しかもそれが幼い恋心を原動力にしているのだから、尚更手におえやしないのだ。

 

「ウィザードに返事をしてくれ、13時から16時まで時間を取る。この際徹底的に話し合おうとね」

 

「よろしいので?」

 

「よろしいも何も、10分や15分の話し合いでは何も決まらないよ。こういうのは思い切りが大事なのさ」

 

執務を3時間止めてもでグライエンと話し合う事をブライアンは決めた。こうも連日面談を望まれては出来る事も出来はしない。

 

「それよりもシュトレーゼマン派はどうなっているんだい?」

 

「以前消息不明です、ただ、イスルギ重工に怪しい流れがありますね」

 

「……本当にあの狸は愚かですね」

 

そう苦笑するアルテウルをブライアンはじっと見つめる。その仕草にも口調にも、シュトレーゼマンと繋がっている気配は見られない、そうなると本当に彼が何を考えているのは更に判らなくなってくる。

 

「そういえば、君は記憶喪失で保護されたそうだね。何か思い出したかね?」

 

「いえ、今のところは特に、ただ、この仕事にはやりがいを感じています」

 

記憶喪失と言う話だが、その知性も言動も恐ろしいほどに磨き抜かれている。本当に記憶喪失なのかと言う疑いはあるが、今はそれを確かめる術もないので受け入れるしかない。

 

「ニブハル・ムブハルは?」

 

「は、彼はSRXチームの査問会を押し切った上層部に即座にSRXチームの出撃停止命令の撤回の為に動いている筈です」

 

「そうか、それなら良いけどね。じゃあ、悪いけどスケジュール調整を頼むよ」

 

お任せくださいと頭を下げて出て行くアルテウルを見送り、ブライアンは書類整理に戻る。そして13時5分前に応接間にグライエンが訪れる。

 

「ブライアン大統領、良い加減に決断できたかな?」

 

「量産型ゲッターロボ計画は不可能だと説明した筈でしょう?」

 

「それではない、ムサシ・トモエだ。彼は今の地球に必要な人材だ、即刻迎え入れるべきだ」

 

「……連邦政府が指名手配としたと言うのにですか?」

 

「それならば上層部の雁首を纏めて取り替えろ、及び腰の人間など要らぬ」

 

徹底交戦派のグライエンの言葉にブライアンは心の中で溜め息を吐きながらも、外見上は笑みを浮かべる。

 

「それでも今は必要な人材です」

 

「お前がノーマン少将に権限を与えた事を私は評価しているのだぞ」

 

「……降りかかる火の粉を払うためですよ」

 

ブライアンの言葉にグライエンは目を細め、明らかに威圧的な気配を纏い始める。

 

「何故判らない、今地球に必要なのは盾では無いぞ」

 

「しかし必要なのは剣でもない」

 

互いの視線が交差する。互いに目を逸らすことは無く、それが自分の意見を曲げる事は無いと言う事を如実にあらわしていた。

 

「私はビアン・ゾルダークの道は正しかったと思っている。今人類に逃げ道など無いのだ」

 

「逃げるのではありません、互いに手を取り合うのです」

 

「何を悠長な事を言っている、今異星人と戦えるのはハガネとヒリュウ改、そしてラドラ元少佐とゲッターロボだけなのだぞ」

 

……ラドラの名前が出た事にブライアンは眉を顰める。シュトレーゼマンの派閥の圧力で軍を退役した人物。そんな人物をグライエンが知っていうとは想像もしていなかった。

 

「ラドラ元少佐について何をご存知なのですかな? 勿論ムサシ・トモエもですが」

 

「お前が知っていることは全て知っている、あの腰抜け共め、旧西暦の英雄を何だと思っている」

 

その一言で理解した、グライエンはゲッターロボの価値も、ムサシ・トモエの正体も知っていると……。

 

「失礼ですが、何故それを……SSSS級機密の筈ですが」

 

「ふん、お前だけが全てを知っているなどと思うなよ。むしろ私はお前が知らない事を知っているぞ」

 

「もしやそれは南大西洋にサルベージ船を送り出したことと関係していますか?」

 

今度はグライエンが眉を顰めた、内密に深夜に送り出したサルベージ船の事を何故とその表情が物語っている。

 

「まぁ良い。教えてやろう、グラスマンの一族はかつて、そう……旧西暦の戦いが先祖から代々伝わっている。ゲッターロボ、そしてリョウマ・ナガレ、ハヤト・ジン、ムサシ・トモエ、そしてベンケイ・クルマ、ケン・サオトメの事も、そして恐竜帝国も私は知っている」

 

「……もしや、シュトレーゼマンと政治敵となったのは」

 

「あいつはゲッターロボを恐れ、私はゲッターロボを英雄機と考えた。その差だ」

 

シュトレーゼマンとグライエンは交友関係にあったが、それが突如敵対するようになった理由を知ってブライアンは素直に驚いた。

 

「ゲッターロボが再び現れた、それは未曾有の戦いが迫っていると言う事だ。逃げようが、隠れても無駄だ。立ち向かう事、それが人類と言う種を護る事に繋がる」

 

「……今は、異星人の脅威を退けることしか出来ません」

 

「ならば全てを見て決断しろ。それくらいは待ってやる、だがムサシ・トモエには個人的に話をさせて貰う」

 

それを止めれる口実も理由も見当たらず、ブライアンは溜め息を吐くしか出来ない。

 

「この異星人との戦いを終えた後、お前が立ち向かう事を選ぶ事を期待する」

 

長い話を終え、背を向けて去って行こうとするグライエン。その背中にブライアンは言葉を投げかける。

 

「1つだけ教えてください、南大西洋には何が眠っているのですか」

 

「……もう1つのゲッターロボ、冤罪により投獄されたリョウマ・ナガレが騎乗したと言う、もう1つの英雄機「ブラックゲッター」が眠っているはず、私はそれをムサシ・トモエに託したい。人類の守護者にこそ、あれは相応しい」

 

グライエンは立ち止まる事をせずに去って行き、ブライアンは溜め息を吐く。自分が想像していた以上に、物事は入り組み、そして複雑になっていると言う事を思い知ってしまったからだ……

 

 

 

 

 

様々な思惑が交差する中、潜伏中のクロガネ……いや、ビアンが率いるDCにも動きが出ていた。

 

「出力20……40……60……」

 

「ゲッター線の安定供給を確認ッ!!」

 

バン大佐の地下基地の更に地下奥深く、そこで今新しいゲッターロボが目覚めようとしていた。

 

「エルザム。ついに来たか」

 

「そのようだな。しかし……正直反対ではある」

 

ゼンガーや、エルザム、そしてバンが見守る中。新ゲッターロボの全身にゲッター線の輝きが満ちる

 

「新ゲッターロボ、起動成功だ。こちらの方は異常は見られないが、そちらはどうだ?」

 

「総帥! 大丈夫です! 出力80%で安定起動しています!」

 

「重力エンジンとの兼ね合いはどうですか」

 

「ふむ、それはやや不安定だ。ゲッター線の出力を絞るか、それとも重力エンジンを絞るか、安定起動にはもう暫く課題が残りそうだな。同出力をセーブモードに移行、ゲッターロボを起動状態で放置する」

 

ビアンはマイクでそう告げると、新ゲッターロボの口元から下降器を使ってゆっくりと降りてくる

 

「総帥、お疲れ様でした」

 

「疲れるようなことはしていないさ。だがこれでゲッターロボの修復も済んだ、これからは私も戦場に出られる」

 

戦場に出るの言葉にバンやゼンガー、エルザムの顔色が変わる。だがビアンは穏やかに笑いながら

 

「必要な事だ。戦力を温存している余裕は無いと言うことだ、それに出撃するといっても最終目標がそれであるという事で今すぐにではない」

 

今のゲッターロボはゲッター線が全身に回っているかを確認する為に装甲を取り外されている、その状態では戦える訳が無いだろうとビアンは笑う。だが、恐竜帝国との戦いでは自ら戦場に出たビアンの言葉を全てゼンガー達は信じる訳には行かなかった。

 

「それに私が乗るという選択肢もあるが、ゼンガー少佐やエルザム、バン大佐だって乗る事だって出来る。その変わり、搭載している重力制御機構は使えないが、私専用機と言うわけではない」

 

イーグル号はヴァルシオンのコックピットを流用しているためビアンしか操縦できないが、ジャガー、ベアーはそのままとなっているので乗ろうと思えばゼンガーやエルザムも乗れるとビアンは笑う。

 

「この新型のスーツも試して貰ってもいい。これならばゲッターロボを操縦出来るはずだ」

 

「ビアン総帥、本当に私達が乗っても良いのですか?」

 

「構わないとも、戦力の強化は必要だ。今のクロガネの戦力を考えてみろ」

 

今クロガネで実質戦闘に耐えれるのは、グルンガスト零式、ヒュッケバインMKーⅡ・トロンベ、そしてガーリオン・レオカスタムの3機だ。護衛機でガーリオンやリオンは搭載しているが、それでも戦力的には乏しい。ゲッターロボを修理して運用する事を決断するのは当然の事だった。

 

「総帥、諜報部の裏付けが取れました。クロです」

 

「……やはりか、状況は?」

 

「は、コーツランド基地に大量の資材が運び込まれています。運搬元はイスルギ重工、情報発信元は「ミツコ・イスルギ」ですが」

 

ミツコの名前にビアンは顔を顰める。DCにも協力していたイスルギ重工だが、今はシュトレーゼマンについている事は把握していた。

 

「……まぁ良かろう、あの娘の性根は腐りきっているが、商売として考えるならその情報は信用出来る」

 

「総帥、お言葉ですが罠の可能性は?」

 

「ない、あの娘の事だ、異星人に降伏されたら儲からないとでも考えているだろうよ」

 

腹黒さも、性根も最悪だが、イスルギ重工を発展させるという目的の為にDCに貸しを売りつけようとしているのは明白だ。ならばそれを買ってやれば良いだけの話だとビアンは言う。正しいだけでは、出来ない事も数多あるからだ。

 

「シュトレーゼマン派だがな、南極には潜入できたか?」

 

「いえ、警戒が予想以上に厳重です。遠距離での監視が限界かと」

 

「ふむ……それならばクロガネの進路を南極に取れ、南極周辺で警戒を行う。動きが確認出来たら、武蔵君に連絡を取ってくれ」

 

「判りました。ユーリアにそう伝えておきます」

 

即座にユーリアの名前を出すエルザム、ゼンガーはよく判っていない様子だが、バンとビアンは小さく咳き払いをしてから――。

 

「余り焚き付けないように」

 

「些か趣味が悪いぞ、少佐」

 

「総帥、バン大佐、一体何の話をしているので?」

 

2人にそう注意されてもエルザムは涼しい顔で、ゼンガーは相変わらず良く判っていない様子だった。そしてそれを説明しようと思う者もこの場にはいなかった。

 

「それとグライエンが武蔵に接触しようとしています」

 

「鷹派の政治家と会わせるのは不安だな、早い段階でこちらから通信を送っておこう。彼にはあの狸とやりあうには知識が足りない」

 

狡猾なグライエン相手では知らない内にグライエンの派閥に抱え込まれ兼ねない、そこら編の知識はエルザムから武蔵に伝授するように頼む。

 

「開発中に頼んでおいた、アギラ・セトメの件は」

 

「捜索中です、同じく、カオル・トオミネ、ヴィルヘイム・V・ユルゲンも同様です」

 

元はDCに所属していたが、余りに危険すぎるその思考ゆえに袂を分かつ事になった。だがほっておくことも出来ないと、捜索に乗り出したのだが……今ではどこにいるのかすらかも特定できない

 

「そうか、時間を掛けている場合ではないが焦りすぎるなと伝えてくれ」

 

焦ればミスを犯す、そのミスから自分達に辿り着かれるわけには行かないとビアンは慎重に行動するように告げる。

 

「バン大佐、出撃準備を、深夜に南極に向かう」

 

「進路はコーツランド基地ですか?」

 

「いや、違う。早乙女研究所地下に南極にも何かが墜落してきたという情報があった。それを捜索する。もしかすると早乙女博士の遺産が見つかるかもしれない。それに南極には古い知人もいる」

 

改修ゲッターロボを自軍の戦力に加え、クロガネは南極へと向かう。そこに何が眠っているのかを知る為に、だがそこに眠る物が早乙女の遺産ではない事をまだビアン達は知らない……。

 

「なんだ? 何か今……反応が」

 

クロガネが南極に向かう事を決断した時、南極でも動きが現れていた。南極に眠る遺跡の捜索を行っている「リ・テクノロジスト」である「フェリオ・ラドクリフ」はその反応に眉を顰めた、今までに無い反応だったからこそ、彼はその反応に眉を顰めた、だが一瞬だったから気のせいだと思う事にし、遺跡を調べる作業を再開する。己がかつて犯してしまった、罪を償う為に……。

 

「必ず、シュンパティアを解明してみせる……何を対価としてもだ」

 

机の上に仲睦まじく笑う兄妹の写真を見て、寝る間も惜しんでフェリオは研究を続ける。この遺跡で見つけた3つのシュンパティア……これを解析する事が娘を助けることに繋がると信じ、彼は歩みを止めない。その先に何があるかも知らないままで……。

 

そして各々の陣営が動き出す中、伊豆基地の武蔵はと言うと……。

 

「どうしたぁ! 立てブリットッ!!!」

 

「うっぐう……」

 

「何大袈裟にしてる! お前がオイラに言ったんだぞ、オイラがやっていたトレーニングをやりたいってな。止まるな! 膝をつくなッ!」

 

「……わ、判ってるッ!!!」

 

「よっし、良い根性だ。来い、まだ組み手は終わってないぞ!」

 

「おうッ!!!」

 

今のままでは駄目だと思ったブリットの頼みにより、早乙女研究所で武蔵や竜馬が鍛え上げられた地獄のトレーニングを行っていた。

 

「ぐっ! おりゃあッ!!」

 

木刀に防具を身につけたブリットが武蔵の拳を歯を食いしばって耐え、反撃に木刀を振るおうとする。だがブリットが見たのは自分の目の前に広がる拳だった。

 

「肉を切らせて骨を絶つ? 足りないぜ、骨を切らせて命を断てッ!!!」

 

「がぼおおっ!?」

 

顔面を打ち抜かれたブリットがそのまま床に叩きつけられ、それでも勢いを殺せず転がっていく。その打撃音とブリットの悲鳴に見ていたカチーナ達も顔を歪める。

 

「武蔵、ちとやりすぎじゃないか?」

 

「大丈夫ですよ、ちゃんとギリギリは弁えてますから。大体、鍛え方が足りないんですよ」

 

武蔵はイルムの静止に大丈夫だと返事を返し、バケツに水を汲んで伸びているブリットに浴びせかける。

 

「げほっ! ごほっ!!」

 

「咳き込んでる暇があるなら立て! 打って来いッ!!」

 

「ぐっ、おおおおおおーーーッ!!」

 

「気迫だけじゃ足りねえッ! 走りこみも筋トレも全然足りてねえッ!!」

 

「ぎがあっ!」

 

走ってきたブリットにそのまま背負い投げを仕掛け、ブリットは背中を強かに打ちつけ、肺の空気が押し出され呼吸が出来ず、苦悶の声を上げる。

 

「走るぞ、その後は腕立て、腹筋を500回ずつ、その後は組み手とランニング、遅れるなよ。ブリット」

 

「お……押忍ッ!」

 

重りをつけて走る武蔵のあとをよろめきながら追いかけるブリット。自分に足りない強さを身につける為に武蔵に訓練を頼んだのはブリットだが、それは訓練と言うよりも拷問に等しい。

 

「ブリットの奴が悪いのか、それとも武蔵か?」

 

「両方だろ、強くなりたいって言うブリットの気持ちに応えてやってるんだよ。やりすぎ感はあるけどな」

 

「走れ! 誰が歩くって言った!!」

 

武蔵の怒声とそれに意地で返事を返すブリットの姿を見て、カイとカチーナは苦笑する事しか出来なかった。自分達の訓練も厳しいが、武蔵の経験してきた訓練はレベルが違うと、そしてそれを乗り越えてきたからこその今の武蔵の強さがあると理解してしまったから――。

 

 

 

第57話 亡霊の再誕へ続く

 

 




偽りの影はスキップです、ビアン生きてますし、アタッドは動かしにくいってレベルじゃないですからね。あと「D]組は設定とかみて、インスペクター事件の前に先だししてみようかと思いましたので登場。ゲッター線と破滅の王って相性最悪なのは確実ですしね。次回はゲシュペンストについての話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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