進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第60話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その3

第60話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その3

 

R-GUN、そしてイングラムの登場はハガネ、ヒリュウ改のクルーに途方もない緊張感を与えていた……だが、イングラムの発した言葉が恐怖とイングラムに対する憐憫を抱かせていた。

 

「……ぐう……ッ! あ、頭が……お前達は誰だッ!」

 

激しい頭痛を訴え、自分達が誰かも認識出来ない。それは、イングラムがスパイであると言うことではない。イングラムもまた、エアロゲイターの被害者であると言う事を如実に現していた。

 

「……グルンガスト弐式の行動不能、及びR-GUNの鹵獲を行う」

 

そしてキョウスケの下した決断はクスハを助けるだけではない、イングラムもまた救助するという物だった。

 

「キョウスケ中尉……」

 

「R-GUNにはSRXチームで当たってくれ……お前達の隊長だ、取り戻して見せろ」

 

R-GUNが強い反応を見せるのはSRXチームの3人だけ、もしイングラムを救助できる者がいるとすればそれはリュウセイ達しかいない。

 

「……リュウ! R-GUNを行動不能にするわよッ!」

 

「判ってる! いくぜッ!! 教官ッ!!!」

 

「……教……官……? ぐっ……黙れぇッ!!! 俺は……知らん、お前など知らないッ!!!」

 

自身に向かってくるR-1を近づかせまいとするRーGUN。イングラムの言動に対して鋭く動くR-GUNのばら撒いた弾幕でR-1の突撃は強制的に止められる。

 

「リュウセイ! 無理に突っ込むな、己が判らなくてもその操縦技術は健在だッ!」

 

「そう……みたいだな」

 

R-2パワードが間に割り込んだくれたお陰でR-GUNの追撃はない。だがその正確無比な射撃は、数秒前のR-1の頭部があった場所を的確に狙い打っていた……。

 

「俺達はチームだ、3人で少佐を助け出すぞ」

 

「ああッ!!」

 

イングラムに対する恨みはリュウセイ達になかった。今リュウセイ達の胸を埋め尽くしていたのは、イングラムを取り戻す……ただそれだけだった……。

 

SRXチームがイングラムを取り戻す為にR-GUNに向かう。他の機体もSRXチームの後を追おうとしたが、それは量産型ドラゴン達とグルンガスト弐式によって妨げられる。

 

「……ブリット君……あなた達、私を助け出したいんでしょ……?」

 

クスハが広域通信でブリットへと言葉を投げかける、だがその口調は普段のクスハの物とは程遠く、馬鹿にしているような響きが含まれていた。

 

「正気を取り戻しつつあるのかッ!?」

 

前回は話しかけても反応がなかった……だが今回は向こうから話しかけてきたと言うこともあり、正気を取り戻しかけているのかと言う淡い期待が生まれる……だが続く言葉でその期待は裏切られる事となる。

 

「……でも、無駄よ。だって……私はイングラム少佐の物だもの……」

 

「ク、クスハ……ッ!!」

 

艶の混じったその言葉にブリットが動揺の色を見せた……だが、この場合、それは完全に悪手だった。

 

「落ち着きなさいブリット君。イングラム少佐を見れば判るでしょう?」

 

イングラムは完全に正気ではなく、壊れる寸前だ。そして今挑発するように言葉を投げかけるクスハの姿は明らかに、エアロゲイターに言わされているのだと判る。

 

「……イングラム少佐が壊されたのも、クスハが関係しているのかも知れんな」

 

これでイングラムが正気ならば、クスハの言葉も真実味を帯びてくる。だが、イングラムが再起不能寸前なのを見れば、クスハの言葉のなんと薄っぺらい事か。

 

「……ねえ、ブリット君。貴方、私の事好きなんでしょ? でもね、私が好きなのは……ううん、好きだったのは……ッ!!!」

 

クスハは最後まで言葉を発する事は出来なかった、ヒュッケバインMK-Ⅱが抜き放ったシシオウブレードが突きつけられたからだ。

 

「それ以上クスハを傷つけるな、エアロゲイターッ!!! 人を操り人形にするのがそんなに楽しいかッ!!!」

 

ブリットの激しい一喝にグルンガスト弐式が僅かにたじろいだ。

 

「俺には判っている、お前は誰だ」

 

先ほどは僅かに動揺したブリットだが、短い間だが武蔵との訓練で確実にレベルアップしていたブリットはグルンガスト弐式を覆い隠している、別の何者かの念を感じ取っていた。

 

「……ははッ! なるほど、なるほどねえ……あの人形が拘った理由が判るねえ」

 

次に発せられた言葉はクスハの物ではなく、別の人間の声だった。

 

「まぁいいさ、お前達にこの女を取り戻せるとは思えないしねえ。この女を殺して慟哭する姿を楽しませて貰う事にするよ」

 

「そうか、ならお前は失望する事になるなッ! 俺達はクスハを取り戻すッ!!

 

「……目標……確認……破壊します」

 

その言葉を最後にグルンガスト弐式を覆っていた何者かの念はグルンガスト弐式から消え、前に戦った時と同じ様に生気の抜け落ちたクスハの気配へと変わっていた……。

 

「良く啖呵を切った、ブリット。そこまで言い切ったんだお前が弐式を行動不能にし、T-LINKシステムを破壊してクスハを救助しろ」

 

「判ってますッ!! 行くぞクスハッ! 今助けてやるッ!!!」

 

キョウスケの言葉に返事を返し、グルンガスト弐式に向かっていくヒュッケバインMK-Ⅱにキョウスケは苦笑し、再度命令を出す。

 

「アサルト1より各機へ。ブリットを援護しつつ、弐式とR-GUNを行動不能にし……残りの敵を殲滅しろ」

 

奪われた仲間を取り戻す、強い決意を持ってハガネとヒリュウ改のPT隊は量産型ドラゴン達を初めとした、エアロゲイターの部隊に戦いを挑んでいくのだった……。

 

 

 

 

 

サイバスターとヴァルシオーネの前に立ち塞がる2機のドラゴン……全部で15機出現した量産型ドラゴン達はチームを組んでキョウスケ達に襲い掛かっていたが、サイバスターとヴァルシオーネの前にはドラゴンが2機差し向けられていた。

 

「それだけ、俺達を警戒しているって事か」

 

「でもいつまでも私達が遅れを取ると思わないことだねッ!!」

 

確かに量産型ドラゴン達との戦いにマサキ達は遅れを取っていた。だがそれは量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンに対する知識不足……そして分析データの解析が間に合っていなかった事が原因だ。だが、その分析がすんだ今、対策は十分に練られていた。

 

「「!!!」」

 

「リューネッ!」

 

「判ってるッ!」

 

2機のドラゴンがそれぞれ2本のダブルトマホークを投げ付けてくる。その質量もあり、直撃すればPTならば一撃で大破。特機でも致命傷は間逃れないが、投げ付けるという性質上ダブルトマホークは直線的であり、そしてブーメランのように戻ってくるといっても、やはりそれも直線的だ。

 

「そらよッ!」

 

「それッ!」

 

切り払う目的ではない、横からの一撃でトマホークは急激に空気抵抗がかかり減速する。その隙にサイバスターとヴァルシオーネはドラゴンへと肉薄する。

 

「「!!」」

 

近づけさせまいとドラゴンは頭部のビーム砲を放つ……だが、これがドラゴンにとっての最大のミスだった。近接に特化していると言えば聞えはいいが、ドラゴンにはライガーのようなミサイルもなければ、ポセイドンのようなサイクロンもない。あくまでドラゴンの武器はダブルトマホークと頭部のビーム、そして両腕の回転する鋸の3種類しかないのだ。

 

「貰った! カロリックミサイルッ!」

 

「「!?!?」」

 

ビームを放とうとした瞬間を狙い済ましたサイバスターのカロリックミサイルが頭部のビーム発射口に飛び込み、暴発したエネルギーとミサイルの爆発によってドラゴンの頭部が吹き飛んだ。

 

「行くぜッ! アカシック……バスタァァーーーッ!!!」

 

カロリックミサイルを放つ同時にサイバードに変形していたサイバスターは魔法陣から呼び出した火の鳥と一体となり、頭部を失い僅かに硬直したドラゴンへと突撃する。

 

「!?!?」

 

胴体部から両断されたドラゴンはサイバードが通過し、数秒後に爆発し、ドラゴンの残骸が地上に向かって降り注ぐ。

 

「行くよ! ヴァルシオーネッ!! クロスマッシャーァァァッ!!!」

 

ヴァルシオンの同型機のヴァルシオーネもヴァルシオンと同じ武装を搭載している。ヴァルシオーネの最大攻撃であるクロスマッシャーの螺旋を伴った光がドラゴンを飲み込み跡形もなく消滅させる。

 

「やっぱり分析結果の通りだったね」

 

「そうみたいだな」

 

ドラゴンは強固な装甲とビームコートを持ち、その耐久力は非常に脅威だった。だが頭部のビーム発射口……それがドラゴンの弱点だった。AIの近くであり、そして動力部からのエネルギーが集まっている頭部。確かにこの部位も防御力は高いが、ビーム発射口を露出した時、ドラゴンの防御力はがた落ちになる。その時にビーム発射口を狙い打てれば、ドラゴンの機能は一時的に停止するのだ。

 

「この調子でドラゴンを潰していこう」

 

「そうだな」

 

ドラゴンを速攻で2機落としたが、AIが学習するとビームの使用頻度は落ちる。今の内にドラゴンを破壊しておこうと言うリューネに頷き、サイバスターとヴァルシオーネは再びドラゴンへと向かっていく。

 

「!!!」

 

「いつまでも好き勝手出来ると思うなよッ!!!」

 

ポセイドンが胴体部のパーツをパージして竜巻を放つ。だがジガンスクードはその巨体に見合った両拳を地面に突きたて、サイクロンに完全に耐える。

 

「おらああッ!!!」

 

だがそれだけではない、体勢を低くしたジガンスクードはそのままの体勢でポセイドンに向かって突撃していく。

 

「!!!」

 

「どっせいッ!!!」

 

下からのかち上げを喰らったポセイドンは宙に弾き飛ばされたが、両足のブースターで滞空しようとした瞬間に爆発する。

 

「ナイス! レオナちゃん」

 

「当然ですわ」

 

ポセイドンはドラゴン、ライガ-の中では重厚でそれに見合った攻撃力も持ち合わせている。だがその反面、胴体にファン、両腕には電磁ネットの発射機構を初めとした内部機構が多く、その外見に反して防御力は低いものとなっている。

 

「良い腕をしている、だが動力部の位置には個体差がある」

 

「……そのようですわね」

 

ポセイドンの胴体部にはドラゴン、ライガーよりも1つ多く4つの動力が組み込まれている。先ほど、レールガンの一撃でポセイドンを破壊出来たのは動力部を狙い打ったからだが……ギリアムの駆るゲシュペンスト・リバイブが放った銃弾は、レオナが先ほど打ち抜いた場所を打ち抜いているが、まだポセイドンは稼動を続けている。つまり、そこには動力部が無いと言う証だった……。

 

「……この距離……逃がさんッ!!!」

 

「!?!?」

 

だが動きは確実に鈍っていた……アルトアイゼンの強襲にサイクロンを放とうとするポセイドンだったが、やはり爆発には至らなかったが動力部は損傷していたようだ。サイクロンを発動させる事が出来ず、リボルビングステークを顔面に打ち込まれその機能を停止させ地面に沈んだ。

 

「!!!」

 

「はいはーい! 逃がさないわよッ!!」

 

ドラゴン、ライガー、ポセイドンの中では機動力と言う事でライガーが一番厄介な機体だった。内部機構は両腕のドリルだけで、装甲もその機動力と比べれば高い部類であり、ドリルによる突撃攻撃と、鎖攻撃にミサイルとシンプルだが厄介な攻撃が揃っている。

 

「そのスピードが命取りなのよねッ!」

 

ライガーの最大の武器はその機動力。だがその機動力こそが、ライガーの弱点となっていた。

 

「そらよっ!!」

 

「行きますッ!」

 

ヴァイスリッター、そしてフライトユニット装備型の量産型ゲシュペンストMK-Ⅱ2機による、M-13ショットガンの執拗な面射撃による弾雨に晒されてはライガーは反撃のタイミングが見出せず、逃げの一手を撃つしかなかった。

 

「ファイナルビームッ!!」

 

「ターゲットマルチロックッ! 当たれッ!!!」

 

「「!!」」」

 

下からの突然の高出力のビームと小型ミサイルによる弾雨にライガーは機首を上げる、それが罠だと判らずに……。

 

「……ターゲットインサイト……リオ曹長、照準同調は出来てますか?」

 

「OKよ」

 

ハガネとヒリュウ改の艦橋でうつ伏せのヒュッケバイン009とビルドラプター。その2機が持っているのはブーステッドライフルを改良した試作スナイパーライフルだ。照準値が高く、射撃性能の高い2機だから使用できる対量産型Gシリーズ対策の武器の1つだ。

 

「……カウントスタート」

 

「3……2……1」

 

「「0ッ!!」」

 

同時に引かれた引き金、ソニックブームを残して放たれた銃弾は空中で炸裂し、ライガーを背部から撃ち貫く。

 

「メガ・プラズマステークセットッ!」

 

「ビームクロー展開ッ!!」

 

背後から撃ち貫かれ、墜落してくるライガー目掛けカイのゲシュペンスト・リバイブとラドラのゲシュペンスト・シグが跳躍する。

 

「「!!!!」」

 

高電圧の左拳と、高速回転するビームクローで胴体を貫かれたライガーは僅かな時間差と共に爆発する。量産型Gシリーズは確かに脅威であった、だが研究者達のたゆまぬ努力でその弱点が明らかにされた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

甲高い金属音が周囲に響き渡る。計都瞬獄剣とシシオウブレードがぶつかり合い、激しい火花を散らしている。

 

「敵機……損傷軽微……理解不能」

 

クスハの困惑した声を聞きながら、ブリットは乱暴にパイロットスーツのヘルメットを投げ捨てた。

 

「……持ってくれよ。ヒュッケバイン……」

 

ブリットの目の前のコンソールはレッドアラートが灯り、コックピットブロックを除く機体各所はオーバーヒートを起こし始めていた。

 

「……破壊します」

 

「ちえいッ!!」

 

上段から振り下ろされた計都瞬獄剣の側面をシシオウブレードで払い、ヒュッケバインMK-Ⅱは地面を蹴って大きく距離を取る。

 

「ぐっ……まだまだッ!!!」

 

着地と同時に脚部が悲鳴をあげ、ヒュッケバインMK-Ⅱは膝を付いた。だが、ブリットの闘志は折れない。

 

(対応出来る、まだいけるッ!)

 

ブリットの脳裏に過ぎるのは、出撃前の武蔵との日本刀での稽古。特機であるグルンガスト弐式とヒュッケバインMK-Ⅱ……それは奇しくも武蔵とブリットがそのまま当て嵌まる形となっていた。力に優れ、圧倒的な膂力で押し潰しにくる武蔵と、素早い動きで相手を翻弄するブリット……生身とPTの差はあるが稽古と全く同じ光景になっていた。

 

(……脚部の出力不足は背部スラスターでフォロー、脚部エネルギーパイプを一部分カット、その分腕部にエネルギーを巡回させる)

 

ヒュッケバインMK-Ⅱは今組み込まれているOSではなく、完全なマニュアル制御で操作されていた。そして、武装はシシオウブレード一振り。他の火器に使うエネルギー全てを機体に回し、そしてヒュッケバインMK-Ⅱの防御の要……「G・ウォール」すらも機能をOFFにしているからこそ、グルンガスト弐式と打ち合う事が出来ていた。

 

「……行って……ブーストナックルッ!!」

 

痺れを切らしたのか、計都瞬獄剣を左手に保持し、突き出した右拳が凄まじい勢いで射出される。

 

「! それを待っていたッ!!!」

 

グルンガスト弐式から射出された右拳。それにヒュッケバインMK-Ⅱは自ら飛び込み……命中する寸前に居合い抜きの要領でシシオウブレードを一閃する。

 

「……!!」

 

「一意専心ッ! 狙いは一つッ!」

 

両断された右拳の爆発に紛れ、ヒュッケバインMKーⅡはグルンガスト弐式に肉薄し、シシオウブレードの峰でコックピットの真上を穿つ。

 

「ううっ……む、無駄よ……ブリット……君……」

 

刃を振るえばクスハを傷つける、それゆえの峰打ち。機体ダメージは軽微だが、峰打ちの衝撃は確実にクスハにダメージを与えていた。

 

「弐式が怯んだッ!」

 

今までどんな攻撃を受けても、よろめく事がなかったグルンガスト弐式が初めて大きく揺らいだ。

 

「……せめて、私の手で殺してあげる……」

 

右腕を失ったが、残された左腕で計都瞬獄剣を振り上げるグルンガスト弐式、だがブリットは逃げる事無く、シシオウブレードを腰の鞘に戻し体勢を低くさせる。

 

(斬られる前に斬れ……リシュウ先生とゼンガー隊長の教えには背くことになるけど……俺は……見つけた、俺だけの剣をッ!!)

 

『さよなら……ブリット君……天に凶星、地に精星…必殺、計都瞬獄剣……!』

 

背部のブースターを全開しに凄まじい勢いで突っ込んでくるグルンガスト弐式。だが、ヒュッケバインMK-Ⅱはその場を動く事はなく、ブリットもまたコックピットの中で目を閉じていた。

 

(……目で見るんじゃない……感じ取れ……)

 

視覚は必要ない、今己が見るべき物はグルンガスト弐式ではないのだ。グルンガスト弐式を、クスハを覆う悪意! それだけが今ブリットが見るべき全てだった。

 

「……見えたッ!!! 刹那の一打ちッ!!!」

 

極限の集中によってブリットの目にはグルンガスト弐式の動きがスローモーションに見えていた。

 

(武蔵、お前には感謝しかないよ)

 

稽古の時は気付かなかった、だが今なら判る。武蔵の打ち込みは全て、グルンガスト弐式の計都瞬獄剣を用いた剣戟モーションと全く同じ物だった。

 

「うおおおおおおおーーーーーッ!!!」

 

超神速の抜刀、それはグルンガスト弐式の左拳だけを斬り落とす。ブリットが疲弊してもブーストナックルを待っていたのは、右腕か左腕を破壊し、計都瞬獄剣の保持力を落とす為だった。無論、ヒュッケバインMKーⅡも無傷ではない、超質量のグルンガスト弐式の突撃、そして何度も計都瞬獄剣と打ち合い皹が入っていたシシオウブレード……その間に挟みこまれたヒュッケバインMK-Ⅱの右腕が千切れ飛び、シシオウブレードもど真ん中から折れ、背後の崖へと突き立った。だがそれでも、ブリットは命を懸けた賭けに勝利した。

 

「……え?」

 

左拳が斬りおとされ、計都瞬獄剣が地に落ちる。そのありえない現象にクスハを操る者の意識が一瞬途絶えた……。

 

「俺の勝ちだッ! クスハは返してもらうぞッ! エアロゲイターーーッ!!!」

 

「きゃあああああッ!!!」

 

残された左拳をグルンガスト弐式のコックピットに突きたてる。そこは、グルンガスト弐式のT-LINKシステムの要……機能を停止したグルンガスト弐式、だが突撃の勢いは殺しきれずヒュッケバインMK-Ⅱとぶつかり、弐式とヒュッケバインMK-Ⅱが地面の上を転がっていく。

 

「クスハ! ブリット君!!」

 

火花を散らして機能を停止した弐式とヒュッケバインMK-Ⅱその姿を見てリオが2人の名を叫んだが、即座に広域通信でブリットの声が響いた。

 

「……キョウスケ中尉、任務……完了しました」

 

「……ううう」

 

機体が半壊しても、ブリットが守り抜いたその左腕……大きく掲げられたその左腕の中にはグルンガスト弐式のコックピットブロックが宝物のように収められていた。

 

「よくやった、ブリット」

 

「わお! やるじゃなぁい、ブリット君ッ!」

 

「ええ……何とかなりました……でも、もう動けません……回収……お願いします」

 

その言葉を最後にヒュッケバインMK-Ⅱのカメラアイから光が消え、ブリットも疲労の余り意識を失った。だが、その顔は満足げな表情を浮かべているのだった……

 

「ヒュッケバインMKーⅡとグルンガスト弐式の回収を頼む、エクセレン行くぞ」

 

「ええ、このまま奪われた者全てを取りかえさせて貰うわよん!」

 

R-GUNとSRXチームの戦いは3対1とSRXチームが有利な筈なのに、SRXチームが追い込まれていた。量産型ドラゴン達も沈黙し、残るはR-GUN……そしてイングラムを取り戻すだけとなった今、全機でR-GUNを取り押さえるべきだとキョウスケは判断した。だが……それは余りにも遅すぎた。

 

「な、なんだ!?」

 

「こいつはぁ……ゲッター線かッ!?」

 

「うっ……頭がッ」

 

「何……これ……」

 

「あれは……魔法陣……なのか?」

 

「待て! 何か出てくるぞッ!」

 

突如戦場を満たしたゲッター線の輝き、そして上空に展開された漆黒の魔法陣……異様な空気に満ちる中、空を突き破るように黒い天使が戦場に現れるのだった……

 

 

 

 

 

リュウセイ達とR-GUN、そしてブリットがクスハを取り戻す中。その中でも武蔵は動き出す事ができなかった。

 

「ロブさん、メンテナンスで何か変な機能つけませんでしたか!?」

 

『い、いや! 俺達は何もしていないぞ! 強いて言えばセンサー類の強化をしただけだが、行動不能になるような機能は追加していない!』

 

メルトダウン寸前の炉心の高まりから一転、ゲッターロボの炉心の出力は最低限起動するのに必要な数値まで低下してしまっていた。

 

『武蔵、炉心の再起動は試したか!?』

 

「さっきから何度も試してます! でも手動操作も受け付けませんッ!」

 

ゲッターロボは完全に操縦不能に陥っていた、手動操作でゲッターロボを再起動しようにも、その操作すらも受け付けない。

 

「くそッ! どうなってんだ!」

 

今までゲッターロボを酷使していたのは認める。だが、それでもこんな風に急に何の操作も受け付けないのは武蔵にとっても想定外だった。

 

『武蔵君、タスク曹長にゲッターロボの回収を頼んだ。ジガンスクードと共にハガネへと帰艦して欲しい』

 

ゲッターロボが戦えないと判断したダイテツはゲッターロボを抱える事が出来るジガンスクードに回収命令を出した。そして、武蔵もこのままでは足を引っ張るだけと判断し、その命令に従おうとした……その時。

 

「な!? 何が起こってるッ!!!」

 

今まで何の反応も示さなかったゲッターロボのカメラアイに光が灯り、武蔵が操縦してもいないのにゲッターウィングを翻し、上空にへと舞い上がった

 

『どうした!? 何があった!?』

 

「わ、判りません! ゲッターが急に動き……うっ!!!」

 

急にゲッターが動き出したと言おうとした時、武蔵は激しい頭痛に襲われた。その痛みは激しく、武蔵は意識を保つ事が出来ず、武蔵の意識は闇に沈んだ。

 

(……なんだ……これ)

 

まるで水の中に浮かんでいるような感覚を武蔵は感じていた……目の前にはゲッターロボを初め、サイバスターやヴァルシーネ、額にVの文字を持つ巨大なロボットや、漆黒の身体を胸に紅いパーツを持つ特機……そしてヒュッケバインに似た無数の機体の姿が浮かんでは消えていく。

 

『力を貸して欲しい、武蔵。お前の力が必要なんだ……』

 

(誰だ……なんでお前はオイラを知っている)

 

黒い影が武蔵に声を掛けてくる、武蔵は知らないのに……その影に覆われた人物は武蔵の事を知っているような響きに満ちていた。

 

『お前の力があれば、枷を外す事が出来るかもしれない……だから力を貸して欲しい、ゲッター線に選ばれた武蔵の力を……』

 

(オイラはどうすれば良い……?)

 

『ゲッターの力を解放してくれ、そうすれば……因果の門は開く……』

 

その声に従うように武蔵の意識に反して、その腕が動きゲッターロボからゲッター線の輝きが放たれるのだった……。

 

 

 

 

 

SRXチームとR-GUNの戦いは終始イングラムが優勢だった。自我を失いかけているからこそ磨かれた戦闘技術だけが表に出ていた。頭痛に苦しみながらも、イングラム・プリスケンと言う男が磨きあげた膨大な戦闘技術。それがリュウセイ達の前に立ち塞がっていた……。

 

「ぐっ……し、知らない……俺は……お前達など知らない……」

 

苦しみながら振るわれるビームソード……だがその狙いは正確無比でR-2の動力部をピンポイントで狙う。

 

「ライはやらせねえッ!!」

 

R-2の動力部はトロニウムエンジンだ。動力部を破壊刺されば凄まじい被害が出る、それが判っているからこそリュウセイは光り輝く両拳でR-GUNとR-2の間に割り込み、その切っ先を逸らす。

 

「ぐうう……俺の前に……立つなあッ!!!」

 

「く……ッ!?」

 

ビームソードの刃を消し、柄でコックピットを殴りつけるR-GUN。その振動にリュウセイの足が止まり、ビームソードの刃が再び展開されようとするのがモニター一杯に広がる。

 

「行ってッ!!!」

 

だがそうはさせまいとR-3パワードから放たれた盾形のビットがR-GUNとR-1の間に突き刺さり、それに気付いたイングラムはストライクシールドが命中する前に離脱する。

 

「大丈夫!? リュウ! ライッ!」

 

上空から降下してきたRー3パワードから2人を心配する声が響く。

 

「大丈夫って言いたいが、ちょっと不味いぜ」

 

「……ああ、少佐が強い事はわかっていたが……ここまでは想定外だ」

 

自我を失いかけているからこそ、楽に取り押さえる事が出来ると考えていた。だが、それが甘い考えだったと言うのはほんの数回のやり取りで思い知らされていた。

 

「……コンビネーションアタックで、R-GUNを行動不能にするわよ」

 

「それしか……ないな」

 

「……リュウセイ、フィニッシュの位置を間違えるなよ」

 

「そんなドジを踏むかよッ! 教官を取り戻す!!」

 

単機での攻撃では撃墜されるのが目に見えている、SRXチームの連携攻撃でR-GUNを行動不能にする。アヤ達がそう決断し、行動に出ようとした時。ゲッター線の光り輝く翡翠色の色が周囲を包み込んだ……。

 

「うっ……声が……誰だ、誰が……俺を呼んでいる……?」

 

質量を持っているかのようにゲッター線の輝きがR-GUNとSRXチームを分断した。手の届く距離にいる筈なのに、その姿は肉眼では確認できず、センサーに僅かにR-GUN、そしてR-2、R-3の反応を感知することで、追突事故を起こさないようにするのがやっとだった。

 

「なんだ!? これは!?」

 

「ゲッター線!? 武蔵なのか!?」

 

行動不能になっていたゲッターロボが何かをしたのかとリュウセイ達は一瞬混乱した。だが、顔を上げるとカメラアイの光が途絶えたゲッター1が空中で全身からゲッター線を放出しているのを見た。

 

「暴走!?」

 

「またあの時みたいになるっているのか!?」

 

北京でのエネルギーでの巨体へと変化するのかと全員が警戒した。だが……それは間違いだった。

 

「違うッ! R-GUNだ! R-GUNを取り押さえろッ!!!」

 

ギリアムの怒声が響いた時……それは全てが手遅れになった後だった。周囲に満ちるゲッター線、それをR-GUNは取り込み白と紫の機体色はリュウセイ達が見ている前で、漆黒へと染まり上空へと登っていく

 

「あれは!?」

 

「黒い……天使?」

 

上昇するR-GUNの先には魔法陣から上半身だけを出した黒い特機が両手を広げ、R-GUNを誘っていた。

 

「撃て! あれは危険だッ!!」

 

ギリアムがそう叫び、折りたたんで収納していたハイパービームライフルを展開し、黒い天使に攻撃を放つ。それが合図になり、ありとあらゆる攻撃が上空の黒い天使へと向かうが、その攻撃は全て黒い天使に届く事無くバリアに弾かれる

 

【……】

 

そしてR-GUNが黒い天使の目の前に来る。すると黒い天使は大事な者を抱きしめるように、もう2度と離さないと言わんばかりに両手でR-GUNを抱きしめる。

 

「あ、R-GUNがッ!?」

 

「な、なんだよ!? 何が起こってるんだよッ!?」

 

黒い天使に抱きしめられたR-GUNは抱きしめられた箇所から粒子に分解され、黒い天使の中へと吸い込まれていく。その信じられない光景にリュウセイ達は絶句するしかない、そしてR-GUNの姿が完全に消えると同時に、黒い天使が空を裂いて戦場に舞い降りた。

 

「……テトラクテュス・グラマトン、そうか……お前か。お前が……俺を呼んでいたのだな……アストラナガン」

 

【--------ッ!!!!!】

 

R-GUNと共に粒子に分解されたイングラムがアストラナガンのコックピットの中で再構築される。そして自らの操縦者を取り戻したアストラナガンの歓喜の咆哮が戦場に響き渡るのだった……。

 

 

 

 

第61話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その4へ続く

 

 

 




皆大好きアストラナガンです、リヴァーレ?知らない子ですね!(パート2)OGとPS2のOGで不満だったのはアストラナガンが出ない事、なら出すしかねえッ! ってなりますよね? ならないかな……? 今回はアストラナガンに出てもらう事にしました、次回はSRXも出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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