第63話 もう1体のゲッターロボ その1
アストラナガンとの戦いを終え、整備班に回収されたゲッターロボのコックピットの中に武蔵の姿はあった。クスハの救出、そしてSRXへの合体成功で盛り上がっているハガネとヒリュウ改のクルーに混ざる事をせずにゲッターのコックピットに居たのは勿論理由がある。
『黒い天使……か。戦闘記録は?』
「勿論取ってます、ビアンさん達と合流する時には持っていきますね」
ビアンからの合流要請があったから、出発する前に連絡を取っておくべきだと判断したからだ。
『ダイテツとレフィーナ艦長には一応話を通してから出発してくれ、戦闘の後で疲れているのは承知だが出来るだけ早い段階で合流して欲しい』
「了解です、飯を食って少し休憩したら出発します。一応出発前には連絡しますね」
『すまないな、南極に着いたらガイドビーコンを飛ばす。それにしたがってクロガネと合流してくれ』
ビアンとの通信を終えた武蔵はベアー号のコックピットから弾かれたように飛び出す。
「うおッ!? なんだ、どうした武蔵ッ!」
「っと、すまねえロブさん、それと悪いんだがゲッターのメンテナンスはしなくて良いから、そのままでお願いしますね」
「メンテしなくて良いって……ゲッターロボは出撃ごとにメンテが必要なんだぞ?」
戦闘力は新西暦の機体と互角かそれ以上だが、機体の中身は一部のオーパーツを除けば、骨董品と言うべき構造なのがゲッターロボだ。出撃ごとに細かい調整が必要となっている。
「ビアンさんに合流してくれって通信が入っているんで、そっちでメンテナンスをしますから。ゲッターロボより他の機体を優先してくれていいですよ! じゃッ!」
ロブに手を上げて通路を走っていく武蔵。ロブはその姿を見つめながら、これはチャンスだと考えていた。
「ビアン博士にも見て貰えるか、艦長と大尉に相談してみるか」
SRXのデータと戦闘データの解析結果、それと難しい話だと判っているが、今新西暦で最もゲッター線を理解しているのはビアンだ。もしも、可能ならばゲッター合金を流用したモーターなどを入手できないかと相談するべきだと思い、ロブも武蔵の後を追って格納庫を飛び出すのだった、なお。ロブが武蔵に追いつく事が出来なかったのは言うまでも無い……。
「南極にか……うむ」
「やっぱり難しいですか?」
ハガネとヒリュウ改のPTが壊滅的な打撃を受けているのは武蔵も知っていたので、やっぱり難しいですか? とダイテツに尋ねる。
「いや、南極のコーツランド基地に向かえと言われていたが、今のハガネとヒリュウ改では無理だからな。渡りに船と思っただけだ」
アストラナガンとの戦闘でハガネとヒリュウ改に今戦えるPTは無くなってしまったが、コーツランド基地に向かう必要もある。そこに武蔵が南極、しかもクロガネと合流するという話は間違いなくコーツランド基地に関係する話だとダイテツは考えていた。
「じゃあ、オイラが南極に行くのは?」
「こちらからも頼みたい所だ」
ダイテツからの許可も出たが、武蔵にはある懸念があった。
「伊豆基地に戻るのは大丈夫ですか?」
武蔵がハガネを出ると聞いて顔を僅かに引き攣らせたテツヤに今ハガネを出るのは無理なのではないか? と考え、本当に大丈夫ですか?と武蔵はダイテツに尋ねる。
「確かに少々厳しいが、最終手段だ。大気圏離脱用のオーバーブーストで伊豆基地まで直行する、武蔵は何の心配もなく出発してくれて構わない」
戦闘することは出来ないのでオーバーブーストで伊豆基地に戻るから大丈夫だと笑うダイテツ。その姿に武蔵は何も言えず、判りましたと返事を返した。
「艦長、オーバーブーストでそんな事が出来るのでしょうか?」
「大気圏離脱用のブースターだが、なにも大気圏を離脱する時だけに使うのではないと前も言っただろう。もう少し柔軟に物を考えるんだな、大尉」
「はぁ……精進します」
普通は使わない方法らしいが、無事に戻れるのならばそれに越した事は無いかと武蔵は判断し、少しでも早く出発出来る様に艦長室を出ようとすると、外から扉のノック音が響いた。
「ダイテツ艦長、ロバートです。入室してもよろしいでしょうか?」
ロブの入出許可を求める声にダイテツは直ぐに許可を出し、ロブが艦長室に足を踏み入れる。
「武蔵がビアン博士と合流すると聞いたので、整備班からお願いがあります。武蔵にSRXのデータと戦闘データ、それともし可能ならば
ゲッター合金を流用したモーターなどの入手が出来ないか尋ねたいのですが大丈夫でしょうか?」
ロブの頼みにダイテツは少し考える素振りを見せた。だが、SRXがこのままでは長時間の戦闘に耐えられない事、そして先ほどまで戦っていたアストラナガンの事を考えるとSRXを戦闘に使用出来るようにする必要があると言う判断を下さないわけには行かなかった。
「良かろう、武蔵何時ごろ出発する予定だ?」
「えーっととりあえず飯を食べて、少し休憩してからなんで……2時間くらいで考えています」
「オオミヤ博士、2時間で準備が出来るか?」
「大丈夫です、大尉。2時間あれば十分です」
武蔵が出発する前に準備を整えますと言って艦長室を出て行ったロブを見送り、武蔵も出発前の腹ごなしと言う事で食堂に足を向けるのだった……。
「行っちまったな……」
食堂で遅めの昼食をとっていたリュウセイが窓の外を見てそう呟く、その視線の先には雲を切り裂き凄まじい勢いで飛び立っていくゲッターロボの姿があった。
「本来ならば、俺達も南極に向かう予定だったが、仕方あるまい」
今のハガネとヒリュウ改が同行してもクロガネと武蔵の足手纏いになるだけだと冷静に言うライ。リュウセイは判ってるけどなあと呟きながら冷え始めているカレーを口に運んだ。
「それより良かったのか? ライ」
「何がだ?」
「いや、レオナとかは手紙を渡してただろ? お前はいいのか?」
武蔵がクロガネと合流すると聞いて、レオナはリリーとユーリアの2人に急いで手紙を書いて預け、リューネもビアンへと手紙を書いた。
「兄さんがそう簡単に死ぬ人間じゃないって事は判っているからな、話したい事は直接あって話すさ」
そう笑うライにリュウセイは変わったなあと思いながら冷え始めているカレーにソースを掛ける。
「それよりもだ、お前こそいいのか?」
「あんが?」
「クスハ曹長の事だ」
意趣返しなのか、一番聞かれたくなかった事を聞かれ、喉を詰まらせたリュウセイは慌ててラッシーを口にする。
「げほっ、急にそんな話を聞かないでくれ」
「すまん……そんなに驚くとは思ってなかった」
自分が思っている以上のリアクションを取ったリュウセイにライは素直に謝罪の言葉を口にする。
「……正直さ、俺はクスハの事って幼馴染にしか見えなかった訳だ、と言うか、俺には人を好きとかそういうのがわからねえ」
ただクスハは幼馴染で一緒に居るのが当たり前で、自分のことを心配してくれるのもクスハの好意とは思えなかったとリュウセイは呟いた。
「俺のお袋さ、病気がちで入退院を繰り返しててよ……お袋を少しでも良い病院にってそれしか考えてなかったんだよ」
「そうか……難しい所だな」
好意に気づけなかったのではなく、気付く余裕がなかったのだとライは判断した。何時死んでしまうかもしれない母親に少しでも長く生きて欲しい、それがリュウセイの全てであって、そこに人の好意を受け入れる余裕は無かったのだろう。その中でリュウセイがアニメにのめり込んだのは勧善懲悪や、努力が報われると言った要素がリュウセイにとっては救いになったのかもしれないとライは考えていた。
「ブリットがクスハが気になるって言うなら、それで良いのかなって……そもそもブリットにクスハが俺の事を好きって言われた時も、正直嘘だろとしか思えなかった」
クスハは自分を好きでも、リュウセイはそれに答えられない。ならば、ブリットの方がいいんだろうなとリュウセイは呟きながらも、カレーを口に運ぶ手は止まっている。
「食欲がないのか?」
「いや、すげえ腹は減ってる……でも、なんか入ってかないんだよな」
既にライは昼食を食べ終えていたが、リュウセイはまだカレーが半分以上残っている。表面上は普段のリュウセイだが……やはり、イングラムの事、そしてクスハの事、今まで考えても居なかった事を考える事になり悩む結果となっているのだろう。
「よー、リュウセイ。なんだ、随分と食が進んでないようだな? どうした?」
「ほら、ラトゥーニもおいで」
「う、うん」
口下手の自分では禄に励ます事が出来ないが、チームメイトとして相談くらいには乗ってやりたかったライだったが……やはり自分にはこういうのは向いてないと苦笑し、騒々しくリュウセイの側に座ったジャーダ達に小さく頭を下げて食堂を後にした。
「リュウセイの悩みを解消してやろうと思ったんですけどね、俺には駄目でしたよ」
「そうじゃないと思うけどな、ライはリュウセイの為にと思って行動したんだろ? きっとその気持ちは伝わってるよ。アニメで定番の口下手だけど、仲間思いのクールな2枚目さ」
「……オオミヤ博士、アニメと一緒にされるのは流石に複雑なのですが?」
「ははは、判りやすく説明しただけさ。ま、せいぜい悩めよライ」
「もしかして俺で遊んでますね?」
ばれたかと笑うロブにライは少しだけ眉を吊り上げたが、こうしてアニメとかの例え話を交えてくるロブにふと閃いた。
「リュウセイがよく言ってるアニメってなんでしたっけ?」
「お、アニメに興味が出たか? 後でDVDを貸してやるよ」
相互理解の為、今まで微塵も興味が無かったアニメを見てみるのかもしれない……ライは一時の気の迷いでロブにそう声を掛けてしまったのだった……。
南極の巨大な氷山の中にクロガネは停泊していたが、ゲッターロボの存在を感知すると浮上し即座にゲッターロボを収容し、氷山の中に再びその身を隠した。
「武蔵、久しぶりだな」
「あ、ユーリアさん。どうも、ユーリアさんもお元気そうで何よりです」
ゲットマシンから格納庫に降りると直ぐに武蔵にユーリアが声を掛ける。武蔵がハガネとヒリュウ改に乗るまでの車椅子姿ではなく松葉杖でリハビリをしている姿に武蔵は笑みを零す。
「ああ、走ったりするのは無理らしいがそれでも日常生活には何の支障も無いらしい。まだリハビリの段階だがな」
「そうですか、リハビリって焦りますけどあんまり無理をしないでくださいね」
武蔵も腹に風穴を開けられ、リハビリで焦った経験があるのでユーリアに焦らないようにと声を掛ける。
「ああ、判ってるよ。リリー中佐とエルザム少佐に何度も注意されているからな」
「はは、エルザムさんらしいですね。あ、そうそう、えーっとレオナさんからユーリアさんにお手紙を預かってますんでどうぞ」
出発前に預けられた手紙をユーリアに手渡す武蔵、ユーリアはその手紙を受けとり小さく笑みを浮かべた。
「すまないな、伝言役みたいな真似をさせて」
「良いですよ、それよりもあれは何ですか?」
見覚えの無い扉が格納庫に増えていたのが気になり、武蔵はユーリアにそう尋ねる。ユーリアがその問いに答えようとしたとき、ユーリアよりも先に誰かの声が響いた。
「ゲッター線区画だよ、武蔵君」
勿論その声の主はゲッターが着艦した事で格納庫にやってきたビアンだ。その後ろにはリリーとエルザムの姿もあった。
「ユーリア隊長! またリハビリ室を抜け出しましたね?」
「い、いや、別に問題は」
「駄目ですよ、ほら、リハビリ室に戻りますよ」
「わ、判った。ではな、武蔵また後で」
トロイエ隊の生き残りに連れて行かれるユーリアに苦笑しながら、武蔵はビアンに頭を下げる。
「ビアンさん、今戻りました」
「うむ、向こうも大変だったようだが……無事で何よりだ」
「ははは、敵も本腰を入れてきたって所ですかね、あ、リリーさん、レオナさんからお手紙です」
「ありがとうございます。全く、あの子は……」
苦言をするが、それでも嬉しそうに笑うリリーに手紙を渡した武蔵はそのままビアンにもリューネからの手紙も渡す。
「武蔵君、ライディースからは?」
「殺しても死ぬとは思えないから会って話すと伝えてくれと」
自分には手紙が無いと聞いて、そうかと少しだけ寂しそうにするエルザム。その姿を見て、武蔵は無理でも手紙を書かせるべきだったかなと少しだけ後悔していた。
「それよりもだ、浅間山の地下で見つけたゲッターロボを修理、改造したのだ。見てみてくれるか?」
「本当ですか! どんな感じになったのか楽しみです!」
先にゲッターを見せようと言うビアンに嬉々とした様子で続く武蔵、そしてハザードマークの扉の奥には新設されたであろうハンガーにゲッターロボの姿があった。
「このゲッターは複眼なんですね」
「ああ。イーグル号を修理する時にな、興が乗ってヴァルシオンの意匠を取り入れてみたのだ」
赤を基調としているゲッター1だが、縁取りに金色が使われ何処と無くヴァルシオンに似た意匠がビアンが修理したゲッターには施されていた。
「ゲッターロボVと命名した。Vはヴィクトリー、そしてヴァルシオンのVだ」
ゲッターロボVと胸を張るビアンとその後ろで苦笑するリリーとエルザム、だが武蔵はゲッターロボVの名前が気に入ったのか満面の笑みを浮かべた。
「良いですね! ゲッターロボV! 凄く良い名前だと思います」
「そうだろうそうだろう! エルザム達は渋い反応だったが、私も良い名前だと思うのだよ」
子供のようにはしゃぐ2人にますますリリーとエルザムは苦笑を浮かべる。だが2人が喜んでいるので何も言えない。
「ヴァルシオンって事はやっぱりヴァルシオンの装備が使われているんですか?」
「勿論だ! 重力装備にクロスマッシャー、それにディバインランスなど、ヴァルシオンの装備も多数搭載している! それでいてゲッターチェンジも可能だッ!」
「すげえっ! それでパイロットは? バンさんとか、エルザムさんですか?」
「……現状私だけだ。だからゲッターチェンジは出来ない」
「あ、やっぱりそこは改善出来なかったんですね……」
興が乗って改造しすぎて、エルザム達も搭乗不可能となっているゲッターロボV。現状はヴァルシオンの重力装備とテスラドライブを搭載しているヴァルシオンのコックピットを流用したイーグル号のみが操縦可能となっている。
「なので今の段階ではゲッター2、3の形態は封印しているし、オープンゲットも出来ない。このまま改造するか、可変機能を戻すかが課題だな」
「それは実際に動かしてみないと判りませんね、多分オイラじゃ動かせ無いだろうでしょうし」
ヴァルシオンのコックピットを流用している段階で、ゲッターロボVは実質ビアン専用機となっている。ジャガーか、ベアーなら操縦できるがイーグル号は武蔵では操縦できないだろう。
「さてと、これで私の研究成果の報告は1度終わりだ。ハガネとヒリュウ改で何を見たのか、それを聞かせて欲しい」
「了解です、あ、それと……「判ってる、ゲッターロボのメンテも行う」すいません、お世話かけます」
「構わないさ、コーツランドの件は少しずつ捜索を始めている。少しばかりの時間の猶予があるのだからね」
コーツランド基地で失脚したシュトレーゼマン一派が動いている、それを防ぐ為にビアン達は動いている。だが今はまだ時間の余裕がある、それに武蔵を呼び寄せたのはコーツランドの件だけではないのだ。
「私の古い友人が南極で研究をしているのだがね、彼にも会ってほしいんだ」
「オイラがですか? でもオイラ馬鹿ですよ?」
「いや、武蔵君で無いと駄目なんだ。ゲッターらしい壁画が見つかったんだ」
「ゲッター……LTRとかいうやつでしたっけ?」
「LTRとはまた違うリ・テクと言うのだが……詳しくは私も判らない。明日会いに行く予定だ」
「判りました、何か判ればいいですね」
浅間山の地下に現れた早乙女研究所、古文書に残されたゲッターロボらしき姿、そして南極にもゲッターの影が存在しているのだった……
一方その頃アメリカでは……
「何者だね? 私に何か用かな?」
議員バッジを付けた男の前に立ち塞がる2つの影、アメフトの選手のような大柄な黒人の男と顔色の悪い小柄な男……コーウェンとスティンガーだ。
「いやいや、流石と言うべきですかなあ、この惨状を見ても眉1つ変えないとは、ね、スティンガーくぅん」
「う、うんうん、そうだよね。普通の人間なら顔を顰めるよね」
肉片と血塗れの駐車場、壁にめり込み死んだ遺体など常人ならば目をそむける光景の中でも、議員の男は眉1つ動かさなかった。
「私は忙しいのだ、単刀直入に言え」
「では、ぜひとも私達の話を聞いて欲しいのです、ねえ? ブライ議員殿。それともこう言いましょうか? 百鬼帝国大帝「ブライ」様?」
この世界では知らぬ名前を持ち出した2人に議員……ブライの顔が変わった。温厚な顔から、恐ろしい鬼の形相へと変わったのだ。
「……ふん、忌々しいゲッター線を引き連れた何者かと思えば、同類か」
「そうですとも、ゲッターに苦汁を舐めさせられた者同士……有意義な話し合いをしませんか?」
「ゆ、有意義な話し合いをしましょう!」
「ふん、良かろう、だがこの遺体の後始末がすんでからだ。お前達は命からがら私を救ったという筋書きだ、良いな?」
悪意の化身はコーウェンとスティンガーだけにあらず、かつてゲッターロボに敗れた者もまた、武蔵よりも前にフラスコの世界に現れているのだった……。
第64話 もう1体のゲッターロボ その2
新ゲッターロボ登場とブライが議員だったという話になります、正しOG1ではあんまり出てきませんのでそこの所はご理解よろしくお願いします。それと、次回はリ・テク組みとのオリジナルの話になります、コーツランドよりも先にリ・テクの話を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い