第70話 リクセント公国 その2
自然に囲まれた豊かな国「リクセント公国」――特別独立自治権を持つ中立国であり、豊富な金脈、そして温暖な気候として避暑地や別荘地としても有名であり、中立国として連邦などにも与さないという性質から移住者が多い穏やかな国である。だが今……そのリクセント公国には悲鳴が響き渡っていた……。
「ギャオオオオオオーーッ!!!」
「キシャアアアーーーッ!!」
「ガオーーンッ!!!」
「ギギィーーーッ!!」
突如雲を引き裂き、海を割り、山を砕いて現れた機械化された恐竜の群れ。その恐ろしい雄叫びにリクセント公国の住人は恐れ戦いた……だがリクセント公国の民は見た、空を裂き眩しいまでの赤が自分達の頭上を飛んで行く姿を……。
「ゲッタァーーートマホォォォクッ!!!!」
はるか上空から飛来した戦斧が今正に避難所に叩きつけられようとしていた恐竜の尾を引き裂いた。
「ゲッタァアアーーーレザーーーッ!!!」
両腕の鋭い刃が恐ろしい恐竜の胴を捉え、上半身と下半身を両断する。
「オープンゲットッ!! チェンジゲッターーーーッ!!!」
鬼のような特機の姿が弾け、戦車の上に上半身が乗ったような姿に変わる。
「かかって来やがれ!! メカザウルス共ッ!!」
リクセントの住人は皆、その機体の名を知っている。幼い国家元首を救い出したその機体を、その機体を駆るパイロットの名を……。
「ゲッターロボと巴武蔵が相手になってやるぜッ!!!」
連邦に追われていてもなお、自分達の国の代表を救い出し、名前も名乗らず去って行った男を……。
「ゲッターロボだ! ゲッターロボが来てくれたんだッ!」
「ゲッターッ! ゲッターッ!!!」
その頼もしい後姿に歓声が上がる。シャインが自分を助け出してくれた相手が不当に追われている、そしてこれはその証拠だと言って国内に放送した戦闘記録。コックピットから飛び出し、シャインを救い出した武蔵、そしてゲッターロボは本人達の知らぬ所で英雄として祭り上げられていたのだった……。
時間は少し遡り、ゲッターが全速力でリクセント公国に向かっている頃、その城の執務室に老紳士の怒声が飛んでいた。
「何故、何故避難してくださらないのですか! シャイン様」
だがその怒声は執務室に腰掛け動かない幼女……シャイン・ハウゼンを案じての悲壮感さえ感じさせる物だった。
「民がまだ避難完了しておりません、私は全ての民が避難するまではここを動きませんわ」
「な、何を言っておられるのですか! 連邦軍がリクセント公国に来てくれると思っているのですか!」
国家会議でシャインが連邦軍の今の姿勢を批難した事は老紳士……「ジョイス・ルダール」の記憶にも新しい。
「私は連邦軍はハガネとヒリュウ改以外は信用しておりません」
「シャイン様、例えそう思っていても口にしてはなりません」
シャインの命の恩人である武蔵を冤罪で追い回し、一向に彼の罪状を改めようとしない連邦の上層部にシャインは激しい怒りを抱いていた。だからこそ国家会議で堂々と連邦の非難をしたのだ、国家元首からの非難、そしてジュネーブでの戦いの記録、北京での戦いの記録の公開と合わせて連邦に冤罪を認めさせたのは良いが、一部の連邦軍の部隊を除きリクセント公国からは軍が撤退している。
「お気持ちは判りますが、どうかシェルターへ」
メカザウルスの雄叫び、そして地響きのような足音は少しずつだが確実に城に近づいて来ている。だから早く避難して下さいとジョイスが懇願するがシャインは首を横に振る。
「大丈夫です、私には判ります。もうすぐ助けが来ると」
「助け……? それは一体……「ゲッタァーーートマホォォォクッ!!!!」
雄叫びと共に上空から飛来した戦斧が街に叩きつけられようとしたメカザウルスの尾を両断する。
「げ、ゲッターロボッ!」
「ね。武蔵様が助けに来てくださいましたわ」
リクセント公国を守る様にマントを翻し、上空に佇むゲッターロボ。シャインはゲッターロボに微笑みかけ、再びマイクを手にする。
『リクセントの皆、恐れずに落ち着いて避難して下さい。大丈夫です、私達には頼もしい正義の味方がついてくれているのですから』
穏やかにそして慈愛に満ちた声で避難を促すシャイン、その姿は幼くとも民を思う心優しい君主の姿なのだった……。
ベアー号のコックピットの中で武蔵は安堵の溜め息を吐いていた。クロガネから最大速度でリクセント公国へと来たが、街並みに被害が無い姿に心底安堵した表情を浮かべる武蔵、だが状況は決していいものではない、メカザウルスは数こそ少ないがリクセント公国を覆うように展開している。
(間に合ってよかった)
メカザウルスはゲッターロボを最優先にして狙う、そのように電子頭脳にプログラミングされているからだ。その証拠に徐々にゲッターロボに向かっている、その姿を見て後はリクセント公国の外に誘導すればいい、そんな事を考えていた武蔵の耳に幼い少女の声が届いた……
『リクセントの皆、恐れずに落ち着いて避難して下さい。大丈夫です、私達には頼もしい正義の味方がついてくれているのですから』
その言葉に武蔵は小さく笑い、より強く操縦桿を握り締めペダルを踏み込む。武蔵の想いを感じ取ったかのようにゲッター3はそのカメラアイを強く輝かせる。
「行くぜッ!! ゲッタァパーンチッ!!!」
高速で伸びた右腕がミサイルを放とうしたメカザウルスの胴を穿ち遥か上空まで殴り飛ばす。
「あんなこと言われたら張り切らないわけには行かないよなあ、兄弟」
正義の味方……幼い少女がゲッターロボと武蔵の勝利を信じている。武蔵が居るから大丈夫なのだと自分の国の住人に説明している、きっと恐ろしいだろう。逃げ出したいだろう、それなのに気丈に振舞っている。その姿を思い浮かべれば、頑張らなければと武蔵の心に火が灯る。
「行かせるかッ!!」
ゲッター3の頭上を抜けてリクセント公国に向かおうとしたメカザウルスの尾を掴み、そのまま回転しながら遠心力を利用して逃げようとしたメカザウルスを地面に叩きつける。
「どっせーいッ!!」
「ぎゃあッ!?」
「ぐぎいッ!!」
そしてそれだけは終わらずメカザウルスをハンマーのようにして別のメカザウルスに叩きつける。リクセント公国から引き離す、その間もマシンガンを乱射しメカザウルスの動きは止め、別のメカザウルスで殴り飛ばす。この強引とも取れる戦法でメカザウルスは徐々に街から引き離されていく。
「この先に進みたかったらオイラとゲッターを倒していくんだなッ!!」
ゲッターミサイルを放ち、ジャガー号の機首からマシンガンを放ちながらゲッター3は地面を駆ける。少しでも、少しでもリクセント公国から引き離す為に。
「おらあッ!」
最大速度での体当たり、伸縮自在の拳による縦横無尽の乱打。それはメカザウルスを殴り飛ばし、あるいは吹き飛ばすが倒しきるには威力が足りない。
(ちっ、思ったよりも厳しいな)
大雪山おろしも、ゲッター2や1にチェンジしないのも理由があった。それは街の近くで戦うにはゲッターロボは強力すぎたのだ、ゲッタービームの余波ですら恐らく街に甚大な被害を齎す、ゲッター2ならば移動するだけでも被害が出てしまうだろう。だからこそ、一番操縦しなれていて、特別な攻撃の無いゲッター3で戦う事を武蔵は選択したのだ。
「ぬっぐう! まだまだあッ!!」
マシンガンもリーチがさほど高いわけではない、そしてゲッターミサイルもむやみやたらに使えば被害が出てしまうだろう。武蔵の繰り出せる攻撃は必然的に制限され、そして街に被害を出さない為にも派手な立ち回りが出来ず、徐々に、徐々に劣勢に追い込まれ始める。
「全く、無茶をするな。武蔵君」
だがそれは武蔵が1人だったらの話だ、武蔵は1人で戦っているわけではない。武蔵に追いついたトロンベ・タイプGの放ったビームライフルが大口を開けていたメカザウルスの口の中に飛び込みその頭を吹き飛ばす。
「眼前の敵は全て打ち砕くッ! ブーストナックルッ!!」
音速で飛来した鉄拳がメカザウルスの突進を押し留める、だがそれだけには留まらずメカザウルスの頭部を握りつぶし、グルンガスト零式・改の腕へと戻る。
「全く、武蔵君も無茶をしてくれる」
グルンガスト零式・改、ヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGに遅れてゲッターVもリクセント公国に到着する。
「グルルル」
「キシャアアーッ!!」
ゲッターが単機ではなくなった事でメカザウルスも警戒の唸り声を上げ、陣形を組み始める。ゲッターロボが増えた事により、メカザウルスの本能よりも、電子頭脳がより活性化したことによる軍隊行動だった。
「ヒャーハハハッ! 良いぜ良いぜ、舞台が整ってきたな。それにゲッターロボォ……今度はてめえが地面に這い蹲る番だぁ」
「……」
リクセント公国を後ろにするゲッターロボとメカザウルスの睨みあい、それを見て高笑いするゲーザと無言のガルイン、リクセント公国を
舞台にしたメカザウルスとゲッターの戦いはより激しさを増そうとしているのだった……
武蔵達がリクセント公国でメカザウルスと戦っている頃。ハガネもまたリクセント公国へと向かっていた、確かに連邦の一部を敵に回したリクセント公国とシャインではあるが、それは一部の政府高官とつながりのある部隊が大半だった。そう言う繋がりの無い一般兵達は民間人の避難誘導を行いながら救難要請を行っていたのだ。
「リクセント公国にメカザウルスか……やっぱり生き残りがいたのか」
伊豆基地でのパーティもそこそこに切り上げ、酒を飲んでいないメンバーはブリーフィングルームで状況の把握に努めていた。
「でも本当に部隊を分けて大丈夫なのか?」
「仕方ないだろ、メカザウルスが出たって事は他にもまだ生き残りが居るかもしれない、それにエアロゲイターの事もある」
本当ならばハガネとヒリュウ改を同時に行動させるのが得策だっただろう。だが、レイカーはヒリュウ改を伊豆基地に残し、ハガネのみをリクセント公国に派遣する決断をした。
「そう心配する事は無い、メカザウルスとの戦いは俺が慣れている」
「出来ることならばマグマ原子炉……それを無事に摘出したい所だな」
ハガネに乗り込んでいるのはSRXチーム、そしてラトゥーニ、イルム、マサキ、リョウトとリオと言った元々のハガネ隊のクルーに戦闘指揮官としてキョウスケ、そしてギリアムとラドラの元教導隊の2人を加えたメンバーだった。本来ならば、クスハもこれに同行する予定だったが、エアロゲイターに洗脳を施された事を考え伊豆基地へ待機となっている。
「マグマ原子炉の摘出って……そんな事をして大丈夫なのか?」
メカザウルスの動力炉であるマグマ原子炉の摘出が命令として下され、リュウセイ達に困惑の色が広がる。
「確かに不安はあると思うだろうがマグマ原子炉の膨大なエネルギーは魅力だ。それにこっちにはラドラが居る、頼めるな?」
「ああ、メカザウルスと言うのは姿こそ様々だが基本的な構造は大差ない。落ち着いて対処すれば誘爆の心配も無くマグマ原子炉を回収できる」
メカザウルスをただ倒すのではなく、その動力炉の摘出と言う命令にブリーフィングルームにいる全員の顔の困惑の色が広がる。
「マグマ原子炉の確保についてはレイカー司令とダイテツ艦長の命令だ。その理由はギリアム少佐とラドラ元少佐のゲシュペンスト・リバイブにある」
ジョナサンを初めとしたテスラ研の研究者、そしてマリオンによってより改造されたゲシュペンスト・リバイブ。その性能は折り紙つきであり、現行機……しかも特機にも迫る性能となれば圧倒的な物量差を持つエアロゲイターとの戦いに運用したいと思うのは当然の事だ。
「上層部はメカザウルスとPTを混ぜる事を決めたって事か?」
「現行のPT及び特機を超える機体を作るという計画だが、これはメカザウルスの個体数が圧倒的に少ない以上勿論机上の空論だが、爆発的に機体性能を高める事が出来るとなればそれを試す必要があるのは判るだろう?」
量産型ドラゴンを初めとするとエアロゲイターの戦力は膨大だ、しかもそれが群を成してやってくる。今までの機体では出来る限界があると言われれば、それが嫌だ、危険だと言ってエアロゲイターと戦う事が可能な技術を失うわけには行かないのだ。
「納得してくれた様で何より、では炉心摘出の話をしよう。狙うのは大型メカザウルス……つまりバド以外のメカザウルスだ。バドは飛行の為に原子炉も小型化されている、バドの炉心は摘出しても旨みが少ない。摘出するのは大型の陸上型メカザウルスからだ」
リクセント公国に向かうまでの間、ラドラによるメカザウルスと戦う為の方法、そしてマグマ原子炉の摘出方法。それらの講義が行われ、リクセント公国に辿り着いたキョウスケ達が見たのは予想外の機体の姿だった。
「お、おいおい、あれは……グルンガスト零式、それにヒュッケバインMK-Ⅱだぞ!?」
「クロガネが近くにいたと言うことか……だがこの場は幸運だった」
自衛の為の戦力しか持たないリクセント公国。正直辿り着く前に壊滅しているのではないかと言う不安は全員が持っていた。だが街を守っているグルンガスト零式や黒いヒュッケバインの存在に笑みを浮かべ、そして再び驚愕に目を見開いた。
「げ、ゲッターロボがもう1体いる! で、でもあの意匠は……」
「ヴァルシオンに酷似している」
リクセント公国にメカザウルスが出現した事、そしてゲッターロボと武蔵がいることは救援要請を出した兵士からの報告で判っていた。だがまさか2台目のゲッターロボが存在するなんて考えても居なかった。
「各員出撃準備、武蔵達と協力してメカザウルスを撃退する」
敵が出現しているのにのんびりと話をしている時間は無い、そう判断したキョウスケの命令によってハガネのPT達も次々と出撃し、メカザウルスとの戦いに参戦する。
「ゼンガー隊長。お久しぶりです」
「キョウスケか、エクセレンはどうした?」
「酒を飲んでいるので伊豆基地に置いて来ました」
キョウスケの言葉にゼンガーは小さく笑い、何をしているんだと呆れ声を出す。キョウスケに続いて、空中を浮遊する2機のゲシュペンストがゼンガーへと通信を繋げる。
「ゼンガー、元気そうだな」
「その大太刀、素晴らしい品だな。俺でも判るぞ」
「ラドラ、それにギリアムか、それはゲシュペンストの新型か?」
「ゲシュペンスト・リバイブ、旧西暦と新西暦の技術のハイブリットだ。急造の改造機だが……今の機体にも引けを取らないと自負している」
「ゲシュペンストが旧式ではないと証明するのさ」
顔馴染みのラドラとギリアムの言葉にゼンガーとエルザムも笑みを零す。教導隊として乗り込んでいたゲシュペンストが時代の流れに埋もれていくのを悲しく思っていたのはゼンガーとエルザムも変わりは無い。それが新型として改造されたと聞いて、嬉しく思うのは当然の事だった。
「武蔵、その隣のゲッターロボは……」
「ふふふ、ゲッターロボVがどうかしたかね? リュウセイ君」
「や、やっぱりアンタか!? ビアン・ゾルダークッ!」
「おいおい、司令官が戦場に出てどうするよ」
「はーははッ! なんだジョナサンの子供にしては随分と真面目だな。それに私はもうDCの総帥でも、EOTI機関の所長でもない。ただの地球の未来を案ずる1パイロットに過ぎない」
楽しそうに笑うビアンだが、その声に満ちているカリスマ性にいっぺんの揺らぎもなく、話を聞いていたイルム達はどの口がと笑う。
「ま、そう言うわけでゲッターVにはビアンさんが乗ってるぜ、リュウセイ」
「……いや、どういうわけだよ」
「細かい事は気にすんな、今やる事はメカザウルスを倒す事……って言いたいんだが、どうもそうもいかねえ見たいだなあ」
武蔵の言葉の意味をリュウセイ達が理解するよりも早く、ハガネから警報が鳴り響いた。
『空間転移反応あり! 45秒後に空域に出現しますッ!!』
ハガネからの通達からすぐリクセント公国上空からドラゴンが降下してくる、それに続いてナイト。そして少数のバグスとソルジャーが地響きと共に着地する。
「ヒャーッハハハハッ! ゲームスタートだぜえッ!!」
「……」
リクセント公国でのメカザウルスとの戦いは、エアロゲイターの参戦によってより混迷を深めていくのだった……
第71話 リクセント公国 その3へ続く
いい所で切れそうだったので今回は少し短いですが、ここで終わりにしたいと思います。ちょっと前回で頑張りすぎたのと、ここから戦闘だと長くなりそうなので丁度いい此処で話を切りたいと思います、次回は乱戦の状態で、色んな視点で話を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い