進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第72話 リクセント公国 その4

第72話 リクセント公国 その4

 

赤いカーペットに白亜の壁、そしてシャンデリア。一般市民が想像する贅と言う物がふんだんに使われた通路で武蔵とリュウセイは身体を小さくしていた。

 

「武蔵、俺場違いだと思う」

 

「何言ってる、そんなの……オイラも一緒だ」

 

パイロットスーツではなく、連邦の制服だからまだリュウセイは救いはある。だが武蔵は剣道の胴、工事現場のヘルメット、マント、背中に日本刀と浮いている所のレベルではない。リュウセイもそれを感じ取ったが、空気を読んでそのことは口にしなかった。

 

「そう言えばビアン博士の乗ってたゲッターロボって新しく作ったのか?」

 

「いや、浅間山の地下の早乙女研究所から持ち出した奴だ。それをビアンさんが改造して、修理したのがゲッターロボVだ」

 

「そのVの略なんだ?」

 

「ヴィクトリーとヴァルシオンらしい……」

 

「そのネーミングセンスいいなあ」

 

キラキラと目を輝かせるリュウセイに武蔵はきっとビアンと話があうんだろうなあと遠い目で思っていた。

 

「お、お待たせ……」

 

おずおずとしたラトゥーニの声にリュウセイと武蔵は同時にその声の方に視線を向ける。

 

「お、可愛いな。よく似合ってるじゃないか」

 

「そ、そうかな……」

 

紫のドレス姿……武蔵は当然知るよしも無いが、それはゴシックロリータと呼ばれる分類のドレスで、以前ラトゥーニが着ていたドレスよりもよりふわふわとした物だった。

 

「……リュウセイ?」

 

自分の隣のリュウセイに視線を向けると目を丸くして、顔を赤くしているのに気付き武蔵は軽くその脇に肘打ちを入れる。武蔵は決して鈍感では無い、ラトゥーニが欲しているのは自分の言葉では無くリュウセイの言葉だと気付き、思考停止ししてるなよと突っ込みを入れた。

 

「……物凄い似合ってる、凄く可愛いと思う」

 

「そ、そうかな……変じゃない?」

 

「全然ッ! 物凄く似合ってる」

 

「嬉しい」

 

物凄く甘酸っぱい雰囲気のリュウセイとラトゥー二を見て武蔵は満足そうに頷いた。

 

「では、皆様、こちらへどうぞ。シャイン様の謁見の準備が整いました」

 

殆ど強引に連れて来られたルダールに武蔵は若干引き攣った顔をしたものの、その言葉に頷いて応接間らしき扉の前に立った瞬間。

 

「武蔵様ーッ!!」

 

「あぶねえッ!!」

 

扉が開き、凄まじい勢いで小柄な影が飛び出してきた。武蔵は剣道の胴を着ているとは思えない俊敏な動きで飛び出してきた影を受け止める。

 

「漸くお会い出来ましたわ。リクセント公国王女シャイン・ハウゼンですわ!」

 

「こりゃご丁寧にどうも、巴武蔵だ」

 

「ムサシ・トモエですか?」

 

「あー武蔵で良いよ。王女様」

 

自己紹介を交しながら武蔵は抱きかかえていたシャインを床の上に降ろす。

 

「ラトゥーニ! ラトゥー二も元気そうね。嬉しいですわ」

 

「は、はい、王女も元気そうで何よりです。」

 

弾ける笑顔のシャインとぎこちないながらも笑みを浮かべるラトゥー二を見て、武蔵は穏やかに微笑む。こうして見ると揃いのドレスの事もあり、姉妹に見えなくも無いな。武蔵はのほほんとそんな事を考えていた。

 

「それでリュウセイ曹長もお元気そうで、まぁよくきてくださいましたわ。ささ、武蔵様、ラトゥー二。お茶の準備が出来ていますのでこちらへ」

 

「え、あ、ま、待ってください。王女」

 

ラトゥー二の手を引いて応接間に入っていくシャイン、武蔵は苦笑いを浮かべながらリュウセイに視線を向ける。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だけどよ、俺の扱い雑くない?」

 

武蔵はシャインの鋭い視線が自分の友達が好いている男を見極めてやると言わんばかりであるのに気付いていたが、誤魔化すような苦笑いを浮かべることしか出来ないのだった……。

 

 

 

 

武蔵がシャインと紅茶を飲みながら世間話をしている頃。クロガネでは大変な事が起きていた……

 

「これ解体して良いんですの!? 本当に貰いますわよッ!」

 

「ああ、大丈夫だよ。マリオン博士、テスラ研に送った余りになるが、是非有効活用して欲しい」

 

「ええ、これがあればMK-Ⅲはもっとパワーアップ出来る」

 

クロガネに研究用として残されていた状態の良い3体のプロトゲッターの内2機をハガネに譲渡すると言ったら、データ取りの為にハガネに乗り込んでいたマリオンがエキサイトしてしまったのだ。

 

「人工筋肉、それにエネルギーの効率的な循環……凄い、旧西暦にこんな機体の理論が合ったなんて……ま、待って! 待ってください!

 ラドム博士ッ! 解体! ここで解体しないでください」

 

「うるさいですわッ! 解体は鮮度が命なんですわよッ!?」

 

「誰か! 誰かラドム博士を止めるのを手伝ってくれッ!! ここで解体されたら貴重なサンプルが無くなるッ!!」

 

マリオンを止めようと必死なロバートの叫び声にハガネの整備班も加わるが、完全に研究魂に火が付いているマリオンは体格で上回るロバートを引きずってでもプロトゲッターに向かおうとする。

 

「ほほう……これがマグマ原子炉、これを改造してあの新型ゲシュペンストの動力にしているのだね?」

 

「ああ。マグマ原子炉の熱とプラズマジェネレーターの技術の併用だ」

 

「なるほどなるほど……実に興味深い」

 

「俺としてはお前が複製したゲッター炉心、その話を聞きたい所だ」

 

「ふふふ、構わないともただ、私のほうも炉心への理解はさほど深いわけではない。今は安定してゲッター合金を精製するラインに回している」

 

「ゲッター合金の安定した製造ライン……可能ならば少し分けてもらうことは可能か?」

 

「勿論だとも、少し待ちたまえバン大佐に連絡していくつか伊豆基地に運搬しよう」

 

「すまない、とても助かる」

 

軽量で恐ろしい柔軟性と強度を持つゲッター合金は加工の難易度さえクリアできれば今まで机上の空論だった兵器や、武器の開発も可能になる。オペレーションSRWまで時間が無いが、可能な限りの戦力UPにゲッター合金を求めるのは当然の事だった。

 

「その代わりに私にあの新型ゲシュペンストの解析データとフライトユニット、それとアーマリオンの図面を頂きたい物だが?」

 

「強欲だな、ゲッター合金だけでそれだけの情報を得れると思っているのか?」

 

プロトゲッターを解体しようとするマリオンとそれを止めるロバートと背後が地獄絵図になっているにも関わらず、ビアンとラドラは互いに悪い笑顔を浮かべて交渉を始めていた。

 

「ゲッター合金の加工方法はどうかね?」

 

「それは魅力的だな、ではそれと新型ゲシュペンストの情報公開だ」

 

「中々強かだな、しかしそれだけの価値があるのかね?」

 

「勿論だとも、俺は元恐竜帝国、メカザウルスの技術が多数組み込まれている」

 

「……旧西暦と新西暦のハイブリットか、良いだろう。それと加工技術の交換だ、では私は続けて新型グルンガストの設計図だ」

 

「それを切られたらこちらは両方出すしかないだろう?」

 

「ふふふ、手札は残しておくべきだよ。ラドラ君、君はまだ若い」

 

交渉……いや舌戦はビアンが一枚上手で、ビアンは新型ヒュッケバインの設計図を手元に残し、アーマリオン、そしてフライトユニットの設計図を手に入れていた。

 

「伊豆基地に戻ったら情報交換だ。時間が無いから急ごしらえの域を出ないが、新型の開発をして見ないかね?」

 

「俺はパイロットだ。マリオン達と話をするがいい」

 

これ以上自分の情報を切る事は無いと言わんばかりにラドラは背を向けてしまう。その姿にビアンはまだまだ若いと楽しそうに笑っていた。

 

「ビアン博士、ダイテツ艦長との会談の準備が出来ました。どうぞリクセント城へ」

 

「ああ、準備が出来たのかね。では行くとしよう」

 

テツヤに呼ばれビアンは格納庫を後にする。勿論その背中にはマリオンの暴走を止めようとするロバートの悲鳴が響き続けていた事は言うまでも無い……。

 

 

 

 

ハガネでマリオンが暴走しているなんて夢にも思っていない武蔵達はと言うと、リクセントの街の観光をしていた。

 

「どうですか、武蔵様。リクセントの街は?」

 

「明るくて活気に満ちてて良い街だと思うよ」

 

「そう言って貰えるととても嬉しいですわ」

 

武蔵達が望んだ訳ではない、シャインがどうしても武蔵に街を案内すると言って聞かない為仕方なしに街の観光に来ていた武蔵だが、やはり明るいシャインの人柄としてシャインを慕う住人の声で徐々に街の観光を楽しみ始めていた。

 

「本当ならば海の方にもご案内したいのですが……今は危ないそうなので」

 

「いや、良いよ。ここまでで本当に楽しかったからさ」

 

「そうでしょうか?」

 

不安そうなシャインの頭を武蔵は撫でながら本当さと笑い、しゃがみこんでシャインと目を合わせる。

 

「オイラは街とか見てる余裕が無かったからさ、今日案内してもらえて本当に楽しいよ」

 

「本当ですか? 武蔵様」

 

武蔵様の言葉に武蔵は顔を顰めてしまい、シャインはやっぱり楽しくなかったですか? とますます不安そうな顔をする。

 

「いや、違うよ。本当に楽しかった、これは嘘じゃない。でもさ、オイラ様って言われるのは好きじゃないんだよ。王女様」

 

「あ……」

 

自分も王女様と言われ、壁があるように思えたシャインは違うと言えずにドレスの裾を掴んで俯いてしまう。武蔵はそんなシャインの頭を撫でながら優しく声を掛ける。

 

「普通に呼んでくれたらいいんだよ。オイラは様って付けられるほど偉い人間じゃないからさ」

 

「……じゃあ、じゃあ……武蔵……さん?」

 

「うんうん、そう言う感じで良いよ。シャインちゃん」

 

様付けや王女と呼ばれなれているシャインにとってちゃん付けはとても斬新な呼び方で、そして親しみが感じられた。

 

「はい、では武蔵さんと呼びますわね」

 

「うんうん、それで良いよ。シャインちゃん」

 

あちこちにいるリクセントの近衛兵は武蔵とシャインのやり取りを見て、目を押さえていた。王女と言う責務にがんじがらめにされ、表情の固いシャインがとても楽しそうに微笑んでいる。その姿に思わず涙を浮かべてしまったのだ……それでなくても武蔵は銃弾やビームの飛び交う戦場でコックピットから飛び出してシャインを救った。それに加えてメカザウルスの襲撃時にも助けに現れた武蔵とゲッターロボは既にリクセント公国での絶大な支持と人気を手にしていた。

 

「……リュウセイ」

 

「ごめん、もうちょっと……」

 

武蔵とシャインが微笑ましいことになっている反対側ではリュウセイがガシャポンの前にしゃがみこんでいて、ラトゥー二がその服を引いていたが、お目当てではないのか動く気配が無い。

 

「武蔵さん、ちょっと待っていてくださいまし」

 

そしてそんなリュウセイを見たシャインが怒り顔で駆けて行き、リュウセイの尻を蹴り上げる。そしてそのままリュウセイに説教を初め姿を見て、武蔵は楽しそうに笑い声を上げるのだった。

 

「また会いに来てくれますか?」

 

「全部終わったらな。シャインちゃんも元気で」

 

だが何時までも武蔵達はリクセント公国にいるわけにはいかない、まだエアロゲイターとの戦いは終わっていないのだ。

 

「約束ですわよ」

 

「ああ、約束する」

 

しゃがみこんでシャインと指きりげんまんをする武蔵。シャインは名残惜しそうに指を離し、そのまま一歩後ろに下がった。

 

「武蔵さん、ラトゥーニもお元気で、リュウセイはもう少し乙女心を学びなさい。いいわね」

 

「ふあい……」

 

尻を蹴られ説教をされたのにまた玩具屋のショーケースの前から動かなかったリュウセイはシャインの往復ビンタで両頬を真っ赤に染めながら、何度も頷いた。どうも、この1日でリュウセイはシャインに苦手感情を抱いたのは間違いない。

 

「ラトゥー二ももう少し積極的な方が良いですわ」

 

「……お、王女。そ、そういうのは」

 

リュウセイの隣でわたわたしているラトゥー二とよく判っていない様子のリュウセイ。シャインはそんなリュウセイをキッと睨みつける、小さく呻いて後ろに下がるリュウセイ。完全にシャインに苦手意識を抱いてるなと武蔵は苦笑し、シャインに手を振りリュウセイとラトゥー二と共にハガネへと引き返していくのだった。

 

「どうかご無事にお戻りください、武蔵様」

 

遠ざかって行くクロガネとハガネ、その飛んでいった方角にシャインはその姿が見えなくなっても腕を組んで無事を祈り続けているのだった……。

 

 

 

「壮観ですな、スペースノア級が二隻もあると言うのは」

 

「そうだな」

 

ハガネと共に帰還したクロガネを見つめながらレイカーは思う、ここにシロガネもあればオペレーションSRWの成功率も更に上がっただろうと……だがブリッジが大破したシロガネの修理には時間を有する。とてもではないが、修理をしている時間はなかった。

 

「オペレーションSRW発動まで後2日……どこまで私達は力を蓄える事が出来るだろうか」

 

「大丈夫です、レイカー司令。ハガネとヒリュウ改、そしてクロガネならばきっとやってくれるはずです」

 

クロガネのお陰か、攻撃が分散され準備する時間はまだ僅かに残されていた。2日……決して長くない、その2日間が……地球の明暗を分ける最後の2日間となるだろう。

 

「サカエ、クロガネをドッグに収納後各員に休息を伝えてくれ。此処からは私達の戦いだ」

 

残り2日間……残された時間をフルに使い、ハガネ達を万全な状態で宇宙へと上げる。それがレイカー達に出来る最後の事だった、リクセント公国にハガネ、そして東京にヒリュウ改を分散して送った後。レイカーは各基地に連絡を取り、オペレーションSRWに参加出来ない兵士を全て伊豆基地に集めた。それはエアロゲイターの偵察や妨害行動でオペレーションSRWに参加するメンバーの体力や気力を消費させない為のレイカー、そして連邦軍の総意であった。自分達は参加できないが、それでも地球を守る為に戦うのだと連邦の兵士の士気は勿論高い。

 

「レイカー司令、クロガネより入電。ビアン・ゾルダーク博士が会談の席を設けて欲しいとの事です」

 

「了承だと返事を返してくれ、すぐに準備を整える」

 

ビアンの行ったことは決して正しくは無い、恨まれてもいるだろう。だがそれ以上に異星人の脅威と戦うにはビアンの頭脳が必要だとレイカーは考えていた。オペレーターにすぐ了承と返事を返すように伝え、レイカーは総司令部を後にする。ダイテツを……ビアンを自らで迎える為に、それもまた残された者が出来る最後の戦いに向けての心配りだった。

 

「レイカー司令、グラスマン議員が動く可能性もありますよ」

 

「それも承知だ。だが積極的に協力してくれるのならば、それを拒む理由は無い」

 

ハガネとヒリュウ改のクルーを休ませることが出来るのもグライエンの力が大きい、鷹派の筆頭のような男だがその権力は莫大だ。それを利用しない手は無いとレイカーは考えていた。

 

「レイカー・ランドルフ自らが来てくれるとは驚きだよ」

 

「こうして反乱を起こしたお前と顔を見合わせることになった私も驚きだよ」

 

互いに顔を見合わせ笑いあう、敵同士であった。だが今はその敵同士であっても力を合わせなければ地球を守る事は出来ない――レイカーもビアンもそれが判っている。今は手段も方法も選んでいる場合ではない、地球を守る為に、そしてそこに住まう人々を守る為に、地球は1つに団結しなければならないのだから……。

 

「ここから先は通行止めだ。大人しく滅ぼされるのを待つが良い」

 

だが地球を守りたいと思うのはレイカー達だけではない、宇宙の闇に紛れ翼を広げるアストラナガン、そしてイングラムもまた地球を守る為に、そしてこれから地球に降りかかるであろう試練の事を考え人知れず、誰に感謝されること無く孤独な戦いを続けているのだった……

 

 

第73話 最後の休息 その1へ続く

 

 




本来ならこのシナリオの後に宇宙編に入りますが、ちょっとオリジナルシナリオを2つほど入れさせてもらいます。その後は最終話に向けて話を進めていこうと思いますので、最終話の前の最後のほのぼのと言う事でよろしくお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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