進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第75話 亡霊と亡霊 その1

第75話 亡霊と亡霊 その1

 

伊豆基地から飛び立ったハガネ、クロガネ、ヒリュウ改は宇宙艦隊の部隊配置が済むまで陽動を兼ねてL5宙域を進んでいた。スペースノア級が2隻、そしてその名の通りヒリュウ級汎用戦闘母艦のヒリュウ改はその戦力から3隻の内1隻でも連合艦隊に合流するべきだと言う意見もあった。だがヒリュウ改は前身のヒリュウがエアロゲイターによって破壊された、そしてクロガネはDCの部隊と言う事でやはり諸手を挙げて歓迎するものはいない、そしてハガネはオペレーションSRWの中軸を担う、SRXそしてトロニウムバスターキャノンを要する事から疲弊する訳には行かないと言うことになり、3隻による陽動作戦へと回されていた。そしてその代わりと言っては縁起が悪いが、南極で大破したシロガネもブリッジを修復され、連合艦隊へと配属される事が決定し、スペースノア級3隻がこの作戦に参加することになっていた。

 

「ビアンさん、何してるんです?」

 

「ん? ああ、ジョナサンから頼まれ事だ。私も無理な事を頼んだし、これくらいはな」

 

クロガネの艦長はバンが務め、副艦長はリリーだ。あの2人ならば万全の指揮をとれると言う事で、ビアンは安心してゲッターVのパイロットとして活動出来ている。

 

「それで何を頼まれたんですか?」

 

「ヴァルシオーネの設計図が欲しいらしい」

 

「……なんでそれを欲しがったんですかね?」

 

ゲッター合金や炉心の設計図なら欲しがっても納得なんだが、何故あんな色物を欲したのか武蔵には理解出来なかった。

 

「なんでもリクセント公国からの依頼らしい」

 

「あの国大丈夫か? シャインちゃんが心配だな」

 

食堂での話だったので武蔵がシャインちゃんと親しげに呼んだ事にユーリアが僅かに顔色を変えたが、武蔵もビアンもそれに気付かない。

 

「まぁ大丈夫だろう、式典用の機体が欲しいらしい」

 

「そうですか、それでビアンさんは何を頼んだんですか?」

 

「私の考える究極のスーパーロボットの設計図と完成している部分までを預けて、完成させてくれと頼んだ」

 

「必要になるって事ですか?」

 

「可能性はゼロじゃないからね」

 

異星人の襲撃が1度で終わるとはビアンは考えていなかった。本当ならばアイドネウス島が陥落した段階でテスラ研に託す予定だった「ダブルG」それを最後の最後まで手を加え、そして設計を続けた。本当ならば、既に完成している筈だったがゲッター線、ゲッター合金を手にしたことで改良を続けた結果フレームしか仕上がらず、それをテスラ研にビアンは託したのだ。

 

「でも、こんな戦いなんかこれで終われば良いって思っていますよ」

 

「そうだな。私も……そう思うよ」

 

戦いなんてこれで終わってしまえば良い。平和を思う武蔵は心からそう思い、ビアンもまたテスラ研に残したダブルGも完成する事無く、平和になれば良いと思っていた。だが1度戦争が起きたなら、2度、3度起きる可能性もある。楽観視する事はビアンには出来なかったのだ。もしもエアロゲイターよりも強力な異星人が現れたら? もしもその場にビアンや武蔵がいなかったら? 様々なもしもがある以上、それに備えないという選択肢はビアンの中には存在していなかったのだ。

 

「警報!? エアロゲイターか!」

 

「落ち着け、話を良く聞くんだ」

 

突如クロガネに鳴り響いた警報に武蔵は弾かれたように立ち上がる。今にも格納庫に駆けて行きそうな武蔵にビアンが制止の声を叫ぶ。慌てて動きゲッターロボが大破するもしくは武蔵が負傷する、そんな展開は阻止しなければならない。直情的な武蔵を止められるのはビアンとエルザム、そしてゼンガーと決して多くはいない。だからこそビアンは即座に武蔵を止めたのだ。武蔵とゲッターロボはオペレーションSRWの要だ。仮に敵襲であってもそう簡単に動かす事が出来ない。ゲッターロボを操れるのは武蔵しかいない、換えのいない人材なのだから。

 

『月のマオ社がエアロゲイターの強襲を受けています、パイロットは出撃準備を。繰り返します、月のマオ社がエアロゲイターの強襲を受

けています、パイロットは出撃の準備を急いでください』

 

リリーの艦内放送が響く。そしてその放送を聞いてビアンも顔色を変えた。

 

「ビアンさん、マオ社って何ですか?」

 

「PTの開発メーカーだ。あそこを落とされるとPTの製造も修理も厳しくなる」

 

「なら、行くしかないでしょう。オイラが行きます」

 

「……いや、私も「ビアンさんはまだゲッターVの最高加速に耐えられないでしょう? ゲッターで先に出ます。それに宇宙服のテストもしたいですしね」

 

武蔵はそう笑うと食堂を飛び出して行った。だがビアンもその背中を見つめているだけではなく、テスラ研に送る予定だった資料の保存を行い、自らも格納庫へと走るのだった……。

 

 

 

 

 

月のマオ社のオペレーター室ではピンクの髪の勇ましい顔付きの女性と痩せ気味の男性がゆっくりと進軍してくるゼカリア、そしてポセイドンの姿に顔を歪めていた。

 

「エアロゲイターめ、何故今になってこんな所へ……?」

 

今まで攻撃を仕掛けてこなかったエアロゲイターの突然の強襲にマオ社社長である「リン・マオ」は驚くのと同時に何故と云う事を必死に考えていた。

 

「社長、これ以上は防ぎきれませんぞ!」

 

ユアン・メイロンがマオ社に配置されていた防衛装置が破壊されているのを見て、悲鳴にも似た声で報告する。その報告を聞いて、リンはこの場をどうやって切り抜けるかを必死に考えていた。

 

「全社員を地下シェルターへ移動させろ。それから、連邦軍の対応はどうなっている?」

 

「ヒリュウ改とハガネがこちらへ急行中とのことです」

 

この宙域の近くに居たヒリュウ改が向かってきてくれるとの言葉に僅かに希望が芽生えるが、それと同時に複雑な気分にリンはなっていた。ハガネには喧嘩別れしたままの恋人であるイルムがいる。助けに来てくれるのは嬉しいがやはり浮気性のイルムに複雑な気分になるのは当然の事だった。

 

「常務、使える機体はあるか?」

 

「機体って……まさか、社長自ら出撃なさるおつもりですかッ!?」

 

ハガネとヒリュウ改が応援に来てくれるとはいえ、その間もエアロゲイターの進軍は続いている。ただ待っている等と言うことはリンには出来ない事だった。

 

「ああ。まだ腕は錆つかせていないつもりだ」

 

かつてはイングラムの下でイルムとPTXチームとして活動していたリンだ、そのパイロットとしての腕前は並の連邦の兵士よりも遥かに上だ。だがそれを知っていても、ユアンはその指示に従う事が出来ないでいた。

 

「いけません。社長にもしものことがあったら我が社は……」

 

「ここで敵を防がなければ、セレヴィス・シティに被害が及ぶ!」

 

マオ社をどうするつもりですかといおうとしたユアンだが、リンが出撃に踏み切ったのはこの先にある月の首都。そこにエアロゲイターを進ませてはいけないと云う思いからだった。まだ避難が間に合っていないセレヴィス・シティにエアロゲイターの軍勢を向かわせるわけには行かなかったのだ。

 

「ふう……うちの娘と同じで、社長も頑固ですから……これ以上言っても無駄でしょうねえ」

 

自分の反対を押し切って連邦軍に所属した娘、リオ・メイロンの事を思い出し言葉でリンを止める事が出来ないと気付き深く溜め息をはいた。

 

「フッ、すまないな。それで、使える機体は?」

 

「追加生産した量産型ゲシュペンストMk-Ⅱは全て連邦軍に納品済み……ヒュッケバインMk-Ⅱの試作2号機はDC戦争中、統合軍にやむなく渡してしまいましたし……3号機は軍のトライアルに回ったまま。あとの新型はまだ開発中……ううむ、すぐに出せる機体となると……」

 

リンの指示に従い、今すぐに出撃準備が出来る機体を考えるユアンだが、今のマオ社にすぐ出撃させれる機体が無いと言うのは、マオ社の機体製造ラインを知るユアンの表情を見れば明らかだった。

 

「ならば、ヒュッケバインMk-Ⅰを使う」

 

それならばマオ社の地下に封印されている初代ヒュッケバインの封印を解く事をリンは決めた。だがその言葉にユアンは驚きに目を開いた。

 

「ま、まさか、008Lを!?」

 

初のEOT搭載型PTヒュッケバイン008Rはその起動実験で暴走し、基地を1つ吹き飛ばしライの片腕を奪った。そしてヒュッケバインにはバニシング・トルーパーという不名誉な渾名がつく事になった。その同型機を使うというリンにユアンは顔色を変える。

 

「ああ。確か、あれは起動可能な状態で封印をしてあったはずだ」

 

「き、危険です! 社長は同型機の暴走事故をお忘れですか!?」

 

もし機動に失敗すればとユアンは説得を試みたがリンの決意は固かった。

 

「ブラックホールエンジンはすでに改修済だ。ここで時間を稼ぐにはあれを使うしかないだろう?」

 

「わ、わかりました……5分で準備します」

 

もう止められない、ユアンは諦めの境地でマオ社の地下に封印されているヒュッケバイン・008Lのエンジンを遠隔操作で入れ、リンは出撃する為に格納庫へと走った。

 

「ヒュッケバインに乗るのはPTXチーム時代以来だな」

 

ヒュッケバインのコックピットの中でリンは苦笑する、あの時はヒュッケバイン009だったが、それでもコックピットのレイアウトはさほど変わっていない。昔の事を思い出し、笑みを浮かべてしまうのはしょうがない事だった。

 

『社長、こちらからのエネルギーケーブルをパージします。本体動力源の起動をお願いします』

 

オペレーター室に残ったユアンの言葉に頷き、メインエンジンであるブラックホールエンジンの起動を始めるリン。

 

「了解。ブラックホールキャノンの準備も頼む」

 

『すでに使えるようにしてあります。どうかご武運を……』

 

「ああ、判っている。よしッ! ヒュッケバイン、起動する!」

 

そして長い時を経て凶鳥がその産声を上げた、起動したヒュッケバインのコックピットでリンを眉を顰めた。

 

「やはりおかしな機体が混じっているな」

 

バグスやバードに加えて、その背後にいる口髭のような部位を持つ3つ角の赤い特機、すらりとしたシルエットの青い特機、そしてずんぐりとした背中にミサイルを背負っている黄色の特機。それらは2機ずつ存在し、様子見なのか後ろに控えて動く気配が無い。

 

「まぁ良い、引きずり出してやればいいだけの事だ」

 

ビームソードを抜き放ち突撃してきたバグスを両断し、頭部のバルカンでビームライフルを構えようとしたソルジャーの腕をピンポイントで弾く。社長をしているがやはりエースパイロット、その動きと操縦の動きに澱みも不審な挙動もなく、見る見る間にバグスやソルジャーを破壊していく。型番的には旧式にはなるがそれでもブラックホールエンジンを搭載するヒュッケバインのパワーは凄まじいの一言に尽きる。この調子ならば、ハガネとヒリュウ改が辿り着くまで時間稼ぎは出来る。見ていたユアンもそして操縦しているリン自身もそう思っていたとき、今まで沈黙していた黄色の特機が突然動き出した。

 

「これは……電磁ネットか!」

 

突き出した両腕から射出されたネットを後退することで回避し、反撃にとビームライフルを放つ……だが、その強固な装甲に弾かれ、ビームライフルは霧散する。

 

「やれやれ、急に動き出したと思ったらこれかッ!!」

 

「!!!」

 

上空から急降下してくるなり、細身のドリルをフェンシングの様に突き出してくる青い特機にリンは舌打ちする。その動きは鋭く、そして黄色の特機との連携で確実にヒュッケバインの動きを狭めてくる。

 

『社長ッ!』

 

「大丈夫だ! 心配……何ッ!?」

 

月の中を掘り進んできた青い特機のミサイルが背中に直撃し、たららを踏んだヒュッケバイン、そしてその目の前には黄色の特機が拳を固く握り締めている姿があった。歯を食いしばり、その衝撃に備えようとした時、それは現れた。

 

「ゲッタァアアビィィーームッ!!!!」

 

上空から飛来する何条ものビーム、それに気付いた黄色が飛び退いたが、それは余りに遅かった。

 

「おらあああああーーーッ!!!」

 

目の前で黄色い特機の頭部に何かが突き刺さり、拉げた特機の身体からオイルが噴出し、何かが一閃され上半身と下半身で両断された黄色の特機が爆発する。

 

『間に合ったみたいで良かった、助けに来たぜ』

 

そこにいたのはブリキ細工のような出来損ないのロボットと言っても良い、だが信じられない力強さに満ちた巨大な特機の姿があったのだった。

 

 

 

 

ビアンが製作した宇宙用のパイロットスーツの中で武蔵は安堵の溜め息を吐いていた。宇宙と言う舞台ではゲッター3は使えず、必然的にゲッター1か2になる。初めての宇宙での操作に戸惑っていたが、それでも間に合ったという事に心底安堵したのだ。

 

『お前は誰だ? ハガネのパイロットか?』

 

エルザムの乗るヒュッケバインに似たPTからの接触通信に武蔵は驚いた。勇ましい声ではあるが、それは女性の声だったからだ。

 

「えっと、オイラは武蔵。クロガネのパイロットだ」

 

『クロガネ? それはDCの旗艦の筈だが?』

 

武蔵は短い会話だが、このパイロットが苦手だと思っていた。その責めるような声としっかりと説明しろといわんばかりの鋭い声に女教師の姿が武蔵の脳裏に過ぎっていた。

 

「すんません、オイラ難しいことは判らないと言うか説明できないんで、後でダイテツさんかレフィーナさんに聞いてください」

 

『……味方と言う事で良いのか?』

 

「それは間違いないです、後ろのドラゴンとかはオイラが担当します。えっと……『リンだ、リン・マオ』じゃあリンさんは他の機体をお願いしますッ!」

 

リンの返事を待たずに武蔵はゲッターを走らせ、ゲッタートマホークでドラゴンに切りかかる。

 

「!」

 

「おせえッ!!」

 

ドラゴンがダブルトマホークを構えるが、武蔵の言う通り遅すぎた。擦れ違い様の一閃でドラゴンの腕は切り落とされ、顔面にはゲッター1の左拳が突き刺さっていた。

 

「トマホークブゥゥメランッ!!」

 

「!?」

 

ゲッター1の上を取っていたライガーに手にしていた斧を投げ付け、半壊しているドラゴンが手に持っていたダブルトマホークを奪い取り、頭部が潰されたドラゴンを唐竹割りにする。

 

(嫌な予感がする)

 

月に降り立ったと同時にゲッター1のゲッター線メーターは一瞬で振り切っている。メカザウルスと戦った時のように、そして北京でゲッターロボが暴走した時のように……だがそれとは別に胸を焼き尽くすような焦燥感を感じていた。

 

(急がないと、大変な事になる)

 

何もかも手遅れになる、そんな嫌な予感がし、武蔵は速攻で量産型ドラゴン達を倒す事を決めたのだ。だが武蔵が月に降り立った時……すでに運命の歯車は回り始めていたのだった……

 

「ゲッターロボが月にいるねえ、スティンガー君」

 

「う、うんいるねえ! 我らの始まりの地にいるね!」

 

地球にいるコーウェンとスティンガーだが、ゲッターロボと武蔵が月にいることは感じていた。

 

「面白い事を思いついたんだ、あそこには同胞が1人だけいたよね?」

 

「うんうん、プロトゲッターに寄生して辛うじて生きている同胞がいたよね」

 

子供のような笑顔を浮かべるコーウェンとスティンガー。だがその目に浮かぶのは押さえ切れない殺意の色だった……。

 

「丁度良いじゃないか、少しだけ遊んであげようじゃないか」

 

「うんうん、遊んであげよう! 我らの始まりの大地でッ!」

 

月で行われたゲッター線の採集実験そしてプロトゲッターの起動実験、そこからインベーダーは生まれた。インベーダーは月がルーツである、それはこのフラスコの世界でも変わりはない。ゲッター線の濃度が低い新西暦でも、月だけはインベーダーのホームグランドであり、新西暦で唯一本来の力を発揮できる場所であった。

 

「我らの存在をこの世界に僅かでも刻もう!」

 

「か、かつて地球を支配した我らの力を見るがいいッ!!」

 

コーウェンとスティンガーの声に従うように、月の岩の中で眠っていたメタルビーストが何百年と言う時を越え、最早避けられぬ崩壊の定めを背負いながらも、自らの指導者の声に導かれ戦場へとその足を一歩踏み出すのだった……。

 

 

 

 

何かに突き動かされるように凄まじい勢いでドラゴン達を破壊していくゲッターロボ、巻き込まれないように距離を取りエアロゲイターと戦っていたリンのコックピットに通信が入る、それはリンが待ち続けていたものであった。

 

『社長! ヒリュウ改とハガネが来てくれました!』

 

ハガネ、ヒリュウ改、そしてクロガネがマオ社の上空に辿り着き、次々とPTを出撃させていく、そんな中ハガネから出撃したヒュッケバイン009から広域通信が入った。

 

『父様!』

 

「その声……! まさかリオか!?」

 

ユアンがその声を聞き違えるわけが無かった。喧嘩別れこそしてしまったが、愛しい娘の声をユアンが忘れる訳が無い。

 

『ええ、父様を助けに来たわ!』

 

勇ましい娘の声を聞いて元気そうで良かったと思うのと同時にユアンは頭を抱えていた。

 

「リオ……あれほどPTには乗るなと言ったのに……全く……お前は母さんに似て、言い出したら聞かないからな……」

 

『ちょっと、父様! 今はそんなことを言ってる場合じゃないでしょ!?』

 

エアロゲイターに囲まれていると言うのに的外れな事を言い出したユアンにリオの怒鳴り声が響き、ユアンとリオのやり取りを聞いていたハガネやヒリュウ改のPT隊は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「し、知らなかった……リオのお父さんって、マオ社の重役だったんだ……」

 

「あいつ、やっぱりいいトコのお嬢さんだったのか……」

 

「う~ん……こりゃ意外だな」

 

「意外で悪かったわね!」

 

失礼な事を言うタスクにリオの怒鳴り声が響く。頭に来ているのか広域通信に設定されたままであることにリオは全く気付いていない。

 

「でも、どうして今まで黙ってたの?」

 

「……特別扱いされるのが嫌だったから……」

 

お嬢様と言う事で特別扱いされるのが嫌だったとリオはぽつりと語り、努力を惜しまないリオの姿を知っているハガネのクルーはそれ以上リオがユアンの娘であると言う事に触れる事はなかった。

 

「む? あの機体は……」

 

「間違いない、ヒュッケバインだ」

 

マオ社の前に陣取りエアロゲイターと戦っているPTを見たギリアム、ラドラ、そしてライがその表情を変えた。

 

「……忘れはしない。俺の運命を変えた008Rの同型機……!」

 

「暴走事故を起こしたバニシング・トルーパーか」

 

ライは自らの悪夢であるヒュッケバイン008Lを見て顔を歪め、エルザムはヒュッケバインの忌み名を口にした。まさか、ここで初のEOT搭載のPTであるヒュッケバイン008Lを見るとは思っていなかった全員の顔が驚愕に歪んだ。

 

「ブラックホールエンジン搭載型のヒュッケバインMk-Ⅰ……どうして稼動しているの」

 

「何であんな物を使ってる!? 封印されてたんじゃねえのか!?」

 

ヒュッケバイン008Lを運用するべきだと口にしたが、それを却下された経験のあるカチーナは特にその事に怒りを露にした。動揺するものが多い中でイルムは冷静にヒュッケバイン008Lに通信を繋げた。アレを動かせるのはイルムの記憶の中では1人しか存在しなかったからだ。

 

「ああ。助けに来てやったぜ、リン」

 

「私はお前に助けを頼んだ覚えはない」

 

元々感謝されると思ってはいなかったが、あまりに鋭く、そして冷酷な響きを伴った声にイルムはグルンガストのコックピットで顔を引き攣らせた。

 

「なあ、一応弁解しとくけど……あの時のことは本気じゃないんだ」

 

「あの時の事? 何の話だ?」

 

ジョナサン同様浮気癖のあるイルムはマオ社の女社員と堂々とお茶をしている所をリンに目撃され、そこで喧嘩別れをしてしまっている。それでもイルムはリンを愛していたから、なんとか弁解をとあれやこれやと考えたし、コウキの言う通りメールも送った。だが今の今まで音沙汰なし、それにイルムは冷や汗を流しながら何とかリンを説得しなければと考えていた。

 

「今は無駄話をしている場合じゃない。一刻も早く敵を撃退しなければならない」

 

「ごもっとも。じゃ、久々に名コンビの復活といくか!」

 

その言葉の影に隠された戦闘が終わればと言うニュアンスを感じ取り、イルムは僅かに顔に笑みを浮かべヒュッケバイン008Lの隣にグルンガストを移動させるのだった。

 

「キョウスケ、それ大丈夫なの?」

 

「問題ない、シミュレーターは完熟している」

 

アルトアイゼン・改。ただでさえ色物のアルトアイゼンが更に色物になっているのを見てエクセレンが心配そうに声をかけるが、キョウスケは問題ないと返事を返す。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「ブリット、キョウスケが大丈夫と言っているのだ、余計な気をまわすな。そんな暇があれば、眼前の敵を打ち砕く事だけを考えろ」

 

重量や加速が劇的に上がっているだろうアルトアイゼン・改の姿にブリットが心配そうな声を出すが、それをゼンガーは一言で両断し、アルトアイゼンの方にグルンガスト零式・改を向かせる。

 

「やれるな?」

 

「問題ありません」

 

「ならばよしッ!」

 

確かにペダルの重量、操縦桿の重さ、ただでさえ劣悪なアルトアイゼンの操縦性が更に酷い物になっている事はキョウスケも判っていた。だが、この力が無ければエアロゲイターに勝つ事は出来ない、そのための力だ。

 

「各員、エアロゲイターを早急に殲滅し、連合艦隊に……」

 

「ぐおおおっ!!!」

 

キョウスケの指示が飛ぶ中、ゲッター1が吹き飛び、武蔵の苦悶の声が上がる。

 

「な、なんだよあれ!?」

 

「ば、化け物ッ!?」

 

「あれはゲッタービームだッ! だが……なんと醜悪な姿だ」

 

ゲッターロボを弾き飛ばしたのは真紅のゲッタービームだった。だがそのビームを放ったものはゲッターと似てもに似つかないおぞましい化け物の姿だった。

 

「ハアアアア……」

 

全体的なシルエットはゲッター1に似ている。だが、全身に黄色の目が浮かび、破損している部分からは黒いゴムのような身体が見えている。化け物としか言いようの無い何かは他の機体に目もくれずゲッター1へと走り出す。

 

「武蔵!」

 

『オイラの事は気にするなッ! それよりも自分達の事だけを考えてくれッ! 掛かって来やがれ化けもんッ!』

 

「シャアアアーーーッ!!!」

 

ゲッター1とゲッター1もどきの姿は月の向こう側に消え、それと入れ代わりのようにエアロゲイターの増援が現れたのだが……

 

「む!? あの機体は……」

 

「ゲシュペンスト……タイプS」

 

「やはり……か」

 

ドラゴン達を伴って現れたのは漆黒のゲシュペンスト。その識別コードはPT隊の各機体にしっかりと記録されていた。

 

「機体識別……ありだ。PTX-002ゲシュペンスト・タイプS……」

 

「ってことは、元祖パーソナルトルーパーのご登場ってわけ?」

 

0ナンバーは全てのPTの始まりであるゲシュペンスト、だがそれはここに存在してはいけない機体でもあった。

 

「ああ。あれは初代ゲシュペンストの2号機……だが、あの機体は確か……」

 

「そう。教導隊の隊長、カーウァイ・ラウ大佐と共に宙間試験中、行方不明になった」

 

行方不明になっている機体が目の前に立ち塞がる。それは想定出来ていたことだった……だがそうあってほしくないと願っていた事でもあった。

 

「イングラム少佐と同じく操られているって事ですか?」

 

「……そうならば良いが、恐らくそうではないだろう」

 

余りにも生き物としての反応が無い、それが何を意味するかキョウスケ達が判らないわけが無い。エアロゲイターに捕まった者の末路が、あのゲシュペンスト・タイプSの姿だった。

 

「キョウスケ、他の機体は任せる。あれは俺達が何とかする」

 

「ああ、誰でもない。私達がやらねばならぬ」

 

「お労しや、ラウ大佐」

 

「……ギリッ!」

 

「彼を過酷な運命から解放するのは、我々をおいて他にいない!」

 

これだけは誰にも代わらせる事は出来ない、ゼンガー達の意思を汲み取ったキョウスケは増援が送り続けられているマオ社の防衛を命じ、自らもそちらへ向かう。元教導隊の5人の前に立ち塞がる漆黒のゲシュペンスト――の中でガルインは殆ど自分の思い通りに動かぬ体に歯噛みをしながら5人に向かって、聞こえぬと判っていても言葉を投げかけた。自分を止められるのは、ゼンガー達しかいないと判っていたからだ。

 

「…ク……ウ……ウウ……コ……来イ……来……イ……イ……早……ク……ク……私ガ……壊レ……ル……前ニ………」

 

自分の意志に反して動き出すゲシュペンスト。もはや制御装置でもない、ただのゲシュペンストの起動キーと成り果てたガルイン、いやカーウァイは自分の自我が削られていくのを感じ、その意識は闇の中へと沈んでいくのだった……

 

「シャアアアーーッ!」

 

「メカザウルスでも鬼でもねえ、てめえは何だ?」

 

「シャアアアーーーッ!」

 

「ま、答えてくれると思ってねえが、お前はここで消えろッ!!」

 

そして武蔵もまた、誰も見ていない所で異形のゲッターロボとゲッターロボの戦いの幕を開けるのだった……。

 

 

 

第76話 亡霊と亡霊 その2

 

 




マオ社の話だと思いました?残念オリジナルでしたッ!ここで武蔵と教導隊は一時離脱、原作メンバーは連邦艦隊の元へ向かい、武蔵とかはオリジナルルートに入ります。亡霊はガルインとインベーダーでした、え?メタルビーストゲッター1なんていない?それは私の匙加減と言う事で、シナリオはここら辺から変更して多分他の要素は大胆にカットしていきます、具体的には次はジュデッカ戦だったりですね!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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