進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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IF世界最後の日編
プロローグ 迷い込んだ男達


プロローグ 迷い込んだ男達

 

その日この荒れ果てた大地の翡翠色の流星が降った。それが吉兆かそれとも凶兆を呼ぶか……それは誰にも判らない、ただ、再びの戦いの幕が再び上がろうとしていた。

 

「うっ……なんだぁ……!? な、なんでッ!?」

 

全身に走る激痛と凄まじい振動に武蔵は目を覚まし、生きている自分に困惑した。脳裏にはセプタギンに特攻し、拉げるゲットマシンと自分に迫ってくる機械の壁、そして自分の腹から零れ落ちた内臓までが鮮明に焼きついている。

 

「な、治ってる……どうなってるんだ……」

 

身体の何処にも傷は無く、怪我をしていたのがまるで自分の見た夢のように思えていた。

 

「ッ! イングラムさん! イングラムさん!!」

 

『……つっ……武蔵……? なんだ? 俺達は……生きているのか?』

 

自分達が死んだ事を武蔵とイングラムは実感していた。それなのに5体満足で怪我も無い、その事に2人は激しく混乱していた。

 

「と、とりあえず。外に……」

 

『待て武蔵、まずはモニターで外を確認してみるべきだ。もし海中や宇宙だったら死ぬぞ』

 

イングラムの言葉に冷や汗を流しながら、武蔵はベアー号のコンソールを操作しモニターを復旧させる。そして外の光景を見た武蔵とイングラムは別の意味で冷や汗を流した。

 

「なんじゃあこりゃあ……」

 

『地球……なのか?』

 

緑1つ無い荒廃した大地、厚い雲に覆われた暗黒の世界がモニター越しに2人の視界には広がっていた。

 

「……これはどういうことなんだ?」

 

「知りませんよ……そんなのオイラが知りたいですって」

 

酸素などの確認をした後にゲットマシンから出た武蔵とイングラムはその顔に困惑の色を浮かべる。何故ならば大破したゲッターは新品同様、しかも自分達の怪我も癒えている。

 

「連絡とかつきました?」

 

「いや、駄目だったな。どの基地にも、ハガネやヒリュウ改にも通じない」

 

イングラムが所持していた通信機でリュウセイ達に連絡を取ろうとしたが、それも通じなかったようだ。イングラムは足元の砂を握り締める。

 

「……なんだろうな。生気の無い砂だ」

 

「あ、イングラムさんもそう思いますか?」

 

周囲には生き物の気配1つ無い、完全なる死の世界が武蔵とイングラムの周りに広がっていた。

 

「……それにしてもなんですかねえ、この空の色」

 

「気味が悪いな、空だけではなく大地もだがな」

 

モニター越しではなく、肉眼で見るこの世界はとても不気味で、まるで死者の国に迷い込んだようだと武蔵は思っていた。

 

「どうします? 実は死んでるってオチじゃないですか?」

 

「心臓は動いてるぞ。ゲッター線が何かしたんじゃないのか?」

 

「……なんか凄く説得力がありますね」

 

自分達では理解出来ないゲッター線の力が働いている。ありえない話ではないだけに、武蔵はイングラムの言葉に納得した。

 

「……とりあえず、何か食います?」

 

「あるのか?」

 

「イーグル号に避難キットとか積んどいてくれるってビアンさんが言ってましたし、ちょっと確認してきます」

 

ゲッターロボの装甲に手を掛け、するすると登っていく武蔵。イングラムはその姿を見ながら目を閉じる。

 

「やはり駄目か……」

 

己の半身であるアストラナガンを召喚しようとしたが、やはり修復が完全ではないのかイングラムの呼びかけに半身は答えない。

 

(……俺の知らない世界だ。となるとここはやはり武蔵とゲッターロボに関係している世界なのか?)

 

因果律の番人として様々な世界を巡ったイングラムだが、こんなに荒廃した大地を見た記憶がない。自分がきっかけでゲッターロボがこの世界に来たのではなく、武蔵が引き金となってこの世界に引きずり込まれたのだとイングラムは考えていた。

 

「イングラムさん、ありましたよー。とりあえず腹ごしらえをしてからどうするか決めましょう」

 

「そうだな。どれ、俺が見よう。新西暦の物はお前では判らないだろう?」

 

「あはは、本当その通りです。お願いします」

 

武蔵が背負っていた避難キットを受け取り、中を確認するイングラム。武蔵の大飯喰らいを知ってか、食料品関係が非常に充実している。

 

「湯煎するだけで良い物が入っているな、ファイヤスターターと長期保存水がある。これで夕食としよう」

 

「ですね。しかし、本当不気味な場所ですよね。ここ地球ですかね?」

 

「どうだろうな。念の為に身体を休める時はゲッターロボの内部にしよう。何か危険な生物がいたら洒落にならないからな」

 

「ですね。化け物とかと遭遇しても困りますしね。いやあ、イングラムさんがいてくれて良かったですよ。オイラ馬鹿だから」

 

「ふっ、そんなことはないと思うがな。そら出来たぞ」

 

「ありがとうございまーす!」

 

何故生きているのか?

 

何故ゲッターロボが治っているのか?

 

ここは何処なのか?

 

謎は山ほどあり、考えることもある。だが今は身体を休める事を優先するべきだ、疲労が溜まり、そして今の状況に混乱したままでは必要な情報をえることも難しい。

 

「お、うめえ」

 

「そうか、良かったな」

 

湯煎するだけで食べれる親子丼を食べて笑みを浮かべている武蔵を見つめながら、イングラムはホワイトシチューを口に運ぶ。本格的な情報集に出るのは明日からにするつもりだ。

 

(だがこの世界で人間が生きているかも怪しいがな)

 

太陽すらでない暗黒の世界――こんな世界に人間がいるのかと言う不安を抱きながらも、イングラムはそれを口にすることは無く、明日の事を考えながら食事を進めるのだった。

 

「リュウセイ達はどうなったんですかね?」

 

「無事さ、あれだけのエネルギーの直撃を受けたんだ。セプタギンだって耐え切れない筈だ」

 

自分達も大変なのに、それでもリュウセイ達の心配をする武蔵にイングラムは励ますように言葉を投げかける。

 

「そうですよね。皆無事ですよね」

 

「ああ。そうに決まっている」

 

自分達は死んだが、間違いなくリュウセイ達は無事だ。イングラムも僅かな不安はあったが、武蔵を安心させる為に強い口調で言うと武蔵は安心したように笑い、大きな欠伸をした。

 

「そうだな。やはり疲れが溜まっている、後はゲットマシンの中で話そう」

 

「うっす」

 

眠そうにする武蔵だったが、それでも親子丼を食べ終えイングラムがジャガー号に戻れるように先にベアー号に乗り込み、山の中で直立不動だったゲッターロボをその場に座らせる。

 

『何が起こったのか、そしてここが何処なのかは俺にも判らない。だが判っている事は1つだけある、この世界はまともじゃない』

 

「そうですよね。ちょっと見ただけですけど、緑も殆ど無いですし、それに何よりも土が死んでる。こんなのありえないですよ、これじゃあ何を植えても育たない所か、芽すら出ないですよ」

 

『ここまでの荒廃はただ事ではない、人類が生きているかも怪しいということだけは覚悟しておけ』

 

「……了解です」

 

緑が無いと言うことは酸素が薄いと言うことだ。そして太陽も出ない、緑も無い、こんな場所で人類が生きている可能性は限りなく低い、イングラムの言葉に武蔵は顔を歪めながら頷き、ベアー号のコンソールを操作する。

 

「ゲッターの状態は万全です、信じらないことですけどね」

 

『不都合は?』

 

「何にも無いです。完璧な状態ですよ。強いて言えばゲッター線の貯蔵量が少し少ないくらいです」

 

あれだけの爆発だったのに万全なゲッターロボ、そして生きている自分達に謎は深まる一方だ。

 

『分離は?』

 

「そっちも大丈夫ですね。本当に……ふわ、万全ですよ……」

 

大きく欠伸をする武蔵に大丈夫か? と思っている間に武蔵は目を閉じて鼾をかき始める。その姿にイングラムは苦笑し、ジャガー号から通信を切って、背もたれに深く背中を預けた。

 

「闇ばかりの空か……地獄でも驚かんぞ、俺は」

 

夜なのに星の光すら見えない暗黒の空は地獄を連想させる。いや、事実地獄なのかもしれない、生存者が誰もいないことも可能性としては十分にありえるだけに、1人きりではなく武蔵が共にいてくれたことに感謝した。

 

「……流れ星か……他にも見てる者が居れば良いがな」

 

ジャガー号のモニターに映った流れ星を見てイングラムは目を閉じ、眠りへと落ちて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

荒廃した山岳地帯の中の大岩に腰掛ける壮年の男性。細身ではあるが良く鍛えられた屈強な肉体を包むのは、古めかしいデザインの緑の迷彩服だった。彼が長身であると言う事と、その鍛えられた肉体で今にもはち切れそうになっているが、それでも男は気にも留めず、涼やか印象を受けるアイスブルーの瞳に光1つ見えない夜空を映していた。暫くそのまま夜空を見上げていた男はややくすんだ金髪が夜風で乱されても気に留める様子を見せず握り拳を作ったと思うと、その手を日の光すら出ない暗黒の空に伸ばした。

 

「死んだ筈……なんだがな」

 

異星人に捕まり、肉体を失った。それだけではなく、地球を守る軍人だったのに地球に害なす侵略者と成り果てた罪深き己。だが、部下によって呪われた生から解放された。その時の光景は今も脳裏に焼き着いている、だが何故か生身の姿で生きている自分に男は混乱していた。

 

「……気狂いか、それとも記憶喪失か、ふっ、私には相応しいかもしれない」

 

目を覚ました時に混乱して己の記憶にある全てを尋ね、気狂いと言われ腫れ物扱いだった。だが、それでも良いのかも知れないと思った。これが地球に混乱を巻き起こした己のへの罰だというのならば男には全てを受け入れる覚悟があった。

 

「……遠いな」

 

あの分厚い雲に隠れた遠い宇宙。そこにあった己の故郷を想い、男は手を伸ばす。

 

「む? 奇怪な」

 

男の眼前を翡翠色の流星が降り注ぐ、遠くの山の中に落ちたそれを見つめていると遠くから誰かの呼ぶ声が響いた。

 

「今そっちに行く、こっちは問題無そうだ」

 

渡されていた時計を見ると集合時間を大分過ぎている。自分を受け入れてくれた仲間を心配させる訳には行かないと岩の近くに立てかけてあったサブマシンガンを肩に担ぎなおし、男は呼び声の元へ向かって歩き出す。

 

「……未練か」

 

今は何も巻かれていない己の右手首に無意識に手を伸ばしていることに気付き、自嘲気味に笑い闇夜の中の岩場をゆっくりと下っていくのだった。

 

 

第1話 蘇る亡霊 その1へ続く

 

 

 




新章第1話は特に動き無し、次回当からは話を動かし始め、この世界が何なのかと言うのを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

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