第2話 蘇る亡霊 その2
「な、なんだ。あれは……」
地面を砕きインベーダーを殴り飛ばした漆黒の人型を見て弁慶は驚愕にその顔を歪めた。弁慶は決して技術者ではない、だが早乙女研究所に所属し、ゲッターロボやそれ以外のロボットを見てきたから判る。いや、判ってしまうのだ。
(完成している……信じられん)
人型の機動兵器としてあの機体は完成している。二足歩行で立つ術も、そして攻撃を繰り出してもバランスを崩さない術も何もかもがあの機体は完成していた。歪な姿ではない、ゲッターロボのようなブリキ人形のような姿でもない。完全に人型として完成しているその機体の手の平にラウは立っていた。その顔を哀愁に歪め、その目に強い意志の光を宿して……。
(お前は何者なんだ……)
記憶喪失と聞いていたが、それは違うと弁慶は判断していた。だがまさかこんな秘密を抱えているなんて夢にも思っていなかった、一体何者で、ラウは何を知っているのか弁慶はそれが知りたいと思った。
『弁慶、早く渓を連れて凱達と合流しろ。あの化け物は私が何とかする』
「……ッ! 判った。すまねえッ!!」
『早く行け』
自分を庇うように移動した漆黒の機体。そのバイザー型のカメラアイの先には既に肉体を再生させたインベーダーが牙を向いていた。ラウが何者なのか、何を知っているのか、それは弁慶にはわからない。だが確かな事として判っている事があった。ラウは自分達を守ろうとしてくれている……それだけが判れば弁慶には十分だった。
「親父……あれ……って?」
「喋るな、頭を打っているんだ。大人しくジッとしてろッ!」
自分の背中の上で体を起こそうとする渓を一喝し、弁慶は渓を揺らさないように気をつけBT-23の元へ走る。その背後からは地面を砕く音とインベーダーのおぞましい叫び声が響き続けているのだった……。
ゲシュペンスト・タイプSのコックピットに滑り込んだカーウァイ。コックピットは己の記憶の中にある、タイプSと全くの同じ作り……いや、全く同じだった。
「私もお前も何に導かれたんだろうな」
コックピットのモニターの上に張られた1枚の写真。そこにはまだ若い「ゼンガー」「エルザム」「ラドラ」「ギリアム」「テンペスト」「カイ」そして己の姿があった。道が分かれる前、特殊戦技教導隊が設立された時の集合写真であり、プロトタイプのゲシュペンストの前で撮った最初で最後の集合写真だった。
「……だが私もお前もやることは変わらない。そうだろう?」
ゲシュペンストのエンジンが唸り声を上げる。それをカーウァイは相棒の返事として受け取った、地球を守る為に作られたのに、地球に害成す者になってしまったのはカーウァイの失態だった。そしてその失態を拭えぬまま、部下に己を殺させた。だが何の因果かまで生きている、それも過去で何をすればいいのか、何故生きているのか疑問は残る。だが……自分が何をすればいいのかは理解していた。
「キシャアアアーーーッ!」
「こい、化け物。相手をしてやる」
この身は牙無き者を守る為の刃であり、そして地球を守る為の剣なのだ。目の前にいる異形の化け物、それを倒す。それが今己のやるべきことだとカーウァイは理解していた。
「シャアッ!」
「遅いッ!」
突き出された腕から凄まじい勢いで伸びる触手を回避するのと同時に、タイプSのモニターを確認する。
(エネルギーは……70%。機体損傷度は……0、動力の安定稼動まで640秒か)
遠隔操作で炉に火を入れたからか、ゲシュペンストのエンジンはまだ完全には温まっていない。先ほどの回避も少しばかり自分の知るタイプSと比べると鈍いと感じていたが、その理由が判りカーウァイは小さく笑った。
(だがこの程度、どうと言うことは無い)
完全に温まっていないがその程度でどうこうなる安い経験ではない、この状況でも万全に戦う術は己の体に刻まれている。
(……使用可能な武装は……スプリットミサイルのコンテナは……3つ、プラズマカッター、ビームブレードガン、それと……スラッシュリッパー? 知らない武装だ。プラズマ・スライサー、ブラスターキャノンは現在使用不能と……なるほど)
機体の状況、武装の確認を済ませている間もインベーダーの触手はタイプSに伸び続けていた。だがそれらはタイプSに掠りもしない。
「言った筈だ、遅いとな」
伸びた触手を掴み力任せに引き寄せ、その顔面にうっすらとプラズマを纏った鋭い貫手が叩き込まれる。
「面妖な……だが大体は理解したぞ」
顔が変形し、貫手を回避したインベーダーに変わりと言わんばかりに前蹴りを叩き込み吹き飛ばす。
「いけっスラッシュリッパーッ!!!」
背中のコンテナから排出された3つの刃を持つ円盤が地面を切り裂きながらインベーダーに迫る。その隙に腰にマウントしていたブレードガンを片手に装備させる。
「ギギャァ!?」
「なるほど、悪くない」
自動でインベーダーを追いかけその刃で切り裂いたスラッシュリッパーを使い勝手のいい武装だと評したが、残りの数が4つしかないので連発できないのが惜しいなと呟きビームブレードガンの銃口を向ける。
「ギッ!?」
ビームブレードガンはカーウァイが希望し、タイプSにのみ搭載された試験的な武装だ。通常のビームライフルよりも銃身を短くする事で射程を犠牲に威力を得た。そして銃身の下からはビームサーベルを伸ばせるようにし、近~中間距離戦闘用の通常のビームライフルとは異なる運用をするように開発された武装だ。その高火力の熱線は容易くインベーダーの身体の接合を焼き切り、消滅させる。
「悪いが時間を掛けるつもりは無い」
タイプSのレーダーには戦闘反応が感知されている。そしてその熱が徐々に少なくなって来ている事と言うことはこの化け物に襲われ撃墜されていると言う証だった。
「くたばれ化け物」
飛び掛ってきたインベーダーに前蹴りを叩き込むと同時にその頭を踏み潰し、容赦なくビームライフルの弾丸を叩き込む、途中でカートリッジを入れ替え計18発も叩き込む徹底ぷりだ。そしてダメ押しと言わんばかりに叩き込まれたスプリットミサイルの爆風にインベーダーは完全に燃やされ、断末魔の悲鳴をあげて消滅して行った。
「……大したことは無いな、いや、この時代の装備では強敵か」
タイプSだったからまともに戦う事が出来たが、そうでなければ苦しい戦いになっていたなとカーウァイはタイプSのコックピットで苦笑した。
『ラウさん! その機体は……貴方は一体……』
『話は後だ、まだ襲われている機体がある。私はそちらに向かう、後で追いかけてきてくれ』
BT-23からの通信に言葉短く返事を返し、戦闘反応の元へとタイプSを走らせる。静止の声は響いていたが、それを無視してタイプSを走らせる。
(死なせる訳には行かない)
カーウァイは軍人だ。冷酷に切り捨てるべき判断を取ることが出来る、だが今は状況が違う。自分も、弁慶達も右も左も判らぬ中で外の情勢を知る人間をむざむざ切り捨てる訳には行かない。ここで外の情報を得ることが出来れば方針も出来る、だがそうでなければあの化け物の群生地に踏み込み死ぬかもしれない。そのリスクを避ける為に、今間近にある情報源を見捨てると言うことが出来なかったのだ。
(間に合え)
まだタイプSの動力は完全に稼動していない、スラスターを全開にしてもスピードが上がらない事に苛立ちを感じながらも間に合えと祈るカーウァイ。そしてその行動は正史では死ぬはずだった人間を救う事になるのだが……カーウァイがそれを知る良しも無いのだった……。
荒廃した大地に地響きを立てて黒い人型が墜落し、その後を追うように2体のインベーダーが着地すると同時に飛行形態から異形の人型へとその姿を変える。
「くそったれがあッ! くたばれ化け物ッ!!!」
インベーダーに襲われている黒い人型がその手にしているハンドガンで必死に応戦するが、インベーダーから伸びる触手にその装甲が見る見る間に削られていく……
「伝えなければ! この情報を伝える為にもここで死ぬ訳にはッ!!」
黒い機体の名は「ステルバー」アメリカで開発された可変式のスーパーロボットであり、そのパイロットである「ランバート」は自分が得た情報を伝える為に、そして戦う為にある場所へと向かっていた。だがその道中でインベーダーに見つかり、ステルバー部隊はその殆どが壊滅した。
『ランバートさん! 逃げて伝えてください! うおおおおおッ!」
「止めろッ!!」
左腕を失ったステルバーがインベーダーへと特攻する。決死の一撃だったが、それを嘲笑うかのようにインベーダーはステルバーの両足を切り裂き、伸ばした触手でステルバーを持ち上げる
『あ、あああ……うわあああああッ!?』
「シャアアッ!!」
若い男性の悲鳴が響き渡り、ステルバーはインベーダーの牙に喰らい付かれた。それは最早逃れられない死を意味していた……それでも見捨てることが出来ず、ランバートはハンドガンの銃口を向けインベーダーに銃弾を撃ち続けたが、それをくともしないインベーダーはステルバーを見せ付けるようにゆっくりと噛み砕いた。
「ジャックッ! くたばれええええッ!!!」
そして今自分の部下が乗ったステルバーの胴体がインベーダーの牙に噛み砕かれた。その事で怒りに飲まれミサイルやハンドガンを乱射する。
「シャアア……」
「ガアアア……ッ!」
奇しくもその弾幕がランバートの命を救う事になった。その弾幕の雨に今正に触手を伸ばそうとしていたインベーダーの動きが止まったのだ。
『吼える元気があるなら下がれ、一掃する』
「何者……いや、頼むッ!」
広域通信に驚いたランバートだが、今のステルバーではインベーダーを倒し切る事は出来ない。そう判断し、残された燃料を使いその場を離脱する。
「あれがこの時代の特機か、なんとも言えん形状だな」
完全に人型の頭部、それに胴体に比べて貧弱な手足。技術力不足と感じるのは新西暦の生まれであり、そしてゲシュペンストを駆るカーウァイだからこその感想だった。
「ターゲットロック、ブラスターキャノン発射ッ!!!」
不意打ち気味に放たれた青白い光線がインベーダーを背後から貫き分解する。
「消えろ、化け物」
「ギギャァ!?」
そしてブラスターキャノンを放つと同時に踏み込んでいたタイプSのプラズマスライサーの電圧でインベーダーは焼き焦げ、断末魔の声すら上げず塵と消え去った。
『大丈夫か?』
「た、助かった……それで……お前は……その……」
その機体は何だ? と尋ねようとしたランバートだったが、助かったという安心感。そしてここまで飛び続けていた疲労に意識を保っている事が出来ず、その言葉を口にする事無く、大丈夫かと言う男の声を聞きながらその意識は深い闇の中へと沈んで行くのだった……。
「気絶したか、無理も無い」
機体を見ればその消耗具合は明らかだ、助かったと安堵して意識を手放してしまうのは無理もないことだ。
「さてと、私は私でどうするかな……」
タイプSのモニターに映し出されたBT-23の姿。そしてその中に入るであろう弁慶達にタイプS、そして自分の事をどう説明するかとカーウァイはコックピットの背もたれに背中を預けながら、何と説明するのか頭を悩ませるのだった。
一方その頃。武蔵とイングラムはと言うと……
「イングラムさん、今レーダーに反応が一瞬ありましたね」
ゲッターパイロットが持つ腕時計型のレーダーに反応があったという武蔵にイングラムもまた小さく頷いた。
「ああ、あの反応は戦闘反応だな」
避難キットに入っていたツールで確認していたイングラムもその戦闘反応は確認していたが、その場に向かうべきだとも言わず、武蔵が切り出すまでその事を口にすることは無かった。
「生存者でしょうか?」
「……判断を急ぐな武蔵。もしもバルマーのような侵略者では困る。ここは様子見だ、俺もお前もまだ万全ではない」
「……そう……ですね。すいません」
「気にするな、それよりもだ。ここが何処なのか……俺は嫌でも予想が付いたぞ、これを見たらな」
ゲッターロボを山の中に隠し、周囲の偵察をしていたイングラムと武蔵の目の前にあるもの……それを見て武蔵も自分が今何処にいるのか理解した。
「……日本だったんですね」
「そのようだ」
岩だと思っていたそれは倒壊し、長い歳月を掛けて風化した塔の一部……。
「東京タワー……ですね」
「ああ。地球であると言うこと、そして東京と言うことは判ったが……一体何があったというのだ」
東京タワーがあることでここが日本だということはわかった、だが荒廃し、日本らしい面影が何処にも無いこの大地に武蔵とイングラムは困惑した。
「どうしましょうか?」
「……1度ゲッターロボに戻ろう、妙な気配だ」
「そうしましょうか」
周囲に立ち込める異様な気配、武蔵もイングラムもそれを感じ取り逃げるようにその場を後にした。だがその2人の姿を見つめる小型のインベーダーがいたことに最後まで2人は気付くことはないのだった。
「おやあ? どうしたんだい? 早乙女?」
「……いや、なんでもないさ。コーウェン、そろそろワシも出よう」
「そうかい! いやあ、それは楽しみだねえ。ね、スティンガー君」
「う、うんそうだね! コーウェン君! ああ、神隼人がどんな顔をするのか楽しみだよ」
邪悪な光を宿して笑う2人に背を向けて早乙女は歩き出す、前髪に隠された右目は前髪の下で赤黒く輝き、しかし、左目は優しい穏やかな光が宿っていた。
「武蔵……そうか、お前が来たのか。ならば、何の憂いも無い。ワシはワシの成すべき事をしよう」
だがその光も瞬きの内に消え去り、両目を真紅に輝かせた早乙女博士は闇の中へと消えていくのだった……。
武蔵と早乙女博士がこの荒廃した大地で再会する日は近い……。
第3話 カーウァイ・ラウと言う男へ続く
次回はインターバルです。弁慶達にランバートを加えて、ラウ大佐の話を書いて行こうと思います。武蔵とイングラムはゴウと渓が真ドラゴンに取り込まれた当たりで登場させたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い