かの星は一度焼かれ、一人の人間の尽力によってその形を取り戻した。
かの星は生命が消え失せ、地表をまっさらな白紙に戻された。
一度星を救った者は今も元凶に挑み、儚き命を輝かせている。
しかし同時に星の白紙化に異を唱える者達がいた。
一人は薄暗い闇の中、胸に秘めた残り火を抱いて。
一人は夢の中、鮮血に彩られた装束を翻しながら。
一人は思う、人が創る世界を神の手で傀儡にされる訳にはいかないと、己が託した未来に暗き翳りを残すまいと。
一人は思う、かの上位者は必ずや己の手で狩り殺さなければならないと、それが己に宿る数多の意志に報いる最上の行いだと。
かつて星の礎を築いた者と、宇宙からの未知を狩り殺した者。
抱く想いは違えど、その先に見据える未来は同じ方向を見ている、あらゆる理不尽を覆す為に、不死と狩人は闇に蠢く。
残骸、残骸、残骸。
辺り一面に散らばるのは人の形をした何か、そしてその中央には2人の男が立ち尽くしていた。
1人は相当に使い込まれているであろうロングソードと重々しい鎧を纏いながら、1人はおそらく残骸の返り血で染まったであろうコートを靡かせながら。
「粗方片付けたようだな、もはや周辺に奴らの反応は無い」
あまりにも凶悪な形状をした得物についた残骸の血を拭いながら、コートの男は鎧の男に言葉を投げる。
「……あぁ、人理の守り手も無事に虚数へと潜っていたようだ」
剣を鞘に納めながら男は先にここを通った巨大なトラックの行き先を見やる、フルフェイスの兜であるためにその表情は窺えないが、何処と無くその行先に一抹の不安を覚えているようだった。
「さて」
しかし男は感傷を切り捨てコートの男の方に視線を移す。
「貴殿の事は何と呼べば?見るからに『同郷』といった感じでは無さそうだが」
「ふむ…そうさな、これと言った固有名詞が無いのだが………『狩人』とでも」
「狩人……ならば私は『騎士』とでも呼んでくれたまえ」
その会話にはお互いを理解するという意図は微塵も無かった、ただ互いの目的を果たすために必要な確認事項、しかしそれは対話を徹底的に排した世界で生きた者達の常識でもあった。
「当座の目標は星を漂白した原因の究明と人理の守り手の支援と言ったところだな、まあ原因に関しては私もある程度の察しはついているのだが……どちらかというと『アレ』は狩人殿の領分では?」
「………あぁ、『アレ』と似たような連中を狩っていたな、代理に1人、保険に6人も用意するところも奴ららしくて笑えてくる」
「しかし人理の守り手も難儀よな、人理焼却を解決したかと思えば、次は異星からの襲撃とは………私も人の事は言えないがちと災難が過ぎる気もするな………」
何処か自分と重ねる様に騎士は言うが、すぐにその声色は重いものに変わった。
「だが元凶という点なら私にも非がある、こんな前時代の遺物風情には少々荷が重い話だが、これ以上守り手に役割を押し付ける訳にもいかん」
騎士はおどけるように言葉をまくし立てた、それを不服に思った狩人は胸に秘めていた言葉を紡ぐ。
「あまり卑下するな、騎士殿が拓いた道が全ての始まりなのだから、今は白の限りだが、地球に存在する全ては貴方に感謝こそすれど罵倒などありえない」
「だからこそであろう」
騎士は少し強い口調でそう言い放った。
「火の時代……まだ太陽が、月が、この星が今の形ですら無かった混沌の時代に私は1つの区切りをつけた、人の時代、私はその可能性に私と私に宿る魂を賭けたのだ、そして結果がこれだった、最初こそ1本だった道が分かたれ、剪定されてしまう世界が生まれ、そして今は異聞帯などという地獄が全てを再編しようとしている、異聞帯は本来ひっそりと消えるべきなのだ、可能性が視る夢なのだ、異星の者によって利用され、汎人類史に牙を剥いてはいるが、そもそもそれが生まれるきっかけを作ったのは私だ、ならばそれを処理するのが私の責務というものだろう?」
「気負い過ぎだ」
そう、ばっさりと狩人は切り捨てた。
「狩人殿……?」
「気負い過ぎだと言っている、要は数多の神を殺し尽くし新たな時代を築いた偉人といえど、たった1人で出来る事はたかが知れていたと言うだけの話ではないか」
そう何でもないように狩人は己の身だしなみを整える、しかしその言葉には無責任からくる曖昧さはなかった。
「俺が生きた時代も騎士殿の様な地獄だった、しかしその激動の中でも俺は1人で狩りを務めたわけじゃない、先々で出会う異なる時空の狩人に幾度も助けられた、時には手を差し伸べる事もあった、そうやって俺はあの悪夢を切り抜けてきた、貴公はどうだった?本当に貴公はその責務をたった1人で完遂したのか?」
その言葉聞いて、騎士の頭には走馬灯の様にかつての記憶がフラッシュバックした。
太陽の如く笑う者がいた、玉葱に似た兜とふくよかな鎧を纏う気さくな者達がいた、記憶を失いながらも助力を惜しまなかった者も『いた』。
数えればなかなかどうして己に手を差し伸べた者達がいることに気付いた騎士は、兜の下で薄く笑みをうかべた。
どうして彼らを忘れていたのか、不思議な位だった。
「そうか……そうだったな、感謝するよ狩人殿、どうやら驕りがあったらしい、だがそれも払拭された。私は1人で何かを成し遂げた訳じゃない、幾度も助けられた、狩人殿の様な頼もしき戦友に支えられて来たのだ」
「戦友とは、些か気が早いのでは?」
「そうでもなかろう」
剣をソウルに還元し、自由になった右腕で騎士はある方向を指差す。
「これより先、地球に出現した異聞帯の1つであるロシア領に向かう。そこを片付けるまでには立派な戦友になっているはずだ」
その言葉に狩人は呆けてしまった。
やはり気が早いではないか、そう思いつつも声に出さず、無言で騎士の隣に並び立つ。
「この戦いは、火を継ぐ為でも、完全なる不死を手に入れる為でも、時代を終わらせる為でもない」
「ああ」
「貴殿の狩りも、此度の者とは違う上位者の思惑ではない」
「そうだとも」
「この戦いは、我らに宿った魂と意志達に託された全てを護る為に尽くす」
「異論はない」
合図したわけでもなく、示し合わせたわけでもなく、騎士と狩人は淡々と言葉を重ねていく。
「狩人殿、貴殿は何故ここにいる」
「己の使命を果たす為、使命とは獣狩り、此度の獣は異星の神、それが世界に悪夢をばら撒くのなら俺はその全てをあらゆる手段で持って狩り殺す」
狂気さえ感じられるその言葉の羅列を、騎士は無言で受け止める。
「不死人殿、貴公は何故ここにいる」
「我が選択の先に待つ未来を見届ける為、自らの選択によって生まれた存在が世界に害を成すのなら、私は火を継ぎ、火を消した者としての義務を果たそう」
狩人もまた、1度は時代の創成を担った者の決意を胸に刻み込んだ。
「ならば」
「行こうか」
2つの異分子が、白を極彩色に染める。
とりあえずダクソとブラボから。
追記
脱字があったのと文章間の空白が不自然だったので修正しました。