「こっ降参だ、もうやめてくれ!」
「何だ、もう終いか」
「おい大丈夫か!?」
「あぁ……だがまだ立てねぇ…」
「くそっ、何なんだあのヤガ!俺達相手に無傷で…」
アタランテからの依頼で檄文を配りに周辺の村々に赴くことになった一行だったが、最初の村で求められたのは力の証明だった。
協力の条件として雷帝に叛逆するに値する力を持っているかどうか、それを見極めるのが最初の村をまとめる村長の考えだったようだが、悲しいことに相手が相手だったので力の証明はすぐさま中断に終わった。
その提案を聞いた狩人が、
「よろしい、ここいらで手加減を覚えておかねばいざという時に殺しかねん」
という物騒な言葉共に、
「そら、言われた通り殺さずに全員叩きのめしたぞ」
「なっ何ということだ……その強さ、もしや貴殿はサーヴァント?」
「似たようなものだ」
「信じられん……サーヴァントとは異世界の怪人、旧種の姿でありながら強い力を持つと聞いていたが………我々ヤガの中にもサーヴァントが存在していたとは」
「…………………」
何か勘違いをされているが、それを訂正する程狩人は親切ではなかった。
「力は見せた、答えを聞こう」
狩人の異常な強さにしばし我を忘れていた村長だったが、狩人の言葉で意識が戻ってきたようだった。
「むぅ…」
暫し思考する村長、しかし村で力自慢のヤガ達がこうもすんなり叩きのめされたのでは彼らの強さを認めざるをえなかった。
「……叛逆軍に協力しよう、全面的に補佐する事を約束する」
「やった!」
「狩人さんが飛び出していった時はどうなるかと思いましたが、予定通りですね」
「しかしこちらも食料や薬品は少ない、あまり供給は出来ないが…」
「少しだけでも助かる、叛逆軍は何もかもが足りないからな」
そう言いながら食料と薬品を受け取るパツシィに何か思い立った顔をした村長が、
「そういえば、近くにある二つの村にも檄文を届けに行かれるのなら少し待たれよ、私が手紙をつけておこう」
「助かる、話が円滑に進むだろうよ」
「しかし…最近になってその二つの村との連絡が途切れておる、盗賊が押し入ったのかもしれん」
「ならば確認も兼ねて此処を早く出よう、ゴーレムが全速力を出せば最悪の事態は免れるかもしれない」
「待ってくれ…………もしだ、もし万が一の事があったならば、弔ってやってくれんか」
「ここに来て情を感じる言葉が出たな、ここらの連中はもっとシビアかと思っていたのだが?」
狩人の問いに、村長は決して晴れぬ寒空を見上げてポツリポツリと呟いた。
「こんな世の中です、そんな事をしても何も変わらないのは承知の上、しかし我々ヤガはその体に反して心はとても脆い。
だからこそ求めてしまうのです、闇の先にある一筋の光を、
「………………そうか、邪魔をしたな」
多くは語らず、狩人は待機させてあるゴーレムの場所に消えていった、それに続くように騎士が狩人を追い、隣に並ぶ。
「狩人殿、彼らはどうかね?」
「どう、とは」
「はぐらかさなくても良いだろう、概ね貴殿と意見は一緒だ」
後方でゴーレムに食料品などを詰め込んでいる村のヤガ達に一瞬意識を向けて、騎士はおもむろに語り出す。
「私は、『人間性』を求める生き方は貴いと思っている」
「………………」
「少なくともあの者の言葉にはそれを感じた、貴殿はどう感じた、まだ彼らを獣と定めるのか?」
「獣は獣だ」
「案外強情なのだな」
まあ良い、と騎士はローブを脱ぎ捨ててソウルに還元し、狩人の前に立つ。
「貴殿は狩人であって快楽殺人者ではない、狩るべき相手を今一度考えるのだな」
それだけを言い残し、騎士は自分が乗ってきたゴーレムの元に歩いて行ってしまった。
その後ろ姿は貫禄とでも言えばいいのか、その身に余る責務を背負い果たした者の偉大な背中だった。
「…分かっているさ。獣なのはその姿だけだ、中身は俺なんかよりよっぽど人間らしいよ…」
独り言故か、少し素が出てしまった狩人は先を行く騎士を見てそう呟いた。
獣の抱擁により恐ろしき獣の姿となっている狩人だが、先のヤガの話を聞いて一体どちらが獣か分からなくなってしまった。
「狩人さん、ゴーレムへの物資の積み込みが終わりました、急いで次の村に向かいましょう…………狩人さん?」
「…………マシュか…………次の村までどの程度か分かるか?」
「はい、アヴィケブロンさんの仰っていた通りなら大体十分弱だそうです」
「そうか………ならば行こう、手紙も付けてもらったのだ、村が崩壊していては交渉がスムーズも何も無いからな」
「はい、行きましょう!」
その背中に追い付くには、まだ遠い。
明日は金曜日、やっと本腰入れて執筆できます。