15
「たっ助かった………あんたら、俺以外の生き残りを見かけたか……?」
狩人の救助(?)により一人のヤガが助け出された、一見血塗れで致命傷を受けているようにも見えたが、どうやら傷そのものは致命傷と言える程のものではなかったようだった。
「残念だが、連れのヤガとお前以外には獣の気配は周辺に存在していない」
「ど、どういう意味だ…?」
「お前だけが生き残ったという事だ」
「…………クソッ」
容赦ない狩人の言葉に思わず悪態をついてしまうヤガだが、少し目を瞑り空を見上げたかと思うと、
「………恐らくここを襲った連中はこの先にあるもう一つの村に向かった筈だ……頼む、俺の事は後でいいからもう一つの村の方へ行ってくれないか?」
「でも……」
「いいから早く行けよ、ここにいてもどうにもならんさ」
「………分かった、でもこれは受け取って」
マスターは先の村で回収した食料と医薬品の一部をヤガの側に置き、後ろに控えている騎士達にこう言い放った。
「行こう」
その言葉に騎士は無言で頷き、狩人は爆発金槌を意志に戻しながら既に移動用ゴーレムの元に向かっていた。
「おい」
「何だ……あんた?」
いつの間にか隻狼が負傷したヤガの元に立っていた、どうやら隻狼がヤガに何かを渡しているようだった。
「これは?」
「米だ」
「コメ?」
「…………やはりこの地では育たぬか」
ヤガの手を取り、隻狼はその屈強な掌に『雪の様に眩く光る米』を丁寧に己の手から零した。
「冷たい………」
「細雪という、これを食べればその傷もすぐに癒える」
「…………………」
「食わぬのか」
「いや………」
渡された細雪をマジマジと見つめ、中々口にしないヤガに隻狼は疑問を抱く、するとヤガが観念したかのように大きな溜息を吐き、
「これ、よく分からないが貴重な物なんだろう?俺が食っちまっていいのか」
「………………」
「あんたがこれを渡した時の顔で分かるさ、何か負い目を感じてる顔だったよ、俺達は常に疑心暗鬼の中で生きてる様なもんなんでね、そういった心の機微には敏感なんだ」
「……………米は」
「?」
黙っていた隻狼が唐突に口を開く、確かにその目は誰かに対して負い目を感じている悲しさを纏った瞳だった。
「米は大事と教わった」
「………なら」
「だが」
強い口調にそう言い切り、こう続けた。
「それ以上に生命は儚く、尊いものだとこの身で味わったのだ」
「…………」
「だから、食え」
「あ、あぁ……………」
恐る恐るといった様子でヤガは手渡された細雪を口に含む、最初はガリガリと無理やり噛み砕いていたが、次第にヤガの反応が変わっていった。
「甘い…………」
「米とはそういうものだ、よく噛んで飲み込め」
そう言うと隻狼は立ち上がってヤガに背を向けて歩いて行ってしまう、それの一部始終を見ていたマスターは、駆け足で隻狼に近付いてこう言った。
「あれって炊く前だよね、衛生的に大丈夫なの?」
「普通の米とは違う、炊かずともその真価は発揮される」
マスター殿も腹に入れておくといい、そう言いながら隻狼はマスターに小袋を投げ渡して何処かに行ってしまった。
「うわぁ、お米が光ってる」
小袋の中を覗いてみると米粒一つ一つが眩く輝いていた、試しに米を掌に移すと、
「冷たっ!」
寒冷地用の礼装を装着しているのにも関わらず、グローブ越しからでもひんやりとした感覚が伝わってきた。
あわや折角の米を地面に零しそうになるが、何とか落とさずにそっと口の中に放り込むマスター、日本の生まれと言えど炊く前の米など食べた事のないマスターは取り敢えず先程のヤガのように噛み砕こうとするが、あまりの冷たさに歯が冷えて無理だった、しかし口の中に含んでいると次第に唾液と絡み米が柔らかくなってきた所で、
「本当だ………甘い」
マスターの感覚としては、冷や飯というのはあまり好みでは無かったが、この米に限ってはそうではなかった、マスターは隻狼の言葉を思い出す。
『炊かずとも真価を発揮する』、隻狼の言葉を疑っていた訳では無いが、これ程までに美味だったとはマスターも想定外だった。
「うーん、でも何でだろう」
そこでマスターはある疑問を抱く。
「どうしてお米を渡す時に、何であんな悲しい顔をしてたんだろう?」
到底知りえない疑問を胸に秘め、何だか軽くなった身体でマスターは騎士達の元へと向かうのであった。
お米は大事。
柿は血となり、血は米となる。
己の米が誰かを救ったと知れば、帰郷の代償に己を揺籠とした者は浮かばれるだろうか。
二週間近くの放置だったので構想を忘れかけてました。