異聞に逆らう者達   作:宮条

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突如ネタが思いついたので


狩り

そこは薄暗い場所だった。

壁に立て掛けてある松明以外には光源らしきものが無く、地面はジメジメとした湿気が辺りを覆っている影響なのか、濡れて仄かに輝いていた。

 

「……アンタはここだ、もう一人の方はアンタ達の処遇が決まるまでは別の部屋で厳重に拘束させてもらっている」

「無論そのつもりだ」

「しかし全く、アンタの仲間はどうなってんだ、俺達ヤガが数人がかりでやっと運べるなんて………体が鉛か何かで出来てるんじゃないのか?」

 

お陰でアジトに帰るのに時間を食っちまったじゃねぇか……とボヤくヤガを見て、騎士は何か同情めいた視線を送るが、ヤガはそれに気付く事なく重い扉を閉めて何処かへと去っていった。

 

「…………さて、思い切って投降をしてみたものの、これからどう行動すべきかな?」

 

あれから数時間、アタランテ達に拘束された騎士と狩人は彼女らのアジトにて幽閉される事となった。

 

が。

 

「狩人殿?」

「………ほぅ、貴公相手では流石の秘薬も形無しと言った所か」

 

騎士の真後ろ、何も無かったその空間が突如揺らぎ、 別室で厳重に拘束されている筈の狩人がピンピンしていた。

 

「貴殿は厳重に拘束されているのでは?」

「木製の檻の中に太いだけの縄で何重にも縛り上げる事を厳重と言うのであればな、あんな稚拙な拘束で狩人を捕らえられるのであれば何と楽なことか」

 

これではヤハグルと大差ないではないか……と一人呆れる狩人だったが、まだ謎は残っている。

 

「貴殿が牢を脱出したのはいいが、このままでは貴殿の脱走がバレるのは時間の問題では?これ以上の面倒は流石に看過出来ぬぞ」

「その点は抜かりなく、既に保険は用意してあるとも、………それより俺の姿を見てくれはしないか?」

 

その言葉に騎士は狩人のいる真後ろに振り返る、松明に照らされて映る狩人の姿は自分が知っている狩人の姿とはかけ離れていた。

 

「貴殿……いつからヤガになったのだ?」

「ははははっ!存外に面白い反応をするのだな、騎士殿」

 

騎士の目の前にいたのは、獣。

肌は薄黒く、無造作に逆立つ髪の毛、そして極め付けは異様に尖った鋭い牙、こんな人外じみた姿をした者を、人とは呼べないだろう。

 

「抜け出す途中に一人闇討ちしてな、そいつに私の装束を着せて縛り上げておいたのさ、それだけではバレるので俺に見えるように神秘を施しておいた、動かぬ限りは効果が持続するので当分は凌げる筈だ、もっとも闇討ちした者が目を覚ますまでだが」

「いや……それは分かったが、どうして貴殿がそのような姿に」

 

珍しく動揺している騎士の姿が気に入ったのか、狩人はその反応を楽しみつつ愉快に口を開いた。

 

「いやなに、カレル文字という狩人が使う特殊な術があってな、俺の使命は獣を狩る事だが、時に獣そのものに身を窶すこともあるのだよ」

「狩人とは………貴殿のあの形相を見るに余程獣を狩ることに意味を見出しているとばかり思っていたが、相手と同じ存在に身を落とすとは……なかなかどうして柔軟に狩るのだな」

「あぁ、狩りと言っても手段は様々だ、獣に力で劣ると思うのであれば、同じ力を手にするのも狩人は躊躇しない、それにこの姿は色々と便利でな、ここに先回りするのにも怪しまれずに済んだ、大いに利用させてもらうさ」

 

時に理性をかなぐり捨てて暴れまわり、時に冷徹なまでの叡智でもって敵を欺く。

そんな不安定ながらも筋の通った行動をする狩人を見て、騎士は改めて己の戦友の頼もしさを痛感する。

 

「それで狩人殿、私の元に来たのは何か意味あっての事なのだろう?まさか何の算段もなくリスキーな替え玉などしたわけではあるまいな?」

「勿論だとも、この戦いは我々だけのものではない、何もないならわざわざ自分から面倒は起こさんさ」

 

だからこそ、と狩人は続けた。

 

「俺が来たということはそういう事だ、恐らく人理の守り手がこの場所に向かっている」

「根拠は?」

「俺が牢屋で狸寝入りしていた時に少し気になる単語が耳に入ってな、一人のヤガがここの軍門に下りに来たらしいのだが、手土産として『人間』と『サーヴァントと名乗る者達』を連れてきたらしい」

「……ここの連中は彼らの処遇をどうすると?」

「今は審議中のようだが、俺達の件もある、十中八九戦闘になるだろう」

 

不味い事になった、騎士は純粋にただそれだけを思った。

投降して敵意がないことを証明したのはいいが、あまりにもカルデア側の動きのタイミングが悪い、外部の者に敏感になっている現状でノコノコやって来てしまえば命の保証はないだろう。

 

「………すまない、これは勝手に先走った俺のミスだ」

「それを言うのは私ではないだろう狩人殿」

 

その声色には少し怒りが混じっていた、狩人はその言葉を深く受け止め、頭を振って感傷を切り捨てる。

 

「…………そうだな、これは彼らに言うべきことだな」

「だが感謝するぞ狩人殿、貴殿がこの事を聞いていなければ取り返しのつかない事態になっていたかもしれん」

「動くのか?」

「無論」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、ヤガが騎士の為に食事を持ってきた時には、重く閉ざされていた扉は、もはや原型もなくひしゃげ潰れていた。




この異聞帯に限って獣の抱擁が便利過ぎる。

追記
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