二〇一八年春。
大社の有する建物の一室にて、二人が向かい合って座っていた。
先に特徴的なカチューシャを身に付けた少女が口を開く。
「本日をもってあなたの訓練はひとまず完了とします。これなら表に出しても問題ないでしょう」
彼女の名前は九頭竜天音。
大社の前身となる翔門会では巫女をしていた少女で、現在は神降ろし―――日本の人間に味方する神は神樹になっているので、悪魔憑きが近いかもしれないが―――の技能を用いることで星屑と戦える人類の希望の一人だ。
「ありがとうございました、アマネさん」
答えたのは根拠もなく「悪そう」というイメージを持たれる雰囲気をした少年、景山一哉。
彼は村人を殺しつくした後、することもなく佇み続けていた。
人から外れた存在になったせいか飲まず食わずでも空腹感があるだけで実害はなく、友人や世話になった相手も含めた村人を殺しつくしたのに罪悪感も薄かった。ただ望まれたことをやり切った、という燃え尽きたような状態だった。
そのまま誰も来なければいつまでもぼぅっとし続けただろう。だがそこは人類の希望を輩出した村。大社も連れて行っただけで連絡なしなんてことはせず、親には直接千景の話を伝えて安心してもらおうと考えていた。
連絡員が見たのはそこらに村人の死体が転がり、開けた場所で佇むだけの三面六臂の鬼の姿。
警戒し追加で人員を要請するも、鬼は一切の抵抗もせず拘束された。それどころか会話すら可能だったため、戦力化が可能だろうと期待され大社で鍛えられていたのだ。
今ではただの人に擬態するのも自然と行えるようになり、暴走の心配もなさそうなので戦力として活用することになった。
「気にしないでください、こちらも必要だからしていたことですから。星屑にデビルサマナーや異能者は無力ですし、戦力は少しでも欲しいんです」
表に出ることこそなかったが、この世界には神魔が昔からずっと存在していた。そしてそれらから民を守り秘匿するための組織もまた存在していた。
そこの戦力の9割ほどが悪魔―――業界用語だと神や天使なども含む―――を使役するデビルサマナーだ。手軽に頭数を用意でき、召喚する仲魔―――仲間の悪魔―――を入れ替えることで様々な状況に対応可能。過去は貴重な技能だったが、『悪魔召喚プログラム』の開発以降瞬く間に業界人はコレだけになっていた。習得が容易すぎ、強力過ぎたためだ。
空から星屑が降ってきた当初、彼らはどこかの神魔の仕業だと思い、悪魔を使役して民衆を守ろうとした。
だが星屑が近づくやいなや、全ての悪魔が掻き消える。
星屑は神魔の実体化を解く『悪魔強制送還能力』と言える力を全ての個体が有していたのだ。
残る1割の悪魔にも通じる異能を持った者達も、星屑が共通して持つ人間由来の能力を完全に遮断する『人間不可侵』と言う性質のせいで逃げるだけで精一杯だった。
これらにより霊的国防組織や民間組織、宗教組織などが抱えた戦力のほぼ全てが無力化されてしまった。残る希望は取り憑いた悪魔の力を振るえる悪魔憑きや人から外れた悪魔人間など、デビルサマナーの下位互換として業界から駆逐された者くらいだったのだ。
「それで今後のあなたの役目ですが」
「はい、なんでしょうか」
「『勇者』と共に戦ってもらいます。まずは連携訓練と交流の為、彼女らが通っている学校に転入してもらうことになるかと」
「―――」
『勇者』とは簡単に言うと悪魔の力がこもった武器に選ばれた者達だ。アマネのような悪魔憑きや一哉のような悪魔人間より暴走の危険性が著しく低く、悪魔召喚プログラムをモデルに作られた『勇者システム』で構築した勇者服を纏うことで高い身体能力も得られる大社の切り札である。
そして一哉の故郷から人類の希望として連れていかれた、郡千景がこの勇者の一員なのだ。
「やはり難しいですか? どうしても無理そうなら別の手段も考えますが、できれば戦力の分散は避けたい。そこまで余裕があるわけではありませんから」
「いえ、個人的に思うことは何もないです。ただ向こうがどう思うかと、四国の皆の反応が心配で」
個人的に郡千景に対して思うことがないというのは事実だ。彼女が迫害されていた時、保身を考えず助けるために動けていれば千景に恨まれることを恐れて村の連中は手出しできなかっただろう。半端な行動しかしなかった自分が悪かった。そこを悔やんではいるが、千景に当たっても意味はない。
だがかつて村一つを殺し尽くした日、村を離れていなかった千景の父も当然ながら殺している。いい親どころかかなり酷い部類だが、それでも親だ。親を奪われた彼女は純粋な被害者だし、恨まれているかもしれない。協力して戦ってもらえるか不明だ。
また勇者たちは偶然か、もしくはそういうのじゃなければ武器に選ばれないのか、タイプは違うが美少女揃いだ。共に戦うアマネも美人である。戦果を挙げて情報を公開する際、民衆に受け入れられやすくなるという効果を期待できる。だがそこに明らかに危険そうな鬼を混ぜていいのか疑問だった。
「郡さんについては問題ありません。本人に確認も取りました。ただ内心でどう思っているかは別なので、頑張ってください。
あと民衆受けについてですが、仏像を思い出してください。問題ありません。それにあなたの鬼としての特性は有用です。これは宣伝に活用すべきと判断しました」
一哉は「善性の集団に倒される鬼」だ。故郷の村は全滅させられたが、それは彼らが自分で思っていたような「一致団結して悪に立ち向かえる善人の集団」ではなかったから。もしそうだったらあっさり討伐されていただろう。
そんな鬼が四国の中の人には手出しできない、逆に外の敵はガンガン倒せるとなれば宣伝効果は大きいらしい。
「そういうものですか。
まぁ郡さんが認めてくれてるなら問題ないです。指示通り学校に通わせてもらいます」
「ええ、お願いします。日程は送信されているはずなので後で確認しておいてください。学校での使う道具は部屋に届いているはずです。
話は以上です。ご苦労様でした」
「わかりました。じゃあこれで失礼します」
許可も出たので部屋を出る。
これからは自由時間、部屋に戻って日程と道具が揃っているかの確認をするとしよう。