「今日は皆さんにお知らせがあります」
二〇一八年、新年度初日。
五人の『勇者』と一人の『巫女』のために丸亀城の一部を改装して用意した学校で、教師が何か重大そうな口調で告げた。
「本日よりこの学校に転入生がやってきます。『天敵』と共に戦う仲間になるので、連携が取れるよう交友を深めて下さい」
星屑や星屑が合体した進化体はまとめて『天敵』―――天から降ってきた敵、あるいは単純に人類の天敵であるため―――と呼ばれている。
それらを倒せる勇者と他少数の能力者は、もう四国中から集めきっていると勇者たちは思っていた。大社が結界を張ってから一月としないうちに神からのお告げで集めきり、それ以降一人も見つかっていなかったからだ。
そのため一人を除いて彼女らはすぐ理解できず、次いで驚愕が走った。
「えぇぇぇぇえええ!? まだいたのか!? タマげたぞ!」
まず声を上げたのは土居球子。
中学二年生としては小柄だが、とても活発で目立つ少女だ。
「タ、タマっち先輩声大きいよ~。」
教師からの連絡より球子の声に驚いた少女は伊予島杏。
諸事情あって球子と同い年だが一学年下の中学一年生だ。かなり大人しい性格だが、球子とは姉妹のように仲がいい。
「だが土居が騒いでしまった気持ちもよくわかる。四国で奴らと戦えるのは私たちとアマネさんしかいなかったからな。一人増えただけでも戦力の大幅増だ」
「そうですね。送り出す側としても味方は多ければ多い程安心できます」
真面目な回答をしたのは勇者の乃木若葉と巫女の上里ひなた。
若葉は武道で育まれたピシッとした姿勢と凛とした雰囲気で、ひなたは穏やかな声と表情、気品のある立ち振る舞いで球子と同じ学年とは思われないことも多い。
「新しい仲間かー。どんな人だろうねぐんちゃん!」
屈託のない笑顔で隣の席の少女へと話しかけたのは少女は高嶋友奈。
誰とでも仲良くなれる明るく元気な性格で、勇者たちのムードメーカーな中学二年生だ。
「……さぁ、どんな相手か想像もつかないわ」
本当に困ったような顔で返事をした少女が、勇者の郡千景。ぐんちゃんは
彼女だけは今日来る増援のことを知っていた。知っていたが、どう対応すべきかも全くわからないままだったのだ。
「(村の末路は聞いたけど、自業自得。神さまだっているってわかったのに、鬼を作るようなことしたんだから。お父さんだって私の親って立場を使えば止めれたんだから同罪。
何よりもうそれは三年も前の事。村を離れた後のことだし、私の中ではもう整理はついてる。
でも彼は? 景山さんの家は完全に被害者で、私が勇者に選ばれたせいであんなことになった。彼は私を恨んでいないの?)」
千景は景山一家のことは覚えていた。
あの家のおじさんとおばさんは自分の悪口を言ったり差別したりしていなかった記憶がある。それに千景が階段から突き落とされた時、救急車を呼んでくれたのが彼だったはずだ。いじめのターゲットが移らないように犯人捜しはされなかったが、頭を打ってぼやけた視界には映っていた。
その彼らが鬼に仕立て上げられ、虐殺を行わされることになったのだ。きっかけとなった千景を恨んでいてもおかしくはない。
その点に関しては全く問題ないと大社の人は言うが、千景は信用しきれずにいた。
「教室の外で待ってもらっているので、さっそく会ってもらいます。景山さん、入ってください」
「はい、失礼します。
転入生の景山一哉、中学二年生です。よろしくお願いします」
教室に入り、黒板に名前を書いて自己紹介を行う。おかしなことはしなかったはずだが、全員の目が見開かれていた。
こういう時、真っ先に反応するのは球子だ。
「転入生って男だったのか!? タマはてっきり女だと思ったぞ!!」
「(……あー。アマネさんも女性だし、女だと思われてたか)」
勇者システムを運用できる資質があるのは少女のみ。悪魔憑きの資質が高いのも女性が多く、四国で実戦レベルの実力を持っているのはアマネだけだ。なら追加の戦力も女性だと勘違いしてもおかしくない。
「御覧の通り男だ。
あと勇者でも悪魔憑きでもなく、悪魔と合体した悪魔人間。経緯は特殊なので大社に申請して許可が下りてから聞いてほしい。
ただ戦闘能力については大社が保証してくれてる。足を引っ張ることはないはずだ」
右腕を三本に戻しながら説明する。
球子を始め勇者たちは悪魔人間を知らなかったが、悪魔人間化と言うのは本来利用価値のない技術だ。取り憑かせるだけじゃなく肉体まで合体させるので高度な技術が必要になり、合体した悪魔の影響が大きすぎまず間違いなく暴走する。平均スペックで見れば悪魔憑きより高いが、個人差が大きすぎ誤差の範囲を出ない。産廃すぎて知らなくて当然の存在なのだ。
合体した悪魔とほぼ同じ存在のため自然と合体でき、意識にも齟齬が生じなかった一哉が特別なのである。
「んん、少し驚いたが戦力として問題ないなら歓迎しよう。
私は乃木若葉だ。よろしく頼む」
「よろしく、乃木さん」
若葉が切り出したのをきっかけに、順番に彼女たちの自己紹介を受け挨拶をしていく。
そして最後に千景の番になった。
「…………郡千景。よろしく」
「…………景山一哉です。よろしくお願いします」
互いに負い目があり、他のメンバーとの挨拶に比べて気まずい。何かあったのが傍から見て推測できた。
「(下手に触れない方が良さそう、かな? ぐんちゃんも景山くんも相手に対して何か思ってる風じゃなさそうだし、自然と仲良くなれるのが一番だよね)」
「(アマネさんに二人の過去を聞いておきましょうか。何かあった時知らないままじゃフォローもできませんし)」
こういう時、気を回すのは友奈とひなただ。この二人がいる以上、大きな問題になることはないだろう。
二人が察したのを見て教師も胸を撫で下ろし、朝のホームルームの終わりを告げた。
「自己紹介も終わったようなので授業を始めます。
景山君はそちらの席に座るように」