生きるとは、善くありたいと思うこと   作:ぬがー

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どこで区切ったらいいかわからんかった。


第一の侵略者 ドゥベ③

「アマネさーん! 一哉くーん! こっちこっちー!!」

 

 合流すべく樹海を駆けていると、向こうもこちらに気づいたのか友奈が声をかけてきた。星屑たちは音や視界ではなく気配―――生体マグネタイトと言う人間が生み出すエネルギーの反応―――で攻撃対象を認識するため、声を抑える必要はないので結構大きな声だ。

 彼女らは全員勇者装束に変身しており、寝起きの体を起こすために準備体操をやっていた。予定では夜番の者が壁に向かっていれば追いかけつつ後ろから様子を窺い折を見て参戦、自分たちの方に向かっていれば合流のためその場で待機と決まっていたためだ。

 

「アラームで起きたら外の時間が止まちゃってて、周りはでっかい蔦みたいなのがでてぐわーってなるし、びっくりしちゃいました! 合流できてよかったです!」

 

「ええ、本当に無事合流できてよかったです。私たちはありませんでしたが、樹海化した際に位置がズレたりしませんでしたか?」

 

「ぐーんって伸びて持ち上げられたけど、横にはズレませんでした! 蔦みたいなのもおっきいし、同じ部屋にいれば大丈夫だと思います!」

 

「それは良かった。なら今後もこの態勢でいけそうですね」

 

 アマネが一哉から降りながら待機組の状況を聞き、友奈が答える。

 そうしているうちに友奈の後ろをちょこちょこと追いかけていた千景が近寄り、剣を振って体を起こしていた若葉、二人で柔軟体操をしていた球子と杏も集まってきた。

 

「全員、揃いましたね。

 ……これから私たちは第一の侵略者に挑みます。我々の手でドゥベを倒し、四国を守る。これが叶えば道が開けるでしょう。ですがそのために犠牲が出せば、次の試練はさらに厳しいものになります。誰も死なず、最大の戦力を維持したまま歩み続けることが最も確実な道です。くれぐれも死なないように」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 勇者5人と一哉を前に、アマネが告げる。

 皆の空気が引き締まり、一哉もまた盾役の前衛として全員無事に帰さなくてはと改めて決意を固めた。

 

「敵の増加も無く、ゆっくりと前進中。過去の記録通りなら星屑の移動速度はもっと速い。ドゥベが鈍足なのかもしれませんが、襲撃を警戒していると仮定して行動します。迂闊な攻撃は行わないでください。

 では行動を開始します」

 

 スマホのマップで確認した敵の数と動きからアマネが指示を出す。

 指示に従い、互いにフォローが出来る距離を維持しつつ慎重に敵に迫る。

 敵の群れを発見し、最初にボスを見つけたのは友奈だった。

 

「あ、進化体いたよ! お菓子みたいなやつ! 他は星屑ばっかりだし、アレがドゥベじゃないかな!?」

 

「お菓子みたいって……いやマジでそうだな。でもどっちかって言うとアイスじゃないか?」

 

 球子が友奈の指さす方を見ると、本当に進化体らしき個体がいた。

 カラフルなコーンの上に穴の開いた赤紫色の饅頭を乗せたような姿をしている。球子的にはアイスっぽい外見だが、あんな感じのお菓子もあったように思う。

 

「……棘も牙も触角も見当たらないわ。あの穴からは何か飛ばして来るくらいはしてきそうね。針にエネルギー弾、毒ガスもあり得るかしら」

 

「後は体当たりでしょうか? 上部と下部のどちらかが本体で、もう片方を自由に飛ばせるなら脅威だと思います」

 

 千景と杏はドゥベの外見から攻撃手段の推測を行う。

 悪魔もそうだが星屑や進化体は物理法則を鼻で笑うような動きを当然のこととして行える。だがその動きは実体化した肉体に沿ったものに限定されているのだ。

 棘があれば突き刺すか飛ばすかしてくるし、牙があれば噛みついてくるし、口や穴があればそこから何か出てくる。そしてなければそれらの行動はできないか、攻撃前に変形という隙が生じることになるだろう。それらの情報をある程度看破して戦えれば相手の隙を突き、危険を避けて立ち回ることが可能になるのだ。

 そしてゲーム好きの千景と読書好きの杏はこういう予測を立てるのが上手かった。すぐにその情報を味方と共有し、立ち回りに活かしていく。

 

「……ゆっくり前進しているだけで、罠を仕掛けている様子はありませんね。出来るだけ外周部で戦った方がいいですし、もう斬っても構いませんか?」

 

 若葉はと言うと今にも斬りかかりそうな表情で、努めて自制していた。

 星屑が降ってきた時から四国内にいた一哉と千景、大きな被害もなく四国まで撤退できた友奈に球子、杏とは違い、若葉は級友の多くを目の前で食い殺されている。天敵に対する怒り、憎しみは他の者達の比ではない。そしてその怒りが若葉の原動力だった。

 今すぐでも飛び出して奴らに報いを与えたい。何事にも報いを、という乃木家の家訓から外れない感情は今にも暴走しそうなほど強かった。

 それでも若葉は我慢する。自分だけで動くより、アマネの指示のもとで動いた方がより効率的に復讐を果たせるとこの三年で教えられたためだ。

 

「まだです。星屑が通常の人間狙いよりドゥベの警護を優先しています。他とは違い統率されているんです。迂闊に仕掛ければ囲まれて押し潰されるでしょう。

 まずは遠距離攻撃で取り巻きを削ります。伊予島さん」

 

「はい!」

 

 遠距離攻撃手段持ちの二人を中心に戦闘態勢に入る。敵が反撃に備えて一哉が一番前で攻撃を抑えられるように構え、球子と若葉は杏を、友奈と千景はアマネを狙撃から守れる位置を取った。

 伊予島が神の力の宿ったボウガン『金弓箭』を構え、アマネは自身に宿る悪魔の一体『イザ・ベル』の【灼熱の花】を具現化させた。

 合図と共にマシンガンのごとき連射力で矢が放たれ、【灼熱の花】から伸びた茨が星屑を打ち据え蹴散らしていく。百体ほどいた星屑を3割程度間引いたところで、ドゥベがついに動き出した。

 

「〇Φ、%Ω、ε±▽」

 

 上部に空いた穴から【連星の炎】が放たれる。【貪狼星の証】を有するドゥベの射程距離はアマネや杏よりも長く、二人がドゥベを射程に収めるより先に砲撃が飛んできた。

 

「フンッ!」

 

 それを一哉が身を盾にして防ぐ。腕が焼けるも、予定通りアマネの【ディアラマ】が飛んできて完治する。ただの人間であれば痛みで苦しむし、流れた血の分だけ消耗するが、悪魔人間である一哉は魔法で回復すればそれで十分。デビルサマナーが使役する悪魔に完全にお株を奪われていたが、簡単に治せるから傷つきやすいタンクをこなせるのが悪魔人間の長所なのだ。

 

「ダメージはどうですか?」

 

「完全に治ってます。もう何発かくらってからでも十分です」

 

「なら取り巻きの駆除を優先します。幸い敵の進行が遅く未だ壁近く、樹海を荒らされようと現実は海が荒れる程度で収まります。攻撃手段を確認しつつ慎重に行動してください」

 

 まず一哉が被弾して相手の強さを測るのは訓練でもよくやる安定手。勇者たちに動揺もなく、アマネの指示のもとスムーズに星屑を駆除していく。

 ドゥベは【連星の炎】を収束させたり、逆に拡散させて反撃を続けるも壁役の一哉と回復役のアマネを突破できず護衛を剥がされていく。そして星屑が壁として機能しなくなる手前まで減少した時、今までとは違った行動を見せた。

 

「γ◇ζ、Θηψ」

 

 周囲に熱波を放つ度に上部が膨張していく。

 あからさまな大技を打つ前兆に、勇者たちは一哉の後ろに隠れ、元々一哉の後ろにいたアマネは茨を編み周囲を覆う防壁を築いていった。

 そして見た目通り膨張に限界が来ると大爆発。【連星の炎】をはるかに上回る熱波と共に弾けた上部が飛び散り周囲を打ち据える。炎に耐性のある茨もそれには耐えきれず突き破られ、一哉はボロボロになった。

 

「~~~~ッ! 生きて、ますっ!」

 

「ならこちらですね。【ディアラハン】

 その様子だと防壁がなければ厳しかったでしょうし、私や勇者には耐えられそうにないですね」

 

 蘇生が必要ならともかく、その程度なら具現化させる悪魔を切り替える必要もない。【ディアラマ】と同様にアマネ自身の技術であるダメージ完全回復の魔法を一哉にかけた。

 火力は脅威的だが、溜めが長く一哉とアマネがいれば防ぎきれる攻撃だった。これで終わりならもう勝負はついたも同然だろう。

 

「今のはタマげたな! 切り札勝手に使うか悩んだぞ!

 でももう星屑残ってないし、コレは勝ったな!!」

 

「タマっち先輩! そんなこと言ってると」

 

 敵の爆発の余波で取り巻きが全滅しているのを見て球子がはしゃぐも、それを何かを察したような表情の杏が窘める。千景も杏と似たような顔をして周囲を警戒した。

 すると弾けた上部の欠片がばらけて星屑になっていく。今までは観測されたことはなかったが、セプテントリオンを含む進化体は星屑の集合体だ。ならばらけて無数の星屑に戻るというのはあり得ない話ではなかったのだろう。

 

「ほらやっぱりー!」

 

「タマのせいじゃないだろこれ!?」

 

「言ってる暇ないわよ! 私たちの後ろにも破片は飛んで行った! そのまま神樹に向かうかもしれないわ!」

 

「! そうですね、では千景さん、伊予島さん、土居さんの三人で後方の星屑の対処をお願いします! 敵が神樹に到達するのだけは許してはいけません!」

 

 千景の言葉を受けてアマネが指示を出す。三人はスマホで敵の出現位置を確認しつつ即座に後方へと下がっていった。樹海内は高低差が激しく探して倒すのは面倒なので、星屑を追い越してさらに後方で待ち構えて戦うことになるだろう。

 

「乃木さん、高嶋さん、二人にも動いてもらいます。

 減らした星屑は始めと同数程度まで補充され、上部も弾けさせれば次が出せる様子。持久戦ではいつまでかかるかわかりません。反撃を開始します」

 

「ようやくですね!!」

 

「わっかりました!」

 

「まずは景山さん、あなたが突っ込んで敵を引き付けてください。突破が可能なようならそのまま押し込んで構いません。状況に合わせて援護します。

 二人は星屑は無視、攻撃直後の隙をついてドゥベを攻撃してください。そこからの連携については訓練通りに」

 

「「「はい!」」」

 

 三人で大きく返事をして、一哉はドゥベと取り巻きの方へ突っ込んでいく。

 星屑は3年前の勇者服無し若葉が斬りつけても倒せる程度には脆い。だがデカくて邪魔だし、噛みつきは一哉にもダメージが入るくらい強力だ。それが群がってくれば無視して突き進むわけにはいかず、足を止めて迎撃していくことになる。

 そこをドゥベは収束させた【連星の炎】で狙い撃つ。腕が2、3本千切れて飛んでいき、アマネの回復魔法で生やして戦闘を続行する。星屑は回復した一哉を進ませまいと、ドゥベの周囲に満遍なく散開していた状態から一哉の前方に集中するようになっていった。

 

「私たちは無視か。いつまでも見下していられると思うな!!」

 

 星屑の防衛が薄くなった隙を突き、若葉の生太刀がドゥベに迫る。

 ドゥベは防ぐことも回避もせずに攻撃を受け、生太刀はドゥベに接触した瞬間物理法則を無視して停止した。

 

「っち、無効化されたか! だが反射はない! 友奈!!」

 

「わかった! 百回連続、勇者ぁ、弱パーンチ!」

 

 若葉と入れ替わりに友奈がドゥベを殴りつける。

 回転数だけを重視した軽い拳では普通に硬い相手にはダメージは期待できない。だが【護りの盾】のような術や機能で無効化している場合、威力に関係なく無効化した回数だけ事前にかけた術かエネルギーかを消費していくことになる。そういう相手には有効な戦法だ。

 だがドゥベには何の変化もない。煩わし気に体を震わせ、友奈と若葉を振り払うだけだった。

 

「これ無効か吸収耐性持ってるよね? 切り札なしじゃどうしようもないよ」

 

「そのようだな。仕方ない、景山! 交代だ!」

 

 若葉と友奈が反転し、一哉に群がっていた星屑を切り崩す。

 その動きを察し、アマネの茨が動きを変える。一哉の回復と補佐を長時間こなせる動きから、広範囲への火炎魔法【マハラギ】をばらまき星屑を殲滅する動きに切り替えた。

 一哉は三人が作った隙をついて一気にドゥベとの距離を詰める。ドゥベは先ほどと同様に【連星の炎】を放って足止めしようとするも、耐久力任せに突っ切り速度を落とすことはない。

 

「性能はいいがAI雑だな。チュートリアルならこんなもんなのか?」

 

 ドゥベに耐性を無視する【貫通の一撃】が叩き込まれる。

 ドゥベの強さは【貪狼星の証】による硬い外殻が齎す耐性にあり、許容以上のダメージを受け外殻が壊れていけば耐性が低下する。痛打を一撃入れられた時点で詰みだ。

 再度自爆する前に一哉の多腕による追撃がドゥベを撃破する。自発的に爆発させたわけではなかったせいか、砕けた破片から星屑が現れることはなかった。

 そのまま星屑の掃討戦を行い、安全第一で少々時間をかけて戦闘は終了した。

 




 ドゥベの耐性は結界突破で弱体化してます。
 具体的には物理吸収、炎無効、氷耐性。結界の外で戦うと原作通りの物理反射、他無効のまま戦うことになってました。ムービーシーントラックはありません。

 それでもゲーム上の狭いマップからゆゆゆ規格に合わせて強化されてますが、戦士たちの連携で被害もなく完勝できました。
 実戦始まってから本格的な交流持たせていくとか馬鹿じゃね? という大社の戦闘員さんたちの意見を反映した結果です。四国に籠ってから3年もあったんだから、問題なく連携取れるように交流持たせようと大社職員は援護やフォローを頑張ってくれました。

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