夢の向こうで見る夢を   作:大樹 紗夜

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間に合わなかった…。遅れて申し訳ありません。

今回も緑谷視点でお話進みます。


第16夜 真実は夢の中

緑谷side

 

 

 

「そこまでよ。この化け猫め!!」

 

その人物は白いコートを揺らし、着地の衝撃で飛びかけた帽子を抑えた。

こちらに背を向けて(ヴィラン)と対峙している。…庇われているのか。

突然この空間に現れたことにも驚いたが、何よりもその姿に戸惑った。

 

(女の子?何でこんなところに…)

 

現れた人物はまだ中学生くらいの少女だ。一般人とは思えない格好はしているけれど、とてもヒーローには見えない。そもそも自分のようなヒーローオタクがこんな特徴的なヒーローを覚えていないはずがない。

 

「全く、今日は侵入者が多いわね。雪男の次は不気味な化け猫…忙しいったらありゃしない」

 

「門が開いていればその先を覗きたくなるのは当然だろう?吾輩は自分の心に従ったまでのこと。

それに吾輩は化け猫などではない。

吾輩の名は『追跡者(チェイサー)』ジョン・ドゥだ」

 

(ヴィラン)はふむ、と訝しげに少女を見る。

 

「…しかし、闖入者がいるとはな。

ここはその少年の『現界(うつつ)』と吾輩の『幻界(ゆめ)』、二つの世界の境界線。いわば隔離された我々だけの空間のはず。

ここに介入できる第三者となると……」

 

「ちょっと君!危ないから下がって!」

「心配ご無用よ。アンタこそ下がってなさい。ボロボロじゃないの。

…これは、アタシがしなきゃいけないことなんだから邪魔しないで」

 

ヒーローでもない少女がこんな場所にいる。それはこの敵の個性に巻き込まれた可能性が高い。

敵から庇うために少女の腕を掴んで下がらせようとするが、やんわりと腕を払われた。

 

「あれは(ヴィラン)だ!君はヒーローじゃないだろう!早く逃げないと…!」

「ぅぃ、うぃらん?どっかで聞いたことあるような気がするけど…まぁ、いいわ。

とにかく!あいつは違うわよ。ここはアタシたちの世界なんだから、人間には作れない」

 

「クックック…まさか吾輩を人間だと思っていたとはな」

「…へ?」

 

「吾輩の空間に割り込んだこと、そして今の言葉。そこから考えられる真実は…ふむ、なるほどお主も」

「アタシも」

 

「「夢魔(どうるい)か/よ」」

 

むま…ムマ………夢、魔…?

 

(いや待て全っ然話が理解できない!人間じゃないって言われても異形型の個性持ちの人にしか見えないんだけど!)

 

それに同類だと言う。対峙している少女と敵は仲間にはとても見えないが、この子も誰かの体を乗っ取っているというのだろうか。

 

現界(うつつ)への先駆者に敬意を表する。実態を持たない我らが外に出る方法は一つ…お主も吾輩のように人間を“器”としたのだな?」

「知らないわよ」

「…知らない、だと?」

「気づいたらこっちに放り出されてたのよ。

知らない場所に知らない空気。幻界にいたと思ったらいつの間にか現界に来てた。夢魔の姿のままでね。

全く、夢もキボーもありゃしない」

「クックック。いや、失礼した。…成程、迷子の子羊ということか」

「子羊じゃないわ、アタシはメリー。メリー・ナイトメアよ」

 

両者が睨み合う。事情は分からないけど協力してこちらを襲ってくる様子はない。

 

「アタシはさ、もとの世界に帰りたいんだ」

「悪いが方向が逆だ。吾輩は外に出たいのだよ」

「っ!」

 

猫の(ヴィラン)…いや夢魔がこちらに向かってくる。少女としゃべっている間に逃げる態勢は整えられた。いつでも逃げるために走れるが…夢魔は足を止めた。

 

「何のつもりだ」

 

見ると、少女が夢魔が先に行かないように手で制している。

 

「やらせる訳ないでしょ。大人しく引き返しなさい!」

「引き返せ、とな。お主も現界にいるというのに随分な物言いではないか」

「だから、帰りたくても帰れないんだって!アンタは自分の扉に戻りなさい!」

 

少女が夢魔を指差した。少女が持っている何かがキラリと光る。…あれは、見たこともない形をしているが鍵のようだ。

 

「それは界境の鍵!?何故そんなものが此処に…いや、そうか。

界境の鍵を持っているということは、お主がそう(・・)なのか」

「分かったんならさっさと帰ってくれる?アタシも暇じゃないのよね」

 

夢魔は少女の言葉に数秒程度悩み、降参だと言うように片手を上げた。

 

「…仕方があるまい。お主直々に言われてはな。ここは素直に引くとしよう」

 

「え?!」

 

あっさりと身を引いた猫の夢魔に驚いた。

猫の夢魔は僕の方を見る。少女にそう言っていてもまだ狙われているような気がしてビクッと身体が震えた。

 

「クックック。心配せずとも少年の体はもう狙わぬよ。

それにしてもお主がこんなところにいるとはな。てっきり灯台に拐われているものと思っていたが…予想が外れた」

 

「灯台?アンタ、何か知ってるのね」

 

(何の話だ。灯台に拐われた?…灯台って船の目印になるあれのことか?それとも何かを比喩して言っているのか?)

灯台、と聞いて何かが記憶を掠めた。つい最近どこかで聞いたような…?

 

「吾輩もその光に導かれて此処へ来たのだよ。しかし、お主ほどの者が奴のことを知らぬのか…」

「だから!灯台とか奴とかって誰のこと言ってるの!?

勿体振らずに教えなさいよ!」

 

「現界から照らす一条の光。それは現界への道を示し、誘蛾灯の如く我々夢魔を惹き付けている。その光の名は…」

 

「灯台の夢魔。『灯台(ファロス)』エルクレス」

 

「?」「?!」

 

(エルクレスって…USJ襲撃のときにいた敵?!何で夢の中であの(ヴィラン)が関係するんだ!?)

 

「気を付けろよ子羊。奴が何のために現界に降りたか分からぬが、間違いなく現界に何らかの脅威が迫っている」

「エルクレス、ね。頭にいれておくわ。じゃあね、情報ありがと」

「あぁ、帰れることを祈っている」

 

バサリと赤いマントを翻し猫の夢魔は踵を返した。帰ってくれるのは有難いが今はそれどころではない。

 

(エルクレスが夢魔ってどういうことだ!結局夢魔って何なんだ!僕以外にも夢魔に狙われてる人がいるのか!

まだ何も聞いてないのに此処でコイツを逃がしたらいけない!)

 

急いで追い掛ける。まだ聞きたいことがあるんだ。

 

「待って!今エルクレスって!!」

 

「気になることもあるだろうが、吾輩の夢はもう覚める…またな(・・・)、少年」

 

 

世界が変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消毒液の匂い。ふかふかのベッド。僕を心配そうに見る骸骨のような男性。

 

「………」

「少年!緑谷少年!

どうしちゃったんだい?ぼーっとして」

「!…オール、マイト…あれ?僕は…」

 

声を掛けられてはっと意識が覚醒した。

パチパチと何回か瞬きをしてみるが何度見てもここは保健室で間違いないようだ。周りに猫はいない。

僕を心配していたのはトゥルーフォームのオールマイトだった。お見舞いに来てくれたのだろうか。

 

(戻ってきた…?さっきのは、やっぱり白昼夢?)

 

変な夢を見た。いや、毎晩見ていた悪夢で精神的に疲れが出ていたせいだろう。けれどそれにしてはやけにリアルな夢だった。

 

「まだ疲れが残っているんだろう。そっとしておやり、オールマイト」

 

リカバリーガールが注射器型の杖をつきながらベッドの傍にくる。リカバリーガールにも心配をかけてしまったのか。

 

「オールマイトいつ来られたんですか?僕全然気付かなくて…痛ッ!…?」

 

ズキリと左手の指が痛む。まるで()()()使()()()骨が折れたときの激痛だ。

リカバリーガールに試合の怪我の治療をしてもらったばかりなのにおかしい。

咄嗟に指を抑えた手をどけて、左手を凝視した。

 

「緑谷少年?」

 

一切変色していない。怪我なんてない綺麗な指だ。

けれど骨折した痛みだけはある。

 

「何で…」

 

あの時、()()()()個性を発動したのは左手の人差し指だった。夢の中と同じく僅かに動かすだけでも激痛が走る。

 

(…夢じゃないっていうのか)

 

ズキズキとした痛みがあの出来事は事実であると証明しているようだった。

 

 

 

 





次回から体育祭の続きに戻ります!
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