夢の向こうで見る夢を   作:大樹 紗夜

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次は職場体験行くとか言ったな?あれは嘘でした。これの次でした。
思ったよりこれが長くなってしまったので、今年中に二、三話とか無理でした。これが今年最後の投稿です。
重ね重ねすみません。


第19夜 夢の存在

緑谷side

 

 

体育祭が終わった夜。なんとなく眠れなくてネットサーフィンを始めてしまった。

 

むま…ムマ、夢魔。ネットで調べたらサキュバスだとか夢に出てくる悪魔とかの情報は出る。幻想上の生物。悪夢を見せるというところは似ているがどうにも違うと感じた。『夢魔』という相手に悪夢を見せる個性か相手の夢に入り込む個性ならあり得なくもない、と考えても言い表せないような違和感が残る。

門番(シープ)』だとか『追跡者(チェイサー)』だとかもよく分からない。

 

(ヴィラン)捜査の助けになるかと思ったんだけど…」

 

はぁ、とため息をつく。夢の中でエルクレスが夢魔だと知りました、なんて言っても警察やヒーローが話を聞いてくれる訳がない。何処から聞いた情報だと聞かれたら終わりだ。

そもそもあの出来事でさえも、ただの悪夢と言われたらそれまでだ。襲ってきた夢魔、ジョン・ドゥもメリーっていう子も僕の妄想の可能性があるし、全ては夢の中の出来事。現実にないものをどうやって証明しろと。…指の痛みは相変わらず続いているけれども、証拠にはならないだろう。

 

「ゆめ…えーと、何だこれ?『夢無くし』?」

 

夢魔がダメならと夢と打って検索しようとした。ゆめ、と打ったところで見たことのない予測変換が出てくる。

『夢無くし』という言葉だ。気になってカチリとマウスで検索を押した。

 

『広がる夢無くし!退学・退職者の増加!』

『夢無くしの予兆と原因の推測─経験者から聞いた夢無くしの脅威─』

『新人ヒーロー辞職!?原因は夢無くしか?』

 

予想よりも随分と多くの記事が出てきた。

大まかな概要だけ読み進めていくと、夢無くしとはここ数ヶ月で急激に増えた突然夢を失くしてしまうという現象らしい。

どこか胡散臭いが、確かにこの新人ヒーローが辞職した理由は明確にされていないし、記事と共ににあった経験者の顔写真は合成とは思えないほど憔悴しきっていた。

 

(だからと言ってこれは夢魔とは関係ないか…)

 

夢の中で怪しい奴に襲われたならもっと大きなニュースになっているはずだ。それこそネットニュースで流れたり、テレビで特集を組まれていてもおかしくはない。検索しないと出てこないなんてことはないだろう。

 

ふぁと欠伸が出た。時刻を見ると1時を過ぎている。わざわざ記事を読む元気はない。なんとなく眠れないと思っていたが、体は睡眠を求めているようだ。

体育祭の疲労と夢魔のことを考えていたからか、身体的疲労と精神的疲労が重なって眠気が襲う。眠いと自覚したら一気に体が重くなった。瞼が閉じそうになる。

 

「…………寝よう」

 

これ以上考えても答えはでない。パソコンの電源を切りながらそう結論づける。潔く忘れた方がいい気さえしてきた。部屋の電気を消してベッドに体を投げ捨てるように横になる。

 

ベッドにごろごろと寝返りをうち、昨日まではあの悪夢をどう乗り切ろうかばかり考えていたなとぼんやり思った。数百匹の猫から追い掛けられるというのはトラウマになってもおかしくない悪夢だ。てっきりどこぞの猫の恨みでも買ったのかと猫を見るたびにいつもビクビクしていた。

 

ズキリ、ズキリと鈍く痛む指をそっと握る。あの夢を見てから指の痛みは引くことがなかった。それがあの夢がただの夢ではないと証明しているようで気持ち悪い。

 

(もう追いかけっこはしなくていいんだよな…)

 

あの猫の敵はもういないのだと思うと、安心して意識が沈んでいった。

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞼で閉ざされた視界の先がやけに明るい気がした。何でだろうと思ってわずかに目を開ける。やっぱり明るい。

 

(電気着けてたっけ…?)

 

パチリと瞬きを一つ。寝起きのぼやけた視界では周囲に何があるかはよく分からないが、部屋の照明ではなく昼の外にいるような自然的な明るさだというのは分かった。

 

「…あれ」

 

僕はベッドで寝たはず…だよな?でもベッドが地面の上のように硬い。身動ぎしたらジャリ、と砂を触ったようだ。ジャリ?…砂?なんで??

いやに現実的な感触に思考が働き始める。

 

「ようこそ、少年」

「!」

 

身を起こして声を掛けられた方に振り向く。

振り向いた先の人物は背の高い椅子に足を組んで座っていた。その相手を見てぼんやりとしていた意識が完全に覚醒する。

相変わらず仮面に隠れたその表情は伺い知ることは出来ないが、やけに楽しそうな雰囲気は隠れていない。

 

「『追跡者(チェイサー)』ジョン・ドゥ!?…それにここは!」

 

そこにいたのは体育祭のときに僕を襲った猫の敵。

はっとして辺りを見回すと魚の骨旗が揺らめき、砂埃が舞う街の中である。ここは猫の敵が用意した悪夢の中だ。いつものように配下の猫兵たちの鳴き声はしないが不安は拭いきれない。

 

「…何でまだ僕の夢に出てくる?帰ったんじゃなかったのか」

「クックック。確かに吾輩は一度幻界に戻った。そしてまた現界に訪れただけのこと。

それよりも…ふむ。やはり治っていなかったか」

 

あの時僕を助けてくれたメリーちゃんの前では降参したように見せていたってことか。帰れと言われて、一度帰ってまた来ましたって、なんて屁理屈だ。

ジョンの視線は僕の左手に注がれている。治っていない?リカバリーガールが体育祭で受けた傷は全部治癒してくれたはず…どういうことかと左手を見た。

 

「これ…!何で指が」

 

左手の人差し指が紫に腫れている。思い出したようにズキリと痛み始めた。

 

(確かに個性を使って骨折したけど…あれは夢の中で、目が覚めたら傷なんてなかったのに)

 

「夢での怪我は現界には反映されない。だが、怪我をしたという感覚は残るものだ。痛みはしっかりと残っていただろう?夢で負った傷は、現実の治療では治らない。自然治癒を待つしかないが、夢の中ならば治療可能なのだよ」

 

ジョンはパチンと指を鳴らした。

 

「治療してやれ」

 

「は~い。おとなしくするにゃ」

「あ、あの!包帯巻くのでじっとしてて下さいにゃ!」

 

「ぅえ!!?」

 

何処からともなく二人の少女が現れる。ピョコピョコと動く猫耳が可愛らしい。猫ってことはジョンの配下の人?なのだろう。手には包帯と薬らしきものを持っていた。

 

くるくると包帯を巻いて治療が終わる。治療中襲ってくる様子はなかった。何故か椅子まで用意されて猫の少女たちに座らされる。

 

「それで?貴方は何で僕に会いに来たんだ?僕を乗っ取るつもりなら怪我の治療なんてしないはず。一体何が目的で」

「まぁ、そうまくし立てるな。吾輩は話し合いに来たのだよ。

怪我の治療はお主を襲うつもりはないという誠意、とでも受け取ってくれ」

「話し合い?」

「あぁ。お主は吾輩が追跡(チェイス)している情報を持っているはずだ。いくつか質問に答えてもらいたい。その代わりと言ってはなんだが、吾輩もお主の疑問に答えよう。聞きたいことは山ほどあるだろう?」

「…分かった」

 

断る理由もない。僕程度から得られる情報なんてそうないだろうし、正体不明の怪しい(ヴィラン)の情報が手に入るなら悪い話ではないはずだ。本人から直接聞き出すということに少し違和感が残るけど。

 

「まず吾輩から聞くとしよう。

お主は『灯台(ファロス)』エルクレスに会ったことがあるな」

「何でそれを?!」

 

質問にしてはあまりにも断定的に言われて驚いた。

 

灯台(ファロス)』エルクレス。それはUSJ襲撃のときにいた(ヴィラン)の名だ。雄英高校に敵が襲撃したことは学校外の人にも周知されているが、敵の詳細は報道されていないはず。何故知っている?

ジョンの悪夢の中でも僕がエルクレスと会ったなんて言った覚えはない。まさかジョンとエルクレスは知り合いか、いや仲間…なんだろうか。

 

「…何で知ってるんだ」

「クク、吾輩は追跡者だぞ?お主を調べることなど造作もない」

「僕を調べた?」

「猫というのは便利な情報網を持っていてな。

そうだな、お主の個性のこともだいたい把握している。No.1ヒーローのオールマイトから譲渡されたものなのだろう」

「!」

 

いきなり立ち上がったせいでガンっと椅子が倒れる。冷や汗が止まらない。

 

敵にバレたんだ。オールマイトの秘密が。

 

(マズイ…敵はオールマイトが弱体化しているって知らない。万が一敵連合にバレでもしたら…!)

 

オールマイトが世間に隠している秘密は大きく分けて二つ。

一つは活動限界があること。昔敵と戦った時に負った傷のせいで今のオールマイトには活動できる時間が限られている。敵の抑止力であるオールマイトに時間制限があると知ったら敵は何をしでかすか分かったものでない。

もう一つはワンフォーオールという特殊な個性のこと。人から人へ受け継ぐ個性。この個性は無個性の僕でもオールマイトのようなとんでもない力を出すことが出来るようになる。もし、敵に奪われるようなことがあれば…そんなこと考えたくもない。

 

エルクレスと繋がりがあるかもしれないということは、必然的に敵連合との繋がりもあると考えられる。USJ襲撃はもともとオールマイトを狙って起こされたもの。

敵連合が本当にオールマイトが弱体化しているなんて知ったら、もっと規模の大きな事件を起こしてでもオールマイトを倒しにくることは容易に想像できる。

 

(僕が止めないと…敵連合にオールマイトの秘密が渡る前に!!)

 

ジョンを今ここで倒せれば、オールマイトの秘密は守られる。間合いをとり拳を握って構えた。

ジョンは僕が戦闘態勢をとったのを見て、まぁ待てと制するように両手を挙げた。

 

「悪いが吾輩はそんなものに興味はないのだよ」

 

「そんなもの、だって?敵にとっては喉から手が出るほど欲しい情報だろう!?」

()()()()()()だ。確かにお主のその力は興味深いが、今吾輩の追い求めている真実とは何の関係もないのでな。

拳を握ったままでは話も出来ぬ。まずはその拳をときたまえ。先程も言ったように、吾輩は話をしに来たのだ」

 

ジョンは足を組み直し、また座るように促した。拳を構えても警戒する様子すら見せないジョンは、本当に戦う意思がなさそうだ。

 

(ヴィラン)にとっては…?お前も敵だろう?夢魔というのは敵組織のことじゃないのか」

「…なるほど、そう捉えたのか。ではまずそこの話をしなければならぬな」

「話?」

「敵と夢魔の違い、そして二つの世界の現状の話だ。何度も言うが吾輩は敵ではない。

お主が遭遇したエルクレスや吾輩は夢魔と呼ばれる生き物。人間が住む世界とは別の世界、幻界(ゆめ)の住人だ」

「…夢?」

「夢は夢でも人が眠る時に訪れる幻界(ゆめ)だ。人間が住む現界(うつつ)と、我々夢魔が住む幻界(ゆめ)は二つの世界の間にある門によって分けられている。

人間は眠るときに門を通って幻界に来て、自分にふさわしい夢を見せる夢魔の庭に訪れる。それが普段お主たちが見ている夢の正体だ」

「……」

 

幻界?現界?…作り話にしては出来すぎている。とても信じられないが、ジョンの雰囲気から淡々と事実を語っているようにしか見えなかった。

 

「…にわかには信じられないけど、敵に情報を流すつもりはないのか」

「吾輩は幻界の、別の世界の住人だ。現界のヒーローや敵の事情など興味はない」

 

それに、そちら側に器がなければ吾輩は現界に干渉もできぬからな、とジョンは笑った。

確かに別世界の情勢なんか興味もないかもしれないけど、別世界から来たという言葉が信じられない。

 

「我々は人間に夢を見せ、人間が夢を見る対価に置いていった心の切れ端を貰い存在している。夢は記憶や感情の整理のためになくてはならないものだ。

それ故、人間も夢魔も互いが互いを必要としていた。最もお主ら人間はそんなことを知らないだろうがな。人間は夢魔の存在を知らず、夢魔は人間の世界に行くことは出来ない。

そうやって互いに過度な干渉はせず、あくまでも別世界に住むものとして生きていた。

だが…最近その均衡が崩された」

「均衡が()()()()?崩れたじゃなくて崩されたってことは…」

「あぁ、均衡を意図的に崩したものがいる。

その影響で世界の境界が曖昧になり、夢魔が人間の体を器にして現界に降りるというあり得ないことが可能になったのだ」

 

人間の体を夢魔の器に。

それはつまり、人の体を夢魔が乗っ取るということ。ぞわりと鳥肌がたった。夢魔の存在なんて世間は知らない。だから、何かに体を乗っ取られているなんて発想さえもないだろう。敵の被害はその敵を倒してしまえば収まるが、夢魔は二つの世界の均衡が崩れた影響で世界に出てくるようになったものだとジョンは言っているのだ。

 

そして、恐らくその均衡を崩したのは…

 

「…それが、均衡を崩したのがエルクレスだって言うのか」

「そうだ。吾輩はそれ故少年を此処に呼んだのだよ。奴を直接見てどう感じたかを聞くためにな」

 

肯定の返事。当たってほしくなかった。ギリッと歯を噛み締める。

ジョンがエルクレスのことを聞いたときから嫌な予感はしていたが、点と点が線で繋がった。幻界と現界、夢魔の存在、敵連合。エルクレスを中心に置くと確かにジョンの言葉が真実味を帯びてくる。

 

「奴が現界に降りて後、現界から幻界に光が差し込んだ。

それがエルクレスの道標だ。

人間を器にすれば我々でも現界に干渉できるという、幻界から出る方法を伝えるものだった。奴はその光を通して幻界の夢魔に今も呼び掛け続けている。

もともと現界に興味があった夢魔にとって、現界に自分の身体でなくとも行くことが出来るというのはあまりにも魅力的な案だったのだ。大勢の夢魔がその光を目指し現界に渡った。

…吾輩もそれに乗ってしまった口でな」

 

結局器は手に入れられなかったが、と自嘲するようにジョンは笑う。

 

「さて、これが今現在の幻界と現界。今の吾輩がお主に開示できる真実の全てだ。お分かり頂けたかな?」

「…まだ幻界とか現界とか信じられないけど、納得は出来る」

「今はそれでいいだろう。そしてこれからが本題だ。

少年、お主はエルクレスを見てどう思った。エルクレスは何のためにお主の学校を襲った。少年が説明できる範囲で話してくれるか?」

「分かった。まずは…」

 

こくりと頷く。話し合いには了承しているし、ここまで話してもらって此方がなんの情報も開示しないのはフェアじゃない。

何から説明しようか迷いながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵によるオールマイト殺害を狙った犯行…なるほどな。エルクレスほどの力を持つ者が人間と手を組んでいるのか。一体何のために…」

「それは僕も分からない。けどエルクレスは敵連合の完全な仲間じゃない気がする。

先生たちが来た後にエルクレスが一人残っても死柄木はあまり気にしてないようだったし、エルクレスも死柄木が怪我をしても焦った様子はなかった。

逆にノワールとランズボローっていう敵がエルクレスと親しかったような気がする」

 

敵がUSJを襲って来たときのことを覚えている限りジョンに話した。話を聞き終わった後、ジョンは庭が…とか、力を使える…とか何かを呟きながら考えに没頭していた。ノワールとランズボローの名前を出したときにピクリと耳が反応した。

 

「…ほう。その名が出るとはな」

「知ってるの?!」

「ノワールとランズボロー…『縛鎖(チェイン)』ノワールと『迷路(メイズ)』ランズボローか。名前だけなら聞いたことがある。性格や成り姿までは知らぬがな。現界に降りた夢魔の中にいたはずだ」

「じゃあ、あの二人も夢魔…?」

「その可能性が高い。同名の敵かもしれぬが、エルクレスと共にいる以上間違いないだろう」

 

ジョンがそう言った直後、ぼんやりと周囲が明るくなった。

 

「少し話過ぎたな。もうじき少年の夢が覚める」

「待って!また話はできないの?」

 

まだ聞きたいことがある。ジョンの夢に出てきた少女のことも、世界の均衡をどうするつもりなのかも聞いていない。

 

「残念ながら、吾輩はもう少年の夢には現れぬよ」

「どうして?!」

「やれやれ、もう忘れたのか?吾輩はお主の精神を乗っ取って都合のいい(入れ物)にしようとしていたのだぞ?そんな者にまた会って話がしたいなど…始めの警戒心はどこへ行ったのだ」

 

「あ」

 

忘れていたのかと呆れた目で見られた気がする。表情が分からないので雰囲気でなんとなくだが。

自分の警戒心の無さに呆然としていると、また辺りが白くなる。

夢が覚めるのだと悟った。

 

 

「ではな、少年。機会があればまた会おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開ける。見慣れた天井、嗅ぎ慣れた空気。間違いなく自分の部屋だ。

長い夢を見ていた気がする。誰かと何かを話して、何かを知ってしまったような、そんな気がした。

 

「夢…だよな?」

 

寝る前の指の痛みは綺麗さっぱりなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョンside

 

 

 

 

背の高い椅子に座り、先程少年から聞いた話について情報をまとめる。エルクレス一派と敵連合のオールマイトを狙った襲撃。少年が見たというエルクレス、ノワール、ランズボローは間違いなく夢魔だろう。

 

「…何が起きている?」

 

少年から聞いた話では、エルクレスは白い西洋風の鎧を身に纏った闇のように黒い肌の男。ノワールは鎖の尾を持った女性体。ランズボローは一つ目の小さなピエロの姿をしていたらしい。そして全員の瞳が特殊な形をしていたという。

瞳の形は夢魔に乗っ取られた者の特徴だが、僅かに違和感が残る。

少年にはエルクレスたちの成り姿など知らないといったが、幻界の中ではある程度の情報が手に入る。その中には見た目についての情報もあった。ランズボローは本当に知らないが、エルクレスとノワールは特徴がぴったりと当てはまっている。

 

(まさか、自分の夢魔の姿で現界にいるのか…?)

 

夢魔は自分の身体で現界に行くことが出来ないから、器が必要なのだ。

吾輩も本能的にそれを感じ取っているからこそ、人間を器にして現界に降りようとした。他の夢魔も器を得ようと躍起になって自分の庭に人間を招いていたと記憶している。夢魔の姿で現界に降りることが出来るならば、その前提が覆る。だからあり得ないはずだ。

 

(自分の姿に似せているだけなのか?いや、わざわざそんなことをする意味がない。

しかし本当に夢魔の姿のままだとしたら…あり得ない。人間の器なしで夢魔が現界に行くことが出来るなど。

!…いや、今日会ったではないか。イレギュラー中のイレギュラーに)

 

『気付いたらこっちに放り出されてたのよ。夢魔の姿のままでね』

 

少年の夢で会った門番が思い出される。

彼女は幻界から、世界から役割を課せられた特殊な夢魔。他の夢魔とは在り方からして違う。それ故多少の想定外はあると思っていたが、もし想定外の現象が他の夢魔にも起きているとしたら?

 

二つの世界の均衡は一体どこまで崩れているというのだろう。

 

(少年の様子からして夢魔は現界で認知されていない。夢魔だと本性を晒していないからなのかもしれないが…)

 

それとも、意図的に夢魔だということを隠している?何のために?そもそもエルクレスは何が目的なのか。人間と手を組み、何をしようとしているのか。疑問はつきない。

 

考えを遮るように頭を振った。ダメだ。これ以上推測するには情報が足りない。元となる情報がない推測などただの妄想だ。そんなものは真実に成りえない。

 

新たな情報を得るために幻界の中では都合が悪いか。

 

「質の良い情報は、やはり現地調達でなければな。クックックッ」

 

漏れ出る笑い声を手で抑える。あぁ、楽しみだ。真実の追跡(チェイス)はこうでなければ面白くない。

 

「少年と再会するのは存外早くなりそうだ」

 

まずは…子羊と合流する必要がある。組んだ足を戻して椅子から重い腰を上げた。

 

 

 

 

 

 





また新たなフラグを立ててしまった…!
でも今回立てたフラグは職場体験で消化されそうです(現時点では)。

では、良い年末を!来年もこのシリーズを読んで頂ければ幸いです。
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