万神殿は何処   作:sugar 9

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4話:罪は美名の仮面で隠される

 私が信じるもの、それは私が望んだもの

 

 私のものは、私が愛し戦ったもの

 

 私の生に、意味もなければ価値もない

 

 だからとせめて星に願う

 

 この穴を埋める温もりを

 

―――――――――――――――――

 

「早速で悪いが、君には破面になってもらう」

「? ……ああ、ザエルアポロのようになるという事か?」

「理解が早くて助かるよ」

 

 破面。虚が自身の仮面を剥がすことによって死神と同質の力を得ることが可能となる存在。しかし、だからと言ってどんな虚であっても強力な破面になるわけではなく、その力は元の虚の力に大きく依存することになる。藍染からしても、フリードがどれほどの実力を持つのかは完全に未知数な上にどのような能力に目覚めるのかも分からない。虚夜宮やフリードの万神殿に被害が及ぶような面倒ごとは避けたかった藍染は万神殿から少し離れた場所でフリードの破面化を行うことにしたのだった。

 

「だが、破面になることに何か意味があるのか?」

「そう言われると答えに困るが、純粋に戦力の強化だと思ってもらって構わないよ」

 

 そう言いながら、藍染は懐から小さな水晶体のようなものを取り出した。

 

「これは崩玉と言ってね。今はまだ完全覚醒には程遠い状態だが、私が霊圧を注ぎ込むことで君を虚からさらに強大な破面という存在に引き上げることが可能なんだ」

「あいにくと、私はザエルアポロと違ってそちらの知識は浅い。説明されたところで半分も理解できないよ」

「それは残念だ。では、さっそく始めるとしよう」

 

 藍染が崩玉に霊圧を込めると同時に、崩玉から淡い光があふれ出した。それはまるで意志を持つかのようにフリードの元へと流れていき、フリードを包み込んだ。フリードは特に抵抗するような様子も見せず、光に飲み込まれていった。

 

―・―・―・―

 

 ここは何処だ。

 

 私は、誰だ。

 

 わからない。何もわからない。

 

 視線をどこへ向けても見えるのは赤ばかり。どす黒い赤色で視界が埋め尽くされている。かろうじて見える輪郭は人のものなのだろうか。

 

 だとしたら、私は今骸の山にでも埋まっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

たすけて

 

 

 

 

 

 

 声が、聞こえた。

 

「ヒッ……」

 

 口から自然とそんな声が漏れ出た。声は折り重なるように聞こえてきた。耳をふさいでも、まるで頭の中から直接叫ばれているかのように、不快感を伴って声が聞こえ続ける。

 

たすけてたすけていやだたすけていやだたすけていやだたすけてたすけてたすけてたすけていやだたすけてたすけていやだたすけていやだたすけていやだたすけてたすけていやだたすけていやだたすけていやだたすけていやだたすけていやだいやだいやだいやだいやだいやだ

 

「あ、ああ、ああああ!!!!」

 

 途端に、周囲の骸が自分の中に流れ込んできたような感覚に襲われた。狂い死にそうなほどの不快感。そして苦しみ。それらを何十倍にも濃縮したようなものが私の中で暴れ狂っていた。

 何だこれは。何だこれは。どうして私はこんな目にあっている。わからない。何もわからない。私が何だというのか。

 

「嫌だ。私は、私は違う!」

 

 何が違うというのか私自身分からなかった。何かの罰だとでも思ったのだろうか。荒れ狂う心とそれを嫌に冷静に俯瞰する心が私の中にいる。どちらが私なのかもわからない。

 

 そして私は理解した。

 

 これは私が殺した(喰らった)ものだ。

 

 そして、それが私を罰で殺そう(喰らおう)としているんだ。

 

「ぐっ、ああああ!!!!」

 

 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 

「ああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 だから、私は逃げたんだ。

 

 

我が喰らったのは悪しきもの。喰われてしかるべき邪な者。故に我は正当なり

 

―・―・―・―

  

 

「……ん」

 

 淡い光が徐々に消えていった。慣れない光に閉じていた目を開いた。破面になる前と比べて幾分か良好になった気がする視界を、フリードは左右に振った。以前は少し見えるだけだった赤髪が大きく視界を覆い隠したため、手で払った。視界が開けると、そこにはフリードを今現在の姿にした藍染が、崩玉を持って立っていた。

 

「私は……」

「おめでとう、無事破面となることができたようだね……だが、これは……」

「こりゃまたけったいな……」

 

 藍染に言われて初めてそのことを思い出したのか、視界を自分の身体に向けた。以前よりも若干小さくなった体は女性らしい輪郭となっており、体の大部分は白いぼろ布で覆われているためよくわからないが、肌が伝える感触が自分がかつて身にまとっていた鎧が消えたのだと確信させた。

 

 見た目だけを見るならば以前の姿と比べると戦闘に適しているとは言えない。黒い表皮や赤い髪は前のままだが、手足は以前と比べると幾分か頼りないように思えた。その上に、まだ飢えていたころに大虚を喰らったときに感じられた充足感は感じない。

破面になるというのは新たな力を得るという事ではなかったのだろうか。そう訝しんだフリードは黒く染まっている白目とその髪と同じ血のように赤い瞳の目で藍染を見据えた。

 

「私は、破面になったのか?」

「ああ、君は確かに破面となった。君の周りにある斬魄刀がその証拠だ。だが……」

「7本もあるのは初めてやな。形も大きさもバラバラやし」

「7本に分割して力を収めてある……という事だろうか?」

 

 藍染たちに言われるままにフリードが周りを見回すと、確かにそこにはフリードを囲うような位置取りで7本の刃物があった。中には刃物と呼んでいいのかいささか疑問に感じるものもあるが、それらを呆然と眺めるフリードにとって重要なのはそこではなかった。

 

「これ、は……」

 

 仮面の名残はティアラのようになっているため、露になったフリードの整った顔に浮かんでいたのは恐怖だった。弾かれるように刀へと駆け寄る。赤い瞳がぐらぐらと揺れ、何かの間違いであることを願うように1つ1つの刀を確認していく。

 

「なんや、どないしたん?」

「私、は……いや、何でもない」

 

 そんな彼女の様子を訝しんだギンが問いかけるが、数度深く呼吸したフリードは首を横に振り、言葉を紡ぎだした。藍染は何かを考えているが、特にフリードに言及するようなことはなかった。

 

「藍染様、どういたしましょうか」

「そうだね……フリード、とりあえず刀剣を解放してみてくれ。解号は既に君の頭に浮かんでいるはずだ」

「…………ああ、わかった」

 

 何かが嫌なのか、フリードは徐に立ち上がり、すぐそばにあった断頭台のギロチンに無理矢理柄を付けたかのような不自然な形の刀を手に取った。そして、気が付いた時には頭に浮かんでいた言葉を流れるように口に出した。

 

 

――印せ、『神座萬承(クレプスクロ)』――

 

 

 次の瞬間、フリードが手に持った刀を含む7本の刀がまばゆい光を放ち、1つに束ねられ。さらにその輝きを強めてフリードを飲み込んだ。

 

――――――――――――――

 

「ふぅ…………」

「全く、君も存外生きづらいものだね。それだけの力を持ちながら」

 

 帰刃によって獲得した能力の確認を終えた後、虚夜宮へ向かう事となったフリードは藍染に頼んで藍染達に先に虚夜宮へと戻ってもらい、自身は万神殿の手入れを行っていた。と言ってもこの万神殿は大抵の場合埃すら積もらない程の静寂が支配しているため、手入れなど数年に一度軽く行う程度で済む。

 

 だが、いくら藍染の部下に任せられるとはいえ、ここを離れることなど考えたこともなかったフリードにとって、これはやらなければ気が済まない事だった。

 

「何だ、ザエルアポロ。君もようやっと神座を信じる気になったのか?」

「あいにくと、今の僕にはやることが多すぎる。藍染様からの命もあるし、僕自身の悲願だってまだだ。祈る時間も惜しいくらいにはね」

「確か、完璧な生命だったか?」

 

 今この場にいるのはフリードと、先に虚夜宮へと戻った藍染達がフリードの案内役として残したザエルアポロだけだった。ザエルアポロとしてはフリードの首根っこを掴んで引きずってでも虚夜宮に戻り、さっさと自分の研究に没頭したいところだったが、自身が最も戦闘力が高かった時でもかすり傷すら与えることすらできなかった相手に下手に逆らうつもりはなかった。

 とはいえ、数度しか会ったことが無いとはいえ、ザエルアポロはフリードの数少ない顔見知りだ。一番最初にフリードの信じる神を否定してから幾度か交わした言葉で気心の置けないとまではいかないが互いがどういう存在かは把握していたつもりだった。

 互いに互いの信念や思考を理解することができないし理解しようとも思わない。神を信じるフリードと只の妄言としか思えないザエルアポロは争う事こそなくても何処までも平行線だった。

 今ザエルアポロが放った一言も挑発の意が込められていたのだが、どうにもそれが届いた様子はなかった。

 

「……何だ、破面になって少しは相手の事を慮る余裕でもできたのかい?」

「いや、ただやるべきことが分かったというだけさ」

 

 最後の神座、万神殿の中央に位置する空席の座の手入れを終わらせ、神座の前に立ったフリードは跪き、両手を組んで目を閉じた。

 そして、そのままフリードの周囲だけ時間が止まったのではないかと思うような時間が流れた。

 空席の座に祈るその姿は酷く完成したもののように思われ、一瞬ではあるがザエルアポロの視線を奪った。そのことが妙に癪に障ったザエルアポロは煽るような口調で問いかけた。

 

「何を祈っているんだい?」

「見ればわかるだろう。今の世を統治している第七神座に座する方の統治が長く続くようにだ」

「僕が知ったことじゃないが、祈るというのはその神に対して何か願いを叶えてもらえるよう乞うという事じゃないのか?」

「ああ、そうだな。だが、私は彼らの記録を見せてもらったんだ。私の身には過ぎた物を頂いた。ならば、私は爪先程でもいいから何かを返したい。それだけだよ」

「……君なら、私のようなものが何かを返せるなど畏れ多いとかいうような質じゃないのかい?」

 

 訝しむような表情を浮かべながら問いかけるザエルアポロに対し、フリードは組んでいた手を解いて立ち上がり、自嘲をあらわにした笑みを浮かべながらザエルアポロの方を向いた。

 

「私みたいな不敬ものには、お似合いさ」

 

 答えになっていないその言葉は、嫌にザエルアポロの記憶に残った。

 




痛々しい神座語りでランキング入りしてお気に入りや評価者が激増したので吹っ切れてOSRと14歳病マシマシでお送りしました。キリの良いところで区切りたいので短いのはご了承ください。
評価や感想、お気に入りありがとうございます。執筆の助けになっています。
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