万神殿は何処   作:sugar 9

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6話:再開、そして出会い

 私が私であることは

 

 私の穴を満たさない

 

 あなたがあなたでいることが

 

 私の穴を満たしてくれる。

 

 

―・―・―・―

 

 

 

「いや素晴らしい。相変わらずふざけた強さのようで何よりだよ」

「……何の用だ。ザエルアポロ」

 

 ゾマリの首が飛び、戦闘を終えたフリードがゾマリの死体が文字通り溶けて消えていくのを眺めていると、わき腹にチリチリとした痛みを覚えた。服を捲ると、そこには7の文字が焼き付けられていた。フリードがその数字を眺めていると、ザエルアポロが小馬鹿にするような拍手をしながらフリードへ歩み寄ってきた。フリードは帰刃状態を解除し、どこか不機嫌そうな様子でザエルアポロの方を向いた。

 

「それにしても、良かったのかい? せっかく君の信じる神を信奉してくれる破面だったというのに。殺さずに従属官にするという手もあったんじゃないか?」

「それはできない」

「……何故?」

 

 フリードは遠くに転がったゾマリの首に歩み寄り、首を拾い上げた。すでに形を辛うじて保っている状態であり、徐々にではあるが虚空に溶けていこうとしていた。

 

「彼が信じたのは輪廻転生だ。触れれば首を刎ねる呪いをかけられ、それでも皆の幸せを願った慈愛の法。もしそれを本当に信じたのなら、彼は恐らく遅かれ早かれ自分で自分を殺していた。黄昏の女神の愛を前にあれだけのことをしたのだからな。なら、たとえどんなまがい物であったとしても、せめて女神の抱擁を感じながら逝った方がいいだろう。せっかく信じたんだ。終わりくらい救いのあるものになってほしい」

「…………」

 

 ザエルアポロは眉を顰めた。

 フリードの意見は確かにゾマリが心の底から黄昏の女神を信じ、黄昏の女神の前で愛でも何でもない呪縛を投げつけたことを罪と感じ、自殺したいレベルでの自責の念があったのならば確かに救いと言えなくもない。

 

 だが、先程までの行動にフリード以外の意志は一切介在していない。フリードがこう思っているだろうと考え、フリードがこうするだろうと予想し、フリードが最善だと思う行動をとった。会話もしなければ確認も取らず、フリードはただ純粋に善意のみでギロチンの刃を振り下ろした。

 

(結局のところ、君はどこまでいっても狂信者という訳か)

 

 ザエルアポロは1つため息をついた。破面としての能力を解放する前の彼女は少なくとももう少しはマシだったと記憶している。ザエルアポロのように激しく否定しなければ信じないという意志も尊重し、それに加えて対話を重ねるような奴だったとザエルアポロは記憶している。

 だが、今の彼女からは何処かタガが外れたような雰囲気をザエルアポロは感じていた。

 再びため息をついた後に言葉を紡ぎだした。

 

「何にせよ、これで君が第7十刃だ。おめでとう、と言っておくよ。ゾマリの死体が残っていれば心の底から祝えたのだけどね」

「何だ、それが目的か。安心しろ。たとえ残っていたとしても渡しはしないさ」

「……一応聞くが、何故かな?」

 

 ザエルアポロの問いかけに対し、フリードは淀みなく答えた。

 

「埋葬するからに決まっているだろう」

「…………」

 

 ザエルアポロは今、自分がどんな表情をしているのかをあまり考えたくなかった。

 

 

―・―・―・―

 

「久しいな。バラガン」

「誰かと思えば、何の用じゃ」

 

 その日、フリードはバラガンの宮を訪れていた。十刃の中でも藍染の軍門に下るまでは虚圏の神を自称していたバラガンはカリスマも優れたものを持っているため、従属官にも腕利きの者がそろっている。

 

 フリードは万神殿が完成し次第向かうとだけ伝えたまま数百年ほったらかしにしていたため従属官からは少なからず敵意を孕んだ視線で見られているが特に気に留めることもなく独り玉座に座すバラガンに歩み寄った。

 

「いや、今回私が第7十刃になったからその挨拶回りをしているだけだ。特に特別な用はない」

「……そうか、お前も藍染についたか」

 

 そういうバラガンの口調は何処か悲しげだった。フリードは僅かながらに瞠目していた。フリードの中でのバラガンは何処までも傲岸不遜に覇道を突き進む王であり、このようなしおらしい姿とは最も縁遠い存在だったからだ。

 

「それはこちらのセリフだ。君はこの虚圏において最も従属という言葉から遠かったはずだ」

「ボス……藍染に儂は負けた。弱き者の歩む道に一体何の価値があるという」

「力のあるなしは関係ない。誰もが焦がれるような夢を描き、誰もが後を追う覇道を築くか。それが王の、神の資格だと私は思うよ」

「……お前、ひょっとして儂を慰めているつもりか?」

 

 バラガンの霊圧が増大し、フリードにたたきつけられる。同時にフリードを射抜く従属官の視線に更なる敵意が乗せられる。まさに針の筵とかしているバラガンの宮にて、常人ならばとうに骨すら残らず死に果てているであろう状況下において、フリードは少しも動じることなくうっすらと笑みを浮かべた。

 

「それは君の受け取り方次第だ。私はやるべきことを見つけた。視界が晴れたような気分だった。君にも同じ気持ちを味わって欲しい。それだけのことだよ」

 

 フリードの言葉に対し、バラガンは口角を歪め、笑い声をあげた。

 

「滑稽。あまりに滑稽。あれだけ神がどうだの世界がどうだのと言っていたお前はどこに行った。実体を伴った圧倒的な「個」を前にして妄言に見切りでもつけたか」

 

 バラガンが言い終わるよりも早く、

 

 それまでバラガンたちの霊圧で満たされていた宮内が、霊圧のような何かで埋め尽くされた。

 

 

「っ……!?」

「これ……は……!!」

 

 

 それは、圧倒的なまでの力の波濤だった。実体を持たないはずのそれはしかしてこの場にいる者達に強烈な圧を加える。

 

 

 喰いかかるな歯向かうな黙して従え頭を垂れろ。

 

 

 破面と化してなお抗うことのできないその圧により、従属官達は耐え切れずに膝をついた。しかし渦中の人物であるフリードとバラガンは少しも変わらずに会話を続けた。

 

「……悪い冗談はやめた方がいい。君だっていらない面倒ごとなど御免だろう」

「……フン、狂信者が。少しも変わっておらぬわ」

 

 霊圧のような何かがたちどころに霧散する。バラガンがため息をついて言葉を紡ぎだす。

 

「まさか、再び相まみえる時少しも変わっていないのが儂ではなくお前のほうだとはな……」

「それは、こちらのセリフだよ。バラガン」

 

 フリードがバラガンに背を向け、バラガンの宮を出て行く。その背中は、どこか寂し気だった。

 

 

 

―・―・―・―

 

 

 

「アーロニーロ。久しぶり」

「フリードか」

『久シブリダネェ』

 

 次にフリードが訪れたのは第9十刃、アーロニーロ・アルルエリの宮だった。本人の性質上、宮の中は光がほとんど存在しない暗闇の中にある。だが、アーロニーロの声はそんな宮内の様子とは反対に上機嫌だった。

 

「ああ、本当に久しぶりだ。私も十刃になったんだ。よろしく頼むよ」

「神はもう」

『良イノカイ?』

「いや、神座の記録をより世界に広げるために、必要なことだからさ」

 

 迷いなく語るフリードの口調に対し、アーロニーロは僅かながらに目を細めた。

 

「フリードは本当に強い」

『ボク達トハ違ッテ輝イテイル』

「全く、世辞なんてどこで覚えたんだお前は」

 

 フリードは苦笑いを浮かべながら少し背伸びをしてアーロニーロの頭部を撫でる。その様は友人というよりはペットと飼い主のそれだが、アーロニーロはいたって本気でしゃべり続ける。

 

「お前が教えてくれたんだ。喰霊の可能性を」

『フリードノオカゲデボクノ苦シミハ半分ニナッタ』

「残りの半分も藍染様に従えば消えるはずだ」

『全テノ苦シミガ消エタ時』

「俺の喰虚は完全無欠となる」

「そうか、頑張れよ、アーロニーロ」

『モチロン』

 

 自慢げに語るアーロニーロに対し、フリードは優し気に微笑むだけだった。

 

「ではな、アーロニーロ」

 

 ひとしきり会話を楽しんだ後、フリードはアーロニーロに背を向け歩き始めた。

 

「フリード、俺は藍染を信じるべきなのか?」

『ソレトモ、フリードノ信ジル神様を信ジルベキナノカナ?」

 

 フリードは少しの間だけ立ち止まった。

 

「それは、君が決めることじゃないのかい?」

 

 そして一言告げて、アーロニーロの宮を後にした。

 

 

 

 

―・―・―・―

 

 

 

「私に、現世に行けと?」

「ああ、君にはこの少女の監視、及び警護について欲しい」

 

 藍染がそう言うと同時に、藍染の背後の球体がスクリーンのような役割を果たし、茶色い髪が特徴の可愛らしい女子が画面の外にいるであろう誰かと談笑している姿が映った。藍染からの命令に、フリードは若干ではあるが戸惑いの声を上げた。第7十刃になったとはいえ現状の十刃にやれることはなく、基本的には待機を命じられていたフリードにとって初の任務が戦闘以外という事にフリードは驚いていた。

 

「彼女の名前は井上織姫。本来なら黒崎一護という少年に彼女を守らせておけばいいのだが、その成長が少々芳しくなくてね。今彼女に何か起こるのは我々にとっても都合が悪いんだ。まぁ念には念をという奴だよ」

「構わないが、何故私が?」

「虚というものは、基本的には戦いと己の強さ以外には興味を見出さない。それは君も知っているだろう?」

「ああ、だが、ザエルアポロやハリベルのように理知のある者はいる。むしろ彼らは私よりも賢いだろう。そういった任務なら彼らのほうがいいのではないか?」

「確かにそうだね。だが、彼らと君の最大の相違点、それは神座の記録だ」

「何故そこで神座が出てくる?」

 

 不思議そうに首を傾げるフリードに対し、藍染は続けて言葉を紡ぎだす。

 

「私が説明を聞いた限りでは、神座の世界には今現在の世界と非常に似通った世界がある。第四神座にて輪廻転生と無間が出会った時期の世界とほぼ同じだと思ってもらって構わない。ならば、君の方がより違和感なく振る舞えるはずだ」

「……ほう」

 

 それを聞いたフリードは興味深そうに眼を細めた。

 

「だが、私のこの格好はどうする。とてもそんな世界に溶け込める姿ではないぞ」

「簡単な偽装を施そう。人間が相手ならばそれで問題ない。死神に対してだが、追って作戦を伝える。その通りに振る舞ってくれ」

「了解した。いつから行けばいい?」

「君の準備が出来次第、遅くとも1週間後に向かってくれれば構わないよ。ああそれと、注意を払うべき人物が何人かいる。君の実力ならばまとめて相手取ったとしても何も問題はないが、油断することなく警戒しておいてくれ」

 

 藍染がそう言い終わると同時に、スクリーンに数人の人物が映し出される。フリードはそれらを一瞥し、すぐに視線を藍染に戻した。

 

「現状での説明は以上だ。詳細な情報と作戦については追って伝える。何か質問はあるかい?」

「……この少女にどんな価値があるんだ?」

「興味があるのかい?」

「ないと言ったら嘘になるな」

 

 警戒するべき人物がいる場所にわざわざ向かわせるほどの価値がこの少女にあるとは思えない。フリードの視線は言外にそう告げていた。そんなフリードの様子を面白そうに見つめる藍染はゆっくりと言葉を紡ぎだした。

 

「彼女にはある特異な力が眠っている。神の法則を否定する力がね」

「……何だと?」

 

 藍染から放たれた言葉に対し、フリードの瞳が少々細められた。

 

「法則を否定とは、また随分な能力を持っているのだな」

「ああ、とはいえ、そう気を引き締めることはない。人の死すら否定できない弱弱しいものだ」

「そうなのか……」

 

 フリードは少しばかりではあるが残念そうな表情を浮かべる。そんなフリードに藍染が問いかける。

 

「君は、神座の知識を世に広めてどうするつもりだい?」

「何だ? 藪から棒に」

「いや、恐らくしばらくの間君は現世にとどまるだろう。その間に事態が大きく動かないとも限らない。意志の確認というやつだよ」

 

 フリードは少し考えた後に答えた。

 

「特に考えたことはないな。私は、神座の記録が伝わればそれでいいと思っている」

「それだけかい? 君はこの世界に、神を無視し続けたこの世界に何の報いも求めないと?」

「霊王という奴の仕業なのだろう? ならば私が憎むのはその霊王だけだ」

「その後は?」

「何?」

「霊王亡き後、世界は大きく変わるだろう。規模こそ極小だが、座が交代するレベルの変化がね。その世界を君はどうあるべきだと考える?」

「…………」

 

 考え込むフリードの様子を眺めながら、藍染は笑みを深める。

 

 フリード・マルクという破面ははっきり言って異質だ。虚ならばあるべき力への飢えも、戦いへの渇望もありはしない。だが、それだけならばかつての十刃にも似たような存在は居た。

 だが、フリードにはそんな十刃でも抱えていた願いと呼べるものすらない。

 

「すまない、わからない。ただ神座の闘争の記録を広められればそれでいいと思っていた。その後のことなど考えたこともなかった」

「気にすることはないよ。君は君が信じる神に従って進めばいい。それはきっと、私の道とも重なるものなのだからね」

 

 フリードは藍染に背を向けて歩き出す。玉座に座す藍染は笑みを浮かべながらその背中を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女とそれの出会いは唐突だった。

 

 黄昏の光で街が照らされる中、帰路につく少女と、河川敷で佇んでいたそれは偶然目が合った。

 まるで黄昏の光をそのまま形にしたかのような金色の髪。穢れなど一つも存在しない真っ白な肌。宝石のような碧色の瞳。彼女を構成する要素総てが浮世離れしていて、いっそ博物館の名画から抜け出してきたと言われる方がよほど納得できるほどに美しいそれは、少女を見つけると同時に駆け寄った。

 

 それの容姿に目を引かれていて気付かなかったが、それは少女が通う高校の制服を着ていた。当然、少女にそれが高校に通っていたなどという記憶はない。これだけ目立つ外見ならばそれこそ全校生徒が知っていても不思議ではないはずだ。

 

 少女がそんなことを考えているうちに、少女とそれの距離はほぼ0になっていた。

 少女の瞳を覗き込むように見つめるそれに若干ではあるが押された少女は若干後ろに下がり、それも下がった。

 改めて向かい合った少女とそれが数秒見つめ合ったのち、それが言葉を紡ぎだした。

 

 

 

 

 その出会いは確かにここから先の運命を変える出会いだった。

 

 

 

 その出会いによって救われる命があった。救われない命があった。

 

 

 

 少なくとも、それにとっての運命とはその瞬間に決まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キムチ梅干しサンドってどこに売ってるか知らないか?」

「……えっと?」

 

 

 決まったのである。

 




Q:何で唐突に現世編始まったの?
A:必要なストーリーだけだと能力全部書ききれないってプロット1回書ききってから気付いたから。

原作と違って藍染様が最初から一護周辺の戦力を把握しています。
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