「つまり、夜見も気がついたらここにいたということか」
「はい、その認識であっています」
死んだはずの友……と言っていいのかもわからないが、死んだはずの皐月夜見が生きていて、しかも大正時代の日本で、荒魂ではなく、いや荒魂はおらず代わりに人食い鬼が人々のを襲っている。それが皐月夜見が親衛隊の3人に話したすべてだった。
「その鬼殺隊に入るにはどうすればいいのですか?」
切り出したのは此花寿々花だった。
鬼殺隊、というのは今の夜見が所属している政府非公認の組織で、人々を人食い鬼から守っている。
「その前に、話さなければいけないことがまだいくつかあります」
ピンと伸ばした背筋と、藤の花の家についてから、鬼を斬ってから表情を変えない夜見は諭すように話し始めた。
「まずこの世界に御刀はありません。そして写シも迅移も八幡力も金剛身もありません。出来ないのです」
それが意味することなど、刀使の3人には明白だった。
けがを負えば生身の体が傷つく。写シが肩代わりなどしてくれない。
人知を越えた速度など出ない。現世の時間でしか戦えない。
超人的な力など出ない。ただ日々の鍛錬による力しか出ない。
肉体の耐久度は上がらない。攻撃を食らえばひとたまりもない。
そして鬼は限りなく刀使と同様の理不尽を種族として備え付けている。
「それでも鬼狩りになりますか?」
「なる」
真希は即答だった。それに続くように寿々花もうなずき、沙耶香はいの一番にうなずいていた。
「そうですか。では、育手を紹介します。場所はカラスが教えてくれます」
そう言って夜見は部屋から出て行った。部屋の外で夜見が『藤の花の家』の人と何か話しているのが聞こえる。夜見には育手がなんなのかなどいろいろ聞きたいことはあったが、どっと疲れが3人を襲った。目の端には暖かそうなふかふかの布団が敷かれており、睡魔にあらがうことは出来なかった。
チュンチュンと朝日によって真希は目が覚めると、なぜか別の布団で寝たはずの沙耶香が同じ布団に潜り込んでいた。が、まあよくあることなので今更驚きはしなかった。
「おはようございます」
扉を開けて朝の挨拶をしたのは夜見ではなく、藤の花の家……鬼殺隊に命を助けられた人が鬼殺隊のために無償で手助けしてくれる家の家主とおぼしきおばあちゃんだった。
「おはようございます。あの夜見は……」
「夜見様は次の指令が入り、明朝とともに出ていかれました」
家主の言葉を聞き、窓から空を見ると太陽がかなり上がっており、正午とまではいかずとも朝ともいいにくい時間になっていた。
「す、すみません、こんな……、見ず知らずの……」
熟睡していたことになぜか羞恥心がわいてきて、思わず真希は謝ってしまう。
「いいえ、鬼に襲われたのです。なかなか寝付けなかったはずです」
よっこいしょ、とおばあちゃんは立ち上がったもののどこかあぶなかっしく、ふらついていた。
「足が悪いのですか?」
ごく自然に真希はおばあちゃんの横に立って支えていた。
「……鬼に襲われたときに、旦那がかばってくれたおかげでこの程度ですんだのです」
「す、すみません。つらいことを……」
「……私は助けてくれた鬼殺隊の方に酷いことを言ってしまいました。どうしてもう少し早く来てくれなかったのか、どうして旦那を助けてくれなかったのか。剣士様は旦那を助けられなかったことを謝っていました」
しかたがない。大切な人が奪われた後だ。冷静なことなどいえるはずがない。
「旦那の葬儀が終わって、助けてくれたかたにお礼が言いたく、なんとか伝手をたどってあの剣士を探してもらったときには、すでにその剣士様は鬼に殺されていました」
階段をゆっくりゆっくり降りながら、おばあちゃんは肩をふるわせて後悔を話した。
「どうか、生きてください。かってなのは承知の上です。どうか生きてください」
「はい」
真希がおばあちゃんを降ろして二階の部屋に戻ると寿々花と沙耶香が起きて、窓のほうを見ていた。より正確に言うとあんぐりと口をあけて、信じられないものを見るかのように窓に止まっているカラスを見ていた。真希は2人がカラスが苦手なのかと思い、追い払おうと窓に近づくと……。
「煉獄邸ヘ向カエェ!」
カラスが喋った。