――略啓、槇寿朗様。
急な連絡を失礼します。鬼殺の剣士になりたい、いえ、鬼殺の剣士しか生きる道のない三人の少女をそちらへ向かわせます。三人は私と同郷であり、戸籍がありません。しかし、剣の才は柱の方々に比肩するものがあります。どうか獅堂真希、此花寿々花、糸見沙耶香の三名を育ててください。私が育てるよりもよほど貴方が育てた方がよい剣士になるでしょう。貴方が私に対する負い目があるというのならば、どうか三人を、杏寿朗に出来なかったことをしてあげてください。――夜見
「煉獄邸ヘ向カエェェ!」
謎の人語を解する烏――鎹烏というらしい――に案内された煉獄邸は武家屋敷というのだろうか周りの家と比較しても大分広い屋敷だった。
そして煉獄邸の前にはいささか、否、ものすごく派手な髪の色をした男性が立っていた。
「君たちが夜見が言っていた子達か」
「はい、僕は獅堂真希、こちらの二人は……」
「ああ、聞いている。此花寿々花と糸見沙耶香だね」
家に上がるといい、といって三人を家に招いた。
「先ほども言ったが、夜見から話は聞いている。鬼殺の剣士になりたいそうだな」
「はい」
「戸籍と職をこちらが用意する。それでも鬼殺の剣士になりたいのか」
まるで鬼殺の剣士にならないでほしいかのような質問だった。
「それはどういう……」
「どれほど強くなろうとも、命の保証は何処にもない。それが筋力に劣る女」
ああ、そうか。槇寿朗さんは女性が鬼殺の剣士になっても死ぬだけだと考えているのか。三人はそう思った。見くびらないでほしいと怒りがわいた。しかし同時にそれも仕方がないと理解もした。この世界に御刀はない。
だが、三人の考えとは違った思いが槇寿朗にはあった。
「なによりも鬼への憎悪、怒りという原動力がない。そんな子達には鬼殺隊は……」
「
「夜見は……いや、私にあの子をどうこういう資格はない」
なぜか夜見のことを言いよどむ槇寿朗を不思議に思いつつ、真希が寿々花に続いた。
「友が戦っている。それだけで僕が、僕たちが戦うには十分です」
コクコクと真希の言葉に沙耶香がうなずく。三人の姿を見てうつむきながら悩みながら槇寿朗は答えを出した。
「わかった。三人に炎の呼吸を伝授しよう」
「おえぇっ」
修行初日、三人は吐いた。というか、意識を保っているのはもはや真希しかいない。いくらなんでも修行が厳しすぎる。というか吐いても修行が休む気配が一切なかった。せめて沙耶香が気を失った段階で休ませてほしかったが、普通に続行した。
「なにをしている! 吐いて倒れていたら鬼は見逃してくれるのか! 人々は助かるのか!」
「ちがい゛ま゛ず」
「ならば立て!」
ちなみに槇寿朗も同じ訓練をしているが、ピンピンしている。化け物かなにかだろうか。
「ただの拷問ですわ……」
「全身アザだらけ」
銭湯で死にそうな声で寿々花と沙耶香がうめく。真希はというと湯船につかった瞬間に夢の世界に旅立った。
修行が始まってから毎日拷問のようなトレーニングが続いた。しかし、これはまだよかった。問題なのは剣術の修行だった。自信はあった、親衛隊にまで上り詰めた三人である。自信がないほうが問題だ。実際に才能も実力もある。問題なのは流派、というよりも根本的な仮想敵であった。
三人が身につけた剣術は人に向けるものであり、炎の呼吸は鬼に向けるものであったことだ。
そうなると身につけた剣術は使い物にならないわけではないが、身につけた、躰に染みついた剣術を新しくすると言うのは、箸の持ち方を変えるようなものだ。新しく身につけるよりも時間は必要なかいかもしれないが、苦労は要する。刀を振るうたびに違和感がつきまとう。そうなると太刀筋も乱れてしまう。
「刀を折れば骨を折る」
刀を渡される際にこう脅された。この違和感を払拭するまではなにかを斬るなど恐ろしくて出来やしない。折れることも欠けることもない御刀ではないのだ。
槇寿朗との稽古では真剣ではなく竹刀なんて生やさしいことはせず、木刀を使って行われた。刀を折るまでもなく骨が折れる。しかし、槇寿朗は恐ろしい精度で寸止めをする。三人は言うとまとわりつく違和感と戦いながら、殺す気で挑むが未だに一本とることが出来ずにいた。
そんな現実に落ち込みながらトボトボと煉獄邸に戻ると、門の目に人が立っていた。
薄い桃色の長い髪に、ピンと唯した背も相まって身長は高く見える。年齢は三人の記憶よりも成長しているのだろう。それでも少女といって差し違えはないはずだ。服は夜見と同じ隊服を着ている。違うのは白を基調とした羽織をまとっていることだろうか。
その少女は固まっている三人に気づき、振り向くとギョッと驚いた顔をした。
この少女を三人は知っていたし、三人をこの少女は知っていた。
少女の名前は――――
「……結芽、結芽なのか……?」
燕結芽。剣の神に愛されながらも、不治の病によって、その命を散らした剣の天才であった。