炎竜王と禁忌教典   作:迷子の厨二病

8 / 8
結構無理やりなところがあります。ノリと勢いで突っ走りました。後悔も反省もしていない。


【俺の望む世界】

『さぁ! 魔術防御もいよいよ次で最後となりましたッ!』

 

 姿を変えたグレン先生達が戻って来てから、二組は午前中の勢いを取り戻していた。ありえない幸運を味方につけ、最高の結果を残してきた。各競技で高得点を獲得して、順調に優勝に近付いていた。

 

 しかし、やはりハーレイ先生率いる一組は強い。優秀な生徒の連戦で息切れこそしてきているものの、未だに一位を独走している。徐々に順位を上げていた二組は一度失速したものの、必死の追い上げの末、今現在の順位は二位にまでなっている。

 

 とはいえ、最初から一位を独走してきた一組との点差は歴然としている。これから二組が一位で優勝を飾るには、最後の競技である『魔術防御』で、誰もたどり着くことすら出来なかった【イクスティンクション・レイ】を完全に防ぎきり、事実上不可能と言われた満点を取るしかない。初回だからとといって、設定が極端すぎやしないか……?

 

『去年、他の追随を許さない圧倒的な力で! 出場した競技全てでトップを掻っ攫っていったこの男ッ! 惜しくも優勝には届かなかったものの、その圧倒的な実力は未だに記憶に新しいことでしょう! 待ち望んでいた方も多いはず! 魔術競技祭の大取りを飾るのは! ――アルバ・ドラグニルだァッッ!』

 

 会場のボルテージが一気に上がる。二組が活躍していた時も凄かったがそれ以上、今日一番の盛り上がりだ。『魔術防御』がその仕組み上、地味なモノであったのも関係しているのだろう。

 

『今年は一体、どんな結果を叩き出すのか! 彼なら! この魔術防御においても! 我々の度肝を抜く結果を残してくれるような気がしてなりませんッ!!』

 

 実況に合わせて、会場の期待も高まっていく。俺はそんな会場の期待を受けて、指定された場所に進み出た。既に、他の参加者たちは最後まで耐えきることなく、この場を去っていった。その場所から十メートルほど距離を置いて、試験官であるアルフォネア教授が立っている。その目は何かを伝えようとしているようで、俺は準備完了の合図と合わせて頷いた。

 

 この際、難しいことは何も考えなくていい。後のことはグレン先生がどうにかするだろう。俺がやるのは、向けられている絶大な期待をいい意味で裏切って、グレン先生達を女王陛下の前に連れて行くだけだ。決して、歓声に混じる親バカのことを忘れたいとか、そういうのじゃない。

 

『それでは、アルバ君は防御の準備をしてください! 展開され次第、アルフォネア教授から遠慮なく魔術が放たれます!』

 

 最初から強い障壁を用意する必要はない。徐々に強くなっていく攻撃に対し、こちらも徐々に障壁を強いものへと変え、魔力を温存してもいい。俺は魔力を気にする必要はないが、最初から同じ障壁だと盛り上がりにかける。というわけで、俺も他の参加者に倣って弱い障壁から展開していく。

 

「《光の壁よ》」

 

 しばらくは、黒魔【フォース・シールド】を使用していく。流石に、これより弱い防御は逆に面倒になってくる。故に、一言で唱えられてそこそこ強力なこの魔術を使っていくのだが――。

 

『なんとぉおお!? いきなり【フォース・シールド】! それも一節詠唱だぁああ――!』

 

 今までの選手が、終盤に使っていた魔術を序盤で使えばより目立つ。俺にとっては大したことが無くても、比較対象があれば話は変わってくる。観客に、やけを起こしたのかと思わせることも狙いだ。失望し始めた時に、更に強力な魔術へと変えていけば、その失望の分だけ驚愕も大きくなるというもの。

 

「悪趣味な奴め……。《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

 俺の考えをある程度察したのだろう。教授はボソッと呟いてから、第一ラウンドの【ショック・ボルト】を放つ。きちんと三節詠唱しているのは、公平な測定のために決められたルールに則ってのことだ。

 

 勿論、【ショック・ボルト】程度で【フォース・シールド】が破れるはずもない。撃ち出された電撃は、俺の眼前に展開された障壁にて散らされる。

 

『第一ラウンド、完全に防ぎきりました! では、次の魔術を!』

 

 唱えて、防いで、唱えて、防いで。第二ラウンド、第三ラウンドと次々と競技は進んでいく。観客の顔に失望が広がり始めたところで、魔術を【インパクト・ブロック】に変えてやれば、再び実況と共に会場が湧きあがる。そうして、第十ラウンド、第十一ラウンド……第十九ラウンド、と【インパクト・ブロック】を続けざまに展開していく。会場の熱気は最高潮。最終ラウンドの魔術は【イクスティンクション・レイ】。

 

『――一体、誰が予想したでしょうか。生徒の枠などとっくに飛び越え、既に熟練の魔術師に匹敵する魔術障壁を展開し続けるアルバ君。全ての魔術を防ぎきり、残すは【イクスティンクション・レイ】唯一つ。二組が一位か、一組が一位か。この最後の攻防で決着がつきます!』

 

 観客達は固唾を飲んで見守っている。普通に考えれば学生に防げるものではないが、ここまでの結果を見て「もしかしたら……」と期待している。恐らく観客たちは、ありえないことだが【インパクト・ブロック】を何重かに展開して防ぐのではないか、と思っていることだろう。汎用魔術において、【インパクト・ブロック】が考えうる限り最強の魔術障壁だからだ。だからこそ、ここで固有魔術を使って防ぎ切れば、会場は大盛り上がりするはず。ついでに、俺の株も大いに上がることだろう。

 

 長ったらしい詠唱はいらない。守ることが苦手な俺が、必要になった時の為に開発した魔術だ。ただ一言、俺の意思を乗せて言葉を放てば完成する。

 

「《世界を隔てろ》」

 

 俺の言葉をトリガーに、結界が構築される。大きさは魔力次第で変幻自在、視覚で捉えられるほどに濃密な金色の魔力が立ち上り、金色の球体を形成していく。俺を中心に半径数メートルほどで形成された結界は、前面に大きく天に昇る赤い竜の文様が描かれている。

 

 俺はハッピーエンドが好きだ。全てが、とは言わない。でも、俺の手が届く範囲くらいは、幸せが満ち足りていて欲しい。込めた意思は単純明快。思い通りにならないモノはぶっ壊す。嫌いなものは変えてやる。人も、国も、世界すらも関係ない。これこそが俺の固有魔術、【俺の望む世界】。

 

――この結界の内側は、俺の世界だ。

 

 恐らく、これが固有魔術だということに気づいたのだろう。ニヤリと笑う教授が完全詠唱の【イクスティンクション・レイ】を放つ。目を焼くほどの眩い極光が駆ける。瞬く間に迫る極光が金色の結界と激突した瞬間、極光が霧散する。眩かった光が、風に流されるように消えていく。金色の結界は健在だ。

 

 会場が静まり返っている。観客達は、未だに理解が追い付いていない。数舜の間をおいて、少しずつ大きくなっていく騒めき。呆けていた実況がハッっとした様子で目を凝らす。

 

『信じられない……。【イクスティンクション・レイ】は放たれたのに……結界は健在です……。……夢でも見ているんでしょうか。……見たこともない魔術によって、【イクスティンクション・レイ】は防がれました……』

 

 会場の騒めきはどんどん大きくなっていく。一度自分の頬を叩いた実況が大きく息を吸い込み、今度こそ結果を発表する。

 

『ーー文句なしの満点だぁあああーーーッ! アルバ君、固有魔術でもって【イクスティンクション・レイ】を完全に防ぎ切ったッッ! そして! それによって順位が逆転ッ! 優勝は二組だぁあああーーーッ!』

 

 瞬間、会場は爆発したかのような大歓声で溢れかえった。

 

 

 

 

 あの後、色々あった。グレン先生が女王陛下の呪殺具を解除し、その影響で閉会式は少々ごたついた。終わった後は、普段は関わってこないくせに、ここぞとばかりに畳みかけてくるクラスメート達に詰め寄られたり、そのままの勢いで予約しておいたのだろう店になだれ込むことに。酒入りの菓子を食ってクラスメート達が酔っ払ったり、後から来たグレン先生が支払い金額を見て顔を青くしたり。

 

 それからは、クラスメート達との距離も縮まったのだろう。あれこれと話しかけられたりして困っているところを、グレン先生に思いっきり笑われたりもした。ルミアとシスティーナは俺と視線を合わさないようにして逃げるし、助けろよ!

 

「なぁ! アルバ!」

 

「――わぁーったから! いっぺんに話しかけるんじゃねーよッ!」

 

 人気者っていうのも、考え物だなーー。




今回の章は、原作とあまり乖離させられなかったので短くなりました。

今回、一番悩んだのは固有魔術です。詠唱はどうしよう、込める意思ってなんだ、と少しの間頭を悩ませた結果、頭空っぽにして書くことにしました。シリアス入れても失敗するので、我が儘な転生者の感じを表現したつもりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。