嫉妬深い彼女   作:不思議ちゃん

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4話

 守ってと言われても、ファンタジーな世界じゃないので獣なんかに襲われることもなく。かといって殺人鬼なんかとも出会ったりはしない。

 至って普通に送り届け、家に帰る頃には一時を過ぎていた。

 

 いつもと多少違ったが、たまにはそういったイレギュラーも面白いと思う。

 ただ、最近は先輩とのエンカウント率が少し高いような気がする。

 決められた範囲内である学校ならまだわかるのだが、こんな夜遅くとか普通はあり得ないだろう。合わせていたとしか考えられないけど……まさかね。

 眠気と疲労で思考が鈍っているんだ。

 

 いつも以上に歩き、いつもより遅い時間。

 疲れて脳が睡眠を欲している。

 今夜はよく眠れそうだ。

 

 

 

 アラームで目が覚め、まだ重たい頭を起こす。

 スマホで時間を確認すれば九時半を表していた。

 夜遅く出歩いてもあまり昼まで寝ないようにしている。昼を食べたら夕方まで寝ていることが多いけれど、それはそれ。

 

 カーテンを開けて陽の光を浴び、明るい景色の街を見れば。

 昨日の夜出歩いたのは夢だったのではと思う。

 けれど夢ではなく、きちんとした現実だと昨日買ったペットボトルが証明してくれる。

 そして横には先輩からもらった紙が。

 

 送って行った別れ際、この紙を貰ったのだ。

 書いてあるのは来週の月曜日にお礼をするから、家に来て欲しいとのこと。

 口頭でも伝えられていたが、僕が忘れないようにとメモして渡してくれた。ご丁寧に住所と地図まで書いてある。

 メールでいいと思ったが、互いに連絡先を知らないし、あの時も交換することはなかった。

 ……果たして、僕と先輩はどういった関係なのだろうか。

 

 火曜日は午後だけ。水曜日から日曜日は一日中。で、月曜日は休みのシフト。

 前日くらいでも言えばシフトの変更も可能なとてもいいバイト先だ。

 喫茶店のマスターにその娘さん、僕ともう一人のバイト仲間の四人しか働いていないが、それでも充分回せている。

 なんならマスターと誰か一人いれば充分事足りるのだ。

 

 ……そう考えると普通におかしいなぁと思いながら朝食を食べ終え、後はお気に入りの曲を流しながら昼まで宿題を進める。

 

 少しでもいいから毎日やらないと人って忘れていく。少し……いや、かなり面倒だけれどやらないといけない。

 …………そのうちどこかでまとめて終わらせて、後は遊び呆けるのがいつもの事だけどね。

 

 

 

 それから一週間が過ぎて約束の日なわけだが。

 二日に一回は先輩と会っている気がする。

 バイト帰りに、バイト行く前に。なんならバイト先にまでやってきた。

 買い物だったり、ランニング、たまたま入ったらと言っていたけれど……とてつもない偶然だ。

 

 それで今、手土産を持って先輩の家に着いたわけなんだけれども。

 この間送り届けた時にも思ったが、とても立派な家だ。こういうのは豪邸って言うんだったか。

 いくら招待されているとしても小市民である僕は少し尻込みしてしまう。

 

 ……このままここにいる方が警察を呼ばれかねないよなぁ。

 

『はい。どちら様でしょうか』

 

 意を決して……と言うほど大したことでもないが、呼び鈴を鳴らすと少しの間をあけて知らない女性の声が聞こえてくる。

 そのことに内心少しビビりつつも口を開く。

 

「今日先輩に……あー、葵さんに呼びだ……招待された? 神宮桜っていいます」

『……お話は伺っております。少々お待ちください』

 

 少し待つと鍵の開く音が聞こえ、そこからメイドが出てきた。

 

「お待たせいたしました。どうぞお上りください。葵様は部屋でお待ちです」

「は、はあ……」

 

 理解の範疇を超えていたので、考えるのをやめた。

 言われるがままに靴を脱いでスリッパを履き、二階にあるという先輩の部屋へと向かう。

 

「よく来てくれたね!」

「あ、これ手土産です」

「むっ。これから私がお礼をすると言うのにこれは少し困るな」

「こうしてお邪魔してるので、それでチャラです」

「そういうものかな?」

「そういうもんです」

 

 納得してくれてないだろうけれど、取り敢えずは受け取ってくれたので良しとしよう。

 促されるまま入った先輩の部屋はとても可愛らしかった。

 パステルカラーで統一され、ベッドや勉強机などにヌイグルミが置かれている。普通の部屋では見ないドアがあるけれど、その向こうにはさらに沢山のヌイグルミがあることだろう。

 

 僕の部屋の倍くらい広い部屋だからテーブルとイスがあってもおかしくない感じだが、可愛らしいクッションにテーブル。

 かといって物がなくて寂しいとは感じない。

 

「そんなところに立ってないで座ってて。飲み物を持ってくるから」

「あ、はい」

 

 部屋から先輩が出て行ってしまったわけだが。

 初めてお邪魔した家で好きなところに座っていてくれと言われても……。

 クッションもどっち座ったらいいのか分からないし、取り敢えずそれをどかしてフカフカのカーペットに腰を下ろす。

 

 部屋を見回されるのは嫌だろうけど、つい気になってしまう。

 本棚にある少女漫画とか、部屋にあるヌイグルミ。飾られている小物に色。

 どれもまだ──隠しているのだろうか。

 

「あはは。知られていても少し気恥ずかしいね」

 

 一通り見回したところで、ティーセットをお洒落なトレイに載せて運ぶ先輩が戻ってきた。

 そのままテーブルまで運び、慣れた手つきでいい香りのする紅茶を注いでくれる。

 

「いただきます」

 

 カップを傾け、一口。

 葉が違うことがとてもよく分かる。

 高くて美味しいものは確かに美味しいが、小市民の口は手頃な値段のものがしっくりくる。

 

 ……いまだに何故、先輩の家に招待されたのか分からない。

 接点はそこそこあるにはあるが、よくて知り合い程度の関係だ。

 お礼とはいえ男を部屋に上げるだろうか。

 

「それで、先輩──」

「──君には」

 

 先輩に勧められるがまま、二杯、三杯といただくが……間が持たないので何か話を振ろうとしたところ、それを遮るかのように先輩が口を開く。

 

「彼女とか、いたりするのかい?」

「いえ、いないですけど……」

「そっか。それはとても良かった」

「良かった……ですか」

 

 普段とは違い要領の得ない会話に首をかしげる。

 僕に彼女がいなくて先輩が良いことなんて……自惚れでなければ僕のことを好いてくれていることになるのだが。

 

 先輩の部屋に入った時、冷房が程よくて涼しいと感じていたのに今はなんだか暑く感じる。

 運動をしているわけでもないのに、身体の内側からふつふつと何かが沸き起こってくるような。

 

「ねえ、神宮くん」

 

 珍しく名前を呼ばれ、そちらを見れば。

 先輩がすぐそこまで近づいていた。

 

「私ね、君のことが好きなんだ。君の言葉に救われて、君を見ているだけでドキドキする。君の行う動作の一つ一つに目を奪われる。会えない時は胸に穴が空いたかのような寂しさを感じるし、他の女性と話しているのを見るだけで嫉妬するほどに」

 

 話しながら近づいてくる先輩から何か普段と違うものを感じ、それから逃れようと後ずさりをするが距離が変わることはない。

 

 最初に座った位置が悪く。背中にベッドの淵が当たり、これ以上下がれない状況に陥った。

 先輩はそんな事を気にすることなく近寄ってきて僕の上に跨り、肩に手を乗せる。

 

「私は君のことが好き。だから私と付き合って欲しいの」

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