「僕のサンダラーアアアァァァ!!」
冷え込みが増してきた街でイルミネーションがきらめいている最中、それは起こった。西武時代の伝説的なガンマンであるサーヴァントのビリーが拳銃を紛失したなど、誰が想像しようものか。
「お、落ち着けって...」
大山は彼を宥めようとするが...
「これが落ち着いていられる!?」
「ま、確かにどこのチンピラが拾って悪戯に使うか分かったモンじゃ...」
「僕の命よりも重い親友...!!それを僕とした事が...!」
「とりあえずよォ、一回整理してみようぜ?まず俺たちはそこの◯ックでバーガー食ってた。それから店出て。そーしたらなくなっちったと。」
「そう。......」
「ホントに何も心あたりは無いワケ?」
「...!そういえば、席を立った瞬間に男とぶつかったね!」
「!ソイツだな。どんな奴だったよ?」
「背は...クー君ぐらいで...格好は普通にサラリーマン的なスーツ姿だったよ。」
「かなりのノッポくんね...ま、とりあえず署に戻りますか!」
大山とビリーは街の隅に停めていた覆面パトカーに乗り込む。
警視庁
「バカあ!!大山のバカタレ!何やってるんだよ...!拳銃を無くすなんて!」
本部に戻り、課長に事の全てを話すと案の定いつもの怒号が飛んでくる。
「いや課長、なくしたのは俺じゃなくてビリーっすよぉ...責めるんならビリーをですね...」
「彼はお前のサーヴァントだろう!?マスターのお前がサーヴァントの持ち物管理できなくてどうするんだよ!」
「すんませぇ〜ん...」
「まあまあ課長、はい、お茶です!」
マシュが課長を宥めならが机にお茶を置く。
「ああ、ありがとうマシュ君......んむ、とにかく早くビリー君の拳銃を見つけだすんだ!いいな?」
課長はお茶を一口飲むと、大山たちに向き直り、そう告げた。
「はぁい。」
・ ・ ・
パァン! パァン! パァン!...
警視庁内部の射撃訓練場。ビリーはそこで「コルト・ローマン マークIII」を撃っていた。大山が以前使用していたものと同じ拳銃である。
「どうよ?」
「撃ち易いといえば撃ち易いね。」
「だろ?弾は357マグじゃなくて38入れてあるし、サンダラーと同じコルトだからシリンダーの回転方向もおんなじ。」
「うん。...ま、無いよりはマシだね。」
・ ・ ・
次の日の朝、大山たちは再び拳銃を無くした地点へと向かった。
「けどまさかお前が銃無くすなんてなァ〜、明日は雪かな?」
「あんまり言わないでくれるかな?」
その時。
『警視103へ!銀座東3丁目で発砲事件発生!被害者は重症、急行願います!』
「!なんと、了解!」
大山は無線を置くと、赤色灯を屋根に取り付ける。
「早速遊ばれちゃったかな〜?お前のサンダラー。」
「縁起でもない事言わないでよ...」
今回ばかりは冷静沈着なビリーも焦っている。
銀座東3丁目
現場に到着したが、犯人は人混みに紛れて行方知れず。野次馬と救急車に運び込まれる被害者がいるのみ。
「警視庁の大山っす。被害者の容体は?」
大山は救急隊員に話を聞く。
「かなりの重症です。何せ出血が酷いもので...」
担架に乗っている被害者の男性を見ると、薄っすらとではあるが、まだ意識が残っているような感じで、大山とビリーの方を見つめてきた。
すると...
「あ、あんたっ...刑事っ、...か?」
男性は息も絶え絶えに声を発した。
「おう、そうそう。何か覚えてる事ある?」
「あ、秋山ッ...」
「秋山?」
「秋山に...やら、れた...!」
「一体誰なんだ?」
「か、葛城商...事、の...しゃ、いん...」
そう言い切った途端、彼の瞼はゆっくりと閉じ、まだ少し力んでいた腕もだらんと垂れ下がった。
「...10時25分17秒、心停止を確認。」
脈を測った隊員が静かに告げる。
「ックソォ...」
・ ・ ・
「被害者は矢田友和。葛城商事の社員だったみたいっすよ。」
本部に戻った大山は課長に告げる。
「それで、その彼が言い残した同じ葛城商事の秋山という人物...そいつが犯人という事になるな。」
「そうっすねぇ...」
「課長!」
その時柏田がグリップボードを持って走ってきた。
「被害者の矢田さんに撃ち込まれた弾丸の鑑識結果出ました!...ビリー君のM1877 サンダラーから発射された41口径弾でした。」
「!!」
その一言でビリーの表情が一気に青ざめていく。
「ビ、ビリー、だいじょぶ?」
大山が顔を覗き込みながら尋ねる。
「うん...平気だよ。」
そう言うと彼はゆっくりと捜査課の部屋を後にした。
「ビリーさん...」
部屋を出たビリーは警視庁庁舎の屋上で一人思いを巡らせていた。
「坊主」
「!」
突然の声に彼は振り向く。居たのはクー・フーリンだった。
「お前さん、結構思い詰めてるんじゃねぇか?」
「...何を?」
「あからさまな強がりはやめろって。...自分の銃で人が死にゃ誰だってショックだろ。」
「...やけに優しいじゃないか君らしくもない。」
少しの沈黙の後そう話すビリーの表情はどこか晴れ晴れとしていた。
「可愛くねぇな...人が慰めてやってるってのによ。」
フッと笑ってそう返すクーの顔もまた少し嬉しげな表情であった。
その頃大山と柏田は犯人とされる秋山の勤める葛城商事へと赴き、事情聴取をしていた。
「何度聞かれましてもね。うちには秋山なんて社員はおりませんとしか...」
「でもほらもうちょい社員表探してみて下さいよォ。消しゴムで間違って消しちゃったとか?ほら消し跡探して探して」
「いい加減にしてくれませんか!私たちもねぇ、暇じゃあないんですよ...!帰って下さい!」
ただでさえ事情聴取に渋々付き合っていた社長も大山のおちゃらけっぷりに痺れを切らし2人を追い返した。
「...どう思うよ?」
葛城商事のビルを出て、大山はタバコに火を付けた後、柏田に一本渡す。
「僕吸いませんよ...」
「そーだったっけ?」
「確かに何か隠してるような感じはしましたね...でもその秋山って奴がホントに葛城商事の社員かどうかは、まだ分かりませんね...」
「まぁな...」
「たーだいまー。...あれ?」
再び本部に戻ってきた大山たちだが、部屋の様子がおかしい事にすぐに気づく。
「あれれ、どしちゃったの皆。」
「あ、先輩!大変なんです!」
マシュがすかさず駆け寄ってきた。
「どったのマシュ?」
「ビリーさんが居なくなって...!」
「ビリーが?」
「俺がちょっと目を離した隙に消えちまいやがった... なぁマスター。」
「ああ。ビリーの奴責任感じて、一人で行きやがったなそりゃ。」
・ ・ ・
ビリーは一人葛城商事の前に立っていた。
「...まさか、ね。そんな簡単に手掛かりが見つかるはずは...!」
彼はビルに背を向けて歩き出し、諦めたようにそう言いかけるが、振り向いた瞬間、ビルから見覚えのある人物が出てくるのを見た。
「...あいつ!」
彼は紛れもなくビリーから銃を盗んだ男、秋山であった。大きめのアタッシュケースを抱え、タクシーを捕まえて乗り込んでいた。
ビリーもすかさずたまたまその後ろを走ってきたタクシーに乗り、男の行方を追った。
着いた場所は東京湾の港。コンテナやフォークリフトの点在するこの場所で男はタクシーを降り、ビリーもそれに合わせて見えない場所で降りた。
男は黙々とコンテナの間を進んでいく。そしてその先には...
「!」
「時間はぴったりだな。君が葛城商事の?」
数人の黒服の男達と目立つ白スーツの初老の男が居た。
「ええ、秋山と申します。」
秋山はそう告げると彼らに名刺を渡す。
「よろしく。それじゃ、早速取引といこうか。」
白スーツの男は名刺を受け取った後、黒服達に金の入ったアタッシュケースを用意させ、秋山もまたアタッシュケースを開いた。
「いかがでしょう?」
「!?」
その様子を監視していたビリーが見たアタッシュケースの中身。それは自分の愛銃、コルト・M1877サンダラー。それも十数丁。
「ふむ、これは中々クラシカルな銃で良いな、気に入った。」
男は満足そうに秋山に金を渡す。
「ありがとうござ...」
「おっと待ちなよ!」
「「!」」
ビリーは遂に取引現場に乗り込み、彼らにローマンを構えた。
「僕の愛しい相棒を盗んだ理由...それは僕の相棒をベースに密造して大量に売りさばくためだったんだね...」
「き、貴様っ!この銃の!」
秋山がビリーに銃を構えると、同時に黒服達もビリーに銃を向ける、が。
パァン パァン パァン!
「ッ!」
「うぅ...!」
「ぐぁっ」
秋山のも黒服達の銃も弾き飛ばされてしまう。
「ひ、ひぃっ!く、来るなっ!」
白スーツの男はアタッシュケースからサンダラーを一丁取り出してビリーに向ける。
「...やめときなよ。そいつは僕の言う事しか聞かないんだ。」
「っ!...戯言を言うなぁっ!!」
彼はそう言ってサンダラーのトリガーを引こうとするが。
ゴォン...!!
突如けたましい銃声とともに男の手からサンダラーが弾け飛ぶ。
「はぁーい、没収。」
そう語る声の主はコルト・パイソンを男に構えたまま男のサンダラーを取り上げた。
「...マスター!」
「水臭ぇぞビリー。一人で抱え込んで無茶しやがってェ...」
「言うほど無茶かな?僕の腕にかかればこんな奴らなんてイチコロさ。」
「全く可愛くねぇな...」
大山はフッと笑うと男に手錠をかけた。
数分後に応援が到着し、取引現場の男達は全員逮捕された。ビリーから銃を盗んだ秋山の証言により、葛城商事は秘密裏に銃の密造を行なっていると発覚し、葛城商事社長もお縄につく事となった。秋山は銀座で矢田を殺した理由についても、「会社の秘密をバラそうとしたため」だと話した。
・ ・ ・
「戻ってきた...!僕のサンダラーアァ!!」
「一気に元気になったな...」
「みたいですね。ですが、よく分かりましたねお二人とも。」
「「え、何が?」」
マシュの唐突な質問に二人してキョトンとする。
「ビリーさんの銃はそっくり同じものが大量に作られていたのに、それがビリーさんのものだと。」
「あぁ、そゆこと!そりゃだって銃には各個体に製造番号が書かれてるからな!」
「なるほど...」
「けどマスター...マスターの銃は本物か?」
突然後ろでアイスを食べていた式が口を開く。
「...え?」
「マスターが取引現場を押さえていた最中にすり替わっていた...なんて事も」
「なぬっ!?俺のパイソン⁉︎」
慌てて大山はホルスターからパイソンを抜き、シリンダーをスイングアウトさせ、フレームに刻まれた製造番号を確認する。
「い、一応、おんなじ...」
「...フッ 冗談だよ。」
「へっ? や、やめてくれよ式ちゃあ〜ん...」
大山はへたり込み、捜査課の部屋は笑いに包まれた。
いやー、更新不定期で申し訳ありませんっ(>_<) 今回が今年最後のエピソードになりそうです。今年始まった「マスター刑事」シリーズ。ご愛読、お気に入り追加してくださった方々、誠にありがとうございます!来年のエピソードもどうぞよろしくお願いいます!それでは皆様、良いお年を!