Making Character
気がつけば俺は薄暗がりの中に佇んでいた。机も椅子もない、本棚とベッドだけの殺風景な部屋。ベッド上に置かれた、部屋の簡素さには不似合いな兎のぬいぐるみだけが異彩を放っている。それを認識した途端、ぬいぐるみは起き上がり、腕(前脚と言うべきなのかもしれないが、二足歩行である)を振った。
[はじめまして、ゲストさん]
[この度はダイブ型VRMMORPG ”Linkage“をご購入頂き誠にありがとうございます]
[早速ですがアカウント作成に移らせて頂きます]
読み終えると同時に空間投影ディスプレイが搔き消え、再び、今度はキーボードと一緒に現れる。
ぬいぐるみがもう一度手を振る。どうでもいいけど喋らないのかこいつ。
[アバターネームを入力してください]
>イクリプス[確定]
[
[
[取得スキルを選択してください(0/5)]
成功するかどうかはさておき、待ち合わせている友人も皆やりたい役柄がある……いや、一人は違うか。あんまり熱心に勧めるものだから方向性のあれなキャラでいいなら、と参加を決めたのが俺を含めて三人だったわけで、勧めてきたやつは普通の範囲に収まるだろう。
>[
──
──
──
──
──
ここは決まっているのでさくさく進めていく。目指すは最強のスペルキャスター。それにこのゲームだとプレイヤー・キャラクターは神殿に所属する形になるから、信者の職業は選んでおいて損はない、と思いたい。
>[種族を選択してください(一つ)]
種族とスキルに関しては、ランダムに選ばれた選択肢が出現する、らしい。勧めてきた友人──アバターネーム「セージ」、一応オープンベータ版のテスター──曰く、選んだ限りではランダムが「ハズレ」だった例はなく、ランダムと言いつつ実際のところは向いていたりやりたいことへのショートカットの枠だと目されているのだとか。この辺りは思考検出型VRの面目躍如というかなんというか。まあそれが向いてるだけでゲームでまでやりたくないことだったというオチもままあるらしいけど。
種族の選択肢を見ていく。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、──ティーフリング。
項目を長押しする前に、ウィンドウがもう一つ開いた。この手の思考反応技術は便利なんだけど反応タイミングが読めないとちょっと怖い。
【
基礎脅威補正値3
異界の怪物である
体力値:高、魔力値:中、信仰値:高
【異界の血】
【異界の血】は低光量でもよく見える【夜目】や僅かながら属性ダメージを軽減する【属性耐性(微)】(氷と火と闇があった)などの複合スキルらしい。最大の特徴は【混淆】という、
選ばない理由がないと思う。中立と善属性のNPCの好感度が下がるスキルとかも入ってるけど、戦闘系のデメリットは一切ない。交渉は他のメンバーに向いてるのがいれば頼むし、そうでないなら所属神殿以外との接触をPCに限ればいい話。まあなんとかなると思いたい。
>ティーフリング[確定]
>[取得スキルを選択してください(3/5)]
スキル枠は既に【異界の血】に加えて二つのジョブの初期スキル【奇跡】【魔法】で埋められている。
【
呪文の範囲や威力を変更する。
とりあえず確定させてから上の方の選択肢を見ていく。
【属性魔術:火】【武器習熟:ショートソード】【使い魔作成】【言語習得:エルフ語】【製作:裁縫】……呪文系以外でも習得可能なスキルは多いようだ。中には【武技:スラッシュ】など、どう考えてもウォリアー系列向けのものもある。
【
さてここで問題がある。
残るスキル枠はあと一つ。
明らかに敵のステータスを見るためだろう【識別】、【魔法道具作成:スクロール】ないしその類型、【回避】【身躱し】(前者は単発攻撃を避けるための、後者は範囲攻撃から逃れるためのスキル)でどうにもならない打たれ弱さをカバー、この中から一つ選ばなければならない。
「…………」
>【言語習得:
おっと手が滑った。
……いや、言い訳をさせてほしい。俺は一応信仰呪文使いで、そうでなくてもプレイヤーは神殿所属で、悪魔の血を引いてる訳で……。
はい。正直に言います。趣味です。地獄の言語があると聞いたら取らないわけにいかないような気がして。正直
[能力値を割り振ってください(AP20/20)]
──
──
──
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──
どのジョブにどんな風に能力値が関わってくるのか知りたい、と思えば、ウィンドウが増える。浮かんだ矢印は本棚を指した。完全に存在を失念していた兎はベッドをめちゃめちゃにしてしまったらしい(見える限りでは怠惰に座り込んでいるだけなのにベッドは幼児が跳ね回ったみたいな様相を示ししている)。
本棚は俺の身長と同じくらいの高さで、無造作に突っ込まれた紙束で埋められている最下段以外は、八割くらいが本で埋まっていた。全ての本はタイトルが箔押しにされているが、日本語のものは隅から隅まで眺めても片手で数えられる。その他の読める本も同程度だ。
思考検出型故の自動翻訳が働くもののうち、おそらくはアルファベット似の文字がゲーム内の共通語で、漢字を更に複雑化したような(ざっと見た限り20画以上の文字が標準と思われる。とんでもない言語だ。正気か?)文字で書かれた三冊が
関係のありそうなところを抜き出す。
【魔法】を始め、ほとんどの
メイジの次に
ソーサラーはMPが多く参照能力値が一本化される代わりに【魔法】によるスキルの習得が遅くなる。
【
種族固有の呪文に準ずる能力はCHA依存。
攻撃を耐えるならCON、避けるならDEX。
しれっと最後にこれら全てに例外があると書かれていたのでどこまで信用していいのかわからないが、概要はこれであっていると思う。
方針としてはSTR、CON、DEXはこのまま、精神系の三つを上げていく。
>INT:17/18 (AP13/20)
>WIS:17/20 (AP8/20)
>CHA:16/16 (AP0/20)
これで20点は使い切った。ああ、と。一個確認しておこう。
>CON:8/18(AP2/20)
下げるのも可能。たぶん今だけだろうな。あんまり下げすぎるのも怖いが、種族効果で高くなるならCONをある程度捨ててもHPは回るかもしれない。
>CON:9/18(AP1/20)
>DEX:13/20 (AP0/20)
当たらなければどうということは云々。これで確定させる。
[所属する神殿を選択してください]
[
アライメントは善-悪軸と秩序-混沌軸の組み合わせで、各軸に中立があるので全部で九種。まあここは迷うことはない。地獄語を取ってしまったし。
>
[信者の職業を取得済みのため、所属神殿が制限されます]
あんまり教義と離れたアライメントはお断りってことか。当然だな。というかジョブ取ってなければ無制限なのか。
>[所属する神殿を決めてください]
[
[
──“書と骸の女帝”
──“精緻なる天秤”
──“無限の番人“
──“金貨を積みあげるもの”
──“波乗りの娘“
エトセトラエトセトラ。
ざっと見ても選択肢は20以上ある。ちょっと多くないです??三分の一になってるんだよな?道理で絞り込み機能が二種類もあるはずだよ。
ドメインとやらの一覧は表示されなかった。本棚の中身を読めということだろうか。
称号のような名前に触れれば、簡単な説明文が出てきた。説明と言っていいのか疑問なくらい簡単なものだが。「死霊と魔術の神」とか「船舶と航海の神」とか、それだけだ。
並行して本棚を漁ると、共通語(推定)で「宗教学入門」という本が三冊ほど並んでいるのを見つけた。
……はっ。つい読み耽ってしまった。正式サービス開始はまだだからいいものの、体感時間の加速がかかってるとはいえ我ながらどうかと思う。
さて。やることはやっておく……前に一通り本に目を通すか。ここまで読んだのなら同じようなものだ。
「亜人種について」……デフォルトで選べる種族(と、その生息地による亜種)や
「職業選択の手引き」……ほとんどそのまま。日本語で書かれているだけあって、かなりメタ情報も入っていた。
「魔術分類学入門」……秘術呪文の系統分類、属性魔術と【幻術】等の系統魔術の差異。呪文の判別とその速度がどれほどの重要なのかについて長々と書かれていたが肝心の判別方法は一切書かれていない。
「地獄の支配者」……九層地獄という場所に住まう強大な存在についての情報が並んだ書籍。二つ名と名前、支配地と眷属についてが地獄語(もう確定でいいだろう)でびっしりと記されている。
「南方放浪記 巻七」……ファルンの街とその周辺を訪れた旅人の日記。他の巻はなかった。
「来るべき時の為に」……この題が上部に書かれたメモ書き。言語の違う紙束の中に地獄語のものがあった。共通語も日本語もないあたり趣味が悪……もとい、いい趣味をしている。内容は主に“永劫なる暗がりの君”なる神と、その眷属について。“永劫なる暗がりの君”は自身を含めた多元世界の全てを、滅ぼそうと試みているのだとか。複数の神々が協力した結果、異界の一つに放逐されているためその影響は限定的で緩慢なものだが、それでも少なからず被害が出ている。その対策として何かの計画を推し進める予定だ。そういう内容だった。
「ワールドクエストとかそういうやつか……?」
まあ、現状気にしても仕方がないことだろうからいい加減キャラ作成に戻ろう。
>[所属する神殿を選択してください]
>“悪なるものの王者”[確定]
[信仰対象を所属神殿と異なるものにする場合は「変更」をタップし、キーボードから入力してください。この表示は五秒で消滅します]
>[変更]
>“齎戦者”[確定]
いくさをもたらすもの。
[アバター作成に移ります]