[アバター作成に移ります]
[既存アバターの導入/セミオート作成/マニュアル作成]
ここはセミオートでいいだろう。俺には行動に不便のないVRアバターをマニュアルで作るような能力はない。
現実の肉体と操作感のそう変わらないアバターを作成する機能は現代では然程難しいものではない。人型から大きく外れる場合でも、尻尾や翼、追加の腕程度ならば操作補助プログラムがいくらでも転がっている。けれどそれは業務用のプログラムあってこその話。身長が半分も変化するようなアバターでもオート最適化があれば苦労はしないが、マニュアル作成の最適化されていないアバターではミリ単位のずれが致命的だ。
セミオートを選ぶと、部屋の隅に大きな姿見と化粧台が現れた。化粧台の上には手のひら大の砂時計が置かれている。
砂時計が落ちきるまで二分ほどかかっただろうか。部屋の中がずっと明るくなったと思えば、今までの個人標準アバター(髪が紺色で目も薄い色なこと以外は現実の肉体をベースに少々顔立ちを整えただけの面白味のない人間型だ)から、20センチ近く視点が上がる。
肩口辺りまで伸びた黒い髪。透き通った碧い瞳。優しげな印象を受けるが、けれどよくよく見れば恐ろしいまでに左右対称な男性の姿。外見年齢は20代の終わり頃だろうか。現代ほど栄養が取れない社会ならもっとずっと若く見られるかもしれない。さらさらと流れる髪の間から覗く耳は僅かに尖っている。
口中の違和感に口を開けようとして、引っかかりを覚える。指で探れば、犬歯が牙のように鋭く伸びていた。もう一度姿見を見返せば、スタイルの良さを少々超えたレベルで手脚が長い。
視界の端に再調整用ウィンドウのアイコンが浮かぶ。表示させると、全体像が浮かんでいる。それを眺めて始めて、牙と手脚以外の人ならざる要素を見つけた。左の太腿辺りから背中にかけて、ぐるりと螺旋を描くように爬虫類じみた鱗がある。まるで太い蛇が巻きついたような様相だ。
少し動いてみる。調整済みだけあって、長い手脚も口中の牙も五分もせずに慣れた。サポートプログラム万歳。姿はこれでよし、と。
[初期装備が配布されます]
[術者のローブ[ビギナーズ]を獲得しました。色と形状を選択してください]
[旅人の服を獲得しました]
[“齎戦者”の神印を獲得しました。刻印対象を選択してください]
[魔法使いの補助具[ビギナーズ]を獲得しました。形態を選択してください]
旅人の服は靴まで含めた上下のセットだった。めんと思しき薄茶色の長袖シャツ、黒茶の毛織のズボン、黒い靴下、ミニポーチのついた革のベルトと何重かにされたフェルト地の灰色の靴。ブーツじゃないのか。追加効果のようなものは一切ない。というか、装備が破損した際裸や下着姿になるのを防ぐためのものなのだろう。重量0売却不可耐久度無限に無装備時自動着用対象と書いてあるし。
術者のローブ[ビギナーズ]はその名の通り、申し訳程度の呪文強化効果のある上衣。色が自由に決められるほか、マントか袖付きのローブかとフードの有無が選択できた。ほとんど黒に近い紫紺色の、フード付きローブを選ぶ。
魔法使いの補助具は【魔法】の効果を少し上げるアイテムだった。【魔法】のと断言されている以上、他のスキルには影響しないのだろう。大きく分ければ書物(本と巻物から選択)、装飾品(指輪、腕輪、ペンダント、アンクレット、髪飾り、耳飾り)、杖(
ローブとペンダントは[ビギナーズ]とある通り、トータルレベル20を超えた段階で効果を受けられなくなると書いてある。耐久度はだいぶぶっ飛んだ数字が書いてあるが、旅人の服とは違い無限ではなかった。
神印は特に効果のないアイテムだが、これがないと【奇跡】や他の信仰呪文は発動しない。思った以上に重要アイテムだった。おそらく自由に作れるのだとは思うが、戦闘中に落としたくはない。
形を選べとあったが、どうも印さえ刻んであればそれがペンダントでも指輪でも剣でも機能するらしい。刻まれたものに自分から服が触れている必要があると注意書きがある。服でもいいのはおそらくローブの背中に刻んだりするパターンを想定しているのだろう。刻まれていれば発動する、か。
もはや原型を留めていないベッド(全くの無音なのにここまで破壊できるのはVR空間でさえなければ素直にすごいと思う)の方を向くと兎のぬいぐるみは緩慢にこちらを向いて手を振った。
[御用でしょうか?]
「この『神印』というアイテムですが、アバターに直接刻印することはできますか?」
[刻印位置を選択してください]
先程見たアバターの調整画面が現れる。つまり「できる」のだろう。侵攻を司る神であり、悪神の配下である以上、その神印が人目に触れるのは避けたい。手の甲などではなく服装次第で確実に隠せて、それなりに格好のつくところがいい。
巻きついた鱗は背の中程で弾けたように広がっている。そのすぐ上、心臓の真裏。そこを指定すると、アバターの同じ箇所にぴりりとした痛みが走った。画面上では中心から広がるように、“齎戦者“の
[初期選択職業が信者と魔法使いであるため、所持金として75サイル(7500キュリア)を支給します]
[これでキャラメイクを終わります]
[ログアウトしますか?]
>はい