ネタ置き場   作:adbn

3 / 9
Temple of Evils

 [ログインを開始します/アバターネーム:イクリプス]

 

 そこは、灰褐色の石でできた建物だった。巨大な岩を彫り込んで造られたことの証左のように、壁にも天井にも一切の継ぎ目はない。明かりはといえば広々とした空間の両端にずらりと並んだ燭台だけで、中央の方はさぞ暗いことと思われる。

 

 部屋の最奥、一段高いところには、巨大な篝火とタペストリーがあった。タペストリー──いやあれは旗か──に描かれているのは、三本二組の矢を握り潰す拳の意匠──“悪なるものの王者”の神印。

 

 床と一体化している篝火の台のすぐそこに、浮かんでいるものがいる。巨大なローブのために体つきは分からないが、それは大まかには人型をしているようだった。

 

 背から広がる鴉の翼は微動だにしないが、重力に従う様子は見えない。人の頭は沈黙している。けれど首から垂れ下がるように生えたもう一つの、狼の頭は唸り声をあげている。

 

 唸るように声を上げている。地獄語(インファーナル)だ。どうもこの言語の重要な部分は音ではないようで、黙っているように聞こえる(おそらくは可聴領域外の)時でさえ、言葉を知覚することができた。おおよそは期待したほどの重要性を見出せない自分たちPCに労力を割かねばならないことへの恨み言でしかなかったが。

 

 狼が低く唸る。

「貴様等の役割はあの神を殺す事、其れだけだ。期待はしていない。精々無様に踊れ」

 

 人の頭が口を開く。

「我らが主たる“悪なるものの王者”によりお前たちの魂は保護されている。肉の滅びは死ではない」

 こちらは明瞭な共通語だった。数学の公式でも述べるような、平たく感情のない声。

「我らが主はお前たちに期待している。ゆえに、いくばくかの加護をお与えになるとのことだ」

 

 堕天使は、神殿が世界渡り(プレイヤー)に対して担う役割を説明し始めた。蘇生とデスペナルティ(総計(トータル)レベルに応じた金銭、借金あり)、ポータルとログアウト拠点(神殿以外にもあるような口振りだった)の提供、神印(シンボル)、聖水、その他【奇跡】や個々の【信仰呪文(ディヴァインスペル)】に必要な物品の販売(きちんと金を用立てるなら不死(アンデッド)の材料くらいは用意すると言われたがそれ要するに死体ですよね)、各種素材の買取、改宗者の受け入れ、不要なスキルの消去。

 

 きっと質問は想定されていない。俺たちが所属するのは秩序にして悪、上位者が下位者を支配する神殿(ばしょ)

 

「武運を祈ろう、未だ弱き世界渡りたち」

「“悪なるものの王者”に栄光あれ。我等の世界を不当に支配する者等に災いあれ」

 

 ブラックアウト。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。