能力に目覚めた時、俺は小学三年生で、まだ無能力者だった。今でもそうだが、自身の肉体を操作するタイプの能力者は珍しい。能力に反射強化と名がつけられた後、俺はすぐに研究所へ送られた。今思うとかなりまともなところだったのは貴重な肉体操作系能力者を使い潰さないためか、はたまたしょっちゅう「外」の両親と連絡を取っていたころだったからか。
一年もしないうちに、気づけばレベルは上がっていた。学校に週5で通いつつ、休日は研究所で実験を受けていたころだ。日々能力開発に勤しんでいる方々からすると羨ましいどころではないかもしれないが、いまいちよくわからないうちに俺は「ちょっとドッヂボールで有利な小学生」から「素人ながら格闘技をかじった相手をよけられる小学生」になっていた。レベルはまだ1だったが。神経伝達速度が明らかに早くなっている。その頃はそれだけの能力だった。
予兆はずっとあった。周囲の同じレベル、同じ年齢の子供とは、明らかに計算速度が段違いだったのだ。
それは、レベル1になって二年近く過ぎたころ。CTスキャンを伴う健康診断は年に一度だったが、そこで異常が見つかった。病気ではない。むしろ真反対の、おそらくは歓迎すべきことだった。
演算領域の拡大が速すぎる。おそらく脳細胞そのものが増加している。
それはつまり、この能力がただ体をうまく使える程度のものではなかったということだ。二か月の経過観察と審議ののち、俺は一足飛びに強能力者に分類された。それに際して能力名も神経操作へと変更され、所属研究所も変更された。
そのうち警備員の手が入って潰れたらしいが、初めに配属されたの場所は特力研と言った。多重能力者の研究をしていたところだったから、まあそういう意味では一番合っていたのだろう。そこはとてつもなくくそったれなところで、どのくらいくそったれだったかというと俺が配属されたときにいた十数人の能力者のうちで俺が離れるまで生き残っていたのは二人だけだった。勘違いされても困るので補足しておくとうち一人は俺で、もう一人は俺が離れる三か月前に転属になった。鈴科―――名前は何と言ったっけな。本来なら俺が何かを忘れるはずもないので、教えてくれなかったのだろうか。茶色の髪をしていたが、その色がどんどん薄くなっていったことは覚えている。
そのあといくつの研究所を巡ったのかは、まあ覚えてはいるが数えても仕方ないだろう。どこもかしこも大差はなく、死亡者と廃人のどちらが多いかという程度の話だった。貴重な肉体変化系の、強能力者ないし大能力者を失うわけにはいかなかったのか、自分は使い潰されずに済んだが。
いや、はじめからアレイスター=クロウリーの長い手の中だったのかもしれない。
レベルが4になったきっかけは覚えている。意識して自分の脳を改造することに成功した、まだ学校に通っていたなら中学一年生のはずの頃。ここから自分の能力開発は大きく変わった。まるでそのことを今か今かと待たれていたかのように、その変化は迅速だった。
結局、俺が目指すべきものは元に戻った。多重能力者だ。
まず、学習装置を用いて、どこからどう入手したのか残り二人の肉体変化系能力者の演算データを埋め込まれた。能力を用いた適応能力を上げねばお話にならない、と言うように。そして、そうでなければ事実お話にならなかっただろう。この二つのデータ群に適応するまで、半年近くかかった。ほかのほとんどすべての開発を投げ出して、である。
次に、様々は種類の低位能力者の演算データを一人ずつ入れていった。はじめは解析にもそれに合わせた演算領域を都合するのにも時間がかかったが、ある時気が付いたのだ。何も一人ずつ個別に領域を作ることはないじゃないか、と。発火能力だろうと電撃操作だろうと、はたまた空間移動だろうとすべては念動能力の応用に過ぎない。スイッチが山ほどある回路を作っておいて、必要に応じて切り替えればいいのだ。
そこからは速かった。
大能力者までのメジャーな能力系統は全て使えるようになるまで、一年もかからなかっただろう。もっとも俺ができるのはデータのオリジナルができることと同レベルまでに過ぎない。併用は規模にもよるが、多くて三つ。それでも十分大したものだはないかと思うのだが、統括理事様たちはどうもそれでは不満らしい。オリジナル以上に使えるように研鑽を続けなさい、という命令の傍ら、二年前にかなり特殊な能力者のデータを渡された。能力名は教えられなかったし、データは学習装置越しではなく記録媒体で与えられた。学習装置なしで習得できるならそれに越したことはないということなのだろう。決して嫌がらせとかではないはずだ。そのはずだ。
能力開発はその時点で、研究所に寝泊まりしなくてもいい程度には一段落していた。正確には演算領域全体から見て、日常生活を送るのに必要な部分は気分で左右される程度の誤差とみなせるようになっていた。その結果、高校はそれなり以上にいい学校に通えている。長点上機学園だ。多重能力者がいると喧伝するわけにもいかないから、大覇聖祭には出れないけど。
高校に入って三か月ほどした頃。能力追跡(という名前とは当時知らなかったが)のための演算回路が完成したと告げると、唐突に理事長様の飼い犬になれと言われた。まあそれ自体は仕方ないだろう。死にたくないから即座に了承した。”トランク”とかいう謎の組織のリーダー……いや構成員は俺と下っ端の組織だけだったが……になった。
解析対象の方はすぐ「次」が来た。今度はいくら世間の能力について調べない俺でも分かった。何せ同じ学校の、唯一明確に格上と言える能力者のものだったのだ。未元物質のデータ。それもなぜか演算時のデータではなく、おおよそ考えうる限りの出力結果の観測データと現物。AIM拡散力場の測定データすら、研究所内限定でとはいえ閲覧を許可された。これはなんだろう。世界への出力結果から能力者の頭の中を逆算しろと言われてるとしか思えないのだが。正気か。しかも未知の格上とかなんだそれは。しかし悲しきは学生の身の上。拒否などできようはずもない。
この間、軍事用の人格調整プログラムへの協力要請など、精神系能力者の分野ではないかという研究もいくつかあった。けれど片手間でできることの上、こちらにも、主に金銭的な利点があったため引き受けただけで些事だろう。うん。たとえそれが第三位のクローン二万体にインストールされたからと言って俺のあずかり知るところではない。
ところで最近知ったのだが俺は第一位のスペアと言うか代替存在と言うか、彼と似たアプローチの絶対能力者候補らしい。嘘つけ。外部放射から演算を逆算するのも、その一環なのだとか。時にこの逆算、対象が対象なのも相まって三年やそこらで終わる気がしないんですが。オレの高校生活は見たこともない超能力者のコピーの試みで消え去ってしまうのだろうか。消え去ってしまうのだろうな。本人にヒントをもらいたいくらいだけど性格がどうとか以前にあいつ学校来ないし。
で、なんでこんなことを思い出してるのかと言うと、だ。うん。まあこれは走馬灯の一種と言えるのかもしれない。人間をやめたという意味で。
はい。俺、化け物になったようです。
やったね!演算データの上を行けるようになったよ!あとたぶんだけどこれで超能力者の能力再現もできるんじゃないかな!……俺まだ人間でいたかったんだけどなあ。神様になるのが現実的になってきたじゃないですかヤダー。
とある科学の副次候補―――はじまりません。