恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~   作:藤龍

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トラブルと告白は突然に

 

 

 

 

 もう二度と恋愛なんてしない。

 

 とある出来事がキッカケで、俺はその決意を心に強く刻んだ。誰かを好きになるのも、誰かに好かれるのもコリゴリだ。だから俺はこれから色恋沙汰なんかとは一切無縁な、灰色の人生を歩むんだ――そう、決めたはずなのに。

 

「惚れました! 付き合って下さい!」

 

 突然告げられたこの一言から、俺の高校生活はバラ色の青春へと変わってしまうのだった。

 

 全ては、二年生に進級した初日の事。その日に、全てが始まった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「はぁぁぁぁぁ……」

 

 重苦しいため息が俺の口からこぼれる。だがその音は教室内の至る所で上がる談笑の中に掻き消え、誰も気にする素振りを見せない。

 

「なーにため息なんてついてんだよ。見ろよこの状況! ため息なんてつく要素は皆無だろ!」

 

 唯一それに反応を返したのは、俺の席の真横に立つ一人の男。目を燦々と輝かせ、分かりやすくテンションが上がっている彼は教室を見回しながら、続けて高揚した言葉を吐く。

 

「周りを見ろ! 女子! 女子! そして女子ぃ!! 俺達の学校に女子が居るんだぜ! こんな状況で机に突っ伏してため息なんてついてる暇があるのかね、月村(つきむら)零司(れいじ)くぅん!」

「……とりあえずそのテンションうざいから止めろ」

「やだね! 女子ぃを前にしてローテンションであるなど、この俺明坂(あけさか)(かい)の美学に反する! 否! それはもはや男として失格だ!」

「そうか。じゃあ俺は男じゃなくていいや」

 

 この男、俺の幼馴染である明坂海は普段からハイテンションでうざい奴だが、今日は倍はうるさい。心のブレーキが壊れてしまったのだろうか。……いや、きっと壊れたのだろう。まあ、それも無理も無い。きっと周りの男子生徒も、心の中ではテンションが上がっている事だろう。

 

 この学校――私立美色(みいろ)学園は、去年まではいわゆる男子校だった。

 が、近年の生徒数減少により存亡の危機に立たされた事で、今年度から同じく生徒数が減少していた近くの女子高と合併する事になったのだ。

 だから今日から、この学校は共学。男だけのむさ苦しい場所に、華やかな女子達がやって来たのだ。年頃の男子なら、テンションが上がるものだろう。(こいつ)は少々過剰すぎるが、元々馬鹿で生粋の女性好きだから、ある意味平常運転だ。

 

 が、俺は違う。この状況に歓喜するどころか、逆に軽く絶望している。

 だって俺は、女子との関りを避けるのが目的でわざわざ男子校に進学したのだから。なのに結局共学になるなんて、それではここに来た意味が無くなる。近くにはもう男子校は無いし、あと二年はこの状況の中で生活するしかないのだ。

 

「はぁ……」

「まーたため息ついてんのかよ。ほらほら、ネガティブタイムは終わりにして、俺と一緒に青春を捕まえに行こうぜ! まずは軽ーく十人分ぐらい連絡先をゲットだ!」

「ナンパなら一人でやってくれ」

 

 茶色に染まった髪をキメ顔で整える幼馴染を置いて、俺は席を立って教室を出る。

 

「オイオイ、どこ行くんだよー」

「お前がうざいからお前が居ないどっか行く」

「おーそうか。じゃあ俺も行く」

「日本語理解してる?」

「イエス! アイムジャパニーズ!」

 

 マジうぜぇ……今日だけ声帯の機能停止しろ。

 

 結局後をついて来た海と一緒に、適当に校舎内をぶらつく。その道中、女子達の視線が度々こちらを向くのを感じた。なんとなく落ち着かなくて、つい背中を丸める。

 

「フッ……どうやら俺のフェロモンが女子達の視線を吸い寄せちまうみたいだな。悪いな、迷惑かけて!」

「そう思うなら離れてくれ」

 

 相変わらず自意識過剰というか、自分に自信満々な奴だな。まあ、あながち間違えではないだろうが。

 海は見た目だけは文句無しの美形だ。が、性格がこれだ。なので今まで彼女が出来た事は無い。中身と見た目があべこべな残念イケメン。いわゆる黙ってればイケメンという奴だ。

 

「まあ、お前もそこそこイケてるフェイスだからな。二割ぐらいはお前に惹かれてるかもしれないな。よかったな! お前の青春も近いぞ!」

「そんな青春は望んでない。願い下げだ」

「……お前、まーだ恋愛はしねぇとか言ってんのか?」

 

 呆れたような口調で、海が言う。

 

 そう、俺は決めたのだ。恋愛なんてしないって。結局共学になってはしまったけど、極力女子との関りは避けて生活する。……なら、この女子好き野郎ともしばらく縁を切った方が良いかもしれんな。

 

「……なーんか嫌な感じしたんだけど、お前なんか失礼な事考えてない?」

「ん? そんな事ないさ。幼馴染と後腐れ無く縁を切る方法を考えてた」

「ちょっとは濁そうぜ!? 海くん意外と傷付きやすいかんね!?」

「冗談だよ。でも、出来るならその女子を追い求める姿勢は勘弁してほしいな」

「お前は獅子に獲物を狩るなと命ずるつもりか?」

「生存本能なの?」

「……いや、真面目な話さ? いい加減気にしない方が良いんじゃねーか?」

 

 少しトーンを落とした声でそう言う海に背を向けたまま、俺は階段を降りる。

 

()()からもう一年以上経ってるんだぜ? いつまでもウジウジしてねーでさ? 前見て歩こーぜ前見て」

「……俺はお前みたいにポジティブに生きて行けねーよ」

「カァー、このネガティブ男が。零司、お前はそれで良いのか?」

「良いんだよ。この方が、ずっとマシだよ」

「……そーかい。ま、無理強いはしねーけどさ」

 

 海は俺を追い抜いて先に踊り場に降り立ち、こちらを向いて言葉を続ける。

 

「でもさ、こうして共学になっちゃったからには、女子との関りを完全に断つのは難しいだろ? ふとした瞬間に恋が巻き起こる……みたいな事もあるかもだぜ?」

「そこは注意して生活するよ」

 

 大袈裟な動作を付けて話す海を通り過ぎ、さらに階段を下る。

 

「そんな事言って、零司の事だからサラッと女子との接点作ると思うけどなー。ほら、お前って無駄に世話焼きだし? 天然ジゴロな部分あるし? 余計な事に頭突っ込んで女子に惚れられるって事もあり得るぜ?」

「なんだよそれ……そんなのある訳無いだろう」

「いやいや分からないぜ? それにほら、覚えてるか? 正月に受けた占い」

「占い? ああ……隣町に初詣に行って、そこにあった占いの館にお前が俺を無理やり連れてった話な」

 

 そうそうそれそれと頷き、海は話を続ける。

 

「お前そこであの占い師に言われたじゃん。今年はあなたに、女難の相が見えてますって。だから女子絡みで、なんかあるんじゃねーの?」

「あんなの、ただの占いだろ?」

「いやでもあの占い師、チョー当たるって有名ならしいぜ? えっと……あり? 名前なんて言ったっけ?」

「そんな名前も覚えられない占い師の言葉なんて、信じるだけ馬鹿らしい」

 

 例え女難の相が出てたとしても、俺がやる事は変わらない。俺は絶対、恋愛なんてしない。もし誰かに好かれて、告白されたとしても、相手には悪いが俺はそれを断る。

 まあ、誰かに好かれるなんてそんな急な話、無いだろうけどな。

 

 そんな事を考えながら校舎を抜けて外に出たその時――俺の運命は、望まぬ方向へと動き出した。

 

 突然、頭上から聞き慣れない大きな音が聞こえて来た。鉄が折れて何かが外れたような、そんな音だった。

 その音に立ち止まって顔を上げて見ると――女の子がこちらに向かって落ちてくるのが、視界に映った。

 

「え――」

 

 その瞬間、時間が止まったような感覚に陥った。異常事態に脳が急速に回転して、状況把握を開始する。

 なんで女子が空から降って来る? さっきの音はなんだ? この状況と関係してる? ていうかこれ、俺に向かって落ちて来てないか? このままだと俺、潰れる? でも避けたら、女の子は地面から真っ逆さまだ。それじゃあ彼女が死んでしまう。じゃあどうする? どう動く? 俺はどうすれば良い?

 

 時間にして三秒にも満たないだろう。当然、そんな短時間じゃ考えは纏まらなかった。でもそれでも、体は動いた。

 素早く姿勢を落として、腕を広げる。視界に女の子をしっかり捉えて、位置を調整し――そのまま落ちてきた女の子を、お姫様抱っこの体勢で受け止めた。

 瞬間、女の子の体重と落下の勢いが加わった衝撃が、腕から全身に襲い掛かる。

 

「イッ……!?」

 

 電流が走るような衝撃に膝が悲鳴を上げ、腕が震える。が、どうにか歯を食いしばって、持ちこたえる。

 周囲も状況を整理出来ないようで、静寂が流れる。その沈黙を、海の大声が破る。

 

「そ、空から女子ぃが降って来た!? つーか、大丈夫か零司!?」

「な、なんとか……へい、き……」

 

 死ぬかと思ったが、案外無事だった……火事場の馬鹿力というのは、本当に出るものらしい。

 つーか、なんで女の子が空から降って来たんだ? 俺は痺れる体をどうにか動かし、顔を上げる。目線の先にあるのは、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下。その一ヶ所、手すりが壊れてるところがあった。

 あそこは……確か少し前から老朽化が進んでるとかで、壊れやすくなってるから注意して、とか言われてたな。なるほど……この女の子は、それに気付かずに寄っ掛かったりでもしたのだろう。そしてそのまま、あそこから落ちたと。

 全く……新しい生徒が大量に入って来るんだから、さっさと直しとくか注意書きぐらい置いとけよ。この学校、適当なとこあるからなぁ。

 

「おい零司。お前はともかく、その子は大丈夫なのか?」

「は? ……あっ」

 

 そうだ。いきなりの事過ぎて頭がいっぱいいっぱいだったけど、肝心の女の子はどうなんだ!?

 

「君、だいじょ――」

 

 慌てて抱えた女の子に視線を落とした瞬間――俺は思わず、言葉を失った。

 理由は、彼女の表情だ。普通、渡り廊下からいきなり落下するなんて経験をしたら、恐怖で表情が強張ったり、青ざめたりするものだろう。

 だが、彼女は違った。顔は青ざめるどころか健康的な朱色に染まり上がり、表情は恐怖で強張るどころか、瞳が燦々と輝き、嬉々としていた。

 

「えっと……大丈夫?」

 

 頭でも打っておかしくなってしまったのか。それとも元々おかしいのか。判断に困ったまま次の行動を決めあぐねていると、突然女の子は叫んだ。

 

 

 俺の高校生活を大きく揺るがす、衝撃の一言を。

 

「惚れました! 付き合って下さい!」

「……………………はい?」

 

 

 

 

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