恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~   作:藤龍

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恋愛はまず外堀を埋めるべし

 

 

 

 

 

「私、零司君のお家に遊びに行きたい!」

 

 いつの間にか当たり前になった屋上での昼食タイムの最中、火鈴が唐突にそんな事を言い出した。

 何の前触れの無かったいきなりの発言に、たまごサンドを口に運んでいた手が止まる。

 

「急だなオイ……どうしたんだいきなり」

「えへへ、なんか急にそう思っちゃって。だって、私零司君がどんな家に住んでるのかとか、家族の事とか知らないしさ。だから知りたいなーって」

 

 火鈴の意見を聞き入れてから、俺は再度たまごサンドを運んで一口かじる。

 

 こないだもいきなり俺の事知りたいとか言ってきたり、色々突然だなこいつ。

 まあきっと彼女なりに、俺の恋人になろうと努力しているのだろう。その思いに応える気が無い俺にとっては、ちょっと申し訳ない気持ちになるが。

 

「それに、ちゃんと零司君のご家族にも挨拶しないとだし!」

「挨拶?」

「だってほら、将来、お世話になるかもしれないしぃ……」

 

 ポッと顔を赤らめながら、火鈴は両頬に手を当てどことなく嬉しそうに体を揺らす。

 返答に困った俺は、無言でたまごサンドをかじってそれをスルー。咳払いを挟んで、話を戻す。

 

「まあ……家に来るぐらいなら、別に構わないけどさ」

「本当!? やったぁー! じゃあ、今日遊びに行っていいかな?」

「今日って、また急な……分かったよ」

「わーい! ありがとう零司君! 楽しみー!」

 

 火鈴はバンザイをしながら、子供のようにはしゃぐ。

 相変わらず感情豊かな奴だなぁ――そんな事を思いながら、俺はたまごサンドの最後の一口を頬張った。

 

 こうして、火鈴の我が家に来ることが決まったのだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「……で、なんでお前らが居るんだ?」

 

 放課後。火鈴と一緒に俺の家へ向かう中、俺達の後ろに居る二人の人物に質問を投げた。

 するとその二人――音無と海は順番に理由を述べた。

 

「火鈴に一緒に来てくれって頼まれて」

「俺は暇だったから!」

「……さいですか」

「ご、ごめん……一人で行くのはちょっと、まだ恥ずかしくて……迷惑だった?」

 

 火鈴は申し訳なさそうに肩を竦める。

 

「いや、別にいいよ。一人二人増えようが、大差ない。……(この馬鹿)は出来れば帰ってほしいが」

「そんな冷たい事言うなよー。まあ、俺も久し振りに遊びに行ってみようかなと思った訳よ。妹ちゃんにも顔見せてやらないとだしな」

「あいつはそんなの一ミリも望んでないぞ」

「へぇ、月村君妹居るんだ」

 

 そう言いながらも、音無の表情はどことなく「だと思った」と言いたげなものだったが、深くは問い詰めない事にした。

 

「妹だけじゃないぜ? こいつ、そこそこ大家族だし」

「ふーん、他にも兄妹とか居るの?」

「ああ。妹、姉、兄が一人ずつ」

「わ、いっぱい居るね。みんな一緒に住んでるの?」

「兄は別の場所に住んでる。部屋はあって、たまに帰ってくるけどな。だから今は四人暮らし」

「そうなんだ。……あれ? 四人?」

 

 火鈴は右手の指を折り曲げながら、ブツブツと小さな声で呟く。

 

「ああ、ウチ父親が居ないんだよ。妹が生まれてすぐ離婚してな」

「あ、そうだったんだ……なんかごめんね」

「気にしてないからいいよ。顔もよく覚えてないし」

「そっか……ねぇ、お姉さんや妹さんはどれぐらい離れてるの?」

 

 気を使っているのか、火鈴は話題を切り替えるように明るい口調で問い掛けてくる。

 

「妹は今は中三。姉の方は今年で二十歳。で、今は都内の大学に通ってる」

「へー、大学。お姉さん頭良いんだね」

「ああ。でも……」

「でも?」

「……いや、なんでもない」

 

 わざわざ言う事では無いだろうと、口を閉ざす。

 

 ウチの姉には、俺としては少々問題になる部分がある。なので他人に姉を紹介するのは、少しばかり抵抗がある。

 出来れば姉の方は留守であってほしいが、果たして祈りが届いてくれるかどうか。

 

「お、月村家が見えてきたぞー」

 

 海の言葉に、皆一様に視線を彼に合わせる。その先には、二階建ての一軒家が一つ。

 

「ここが零司君のお家?」

「ああ。ただいまー」

 

 玄関を開いて中に入る。自分の靴を脱ぎながら、玄関の靴の数を数える。

 出てるのは一足だけ……という事は今、家に居るのは一人だけか。

 

「――お帰り。……お客さん?」

 

 玄関近くの階段から、声が飛んで来る。顔を上げると、そこには白いセーラー服を着た女子が一人。

 

「あ、その子が月村君の妹さん?」

「ああ。俺の妹の明日奈(あすな)。こっちは俺の学校の……まあ、友人達」

「ふーん……そう」

 

 明日奈はそう呟くと、綺麗な茶色に染まったショートカットの髪を掻き上げながら、俺の後ろに立つ火鈴達をジッと観察する。

 

「……れー兄、女性の友達居たんだ。しかもこんな美人の」

「ま、まあな」

「ふーん……」

 

 ジッと火鈴と音無を見据える明日奈。吊り目気味で、少々威圧感のあるその視線に気圧されたのか、二人は若干後退る。

 

「えっと……何かな?」

「……いえ、別に何も」

「そ、そっか。あ、私は夢原火鈴って言うの! よろしくね、明日奈ちゃん!」

「私は音無美笛。どうぞよろしくね」

「夢原さんに音無さんですね。……よろしくです」

 

 と、明日奈は適当に頭を下げる。

 

「おい明日奈。ちょっと無愛想じゃないか? 一応年上なんだからさ」

「……いいじゃん別に。うるさいなぁ……」

「あー、さては妹ちゃん、大好きお兄ちゃんにこーんな美人なお友達が増えて嫉妬してるんじゃなーい? いやー、可愛いとこあるねー!」

「は? 何言ってるんですか? ていうかあなたなんで居るんですか?」

 

 海のおちょくるような言葉に、明日奈はゴミクズを見るような眼差しを向ける。

 

「うーん、相変わらずの眼光! 衰えてないようで何より!」

「……れー兄、まだこの人と絶交してなかったんだ」

「まあ、一応幼馴染だから……その内な」

「絶交予定あんの!?」

「はぁ……なるべく早くお願いね。じゃあ、わたし宿題あるから。静かにしてよね」

 

 恐らく冗談三割、本気七割の言葉を残し、明日奈は階段を上がり二階に消えた。

 

「あれが月村君の妹さんか……なんというか、当たりキツイ感じだったね。歓迎されてない感じ?」

「わ、悪い……いわゆる反抗期ってやつなんだ。悪気は無いと思うから、許してやってくれよ」

「まあ、あのぐらいの年頃は仕方ないものだね。でも、可愛い妹さんだったね」

「うん! 流石零司君の妹さん! 早く仲良くなりたいなぁ……それでいつか、お義姉さんって呼ばれたり……えへへ……」

 

 また妄想の世界に旅立ったのか、火鈴がふにゃっとした笑みを浮かべる。

 

「ほらかりーん、ボーっとしてないで早く上がって。まだ靴も脱いでないでしょ」

「ハッ!? ご、ごめんごめん。お、お邪魔しまーす」

 

 靴を脱いで、残りの三人も家に上がる。

 

「……で、来たはいいけど、どうするんだ?」

「あっ、私、零司君のお部屋見てみたい! 駄目かな?」

「まあ……別に良いけど」

「やったぁ!」

「お、大丈夫かぁ? 変な物とかちゃんと隠したかぁ?」

「ねぇよそんなもん……じゃあ、行くぞ」

 

 三人を先導するように階段を上がり、自室を目指す。

 

「狭い場所だけど、どうぞ」

 

 階段を上がってすぐ正面の扉を開いて、三人を俺の部屋の中に招き入れる。

 

「ここが零司君のお部屋かぁ……」

 

 俺の部屋は広さも置いている物もごくごく普通で、物珍しさなど皆無なはずだが、火鈴は興味津々な目で部屋の中を見回す。

 

 部屋をジロジロ見られるのは、ちょっと落ち着かないな……海の言うような変な物は無いけど、何だかドキドキしてしまう。

 

 ひとまず、全員で円を描くように部屋の中心に腰を下ろし、一息つく。

 

「で、ここからどうするんだ? ウチ、本当に何も無いぞ?」

「火鈴、何かしたい事とか無いの? 月村君の家に行きたいって言ったの、あんたでしょ?」

「したい事、かぁ……正直、ここに来れただけで満足というか……あんまり考えて無かったよ」

 

 アハハと、頭を掻きながら笑う火鈴。

 

「ま、そんな事だろうと思ったよ。お話するだけってのも退屈だしねぇ……」

「それじゃあまあ、適当に何かで遊ぶか? 零司、なんか面白いゲームとかないの?」

 

 海の提案に、俺は部屋にあるテレビに目をやる。

 

 ゲームか……みんなで遊べて、女子が興味持つようなもの、あったかな?

 とりあえず探してみようとした、その時だった。

 

「たっだいまぁ~……」

 

 という気の抜けた大きな声が、下の階から聞こえて来た。

 

「ん? 誰か帰って来たのかな?」

「この声は……零司の姉ちゃんだな」

「え、零司君のお姉さん!? じゃあ挨拶しなくっちゃ!」

 

 思ったより早く帰って来ちゃったな……それにこの声、大分疲れた様子だ。……これは、嫌な予感がする。

 

 その俺の予感は見事に的中したようで、直後にドタバタと階段を上る音が聞こえて来る。

 間違えなくこの部屋に向かっている。そして俺の予感が正しければ、このままでは少々良からぬ状況が待っている。

 

 どうにかして未然にその事態を防ごうと腰を浮かせた、その瞬間だった。

 

 バン! と、勢いよく部屋の扉が開かれ――

 

「つーかーれーたー!」

 

 というだらしない声と共に、扉の先から現れた人影が俺に覆い被さった。

 

「えっ!?」

「おおっと……?」

 

 それを見て、火鈴が目を大きく見開き、音無が怪訝な表情を浮かべる。

 

 無理もないだろう。二人から見れば、いきなり見知らぬ女性が現れ、俺に背中から抱き付いて来たという図が突然目の前で展開されたのだから。

 

「……サク姉、離れてくれるか?」

 

 そんな二人の視線に晒されながら、俺は覆い被さる人物に声を掛ける。

 

「やぁー! 疲れたからしばらくこーさせてぇー!」

 

 が、返って来たのは駄々っ子みたいな返答に、さらに強い抱擁。それにより、柔い感触が首筋辺りに押し付けられる。

 

「ちょ!? 胸……!? 当たっ……!?」

「はい火鈴落ち着いて。……月村君、もしかしてその人が?」

「……残念ながら」

 

 そう、今現在俺の背中にしがみ付くこの女性こそ俺の姉、月村咲夜(さくや)である。

 

「……姉弟で随分と大胆なスキンシップを取るのねぇ」

「いや、これは……疲れてる時は大体こんなんで」

「そうか? 割と普段からそんなんじゃん、そのブラコン姉」

「……だな」

 

 そう、何を隠そうこの姉、海が言った通り少しブラコンっ気があるのだ。

 俺を甘やかし、逆に疲れた時はこうして甘えるような事をしてきたり……説明するのも恥ずかしいぐらいのブラコン姉なのだ。

 

「……とりあえずしばらく待っててくれ。その内落ち着くから」

 

 俺の言葉に、二人は困惑しながら頷く。

 

 それからしばらくの間、友人達に見守られながら姉の抱擁を受けるという謎の羞恥プレイに耐える事、約一分。

 

「はぁ~……元気出てきたぁ~……」

 

 風呂上がりのような腑抜けた声が耳元で流れる。どうやらエネルギー補給が終わったようだ。

 

「だったらさっさと離れてくれよ」

「えー、いいじゃんこのままでさー。元気貰ったお礼に、お姉ちゃんお返ししてあげるからさー」

「……客が居るんだよ」

「へ? ……あ、本当だ誰か居る!?」

 

 気付いてなかったのか……相当疲れてたんだな。

 

 火鈴達の存在に気付いたサク姉はようやく離れる。

 

「えっと……れーくんのお友達かな? あ、よく見たら海君も居るわねー」

「は、はい! 初めまして、お姉さん!」

「おっすお姉さん! 相変わらずセクシーっすね!」

「どうも、お邪魔してます」

 

 挨拶を交わしてから、まずは互いに自己紹介。

 

「――火鈴ちゃんに、美笛ちゃんかぁ。へぇ……れーくんにこんな可愛いお友達が居るなんて、ビックリだわー」

「こっちもビックリです! 零司君のお姉さん、とっても美人で……モデルさんみたいです!」

 

 火鈴の言う通り、サク姉は弟の俺から見てもかなりの美人の部類に入る女性だ。

 身長は170cmを超えていて、スラリとしたモデル体型。後ろで束ね、背中まで伸びた黒髪は流麗という言葉がよく似合い、完璧の一言で十分な美顔。まさに美女と呼ぶに相応しい存在だ。

 

 が、俺の知ってる彼女はだらしなく、弟の俺にデッレデレなブラコン姉。だから彼女に対しての俺の評価は残念美人という結果になっている。

 

 それでも、弟として自慢できる事はいくつかある。大学に行けるぐらい頭が良いとか、それから――

 

「おっと夢原ちゃん。モデルみたい、じゃないんだな」

「え? どういう事?」

「零司の姉ちゃん、実はマジモンのモデルなんだな、これが」

「え!? そうなんですか!?」

「一応ね。読者モデルってやつだけど」

 

 そう、サク姉は大学生でありながら、雑誌のモデルをやっている。いわゆる現役大学生モデルなのだ。

 

「あー、そう言われてみれば、ファッション誌とかで見た事あるかも」

「お姉さん、本当にモデルさんなんですね……凄いです!」

「フフッ、ありがとう。二人とも結構イイ子ねー。こんな子と仲良くなっちゃうなんて、れーくんも隅に置けないわねー」

 

 サク姉はニヤニヤと笑みを浮かべながら、肘で俺を小突く。

 

 また面倒臭そうなテンションになってるな……疲れてるなら部屋で休んでろよ。

 

「まあ、れーくんも年頃だもんねー。で、どっちを狙ってるの?」

「そんなんじゃないって……」

「そっすよ。どっちかっていうと、夢原ちゃんが狙ってる方ですから」

「えっ!? 火鈴ちゃん、れーくんの事好きなの!?」

「えへへ……まあ、はい」

 

 照れ臭そうに笑いながら、火鈴は頭を掻く。

 

「あらそうなの! お目が高いわねー、れーくんはとってもイイ子よー。なんたって私の自慢の弟だもの!」

「そんなの言われなくても分かってます! 優しくてカッコよくて、ちょっと冷たいとこがあっても、ちゃんと相手の事を考えてて!」

「そうそれ! 火鈴ちゃん分かってるわねー。他にも良いとこいっぱいあるけど、言葉にしたらキリが無いものね!」

「本当にそうです! 作文にしたら原稿百枚あってもたりないです!」

「分かる!!」

 

「……なんか褒めちぎられてるわねぇ」

「美女達に褒めちぎられるとか……羨ましい!」

「……俺としては死にたい気分だ」

 

 姉と女友達が目の前で俺について語ってるとか、どんな罰ゲームだよ……ここ俺の部屋だよね? どうしてこんなに居心地悪いの?

 

 早くこの居た堪れない空間から解放されたいと願っていた、その時だった。

 

 再びバン! と、大きな音を響かせながら部屋の扉が開かれる。その音に皆が一斉に目を向ける。

 扉の奥に立っていたのは、明日奈だった。彼女は不機嫌そうに眉間にシワを寄せながら、一言だけ、静かに吐いた。

 

「うるさい」

 

 その静かな怒号は俺の部屋に一瞬で静寂を生み出し、サク姉と火鈴は若干顔を引きつらせながら、叱られた子犬のように静まり返った。

 

 明日奈の奴、相変わらず怒ったら怖いな……しかし、こいつの部屋それなりに離れてるけど、そこまで聞こえてたのか……相当うるさかったんだな。

 

「はぁ……れー兄も、たまには強く言いなよ。そんなんだからお姉ちゃん、いつまでもこんなんなんだよ」

「そ、そうだな……検討しとく」

「ま、またまたぁ。あーちゃんは固いんだよ。たまには嵌め外して、楽しくやろうよ。ほら、一緒にれーくんギューってしたり――」

「黙ってて」

「……はい、ごめんなさい」

 

 妹の言葉に、姉は再び静まり返った。

 

「はぁ……もういいや、疲れた。……そうだ。さっきお母さんから電話あったよ」

「母さんから?」

「うん。今日ちょっと帰りが遅くなるから、先に夕飯食べててって」 

「え。母さん帰って来ないの? 疲れたから、出来たてのあったかーいご飯が食べたかったなぁ……」

「ならお姉ちゃんが作ればいいじゃん」

「疲れてるからやだー」

 

 このだらし姉は……じゃあ仕方ない、今日は出前を取るか。

 

「あ、あの!」

「ん? どうした火鈴」

「もしよかったらだけど……お夕飯、私が作ろっか……?」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「――おっっっっっいしい!! 火鈴ちゃん、スッゴイ料理上手なのね!」

 

 サク姉の大声が、リビングに響き渡る。

 その大絶賛に、褒められた火鈴は「それほどでも」と、照れ臭そうに頭を掻く。

 

 結局、あの後火鈴自身が出した提案を採用し、今夜の夕飯を彼女に作ってもらう事になった。

 そして今、彼女の作り上げた夕飯を月村家一同に加え、火鈴と音無、ついでに海を交えた六人で堪能している最中だ。

 

「火鈴の手料理食べたの久し振りだけど、やっぱり流石ねー。今度個人的にお願いしようかな」

「ホンット、ビックリするぐらいうめえな。夢原ちゃん天才だな!」

「私そんなに料理得意じゃないから憧れるわー。何かコツでもあるの?」

「コツ、ですか……」

 

 サク姉の質問に、火鈴は軽く首を傾ける。

 

「私、昔から食べる事が大好きで、それでもっと美味しい料理を食べたいなーって思って。だから自分で美味しい料理を作ろうって思い立って……」

「はー、なるほどねぇ……それでここまで上手くなるとは、やるわねぇ。同じ女子として、見習わないとね」

 

 と、サク姉は隣に座る明日奈に目配せをする。

 

「べ、別にわたしだって、やる気出せばこれぐらい出来るし……」

「またそんな強がっちゃって。でも、れーくんも幸せ者ねぇ、こんな子に好かれるなんて」

 

 口元に手を添えながら、サク姉はニヤついた笑顔をこちらに向ける。

 

「姉が弟の恋愛事情に絡んでくるなよ……大体俺は――」

「もし火鈴ちゃんが嫁いでくれたら、こんな美味しい料理を毎日食べられるのかしらねー。だとしたら大歓迎よ!」

「と、嫁ぐなんて……! も、もちろん将来的にはそのつもりですけど……」

 

 俺の話聞いてないし。

 

「いやー、なんならこれからも定期的にご飯作りに来てほしいぐらいだわー。花嫁修業的な?」

「サク姉! 勝手に話進めんな! そんなの火鈴にも迷惑だろ!」

「ううん、そんな事無いよ! 家もそんなに遠くないし、いつでも作りに来るよ!」

「か、火鈴……でもなぁ……」

「それに……私の手料理を零司君が食べてくれるの、嬉しいから」

「うっ……」

 

 淀みが一切ない純粋百パーセントな満面の笑みに、つい言葉が詰まる。

 

「ほら、火鈴ちゃんもこう言ってるんだし! お言葉に甘えましょーよ! れーくんだって、こんな美味しい料理を食べれるの嬉しいでしょ?」

「……まあ、そう思わなくはないけど……」

「本当? えへへ、嬉しいな」

「うーん、なんて純粋な笑顔! 気に入ったわ火鈴ちゃん! いや、我が義妹! あなたはもう家族同然! いつでも我が家に来なさい!」

「本当ですか!? ありがとうございますお姉さん! いや、お義姉さん!」

 

 勝手に家族増やしおったぞこの長女。俺の意思は何処。

  

「ハハハッ、夢原ちゃん完全に外堀埋めたな。よかったな零司、家族公認だぞ」

「ちっとも良くねぇよ……」

 

 サク姉、俺の事情は知ってるくせにさ……まあ、姉として弟の将来を多少は心配しての事なんだろうけど。……多分。

 

 

 意気投合して勝手に姉妹関係になったサク姉と火鈴。

 その後、二人は俺の良いところについて語る、という謎の熱弁を長い間繰り広げたのだった。ちなみに内容は……思い出しただけで恥ずかしくなるので、永遠に心の奥に封印する事にした。

 

 

 

 

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