恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~   作:藤龍

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図書室は出会いの場所

 

 

 

 

 昼休み――珍しく昼食後に空き時間が出来たので、俺は図書室に来て、適当に読書をしていた。

 読書は昔から嫌いじゃない。静かな空間で、紙に綴られた物語の世界に触れる時間はとても心地良いし、いい休息になる。

 

 ――普段ならそのはずなのだが、今日は違った。

 

「はぁ……マジでやべぇよな、この時期でこんなのって。どう思うよ零司ちゃーん」

 

 そう、一緒について来たこの(バカ)のせいで、俺のリラックスタイムは崩壊した。

 

 つーかなんでついて来たんだよ。読書なんて全くしないだろう。さっきからカウンター席に居る図書委員らしき女子の視線が怖いんだよ、さっさと帰れよ。

 

 が、そんな俺の願いなんぞお構いなしに、海はペチャクチャと話を勝手に進める。

 

「もう一週間も無いのよ? はぁ……かんっぜんにチャンス逃したわ」

「……さっきからなんの話してんだよ」

 

 このまま放置してても彼のマシンガントークが終わらないと悟った俺は、読んでいた本を閉じて彼との会話に応じた。

 

「なんのってお前、もうすぐゴールデンウィークだろ?」

「ああ……そういえば、もうそんな時期か。……で、それが何だよ」

「お前な……いいか? ゴールデンウィークだぞ? 貴重な大型連休だぞ? そんな期間にする事といったら一つだろ?」

 

 人差し指をこちらに向けてくる。どうやら続きを述べよと申すらしい。

 

「……旅行?」

「おしい! 三点!」

「何点満点だそれ」

「正解は――恋人とイチャコラするだろうが!」

「……そっ」

 

 そう返し、俺は再度本を開いて読書に戻――

 

「おぉぉい! 何華麗にスルーしてるんですか! 海君のお話はこれからだぞぉ!」

「いや、本の続きが気になるんだよ。主人公とその友人のどうして夏って暑いんだろうなって議論の結末がさ」

「果てしなくどうでもいいな! 俺の話はそれ以下ですか!」

「朝礼での校長の長話の次ぐらいに興味無いな」

 

 十中八九くだらない内容なのは分かり切ってるし、こんな話を記憶する必要性は無い。部屋の天井にあるシミの数を記憶する方が、まだ脳を有効活用出来ていると言える。

 

「……で、何が言いたいかというとだな」 

 

 だが海はどうしても続きを俺に伝えたいらしく、強引に話を続けた。

 今度から耳栓常備しとこう――そう決めながら、仕方なく俺は海の話に耳を傾けた。

 

「ゴールデンウィークは恋人とイチャコラしたいと海君は考えてた訳ですよ」

「お前恋人居ないじゃん」

「そうそれ! いやね、こんなイケメンな俺なら、恋人の一人や二人、あっちゅー間に作れると思うじゃん?」

「同意求められても」

「でも現実はこれですよ! 彼女どころか女子の知り合いも夢原ちゃん達以外増えない! お陰でゴールデンウィークは一人寂しく過ごすことが決定ですよ! それがやべぇって話ですよ!」

「……そうか」

 

 つまり……ゴールデンウィークまでに彼女出来なかった。悲しい――という愚痴をこぼしてる訳だ。

 

「……最後まで聞いた事を後悔したよ」

「お、何を言うかお主。この海様のお話を聞けるなんて、ハリウットスターとタイマンで話せるレベルに幸運よ?」

「うるせぇ万年エキストラ」

 

 こいつはどうしてこう、くだらない話を堂々と口に出せるのか……そんなんだから彼女が出来ないんだよ。

 

「つーか、そんな簡単に彼女なんて作れる訳ねーだろ。希望抱きすぎだって」

「進級早々告られた奴が何言ってんだバーカ!」

「うっ……それは、たまたまだろ」

「たまたまでも結果得てんじゃん! あーあ、俺も運命的な出会いとかしてーなー!」

 

 海は背もたれに思い切り寄り掛かり、ほぼ直角に体を後ろに反らす。

 

「……ん?」

 

 突然、海は体を起こすと座ったまま上体を約百八十度回転させ、真後ろを見据える。

 

「どうした?」

「……ラブゲットチャーンス」

「は?」

「いや何、俺にも運命の出会いをこの手に掴むチャンスが来た気がしてな」

 

 そう言うと海は後ろを向いたまま眼前に指を突き出す。

 

 その先には、こちらに背を向けた、黒髪セミロングの女生徒が一人。本棚の前に立ち、一番上の段に向かって背伸びをしながら手を伸ばしている。

 

「ちょっと小柄なあの子、恐らく一番上の本が取れずにいる様子。さて問題! ここでこのスーパーナイスガイな海君が彼女の目当ての本を取ってあげたら、どうなる!? シンキングタイムスタート!!」

「パス」

「残念ボッシュート! 正解はこう! 『この人、私の為に本を取ってくれるなんて……好き』――と女子ぃが恋に落ちるでした!」

「……正解間違ってるだろその問題」

 

 恋に落ちるとか……流石に都合が良すぎるだろう。

 と、口に出し掛けたが、絶対「都合良く女子に惚れられた野郎が言うんじゃねぇ!」的な事を返されると判断して、そっと飲み込む。

 

「フッ、この海様の考えに誤りは無し! 必ず計画通りに行くさ」

「計画失敗して未だ独り身の奴が何を言う」

「それはそれ! これはこれ! んじゃ、俺は行ってくるとするぜ。すぐ目の前に存在する、確かな希望を掴み取る為に!」

 

 そうして海は、遥か天空の彼方にある雲を掴みに、椅子という大地を離れた。

 

 が、その直後に彼の翼――もとい腕は何かに掴まれ、海は動きを止める。

 

「あれ?」

 

 彼の腕を掴んだのは、さっきまでカウンター席に座っていた黒髪、おさげ、メガネと見事に図書室とベストマッチした風貌の女子だった。

 

「な、何か御用ですか……? あ、もしかして俺を逆ナ――」

「図書室ではお静かに」

 

 彼のひと際明るく軽い言葉に対して彼女が返したのは、恐ろしく静かで重みのある言葉だった。その顔には、目立たないが確かに怒りの色が浮かんでいた。しかも、かなりの度合いの。

 

 流石の海も彼女の醸し出すマジな憤怒を感じ取ったのか、額に汗を浮かべる。

 

「あー……いやね、この部屋ちょっとシーンとしてるから、俺が明るさをお届けしようと……」

「それが図書室のあるべき姿です」

「ですよねー……」

「丁度読んでた本も区切りがつきましたので、少しお話しましょうか」

 

 おさげ女子は海の腕を引っ張りながら、図書室の外に向かう。

 

「え? お話? あ、あれ? 男と女の、ラブ的なお話ですかな? 告白タイム的な? もちろん俺の返答はオッケーですよ!」

「私は図書委員の仕事を果たすだけです。あと私彼氏居るので」

「えっ、うそぉん!?」

 

 今日一番の絶叫を迸らせてから、海は図書委員と共に図書室の外に姿を消した。

 

 嵐が消え去った図書室は少しばかりの困惑を残しつつ、再び静寂へと戻る。

 

 やっとゆっくり出来そうだ……さて、続きを読むか。

 連れ去られた友人の事をさっさと頭の片隅に追いやり、俺は改めて手元の本に目を向けた。

 

 が、ふと視線が外れ、先刻海がアタックを仕掛けようとしていた女子に向けられる。

 先ほどの騒ぎを気にしていたかは分からないが、彼女は未だに本を取ろうと背伸びをしていた。

 

 海のせいで気になったじゃねぇか……踏み台は他の生徒が使ってるみたいだし、しばらくあのままだな。

 

 このまま見て見ぬふりして放っておくってのも、なんだかあれだしな……手を貸してやるぐらいはしてやるか。

 

 本を閉じて席を立つ。と同時に、さっきあの馬鹿が言っていた事を思い出す。

 

 いやいや、別に俺はやましい理由があって行動してる訳じゃないし……ただ人として、困ってる人を助けようとしてるだけだから。大体、あいつが言ってたような都合の良い事は起きないって。うん、大丈夫。

 言い聞かせるように心の中で言いながら、俺は彼女の下に歩み寄った。

 

「……えっと、手を貸そうか?」

 

 そして後ろから声を掛けた、その瞬間。

 

「ひえぇ!?」

 

 彼女はまるで急に水を掛けられた猫のように体をビクッ! と弾ませて、転びそうな危なっかしい動きで振り返った。

 

「なななななっ……!」

 

 長めの前髪から見え隠れする黒目はとても怯えていて、体は小刻みに震え、口からは「あっ……」とか、「そ……」とか、空気漏れみたいにこぼれ出ている。

 

 俺は幽霊とかそういう類の存在だっただろうか。そう一瞬不安になってしまうぐらいの彼女の怯えように、つい後退る。

 

 いきなり後ろから声を掛けたのは流石にマズかったか……とりあえず、誤解を解こう。

 

「あの、俺は怪しい者じゃなくて、困ってたようだから手を貸そうと――」

「ひぃっ……!」

 

 彼女は頭を隠すように縮こまる。そのまま転ぶように本棚に背中を預け、地べたにぺたんとお尻をつく。

 

「だ、大丈夫か?」

「ご、ごめん、な、さ……」

「ごめんって……なんで謝るのさ」

 

 問うが、彼女は頭を抱えたまま震え、また小さな悲鳴をこぼすのみ。

 

 参ったなこれ……ていうか、これじゃあまるで俺が不審者じゃないか……周りの目もあるし、早々にどうにかしなければ――

 

「ごぉーーーーーーらぁーーーーーー!!」

 

 その時だった。突然図書室の入口から獣の唸り声のような怒号が飛んで来る。

 何事だと慌てて首を回すと、一人の女子がこちらに走って向かって来る姿が見えた。

 

「あーかーりーにー、何しとんじゃボケェーーーーーー!!」

 

 直後だった。その女子は勢い良く飛び上がり――俺に向かってドロップキックをお見舞いした。

 

「でぇぇぇぇ!?」

 

 訳も分からず、見知らぬ女子の助走たっぷり渾身のドロップキックを食らった俺は、気持ちの良いぐらい吹き飛ばされ、床に転倒。

 

「イテテ……な、何だいきなりぃ!?」

 

 全身に襲い掛かる鈍痛に耐えながら、体を起こす。

 するとドロップキック女子は、さっきまで俺が話し掛けていた子を守るように立ち、威嚇するようにこちらを睨み付けていた。

 

(あかり)、大丈夫? なんもされてない? 待っててね、今すぐこの変態クソ男を成敗してやるから!」

「変態クソ男……って、俺か!?」

「そうよ! 灯が可愛いからって手を出そうとする不届き者が……アタシが天誅を下してあげるから覚悟しな!」

「ちょ、ちょっと待てって! 誤解だって!」

「問答無用! 今度は師匠直伝の正拳突きを食らわしてやる!」

 

 俺の話には耳を向ける気が無いようで、女性は緑がかったショートカットを掻き上げ、それっぽい構えを取る。

 

「だから待てって! 本当に違うから!」

「あ、あのっ……ひ、(ひかり)ちゃん……! そ、その人は……」

「だいじょーぶ! 安心して灯! 師匠に鍛えられた技で、あの男を一撃粉砕してやるからね!」

「だ、だからっ……! ち、ちが……」

 

 彼女の小声の弁護は届かず、ドロップキック女は拳に力を込める。

 

「覚悟ー! 変態クソおと――」

 

 俺に付けられた不名誉な名が発せられる寸前――図書室に、床を踏み鳴らす大きな音が響き渡る。

 その音と振動に、ドロップキック女は動きを止め、音の発生源へ目を向ける。

 

 その先に居たのは――例の図書委員だった。

 

「……図書室では、お静かに」

「…………す、すみませんでしたぁ……」

 

 彼女の発した言葉は魔王の一言のように重く、誰も反する事が出来なかった。

 

 結局その後、俺と他二名があの(バカ)と同じ場所へ連行され、一緒に図書室の主からの説教を受ける事になったのだった。

 

 

 

 




 新展開突入&新ヒロイン登場です。楽しんで頂けたら幸いです。


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