恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~   作:藤龍

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人見知り少女とフラグ発生……?

 

 

 

 

 

 

「ホンッッッッッッットーに申し訳ない!!」

 

 先刻、図書室で俺に見事なドロップキックをかましてくれた女生徒が、大声で謝罪の言葉を叫びをながら頭を下げる。

 

 図書委員の説教から解放された後、俺は改めて彼女に先ほどの事の弁明をした。

 結果、彼女は自分の勘違いに気が付き、こうして俺の目の前で綺麗な直角を作り上げる事になった。

 

「い、いいって、納得してくれたなら。俺も、いきなり彼女に話し掛けたのが悪いんだし」

 

 全力の謝罪をぶつけてくる彼女から、もう一人の本を取ろうとしていた小柄な女生徒に視線を移す。

 

 するとその女生徒は「ひっ……」と、とても小さな悲鳴をこぼしながら後退る。

 

 なんかめっちゃ怖がられてる……さっきの、そんなに怖かったのか? 流石にちょっと傷付く。

 

「ああ、気にしないでいいよ。この子、重度の人見知りってだけだから」

 

 ちょっとした傷心タイムに入っていると、もう一人の方が体を起こして説明する。

 

「アタシ以外の人とはまともに話せないし、見知らぬ男なんてもう未知の存在同然だから。こーなっちゃう訳」

「そ、そうなのか……」

 

 再度、視線を例の人見知り少女に向ける。

 直後、彼女はもう一人の背中にピッタリとくっつき、隠れてしまう。

 

 確かにそのようだな……母親の知り合いに会った幼子みたいだな。

 

「アタシこの子の幼馴染なんだけどさ、こんなんだからちょっと過保護気味になる事あってね」

「ああ、そういう事だったのか。だからさっきも」

「うん。この子守んなきゃーって、ついね。いや本当にごめんね! えっと……そういえば、名前聞いてなかったね」

「あ、俺は月村零司。二年だ」

「アタシは小林(こばやし)(ひかり)。で、後ろのこの子が木野(きの)(あかり)。同じく二年ね」

 

 よろしく、と付け加えて小林は右手を出してくる。それに俺も右手を出し、握手を交わす。

 随分と気さくに奴だな……正反対な二人だ。

 

「改めて、本当にごめん! お詫びはちゃんとするからさ!」

「いいよお詫びなんて。彼女の事情も知らずに、不用意に話し掛けちゃったこっちにも非があるしさ。えっと……木野だっけ? 悪かったな」

 

 俺が声を掛けると、小林の陰からチラリと見える彼女の肩がビクリと震える。

 数秒後、木野は覗き込むように少しだけ小林の後ろから姿を見せ、ゆっくりと口を開く。

 

「あっ……こっち、も……あん……がっ……さい……」

 

 が、彼女の発した言葉は、アリクイ文字のようにところどころ耳に届かず空気に溶け込むように消えてしまう。

 

 声も視線も凄い揺れてる……本当に重度の人見知りなんだな。

 

「こっちもあんなに怖がっちゃってごめんなさい、だってさ」

 

 正直理解出来ず、頭にクエスチョンマークを浮かべていると、小林が木野の言葉を通訳してくれる。

 

「よく分かったな……」

「アハハ、昔からの付き合いだからね。もう慣れっこだよ」

「そっか……ともかく、本当に気にしなくていいからさ。お互い悪かったって事で、終わりにしとこうぜ?」

「うーん……そっちが言うなら、まあそれでもいいか。うん、そうさせてもらう。あんがとね。月村だっけ? あんた良い奴じゃん」

 

 と、小林は肘で脇腹辺りを突いてくる。

 

「ちょ、ちょっと強いんだけど……」

「あ、ごめんごめん。ま、ともかくこの話はここで終わりって事にしとこうか! じゃ、アタシ達はそろそろ行くよ。また何か機会があったら、よろしくねー」

「お、おう。じゃあな」

 

 手を振りながら去る小林と、その後を子犬のようにパタパタとついて行く木野。

 その二人の姿が見えなくなった、その時。

 

「――まーたフラグを立てやがったなこのジゴロの具現化野郎が」

「うおっ!?」

 

 突然背後から届いた声に、慌てて振り返る。

 

「か、海……お前居たのかよ……」

「陰から見守ってました。それよりテメェ……性懲(しょうこ)りも無く、まーた女子ぃとの接点を作りやがってこの野郎……あれか? 新ルート開拓ですか? ハーレムエンド目指しますか? スチル回収狙ってんですかコノヤロー!」

「何を訳分かんない事を……そんなんじゃねぇから」

「お前にそんな気が無くても、ラブの旋風は巻き起こっちゃうものなんですよバカヤロー。もう逃げらんねぇからな? 地獄に落ちるわよ! むしろ地獄に落とす! 踏んづけてやるんだから!」

「なんでオネエ口調……」

 

 また海の面倒臭いスイッチが入ったな……ラブの旋風だとかアホらしい。

 

 接点が出来たぐらいで色恋沙汰に発展するものか。これ以上何も無いはずだ――そう願いながら、俺達も教室に戻った。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 翌日。また昼休みに空き時間が出来たので、昨日の本の続きでも読もうと、今度は俺一人で図書室にやって来た。

 

 そこで、俺はまた出会ってしまった。一番上の本を取ろうと精一杯背伸びをする、小柄な少女――木野灯に。

 

 マジかよ……まさか二日連続で出会ってしまうとは……しかもまた本取るのに悪戦苦闘してるし。

 

 彼女はまだこちらには気が付いていない様子。恐らくここで話し掛けたら、昨日の再放送がお届けされるだろう。

 さてどうしたものかと、少し離れた場所からピョンピョンと可愛らしく跳ね、プルプルと震えた右手を必死に伸ばす木野を見守る事、数秒。

 

 ふと、木野の目がこちらを向く。

 瞬間、木野は大きな虫でも見掛けたようにビクッと肩を弾ませる。みるみると顔を赤くして、ぎこちない動きで後退る。

 

 まあ……昨日に比べればマシか。流石に今なら声掛けても……大丈夫だよな?

 

「えっと……取ろうか?」

 

 彼女の動揺を抑える為、出来る限り簡略に伝える。

 

「え、えっと……その、あの……」

 

 歯切れ悪い言葉が、木野の口から漏れ出る。

 両の指を忙しなく絡め、視線は荒波に揉まれてるように泳いでいる。

 

 これは……想像してた以上に人と話すのが苦手らしいな。

 こういう場合は急かさず、攻めない。相手のペースに合わせて、焦らさない方が良いよな。

 

「大丈夫、ゆっくりでいいから。落ち着いて」

 

 可能な限り優しくて柔らかい声色を意識しながら声を掛けると、木野は一瞬ビックリした反応を見せながらも、頷いて深呼吸を繰り返す。

 

「……あの、ごめん、なさい」

 

 数秒待つと、木野は相変わらずか細いが、それでも耳に届く声で話し出す。

 

「別にいいよ。それで、どの本が取りたいんだ」

「えっと……それ、です……」

「分かった」

 

 木野が指差した本に手を伸ばし、本棚から抜き取る。

 

「はい、これでいいか?」

「あ、ありが、とう……」

「どういたしまして。…………」

「…………」

 

 無言。互いに何も口にせず、視線を逸らす、気まずい空気が流れる。

 

 特に話す事も無いしな……こうなるよな、うん。

 

「じゃ、じゃあ、俺はこれで」

 

 木野の為にも、これ以上は関わらない方がいいと判断した俺は、隣の本棚に移動。目当ての本を取ってそのままその場を離れようとした――

 

「あっ……!」

 

 寸前。さっきまでとは打って変わって、声量がハッキリした木野の声が隣から飛んで来て、つい立ち止まってしまう。

 

「な、何か……?」

「そ、その、本……『放課後推理倶楽部』……?」

「え?」

 

 手に取った本の表紙を確認すると、確かに彼女の口にしたタイトルが書かれていた。

 

「た、確かにそうだけど……」

「えっと……つ、月村、君は……その本、好き……なの?」

「へ? あ、いや……好きっていうか……昨日偶然手に取って読んでみただけなんだけど……」

「あ……そ、そっか……」

 

 と、木野は露骨にシュンとした反応を見せる。

 

「……き、木野はこの本……好きなのか?」

 

 彼女の食いつきになんとなく気になり、問い掛けてみる。

 

 すると、木野は突然顔を上げ、目の色を変える。

 

「う、うん! その『放課後推理倶楽部』……というより、その作者さんのシリーズは全部好きなの……! 何気ない日常会話のシーンにも伏線とかが色々仕組まれていて、一文字も読み逃せない凄い作品なの……! 私、特にその一作目が凄い好きで――」

 

 そこで、木野がハッと言葉を切らす。

 俯き、体を縮こまらせて後ろに下がる。よく見ると耳まで茹で上がったように真っ赤だ。

 

「ご、ごめ、ん……急に、ペチャクチャ、話しちゃって……」

「……え? あ、ああ。いいよ別に。いきなり饒舌になって、ビックリしたけどさ。本、好きなんだな」

「あ、えっと……」

 

 コクリと、木野は恥ずかしそうに頷く。

 

「その本、すっごく面白いから……だから、その……えっと……良さ、知ってもらいたくて……」

「へぇ、そんなに面白いのか。じゃあ、借りて家でゆっくり読もうかな。ありがとうな、木野」

「あ、その……あの……ど、どう致しまして!!」

 

 凄い勢いで頭を下げると、木野は脱兎の如くその場から立ち去ってしまった。

 

 流石に対人の限界が来たのかな……でも、昨日とはちょっと印象変わったかな。

 極度の人見知りである事は間違いないけど、好きな物にはそれを押し退けてしまうほど真剣になる。そんな子なんだな、木野は。

 

「――ほーら、見た事か」

「うおぉ!?」

 

 不意に、背後から流れ込んできた声に、バッと後ろを向く。

 

「か、海……!? お前なんでここに居るんだよ……!」

「ラブコメの波動を感知したので来た。それより零司君よぉ? 昨日あんな事言っときながら、早速フラグ立ててきましたねコンニャロー」

「はぁ? フラグって……昨日も言ったけど、そんなんじゃねぇって」

「いーや、この恋愛マスター海様には分かる。確かに今は何にも無いかもしれない。好感度ゲージもゼロに等しいだろう。だが! こっから絶対なんかあるね! 肝に銘じておけ! 海様の予言は朝の天気予報ばりに当たる!!」

「なんだその微妙な確率……割かし外れそうじゃん」

 

 本当に、こいつは適当な事を……ちょっと女子と話した程度で恋愛事が展開したら、世の中大変な事になってるぞ。

 

「大体お前、恋愛はこりごりなんだろ? 何積極的に女子に関わって口説いてんの? 馬鹿なの?」

「口説いてって……だからそんなつもりないって。今回も偶然困ってるとこに居合わせて、そんで手を貸しただけだって。無視するのは、なんかモヤッとするし」

「かぁー、そうですか! 女子の困ってるとこに出くわすなんて羨ましいスキルですね! どうやったら手に入れられるんだよそのスキル! あれか? 異世界転生か? 女神様からチート貰ってキャッキャウフフですか? 人生イージーモードで羨ましいですこと!」

「めちゃくちゃ言ってるぞお前。……というか、お前そんなに騒いで平気か? ……フラグ、立つぞ」

「何が!?」

 

 直後。海の肩を誰かが掴む。

 

「へ?」

 

 その手の正体は――またまた昨日振りの再会、例の図書委員だった。

 

「図書室では、お静かに」

「……もうスチル回収したんで、結構です」

「……ご愁傷様」

 

 その後、海は図書委員からの説教という、昨日と同じイベントを味わったのだった。

 

 

 

 

 

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