恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~ 作:藤龍
「ねぇ零司君、ゴールデンウィークって何か予定とかある?」
放課後。偶然同じタイミングで授業が終わった事もあり、火鈴、音無、そして海の三人と一緒に下校していた途中、火鈴がそんな事を問い掛けてきた。
「ゴールデンウィーク? いや、別に予定は無いけど」
「だったら! ゴールデンウィーク、一緒にどこか遊びに行かない?」
「お、いいじゃんそれ! やっぱゴールデンウィークは遊びに行かないとな!」
と、何故か俺に代わって海が返事をする。
「お前、ゴールデンウィークは彼女見つけてイチャコラすんじゃなかったのか?」
「その計画は夏休みに先送りになった! お楽しみは取っておかないとな!」
「そうか。来世までには成就する事を祈る」
「おう! 応援ありがとぅ!」
と、海はこちらを人差し指と中指で指しながら、ウインクを送るという実にムカつく行為を行う。
皮肉が通じない奴だな。そのポジティブさはある意味羨ましい。見習いたいとは思わないけど。
「というより、サラッと二人のデートに割り込んでくんだね明坂君。その強引さというか、空気の読まなさは逆に尊敬するよ」
「お褒めの言葉ありがとぅ! 惚れてもいいぜ!」
「アッハッハ」
と、笑い声だけを返す音無。相変わらずのスルースキルだ。とても見習いたい。
「あ、よかったら美笛と明坂君も一緒にどう? ゴールデンウィーク」
「あれ? いいの?」
「うん。デートもいいけど、みんなで楽しむのもいいかなって。それに……」
「それに?」
「みんなでお出かけする中で、ちょっとの間二人の時間が出来て……ていうのもいいかなぁって……」
火鈴は悦楽に満ちた笑みを浮かべながら、両手を合わせて天を仰ぎ見る。
きっと彼女の脳内では今まさに、彼女作のラブストーリーが展開されているのだろう。
「あー、そういう魂胆。なんかの漫画にでも影響された?」
「えへへ……そんなところ。だから! 実現したいと思って!」
積極的に行動するのは良い事だと思うが、その計画を聞いてしまった俺はどうしろというんだか。
「だから二人も一緒にゴールデンウィーク楽しもうよ!」
「うーん……ま、そういう事なら付き合いますか。暇だし」
「俺もオッケー! その計画に便乗して、俺も音無ちゃんのハートをゲットだぜ!」
「…………」
海の発言に対して、音無は無言の生暖かい微笑みを返す。
「うーん、せめて音声が欲しいな音無ちゃん! 海くん泣いちゃうよ!」
「……さて、おふざけタイムはここまでとして。どこ行きたいとか、考えてるの?」
「あ、実はまだ考えてないんだ……どうしよっか?」
「だと思った。本当、思い立ったら即行動だね」
音無は呆れたように肩を竦める。
「ならさ、これからみんなで行き先決めるのはどうよ? 近くのファストフード店にでも寄ってさ」
「あ、それいいかも! 早速行こうよ! 美笛と零司君もいいかな?」
「私は別にいいよ」
「俺も構わないけど」
「なら決まりだな! そんじゃあゴールデンウィーク計画を練りますか! あ、ついでに空翔達も呼ぶか」
海はスマホを取り出し、早速ここに居ないいつもの面子に連絡を取る。
こうしてゴールデンウィークの予定を決めるべく、俺達は帰路から外れて、近くのファストフード店に向かって歩を進めた。
◆◆◆
「はぁぁぁぁぁ……マジかあいつら……信じらんねぇ」
ファストフード店に到着し、適当に飲み物やポテトなどを購入して席に着いた直後の事だった。海が突然テーブルに突っ伏しながら、愚痴めいた言葉を吐いた。
「どしたの明坂君」
「いやね、さっき空翔達に連絡した訳ですよ。そしたらあいつらなんて言ったと思うよ?」
「さあ? なんて言ったの?」
「空翔の野郎は、ゴールデンウィークはソシャゲのランキングイベントが重なってるからパス――だそうで」
「あー、如何にも二階堂君っぽい理由だね」
「まあ、それはいいのですよ。問題は陸也の方ですよ! 俺はこれほど他人を恨めしいと思った事は無いね!」
海の怒りのボルテージの上がり様に、なんとなく察しが付く。
そして彼は案の定の答えを、陸也の真似をしながら口にした。
「いやぁ、悪いな。ゴールデンウィークはメグちゃんとデートなんだわ――だとさ! 酷くない!? 友との語らいの時間より彼女との時間優先するとか! そんな薄情な奴だとは思わなかったね!」
「普通はそうなんじゃない? ていうか明坂君もそうするでしょう」
「彼女が居たらね! チクショー! 彼女が居るからって調子に乗りやがってあのヤンキーもどき! ゴールデンウィークでなんかミスって破局してしまえ!」
「物騒な事言うなよ。ほら、いいからこっちはこっちでゴールデンウィークの予定決めようぜ」
これ以上海の怒りが盛り上がらないよう、さっさと当初の目的へと移るよう促す。
「で、どうする?」
「うーん……やっぱり折角なんだから、普段は行かないような場所がいいよね。パーッと、みんなで遊べる場所とか」
「普段行かないような場所かぁ……遊園地とか、そういうとこ?」
「あ、遊園地いいかも!」
「遊園地かぁ……そういやこの街にもあったな、遊園地」
「ああ、スクランブルパーク……だっけ? 子供の頃はよく遊びに行ったっけ」
でも、中学に上がってからは全く無縁だったな。割かし大きな場所だし、パーッと遊ぶには適した場所かもしれない。
「でもさ、折角ならもうちょい冒険したくない? ゴールデンウィークよ? 街を飛び出してみたくない?」
「それも一理あるけど……高校生の身で行ける場所なんて限られてるしね。お金の問題とか」
「あー、それもそうか……どうしても現実的な問題は付きまとうもんだねぇ」
海は頬杖をつき、店で買ったコーラをストローで吸い込む。
「ま、そればっかりは仕方ない。で、どうする? 他に行きたい場所とかある?」
「そうだなぁ……あんまり思い付かないかなぁ。もう頭の中、遊園地のイメージでいっぱいだよ」
「じゃあ、ゴールデンウィークは遊園地に決定って事で良い感じ? ちょっと無難じゃね?」
「無難が一番でしょ。冒険して、結局そんなでもなかったってなったら嫌だしね」
音無の言葉に「それもそーね」と返しながら、海はポテトを摘まむ。
「んじゃ、ゴールデンウィークは遊園地で決まりだな! なーんかあっさり決まったな」
「まあ、なかなか決まらないよりはいいでしょ。それじゃあ今度は細かいとこ決めてく? 日時とか、待ち合わせとか」
「うん、そうだね。じゃあまず――」
「あれ? 美笛じゃん。こんなとこで何してんの?」
火鈴が議題を進めようとした、その時だった。不意に誰かの声が背後から飛んで来る。
全員揃って声の方に視線を向ける。するとそこには、店のトレーを持った小林光の姿があった。
「光? 学校の外で会うなんて、珍しいわね」
「だねー。しかし珍しいねー、あんたがこんなとこに居るなんて。って、よく見たら月村と……なんか見覚えのあるチャラ男も居るじゃん。あんたら美笛の友達だったんだ」
「そう、だけど……音無、小林と知り合いなのか?」
視線を移しながら問うと、音無はポテトの油が付いた指を舐めながら頷く。
「去年のクラスメイト。というか月村君、光といつ知り合ったの?」
「まあ、こないだ色々あってさ……」
しかし、音無の交友関係は相変わらず広いな……なんか大体知り合いな気がする。
「……ところで、後ろのそれ何?」
と、音無が小林の後ろを指差す。
よく見ると、彼女の背後に誰か隠れている。
あれは……間違えない、木野だ。彼女も一緒だったのか。
「ああ、この子アタシの幼馴染。ごめんね灯、知った顔が居たからつい声掛けちゃったよ」
「う、ううん……気にしないで、いいから……」
木野はこっそりとこちらを覗き込むように、小林の背後から顔を出す。が、俺達と目が合うとすぐさま顔を引っ込める。
「あら、なんか怖がられてる?」
「気にしないで気にしないで。この子、ちょっと人見知りが激しいだけだから。多分私がいきなり誰かと話し始めたから、ビックリしただけだよ。大丈夫、美笛は良い奴だから」
「う、うん……」
「ところで、美笛達は何してんの? あ、隣いい?」
音無が頷くと、小林と木野は俺達の隣の席に腰を下ろす。木野はまだ俺達に対する恐怖心が残ってるのか、端の方に詰めて身を縮める。
初めての家に来た猫みたいだな……まあ、そっとしといてあげよう。
それから俺達は改めて互いに自己紹介。そしてゴールデンウィークの予定を決めている事を、彼女達に教えた。
「ゴールデンウィークねぇ……そういえば、もうそんな時期だったっけ。遊園地かぁ……そういえばアタシも最近は行ってないなぁ。昔は家族ぐるみで行ったりしたよね」
「え!? そ、そう、だね……」
小林の急な振りに木野は慌てた様子で返事をして、動揺を誤魔化すように飲み物を飲む。
「あー、なんかだんだんあの時の事思い出してきたわぁ……ジェットコースターとか好きだったなぁ……なんか無性に乗りたくなってきた!」
「……もしあれだったら、光も一緒に来る?」
「え、いいの!?」
「みんなで楽しくって話だったしね。どう?」
と、音無は隣の火鈴に目配せを送る。
「うん、私は全然構わないよ! 零司君達はどうかな?」
「俺は別にいいけど」
「もちろんウェルカム! 可愛い女子が増えるなら大歓迎!」
「と、いう事だから、どう?」
「行く行く! どうせゴールデンウィーク暇だったしさー! うっはー、テンション上がってきたー!」
「なら、決定ね。……木野さんもどう?」
ビクッと、木野は肩を弾ませる。
「わ、私、です、か……?」
「折角だからどうかなって。一人だけ仲間外れっていうのもあれだし」
「わ、わた、しは、その……あの……」
「あ、別に無理だったら断ってくれていいから。その気があればってだけだからさ」
「えっ、と……」
俯き、木野は黙り込んでしまう。やっぱり、他人とのコミュニケーションは苦手のようだ。
皆もそれを分かってくれているのか、急かそうとはせず彼女の答えを待つ。
木野は何度か口を開き、声を出し掛けたところで閉じるといった行動を数回繰り返しながら、何かを思案するように眉間にシワを寄せ、口元を歪める。
そしてやがて、彼女はゆっくりと答えを口に出した。
「い、行き……ます。私、も」
「灯、いいの?」
「う、うん……大、丈夫」
「……そっか。じゃあ美笛、二名追加、よろしくね!」
了解、と音無は微笑みながら頷く。
「イエス! 女子が二人増えた! 楽しいゴールデンウィークになりそうだぜぇ!」
「はい明坂君テンション下げようか。じゃあ、改めて細かい予定を決めましょうか」
「うん。えっと……小林さんと木野さんは、都合のいい日はいつかな?」
「アタシはいつでも! 灯は?」
「わ、わた、しは……」
それから小林と木野を加えた六人で、俺達は改めてゴールデンウィークの計画について話し合いを開始したのだった。