恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~ 作:藤龍
ゴールデンウィークも終盤に差し掛かったとある日。今日は前々から予定していた、遊園地に遊びに行く日。
俺、そして海は待ち合わせ場所である青晴駅前に早めに赴き、残りのメンバーを待っていた。
「……なあ、零司君よぉ」
多くの人が行き交う中で彼女達を待つ間、不意に海が話し掛けてきた。
が、俺は返事をしない。どうせろくな話じゃないし、付き合うだけ損だと判断したからだ。
「なんかさ、こういうのって良いよな」
しかし、海は案の定勝手に話を進める。
こっちは会話のキャッチボールをする気が無いのに、構わずボールを放り投げる。それが明坂海という迷惑な存在だ。
彼のこういったところは永遠に改善しないのだろうなと、思い切りため息をつきながら、仕方なく俺は彼からのボールを受け止め、投げ返した。
「何がだよ」
「決まってんだろ。こうやって休日に女子が来るのを待つって……リア充って感じしない?」
「……そうだな」
数秒ほど返答を考えた後、結局どんな返答にも使える万能な相づち言葉を海に送る。
やっぱり付き合うんじゃなかった。犬と話し合う方がまだ有意義な気がする。
海も言いたい事が言えて満足そうだったので、これ以上余計な事を言わない為に口にチャックをして、彼女達をジッと待った。
「――あ、零司くーん!」
そして待つ事数十分。お馴染みになりつつある、俺を呼ぶ大声が聞こえてくる。
顔を上げると、大きく手を振る火鈴と、音無の姿が視界に映る。
「お、来た来た! いやー、美女二人の私服姿! 眼福の極みだなコレ!」
海は百パーセントのテンションを二割ほど上げながら、二人の姿を人差し指と親指で作った画角で囲む。
「夢原ちゃんの方は赤を基調とした活発そうなワンピース! そして音無ちゃんは白のブラウスに黒いフレアスカートを合わせた大人っぽい組み合わせ! どっちも違った魅力があって実に素晴らしい! 零司、お前はどっちが好みよ」
「そうだな」
「お前それでなんでもかんでも乗り切れる訳じゃねぇぞ?」
海のファッションチェックが終わったタイミングで、二人が俺らの目の前に到着する。
「ごめんね待たせちゃって! 思ってたより準備に時間掛かっちゃって」
「ノー問題! その準備の
「明坂君は休みでも相変わらずみたいだね。さて……残りは光と、木野さんだけ?」
「ああ」
頷きながら、腕時計に視線を落とす。
待ち合わせ時間ピッタリまでは、まだ五分ほどある。
ガサツそうな小林はともかく、木野は待ち合わせ時間を破るような事はしなそうだし、時間前には来そうだから、きっとそろそろ来るはずだ。
「ん? あれってそうじゃね?」
海の一言に、全員視線を彼と同じ方向に向ける。
そこには小林、そして恐らく木野と思われる二人組の姿があった。
「あー、確かにそうだね。光だ。後ろに居るのは……うん、木野さんだね」
「やっぱそうだよな。こっちに気付いてないみたいだな」
「だね。呼び掛けてあげないと」
「おっと待った夢原ちゃん! その前に……さあ皆さんお待ちかね、海くんのファッションチェックのコーナーですよ!」
再び指で画角を作り、二人にそれを合わせる。
「フムフム……小林ちゃんは黄色いパーカーにジーパン、黒いキャップ……ボーイッシュな感じで大変よろしいですな。で、木野ちゃんの方は緑っぽいチュニックと、大人しめなコーディネート……これも素晴らしきものですな。そうは思わないかね零司君よ」
「…………おーい、こっちだこっち」
「おっと、とうとう会話を完全放棄したねチミィ!」
こちらの呼び掛けに気が付いたのか、二人がこちらに向かって来る。
「いやー、ごめんごめん! アタシが寝坊しちゃったせいで遅れたわ」
来るや否や、小林はアッハッハと呑気な笑い声を出しながらノリの軽い謝罪をする。
「別に時間には遅れてないからいいけど……謝るんならそれらしい態度でいなさいよ」
「ああ、ごめんごめん。まあ細かい事はいいじゃん! これから楽しい遊園地なんだからさ!」
「そうそう、小林ちゃんの言う通り! パーッと行こうじゃないの!」
「……まあ、それもそうね。じゃあ行く?」
と、音無は俺に視線を送る。どうやら進行役を任されたようだ。
「ああ。早いとこ行こう。この時期は入場するだけで結構かかるらしいからな」
「みたいだね。確かゴールデンウィークに、イベントをやってるらしいよ」
「へぇ、何それ! どんなイベント?」
火鈴の出した情報に、小林が興味を持ったのか食い付く。
「えっと……確かアトラクションを回ってスタンプを集めよう……みたいなのだったかな? スタンプの数によって、貰える景品が変わるとか」
「ほー、面白そうじゃーん! それなら出来る限りいっぱい回らないとだ! ね、灯!」
「えっ!? あ、うん、そう、だね……」
突然の振りにビックリしながら、木野は慌てて首を縦に振る。
彼女は相変わらず俺らに対しての恐怖心を拭え切れていないのか、小林の後ろに隠れるような位置に立って、俺達と距離を取っている。
頑張ると本人は言っていたが、最初からこの様子では先が思いやられるというか……まあみんなも彼女の態度は許容しているみたいだし、トラブルの心配は無さそうだが。
って、なんで俺がこんな心配してるんだか……別に保護者じゃないんだから。
――よかったら、あの子の力になってやってよ。
まあ、小林にああ言われた事もあるし、それになんというか……見てて心配になるというか、放っておけないんだよな何故か。
「零司君どうかした? なんだかボーっとしてたけど」
そんな事を考えていると、火鈴が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ん? ああ、何でもない。ちょっと考え事」
「おいおい零司さんよぉ。これから楽しい楽しい遊園地タイムなのに、難しい顔してんじゃねぇよ。お楽しみはこれからだぞ!」
「はいはい……悪いな、空気悪くして」
そうだ。今日はあくまで、みんなで遊園地を楽しむ日なんだ。あまり深く考え過ぎないようにしよう。彼女が困っていそうな時に、手を差し伸べてやればいい。
「じゃあ、気を取り直して行きましょうか。例の遊園地、大分アトラクションの種類が多くて、一日じゃ回り切れないレベルらしいし」
「そりゃいいね! 全部制覇してやろうじゃん! うおー、燃えてきたね!」
「そういえばお化け屋敷とかあるんだっけか。……女子に『キャアこわーい!』って抱き付かれるのって、男子の夢だよな」
「何故それを今言ったのかな?」
「あ、それ良いかも……零司君に抱き付いて……えへへ……」
「はいそこ変な事企てない」
早くも騒々しいな……人数も多いし、今日は疲れそうだな。
そんな心配を覚えながら、俺達は早速目的地を目指して移動を開始した。
「あー、今から楽しみだなー! みんなは何乗りたい? アタシは絶叫系は外せないね!」
「私は観覧車とか、ロマンチックなものがいいなぁ……零司君と二人っきりで……はぁ、素敵……」
「俺は女子ぃとスキンシップの取れるもの一択だね! という訳で音無ちゃん、一つどうかな?」
「私は一人でじっくりと楽しめるアトラクションがいいかなー」
「おっと、無視な上に遠回しなお断り頂きました!」
そんな感じで、みんなが遊園地に着いたらどうしようかという話で盛り上がる道中。ふと後ろに首を回すと、三歩ほど後ろに下がって、一人俯く木野の姿が目に入った。
完全に溶け込めてないって感じだな……まあ、このテンション高めなグループに入るのは難しいよな。俺だってちょっと疲れる。
早速力を貸した方が良さそうな状況が来たが、どうしようか。声を掛けようか? それとも、このまま放っておいてあげた方が良いだろうか?
そう一瞬考えたが、あの状態の彼女をこのまま無視するのは、ちょっと心が痛む。
結局、お節介かもしれないが俺は盛り上がるみんなの輪から気付かれないように抜けて、彼女の隣に移動した。
「大丈夫か?」
声を掛けてやると、木野は慌てた様子で顔を上げる。
「あ、えっと……ご、ごめんなさい……」
「いいよ謝らなくて。……やっぱり、無理してないか?」
「だ、大丈夫だよ。これぐらい、平気にならないと……頑張らないと……」
「そうか。……頑張るって、具体的にどうするんだ?」
「えっ、それは、その……」
考え込むように数秒間俯いてから、木野は口を開く。
「じ、自分から、意見を言ったり……とか」
「なるほど……確かに、いいかもな」
「そ、そうかな……?」
「ああ。もし何かあったら、いつでも言ってくれていいからさ。力は貸すよ」
「……あ、ありがとう」
木野は小さな声でそう口に出すと、俺の視線から逸れるように顔を伏せた。
まあ、それが言えたら苦労してないんだろうけどな、木野も。そういう事が思うように言えなくて、困ってるんだろうしな。
力に、か……思ったよりも簡単な事じゃないのかもしれないな、これは。
ちゃんと力になるには、彼女にどんな言葉を掛けてやればいいのだろうか。彼女は……どんな言葉を求めているのだろうか?
……海とかにも言われてるが、確かにお人好しなのかもな、俺も。
兎にも角にも、こうして俺達のゴールデンウィーク最大のイベントが幕を開けた。この一日がどんな日になるのか、俺達にはまだ何も分からない。