恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~   作:藤龍

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望む言葉 中編

 

 

 

 

 

 目的地である遊園地、スクランブルパークに辿り着いた俺達を待っていたのは、入口前に出来た長蛇の列だった。

 

 軽く百人は超えていそうな行列に気圧され、早くも帰ってしまいたい衝動に駆られながらも、俺達はその列に並んで入場出来るその時を待った。

 

 休日に遊びに出かける人々に明るい気分を与えさせる為なのか、心なしかいつも以上に輝く太陽の光に耐えながらひたすらに待つ。

 そしてようやく列の先頭に辿り着き、俺達は長い時間を掛けて場内に入り込む事が出来た。

 

「だぁ……よーやく中に入れたなぁ……なんもしてねーのに疲れたわ」

 

 中に入ってようやく自由の身になった瞬間、海がだらしなく背中を丸めながらため息を吐いた。

 それに釣られてか、他のみんなも疲れ切った表情で肩を落とす。

 

「ホンット、長かったわぁ……灯、大丈夫?」

「う、うん……へい、き……」

「気温も段々上がってきてたし、立ってるだけで体力奪われたわね……水飲みたい」

「朝は涼しかったのにさぁ……パーカー着てきたの失敗だったわ。……脱ご」

 

 そう言うと小林は自分のパーカーのチャックを素早く下げ、乱暴に脱いで黒のTシャツ姿になる。

 

「うっは女子の生脱衣シーン頂きました!」

「一気にテンション上がったね明坂君。ていうか脱衣シーンって……上着脱いだだけでしょう」

「上着だろうと脱衣は脱衣! お年頃の男子はこういうのがお好きなのです!」

「そ、そうなんだ……あ、でも私、今は上に何も着てない……」

「はいそこ実践試みない」

 

 と、音無は火鈴に軽いチョップをお見舞いする。

 

「あー、スッキリしたぁ。で、これからどうするよ?」

 

 小林は脱いだパーカーを腰に巻きながら問う。

 

「そりゃ地獄の待ち時間から解放されたんだ! 後は思いっきり楽しむだけっしょ!」

「ま、そりゃそうか。そんじゃどこ行こうか!」

「テンション高いなお二人さんは……時間的にはお昼までもうちょっとってところだけど……どうしようか? 先にご飯食べちゃう?」

「うーん……私はまだお腹空いてないなぁ……みんなは?」

 

 火鈴の問い掛けに、皆順に答えていく。

 

「私も別に。しばらくは大丈夫そう」

「俺も全然だな。食べれなくはないけど」

「同じく」

「アタシも。それよりも早く遊びたい気分! 灯は?」

「えっと、わ、私は……」

 

 微かに間が空く。皆が木野の返答を待って、彼女に視線を送る。

 すると一瞬、彼女の前髪の奥にチラリと見える瞳に、怯えたような色が浮かんだような気がした。やっぱり、人の視線は苦手なようだ。

 

 さりげなく皆の視線を逸らすように誘導しようとした直前に、木野が口を開いた。

 

「わ、私も、平気、です……」

「んっ、そっか。じゃあ、とりあえず良い時間になるまで軽く辺りを回ってみる?」

「さっんせーい! 遊べば程よくお腹減るっしょ!」

「おっしゃやるぜ! 音無ちゃん、お化け屋敷行こうぜ!」

「あ、私そういうの平気な方だよ」

「うーん残念! でも行こう!」

 

 ワイワイと盛り上がりながら、みんな移動を開始する。

 そんな中、一人立ち止まって俯く木野に、俺は歩み寄って声を掛けた。

 

「平気か?」

「う、うん……ごめんね、その……迷惑、掛けちゃって……」

「迷惑なんて事無いさ。それより――」

 

 不意に、ぎゅるるという低い音が、俺の言葉を遮った。

 その音は、木野の腹から鳴ったものだった。

 

「あっ、えっと……」

 

 慌てた様子でお腹を抱えてうずくまる木野。段々と顔が朱色に染まり、姿勢も徐々に低くなる。

 

「今の……お腹の音だよな?」

 

 暫しの沈黙の後、木野はコクリと無言で頷いた。

 

「結構な音だったな……腹、減ってるのか?」

「……きょ、今日の事で緊張して、朝ご飯、あんまり食べれなかった、から……」

「そ、そうか……でも、それならなんでさっき平気なんて言ったんだ?」

 

 そう問い掛けると、木野は姿勢を元に戻しながら、弱気な声で答えた。

 

「み、みんな、まだ、そんなにご飯食べたい気分じゃなさそうだったから……その、悪いと、思って……」

「木野……」

「――零司くーん! 木野さーん! どうかしたのー?」

 

 前を歩いていた火鈴が俺達が遅れている事に気が付いたのか、大声を飛ばしてくる。

 

「い、行こう。みんな、待ってる、から」

「あ、ああ」

 

 そこで会話を切り上げ、俺達はみんなの下へ向かった。

 

 みんなに悪い、か……まあ、木野らしい思考だけど……でも、それじゃあ駄目だよな。

 だってそれはさっき彼女自身が言ってた、自分の意見を言うって木野の目標から一番遠い考えだ。

 

 木野だってそれは分かってるだろう。でも、どうしても遠慮の気持ちが出てしまうんだろう。気後れしてしまって、自重してしまう。多分、無意識に。

 

「……難しい問題だな」

「あれ? 零司君、何か言った?」

「いや、何も」

「そう? あっ! 見て零司君! あのアトラクション面白そうだよ! 一緒にやろうよ!」

「んっ……そうだな。やるか」

 

 木野の事も気掛かりだけど、火鈴やみんなに気を使わせるのはいけないよな。俺も出来るだけ、今日を楽しむか。

 

 

 

 それから昼過ぎになるまでの間、俺達は色々なアトラクションを回った。

 

 入場の際、係りの人から貰ったゴールデンウィーク限定イベントのスタンプラリー用のシートを頼りに、イベント対象のアトラクションを中心に回る事にした。

 体験型のシューティングゲームから、お化け屋敷。様々なジャンルのアトラクションを体験している内にあっという間に時間は過ぎ、俺達は昼食を取る事にした。

 

「はぁー、色々楽しめたねぇ。例のスタンプも割と溜まってきたんじゃない?」

「それでも、全体の二割程度しか回れてない感じね」

「ありゃ、まだそんだけ? じゃあ、午後からはもっと張り切って回んないとね!」

「小林ちゃん気合入ってんねぇ。そんじゃ、その為にたっぷりエネルギー補給しないとだな!」

「うん。いっぱいお店あるみたいだけど……どこで食べよっか?」

 

 何かいい店はないかと、皆が一様に辺りを見渡す。

 

 俺も気になる店を探して辺りを見回してみる。その最中、ふと木野の姿が視界に入る。

 彼女はジーっと、ある一点を見つめていた。その視線の先にあるのは、イタリア系の料理を扱っている店だった。

 

 あそこが気になるのかな? でも、大分混んでるな……人気店なのかな?

 

「お、あそこなんていいんじゃね?」

 

 海の上げた声に、皆が一斉に首を回す。

 

「あの店! 空いてそうだし、いいんじゃね?」

「あそこは……見た感じ、中華料理店かな?」

「中華! いいねいいねぇ! ラーメンラーメン!」

「うん、美味しそう。零司君はどうかな?」

「え? あ、うん……悪くないと思うけど……」

 

 つい、視線が木野の方に向く。それを受けた彼女は俺の考えをなんとなく察したのか、木野は申し訳無さそうに目を逸らす。

 

「あっ、もしかして木野さん、他に気になるとこある?」

「えっ……あ、わた、しは…………わ、私も、その店がいいです」

「……灯、いいの?」

 

 小林の確認に、木野は無言で頷く。

 

「……そっか。じゃあ、このお店にしちゃおうか!」

「そうだね。行こっか」

 

 みんな、真っ直ぐと店に向かう。

 

「……よかったのか木野。あの店、行きたかったんじゃないのか?」

「……いいの。確かに気になったけど、あの店混んでるみたいだし……私も、お腹、空いてるから」

 

 そう言って、木野はみんなに続いて店に足を運ぶ。

 俺も遅れて店に入ると、入口付近に立っていた小林と鉢合った。

 

「な、何してんだよ」

「いや、ちょっと話でもと。月村、結構灯に気ぃ回してくれてるみたいだからさ。お礼でもと」

「お礼って……ていうか気付いてるなら、お前もなんかしてやろうと思わないのかよ」

「いや思ってるよ。でもこないだ言った通り、アタシはデリカシーってもんが無いから。余計な一言口にしちゃいそうでさ。それに……」

 

 小林は店内の方に目をやり、先に席に着いている木野を見る。

 

「手助けするのは大事だけど、結局はあの子が頑張んないといけないからさ、これは。だから……アタシは見守る事にしようかなって。多分アタシが出ると、過保護になっちゃうからさ。あの子もアタシに甘えちゃう。それじゃあ駄目だよ。だから、ここはあんたに任せる」

「小林……」

「にしても、こんなに灯に入れ込むとは……月村、灯に惚れたかぁ?」

「またそういう話になる……そんなんじゃねぇよ。ただ……放っておくのが、ちょっと嫌なだけだよ」

「ふーん……お人好し」

 

 と、小林は意味あり気な含み笑いを浮かべる。

 

「おーい、どうしたそこの二人ー! 堂々と密会してんじゃねーぞコラー!」

「おっと、あらぬ噂を付けられちゃうね。じゃあ、よろしく頼んだよ」

 

 ひらひらと手を振り、小林は皆の下に向かう。

 

 頼んだよ、か……そんな事言われても、何をすればいいか分からねぇよ。

 

 

 

 

 

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