恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~   作:藤龍

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ナルシストとオタクとヤンキー(とギャル)

 

 

 

 

 

 

「――てな事があった訳よ。進級初日からあんな可愛い子の告白されるとか、羨ましいったらありゃしない!」

 

 とある日の昼休み。屋上で一緒に昼飯を食う海は、こないだまであった俺と火鈴の出来事を愚痴交じりに語っていた。その話を聞くのは、同席する俺の別の友人達だ。

 

「別に思わんな。三次元の女に好意を寄せられても、はた迷惑なだけだ」

 

 そう答えたのは、スマホと睨めっこする眼鏡の男子。

 彼の名は二階堂(にかいどう)空翔(あきと)。俺や海とは高校時代から知り合った友人だ。

 

「お前はまたそんな事言ってさぁ。そんなんだと彼女出来ねぇぞ? 青春謳歌出来ないぞ?」

「そんな青春は望んじゃいない。というか今、ソシャゲのスタミナ消化してるから邪魔すんな……あっ、操作ミスったじゃねぇかクソッ……!」

 

 紺がかった髪を掻きむしりながら、空翔はわざとらしく舌打ちを打つ。彼の醸し出す殺気に近しい何かを感じ取ったのか、海はそれ以上は彼に話し掛けなかった。

 

 彼はいわゆる二次オタクというものである。アニメ、ゲーム、漫画といったものが好きで、バイト代の全てをソシャゲの課金やグッズ収集に全額つぎ込む猛者だ。

 逆に、それ以外の物事には一切の興味が無い。それどころか現実、つまり三次元の女性は毛嫌いしているぐらいで、俺とは違う意味で恋愛と関わりたくない人物である。が、彼も海と同じく顔はイケメンの部類に入るので、そこそこモテるらしい。

 

「たくっ、空翔も零司もどーしてそうなのかねぇ。恋をしてこその青春だろうが! 人生だろうがっ! なあ、お前もそう思うだろ?」

 

 そう言いながら、海は一緒に昼飯を食べるもう一人の男子に視線を送る。

 彼の名は鬼頭(きとう)陸也(りくや)。黒い短髪に、ガッシリとした大柄な体と、鬼頭という名前に負けない泣く子も黙りそうな強面(こわもて)が特徴の、(おとこ)という言葉が似合いそうなヤンキー風の男子。彼も高校時代から知り合った友人である。

 

「あ? 何がだよ」

「だから、恋をしないなんて勿体無いって言ってんだよ。恋をすれば人は変わる! 恋をしてこそ人生を生きていると言える! そういう事を言ってんの俺は!」

「何言ってんだかよく分かんねーけど、つまりは彼女が出来る事は良いって事か? なら、俺はその意見には賛成だな。俺も、お陰で色々と変われたしな。な、メグちゃん」

「そーだね。あーしも、りっくんに会えてチョーラッキーだったし。あ、りっくんアーン」

 

 そう言いながら陸也の隣に座る女子は、彼の口に唐揚げを運ぶ。それ陸也はデレデレした表情でパクリと食う。

 サイドテールの茶髪に小麦色の肌。制服はかなり着崩していて、胸の谷間や太ももが大胆に露出している。まさにギャルと呼ぶに相応しい女子。そう、彼女の名は――

 

「……って誰だお前!?」

「ん、あーしの事?」

 

 凄い自然な感じで居座ってて今まで気が付かなかったけど、この子知らないんだけど。誰この謎ギャル!?

 

「やっと気が付いたのか。反応が遅い奴だな」

「あ、そーいや零司は初めて会うんだっけか?」

「えっ!? お前らは知ってるのか? この謎ギャルの事!」

「オイゴラァ! テメェ何メグちゃんの事指差してんだ! ぶっ殺すぞ!!」

「えぇ!? なんかごめんなさい!」

 

 なんで怒られたの俺。つーかメグちゃんって何! いや、この子の事なんだろうけど、それでも何!

 謎のギャルの正体が分からず困惑、混乱状態に陥っていると、空翔が助け舟を出してくれる。

 

「お前、覚えて無いのか? 会っては無いだろうが、何度も見てるはずだぞ」

「へ? 何度も見てる? ……どこで?」

「都合に良い脳内メモリのようで羨ましいよ。その陸也(バカ)にうんざりするほど写真を見せられただろうが。俺の彼女だって」

「彼女……? ……えぇ!? 彼女!? 陸也の!?」

 

 驚きと同時に、脳の奥底に埋まっていた記憶が引っ張り出される。

 そうだ、確かに去年の夏頃からだ。毎日のようにある女子の写真を陸也に見せつけられてきた。その写真の子……彼の恋人は、確かに今、目の前に居る彼女だった。

 

「思い出したみたいだな」

「ああ……でも、なんでその彼女がここに?」

 

 すると、陸也が表情をだらしなく緩ませながら口を開く。

 

「いや実はな、メグちゃんが合併した女子高に通っててさ。こんな偶然があるんだなって感じだぜ」

「そーだね。つーかもう運命って感じだよねー! あっ、あーし軽井沢(かるいざわ)(めぐみ)。りっくんから話は聞ーてるから、これからよろしくねー、ツッキー」

「よ、よろしく……」

 

 出会って数秒であだ名付けられた。見た目通りノリ軽いな。

 

「しっかし陸也よぉ。おめーにそんな可愛い彼女出来るとか、どーいう事だよって叫びたいね海君は。何がどうなったらそんな美人ギャルとお前みたいな元ヤンが恋する訳?」

「だから、俺は元ヤンじゃねぇっての。まあ、色々あったんだよ。あれはそう、去年の夏休み――」

「以下省略」

「オイ空翔テメェ! 人の回想勝手に省略すんな!」

「その回想話は耳にタコが出来るほど聞いた。海、お前も変な振りをするな」

「いやー、悪いつい。だって不思議じゃね? この不釣り合いなカップル」

 

 そう言って、海は指で(がく)を作り、ピッタリと密着する二人を見る。

 確かに、海の言う通り大分デコボコなカップルかもしれないな。陸也は見た目完全にヤンキーだし、そんな女性と接点を作れる奴だとは思えない。それなのにこんな美人な彼女を手にするとは、不思議な巡り合わせがあるものだ。

 

「ん? どしたのツッキー。あーしの事ジッと見て。あ、もしかしてエッチな事考えてたっしょー?」

 

 からかうように言うと、軽井沢は両手で体を隠す。

 

「あ? マジか零司!? マジならぶっ殺すぞ!!」

「見てない見てない! 全然そんな目で見てねぇから!」

「それって……メグちゃんにそんな魅力ねぇって言いてぇのか!? ぶっ殺すぞ!!」

「めんどくせーなお前!」

「正直に認めとけ零司。あったら見ちゃうっしょ、おっぱい」

「お前は黙ってろバ海!」

 

 そんな如何にも男子高校生らしいくだらないやり取りをしていると、不意に屋上の入口が開き、お馴染みになりつつある元気な声が飛んで来た。

 

「零司くーん!」

「お、この活発な声は、夢原ちゃんだな」

 

 声の方へ振り返ると、火鈴と音無がこちらに歩み寄って来る姿が見える。

 

「今日も元気だねー、夢原ちゃんは。でも、今日は来ないのかと思ってたよ」

「日直の仕事に手間取っちゃって……お邪魔して良いかな?」

「もちろんオッケー! なあ零司」

「……まあ、良いけど」

 

 少し目を逸らしながら、俺は曖昧な答えを返す。

 

 この前のデート以降も、火鈴はこうして普通に俺に接してくる。彼女自身が言ってた通り、俺の事を諦める気が無いらしい。

 でも、俺としてはやっぱり付き合うつもりは無いし、彼女は俺にとっては振った相手。だから、ちょっと顔を合わせるのが気まずい。

 

「じゃあ、私は零司君の隣!」

 

 そう言って火鈴は、俺の隣に座る。いつものシャンプーの香りがふわりと漂い、鼻腔を刺激する。

 

 だが火鈴の方は全く気にした素振りを見せずに、こうして以前と変わらぬ態度のままだ。むしろより積極的になった気がする。

 出来れば彼女を傷付ける事は避けたいけど、彼女と付き合うつもりは無い。だからどう相手をするべきか、どういった距離感でいるべきか少し困っているのが正直なところだ。

 

「ほら、美笛も早く座りなよ!」

「はいはい。というか、今日は随分大人数だね……って、恵?」

「ん? あー、やっぱり美笛っちだったんだ。おっひさー」

 

 気さくな感じに、軽井沢は音無に手を振る。

 

「あれ? 音無ちゃんって、軽井沢ちゃんと知り合い?」

「去年同じクラスだったの。でも、なんで恵が月村君達と一緒に居るの?」

 

 音無が質問すると、軽井沢は隣に座る陸也の腕にしがみ付く。

 

「あーしは彼氏と一緒にご飯食べてるだけだよー。ツッキー、アッキー、カイカイはそのオマケ」

 

 オマケって……ていうか他の奴らもあだ名付けられてんのね。

 

「へー、そうなんだ。恵に彼氏居るって事は知ってたけど、月村君達のお友達だったんだ。偶然な事もあるのね」

「美笛っちも、ツッキー達と仲良いんだね。あ、もしかしてさっきカイカイが言ってたツッキーに告った女子って、美笛っちだったの?」

「あー、違う違う。告ったのはこっち。私の幼馴染」

 

 手を横に振りながら、音無は火鈴を指差す。

 

「へー、美笛っち幼馴染居たんだ」

「あ、初めまして。夢原火鈴です」

「んーっと、リンリンね。あーしの事は恵でいーよ。よろしくー」

 

 身を乗り出して右手を出す軽井沢に、火鈴は同じく右手を出して握手を交わす。

 

「…………」

 

 手を離した後も、何故か火鈴はジーっと軽井沢の事を見ていた。

 

「どーしたのリンリン。まさか、リンリンもエッチな事考えてるー?」

 

 軽井沢の視線がこちらを向く。

 俺を見ながら言わないでくれ……また面倒なのが絡んでくるから。

 

「そうじゃないけど……あの、二人って付き合ってるんだよね?」

「ん? そーだよ。めっちゃラブラブだよー。ねー、りっくん!」

「もちろん! 俺とメグちゃんは世界一、いや宇宙一のカップルだぜ!」

 

 豪語するなぁ……ていうか今更だがその顔でメグちゃん言うの止めてほしいな。だらしない表情も相俟って、オブラートに包まず言うと正直気持ち悪い。

 

「そっか……羨ましいなぁ……」

「えー何? りっくんはあーしのだかんね?」

「いや、私が言いたいのは……」

 

 チラリと、火鈴は横目で俺の事を見る。

 

「あー、そっか。リンリンはツッキーと付き合いたいんだっけ?」

「う、うん。私も二人みたいに、素敵なカップルになりたいなぁって。例えば……」

 

 頬を両手で挟んで、考え事をするように俯く。直後、火鈴の口から「えへへ……」と、いつもの笑い声がこぼれる。また何か妄想してるようだ。

 

「零司君とあんな事やこんな事……えへへ……」 

「かりーん、戻ってこーい」

「ハッ!?」

「アハハ、リンリン面白いねー。こんな子振っちゃうなんて、ツッキーちょっと酷いんじゃなーい?」

「遠慮無く言うな……俺にだって、事情があるんだよ」

 

 酷い事をしてる自覚はある。こんなにも好意をぶつけてくれる相手に対して、俺は真っ向から交際を断っているのだから。

 でも、こうする意外俺には道は無いんだ。もう、あんな思いはしたくないから。

 

「別に、零司君は悪くないよ」

 

 ふと、火鈴が真面目な顔付きでそう言う。

 

「零司君にだって事情があるから。でも、それでも私は諦めないって決めたんだ! 零司君に好きって言ってもらえるように頑張る! ね?」

 

 と、火鈴は満面の笑みを俺に向ける。

 

「……俺に言われても困る」

「へー、いーじゃんリンリン。そーいう健気な感じ、あーし好きだよ。よーし、だったらあーしが一肌脱いだげよう! あーしが男を口説き落とすテクってやつを教えたげる! 彼氏持ちの先輩として!」

「本当に!? ありがとう! えっと……恵!」

「いーっていーって。絶対攻略してみせなよ?」

「うん! 頑張る!」

 

 攻略対象の目の前でそんな会話繰り広げないでほしいな。

 しかし軽井沢の教えとか……まだ彼女と知り合って数分だが、嫌な予感しかしないな。大丈夫か?

 

「まず、女の武器は色気。リンリンはいーもん持ってんだから、思う存分使わないと」

「いーもん? どれ?」

「なーに言ってんの。おっぱいっしょ、おっぱい」

 

 あ、駄目だこれ。絶対良からぬ方向に進む。

 

「使うって、どんな感じに?」

「そりゃあれでしょ。ダイレクトアタックっしょ。こう、ギューッと押し当ててく感じ」

 

 軽井沢はお手本を見せるように陸也に抱き付き、両胸で彼の腕を包み込む。そして――

 

「えっと……こう?」

 

 火鈴が彼女と同じように俺に抱き付く。

 瞬間、彼女の豊満な胸が俺の腕を包み込み、ふにゅっとした柔らかな感触が襲い掛かった。

 

「ちょ!? 火鈴さん!?」

「そーそー、いい感じー。そのままもっと、ギューッと!」

「うん! ギューッ!」

 

 さらに密着してくる火鈴。腕を挟むように胸が迫り、動きに合わせて感触が電流のように走る。

 

「かぁー! 何それ羨ましいんですけど! 音無ちゃん、ちょっと俺にもお願いしていいですか!?」

「普通にセクハラだよ明坂君」

「チクショー、ノリで行けると思ったけど駄目だったかぁー!」

 

 何吞気に言ってるんだあの馬鹿は! なんかムカつく!

 いや、それどころじゃない。本当に凄い柔らかいんですけどこれ! 感触の暴力だこれ! 別の意味で人を駄目にするクッションだこれ! これ以上はなんというか……マズイ気がする色んな意味で!

 

「あの、火鈴さん……! ちょっと離れて……」

 

 緩んだ頬の筋肉をどうにか動かしてお願いした直後、不意に火鈴が離れる。

 

「あ、あれ……?」

 

 案外簡単に離れた……いや、というか俺が言うよりちょっと早かった気が……

 

「どーしたのリンリン。急に離れて」

「そ、その……なんというか……思ったより、恥ずかしかった……」

 

 真っ赤に染まった顔を両手で覆いながら、火鈴は小さな声でそう言った。今まで見た事無い恥じらった表情に、つい目を奪われる。

 火鈴の奴、こんな顔もするんだな……って、何ちょっとドキッとしてんだよ、俺。

 

「アハハ、リンリンにはちょっと早かったかー」

「そうかも……でも、頑張ってみる!」

 

 俺としては頑張らないでほしいな……こっちの身が持たない。

 

「ま、慣れだよ慣れ。あーしはもうりっくんとこーしてるのがデフォルトみたいなもんだし。ねー?」

「何そのデフォルト状態羨ましい陸也腕もげろ」

「流れるように妬み吐くねー、明坂君」

 

 と、音無は呆れた笑みを浮かべる。

 

「でも恵。彼氏と仲良いのは構わないけど、あんまり四六時中ベタベタしてるのは良くないと思うよ? 特に学校では」

「どーして?」

「ほら、例の風紀委員長に何言われるか分かんないよ?」

「んー? あー……あの子ね」

「風紀委員長? そんな奴、この学校に居たか?」

 

 陸也の言葉に、海が「さあ?」と首を傾げる。

 その疑問に、音無が答えてくれる。

 

「私達の学校にあったのが、そのままこっちでも継続してるの。で、その風紀委員長がまあ、なんというか……男女交際にうるさいみたいなの。幸い女子高時代はそういうの少なかったけど、今は共学でしょ? だからその子荒れてて」

「へー、そんな子が居るんだ。堅物風紀委員長って奴か……会ってみたいかも。そんでもって、お近づきに……」

「止めといた方がいいよ。その子、結構な男嫌いだから。特に明坂君みたいな子は、汚物並みに嫌いだと思うな」

「……音無ちゃんってなんか俺に当たり厳しいよね」

「そんな事無いよ。ともかく、そういう事だから気を付けな?」

 

 音無は改めて軽井沢達に注意を飛ばす。

 

「大丈夫だって。あーしらのラブラブパワーは、そんな堅物風紀委員長には負けないもん。ねー?」

「おう! もし文句言う奴が居んなら、ぶっ飛ばしてやるぜ!」

「おーい、女子に暴力は振るなよー。でも、それならお前らも目を付けられるかもな」

 

 と、海は俺と火鈴に目をやる。

 

「なんでだよ?」

「だって今現在、お前らって学園のちょっとした有名人じゃん? だから、その例の風紀委員長がマークしてるかもしれないぜ?」

「まさか……そんな事無いだろう」

 

 これ以上、色恋沙汰で面倒事が増えるのは勘弁してくれ……そう、平和な学園生活を俺は心の中で静かに祈った。

 

 

 

 

 




 しかしそうはいかない。次回、風紀委員長と遭遇。



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