恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~   作:藤龍

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堅物風紀委員長との遭遇

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、満腹満腹! 可愛い女子(おなご)二人と昼食を共に出来るとは、余は大変に満足じゃ」

 

 謎口調で訳の分からない言葉を発して腹を擦る海を尻目に見ながら、俺、火鈴、そして音無を加えた四人組は校舎内を歩いていた。今日も昼休みを屋上で一緒に過ごし、今はその帰り道である。

 

「明坂君は気持ちがいいぐらいに思った事を口に出す人だねー」

「隠し事をしないのが俺の良いところですから!」

「それは良い事かもしれないけど、時と場合を考えた方がいいかもねー」

「お、何々音無ちゃん。俺のプライバシーの心配してくれてるの?」

「あ、それは違うから。明坂君のプライバシーはフリーWi-Fiぐらいオープンでいいんじゃないかな」

「くぅー! 相変わらず手厳しいお言葉ありがとうございます!」

 

 海はそう言いながら、自分の額を手で叩く古臭い動作を行う。

 

 相変わらずうるさい奴だ……音無もよく付き合ってやってるよ。俺ならガン無視決め込むところだ。

 

「……美笛と明坂君って、なんか仲良さげだよね」

 

 ふと、隣を歩く火鈴が小声で話し掛けてくる。俺も彼女のボリュームに合わせ、言葉を返す。

 

「火鈴にはそう見えるのか?」

「うーん……まあ、美笛は昔からすぐ他人と仲良くなるタイプだから珍しくはないけど、男子と話してるとこはあんまり見なかったから、ちょっと新鮮で。……明坂君って、美笛の事好きなのかな?」

「海が? あー……どうなんだろうな。あいつはただの女好きだからなぁ……特定の誰かって言うのは、ちょっと想像出来ない」

 

 でも確かに、音無は海の好みのタイプではあるかもしれない。清楚で、大人っぽくて。……まあ、あいつの好みの範囲は東京ドーム何個分と表現出来そうなほど広いんだが。

 

「……それを言うなら、音無の方はどうなんだろう」

「え?」

「いや、海の事どう思ってんだろうって。あんな奴の話に付き合うなんて、普通はうんざりだろ。でもそんな様子無いし」

「うーん……どうなんだろう? 美笛は恋愛とか、そういうのに興味無さそうだしなぁ。よく分からないや。でもまだ出会ったばっかりだし、そういうのは無いんじゃないかな?」

 

 出会って数秒で告ってきた人が言っても説得力無いな。でも、確かにそれもそうか。音無はそんな惚れっぽい感じには見えないし、ただ単に懐が深いだけかもしれないな。

 

「――いやはや、それは分からんぜチミ達ぃ」

 

 突然、耳元からねっとりとした声が流れ込む。慌てて振り返ると、そこにはいつの間にか近くに寄っていた海の顔があった。

 

「ビックリしたな……お前、まさか聞いてたのか?」

「モチ! 俺と音無ちゃんの秘密の関係について語っていたんだろう?」

「いやいや違うでしょ。二人もさ、人の前でコソコソ話すのは止めてほしーな」

「ご、ごめん……」

「まあ良いけど。あ、あと言っとくけど、私が明坂君に惚れてるだとか別にそんな事は無いから。そこは明確に否定しとくね」

「またまた音無ちゃーん! 照れずに俺へのラブコールを送ってもいいんだぜ?」

 

 調子に乗った言葉を吐く海に対し、音無は一切口を開かず、生暖かい笑みを浮かべながら彼を見つめた。

 

「……無言の微笑みは流石に傷付くからご遠慮願いたいなぁ」

「ま、そういう事だから。私が明坂君に惚れてるなんて事は無いから。私は火鈴みたく、すぐ惚れちゃうような浮かれ頭じゃないから」

「ムッ……浮かれ頭言わないでよ! 私と零司君の出会いは運命だもん! ね、零司君!」

「俺に言われても困る……」

「……でも、案外多いかもしれねーぜ。浮かれ頭の奴は」

 

 軽い精神ダメージから復活した海が、そんな言葉を吐く。

 

「どういう事だよ?」

「考えてもみろ。この学校の生徒、少なくとも二、三年は去年まで同性しかいない環境で学園生活を送ってきたんだ。なら共学になった今、浮かれ頭の恋愛脳になってる奴が居てもおかしくねーだろ! だって思春期だもん! つまり音無ちゃんもその空気に呑まれて恋愛脳に――」

「なってないなってない」

「なってないかぁー! 残念極まりない!」

 

 海は指をパチンと鳴らしながら、楽し気な笑顔を作る。

 こいつの人生楽しそうだな。悩みとか無縁そうだ。羨ましい限りだ。こうなりたいとは思わないけど。

 

「まあそれはさて置き、明坂君の話も一理あるかもね」

「え、じゃあ美笛もやっぱり浮かれ頭に?」

「そこは否定したでしょうが。そうじゃなくて、この状況に学園全体ちょっと浮かれた感じになってるって事。そりゃいきなり学園生活に異性の存在が現れた訳だしさ。少しはソワソワしちゃうもんでしょ。実際私の知り合いにも、ちょっと気になる男の子が居るって言ってた子いたし」

「え、マジ!? いやぁ、困っちゃうなぁ!」

「どこにお前を指し示す要素があった」

 

 照れ臭そうに頭を掻く海にひとツッコミ入れてから、話を戻す。

 

「でもまあ、そういう空気は確かにあるかもな。少なくとも去年まではもっとどんよりしてた気がする」

「うん。まあだからといって、私達には何にも関係無いんだけどね」

「いーやある。大いにあるね」

「……何がだよ」

 

 海の発言に嫌な予感を覚えながらも、先を促す。

 

「そんな浮かれた状態が続いてみろ。この学園内にカップルが誕生するのも時間の問題だぞ」

「……問題要素どこだよ」

「問題しか無いね! そうなればこの学園の至る所でイチャイチャを繰り広げるカップル達が増えてしまう! そうなるとどうだ!? 俺達みたいな独り身は虚しい思いをするだけだぞ! みーんな春を迎えてるのにこっちだけ冬ですよ! そんな状況耐えられるか! 学園生活が地獄と化す!」

「何だよそれ……そんなカップルだらけになる訳無いだろ」

「だがならない保証も無い! 学園内でイチャコラしてるカップル見たら俺は憤死する自信があるね!」

 

 なんだその一切誇れない自信。

 

「イチャコラねぇ……あんな感じ?」

 

 一階の渡り廊下に出た直後、音無が右側を指差す。

 彼女の指し示す数十メートル先にあったのは一つのベンチ。そこに座るのは――陸也と軽井沢の二人だった。

 

「あーし特製のスペシャルラブラブ弁当だよー。はーいりっくん、アーン」

「アーン……うん……やっぱメグちゃんの手料理はやべぇな!」

「へへっ、とーぜんっしょ。ほら、もーひとつ。アーン!」

 

 といった風なやり取りをしながら、昼食を食べる陸也、軽井沢カップル。その様子を、俺達は渡り廊下からこっそりと観察した。

 

「……紛う事無きイチャコラだねぇ」

「はぁ……羨ましいなぁ……」

「完全に二人の世界だな……周りの目を気にしてない」

「……オイ零司。どっかに手ごろなサイズの石は無いかね? あいつらの弁当を今すぐ蟻の餌にしてやろうぜ」

「大人しく憤死しとけよ」

 

 でも、もしも海の言う事が現実になったとしたら、ああいう光景が量産される訳か……それは確かに、ちょっとシンドイものがあるかもしれないな。

 

「大丈夫だよ零司君! 零司君には私が居るからね!」

 

 顔に出てたのか、火鈴が急なフォローを送ってくる。

 

「別にそこを心配してるんじゃないんだが……まあ、いいや」

「チックショウがぁ……あの腐れヤンキーこれ見よがしに……なんか不幸が襲って来い! トンビだ! トンビに弁当奪われてしまえ!」

「居るかそんなもん。ほら、アホな事言ってないで行こうぜ」

 

 これ以上二人の時間を海に見せていてはより面倒な事になりそうだと察した俺は、さっさとこの場を離れようとする。

 

 

 しかし、その寸前だった。海の祈りが届いてしまったのだろうか、陸也と軽井沢にある不幸が襲い掛かった。

 

「――オイ、そこのお前ら」

 

 一人の女子が陸也達に近付き、声を掛ける。それを見て聞いた俺達は、校舎に向かっていた足を止める。

 

「お、なんだなんだ?」

「ん? あの子は、確か……」

「音無、知ってるのか?」

「ほら、こないだ話したでしょ。例の風紀委員長」

「風紀委員長……」

 

 そういえば……こないだ屋上でそんな話をしていたな。堅物だとか、男女交際に厳しいだとか。そんな奴が陸也達に声を掛けたって事は……

 

「これは……ちょっとトラブルの予感だね」

 

 音無の呟きに、俺は心の中で同意する。

 嫌な予感を感じながら、俺達は渡り廊下で彼女らの様子を見守る事にした。

 

「あ? なんだテメェ」

 

 最初に返事をしたのは、陸也。少し好戦的な態度だ。しかし、例の風紀委員長は一切怯む様子も無く、同じく好戦的な言葉を返す。

 

「脇目も振らず異性同士で堂々とそのような行為……風紀の乱れに繋がる。校内では控えてもらおうか」

「はぁ? 風紀がなんだって? んでテメェにそんな事言われなきゃなんねぇんだよ」

「それが私の仕事だからだ。お前らのような存在が、学園の……いや、世の中の風紀を乱すんだ。そのような存在を正しき道に戻す。その為に、私はこの任を全うしているのだ」

「何それ? 難しい事言われても意味不明なんですけど? あーしとりっくんの邪魔しないでよねー」

「……お前は確か、軽井沢恵だったな」

「あーしの事知ってんの?」

 

 軽井沢の驚いた反応に、風紀委員長は「無論だ」と返す。

 

「お前は去年からちょっとした有名人だったからな。要注意人物として」

「は? メグちゃんが要注意人物ってどういう事だよ!」

「別に危険人物という訳では無い。ただ、場合によっては更生させる可能性があると、風紀委員内で話題に上がってただけだ」

「こーせい?」

「軽井沢恵。お前、去年の成績は散々だったようだな。テストはほぼ全て赤点だったとか。そのせいで、落第寸前だったと」

 

 ギクリと、軽井沢が表情を固くする。

 

「普段の授業態度も不真面目そのもの。放課後も友人と遊び呆けて、学業は二の次。まさに不真面目と現すに相応しいな」

「そ、それがなんだし! 別にあんたにはかんけー無いじゃん!」

「確かにそうだな。だがその原因が男女交際にあるとしたら別だ」

「はぁ?」

「お前が学業を疎かにしている原因がその恋人にあるというのなら、私はそれを正す。学生の本分は学業だ。それ疎かにしてまでする交際など、言語道断だ」

「な、何それ! 別にりっくんは関係無いし! ふーきいーんって、そんな事も仕事な訳?」

 

 軽井沢の言葉に、風紀委員長は首を横に振る。

 

「いや、これは半分が私の私情だ。私がそうするべきと判断しての行動だ」

「私情って……訳分かんない。なんであんたにそんな事言われなきゃいけない訳?」

「……恋だの愛だのは、人を堕落させる。だから私はその堕落の道を進む者を救ってやりたい。それだけだ。お前もそのままその男と交際を続けていては、道を踏み外すかもしれん。男はくだらない存在だ。縁を切るのがお前の将来の為になる」

「……何それ。あーしの事はいくらでも馬鹿にして良いけど、りっくんの事を馬鹿にするのは止めてよね!」

 

 軽井沢の怒号が校内に響き渡る。その直後だった。

 

「……オイテメェ。随分好き勝手言ってくれんじゃねぇか」

 

 陸也が唸るような声と共に、ゆっくりと立ち上がる。これまでの付き合いから分かる。あいつは今、相当切れてる。

 

「あ、あの馬鹿! 女の子に手ぇ出すつもりか!?」

「それは無いだろうけど……止めに入ろう!」

 

 友人の怒りを抑えるべく、俺と海は慌てて彼らの下に走る。遅れて火鈴と音無も俺達に続く。

 

「おい陸也! ストップストップ!」

「あっ……ツッキーにカイカイ……?」

「あん? テメェら、なんでここに居んだよ」

「おめぇの暴走止めに来たんだよアホ! テメェ、女子に手ぇ出したらこの海様の拳が唸るかんな!?」

「はぁ? 別に殴ろうとはしてねぇよ。ちょっとガン飛ばそうとしただけだ」

「おめぇのガンは暴力と同等レベルに怖いの!」

「……お前達、こいつらの知り合いか?」

 

 例の風紀委員長に話し掛けられ、俺達は陸也から彼女に視線を移す。さっきまではよく見えなかった彼女の顔が、しっかりと視界に映り込む。

 

 藍色のショートカット、同じく藍色の少しキツイ吊り目。勝ち気という言葉が似合う、そんな印象を抱かせる女性だった。身に纏う制服には一切の乱れや汚れが見えず、見本のような完璧な着こなしで、彼女の真面目さが窺えた。そして腕には、風紀委員の腕章。

 

 彼女は敵意剥き出しの目で俺達を睨む。かなり迫力がある……というか結構怖い眼差しに、ついたじろいでしまう。

 

「今、私はこいつらと話をしているんだ。邪魔をしないでもらいたいな」

「いや、そういう訳にもいかないだろう。こいつ、見た目通りおっかない奴だからさ。あんまり刺激しない方がいいから」

「そうそう。あんまりカリカリするのもよくないよ、水瀬(みずせ)さん」

「お前は……音無美笛か」

「あら? 音無ちゃんまたまた顔見知りパターン? それはともかく……例の堅物風紀委員長さんは水瀬ちゃんって言うのね」

「気安くちゃん付けで呼ぶな、気色が悪い」

 

 風紀委員長――もとい、水瀬は汚物を見るような目で海を睨む。

 

「おぉう、怖い怖い……でもそこもキュート!」

「チッ、面倒な事になったな……ん? お前、よく見たら……それに、そっちの女……」

 

 水瀬が急に、俺と火鈴の顔を交互に見回す。

 

「なるほど……お前ら、例の二人組だな」

「例の……? 俺達がなんだっていうんだ」

「お前らの事は噂になってる。始業式の日、そこの渡り廊下前で盛大に告白劇を繰り広げたカップルだとな」

「か、カップルって……! そんなぁ……えへへ……」

 

 と、火鈴が嬉しそうに笑う。絶対そういう空気じゃ無いだろう。

 

「別に、俺達は付き合ってない。で、それが何だよ」

「風紀委員……いや、個人的にお前らの事はマークしていた。学園の風紀を乱すかもしれない存在としてな」

「風紀を乱すって……別に、俺達はそんな……」

「口だけならいくらでも言える。言っておくが、私は男という存在を信じてはいない。男という輩は、結局異性相手に現を抜かす愚か者だ。そんな連中が風紀を乱す。だから私は、それを徹底的に正す」

 

 射貫くような力強い眼に、思わず言葉を飲む。

 この子の敵意の大きさは一体なんなんだ……彼女は、どれだけ本気なんだ?

 

「……今日のところはこのぐらいにしてやる。次見掛けたその時は、覚悟しておけ」

「へっ、一昨日来やがれ!」

 

 陸也のセリフに水瀬は背を向け、そのまま何も言わずに立ち去った。

 

「風紀委員長……水瀬、か」

 

 彼女のあの男に対する、そして男女交際に対する敵意。彼女は、一体何を抱えているんだろうか?

 

 

 

 

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