恋愛不適合者達の恋愛事情~恋愛しないと決めたのに、見知らぬ美少女に告白されて望まぬ青春がやって来た~   作:藤龍

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堅物風紀委員長の一面

 

 

 

 

 

 

「ほーん。そんな事があった訳ですか」

 

 場所は再び屋上。今日も晴れ晴れとした晴天の下お決まりの面子でたむろす中、何故そういう流れになったのか、俺は先日の水瀬との会話の内容を皆に伝えていた。

 

「水瀬ちゃんは別にトラウマがあってああなった訳では無い、と。俺の予想は見事に外れちまったかー。しかし零司、トラウマ仲間が出来なくて残念だったな」

「そんな仲間要らねぇよ……」

「でも、ある出来事か……トラウマとまでは行かなくても、それが彼女のあの男嫌いの原因になってる訳だ。うーん……想像付かないわね」

 

 音無が腕を組みながら首を傾げる。

 

「つーか、そんなのあーしらが考えても仕方ないっしょ。別にあーしらがあいつの為に何かしてやる意味無いじゃん」

「ま、それはそうだけどね。知っちゃったからにはちょっと気になるじゃん」

「そうそう。それにその原因を知って、さらに解決なんかしてやったりしたら、水瀬ちゃんの堅物思考も緩和されるかもだし? そしてあわよくば一つの恋が生まれちゃったりしちゃったり!」

「あ、明坂君それまだ諦めてなかったんだね」

「生粋の馬鹿だな」

 

 と、空翔が分かりやすく呆れた態度を示す。

 

「恋愛っていうのは諦めたらそこで試合終了なんですよ! なあ、夢原ちゃん!」

「え!? あ、うん! そうだね! その通りだよ!」

「始まってもねぇ試合に挑んでんだよお前は。現実見ろ」

「二次元にどっぷりハマってる人に言われたくないんですけど!」

 

 鋭いツッコミをかました後、ガソリンが切れたのか海は一旦落ち着き、コーヒー牛乳を喉に流し込む。

 

「ふぅ……しっかし零司よぉ。お前、これ以上水瀬ちゃんには関わらないでおこうぜとか言ってたくせに、なーに一人で話なんかしてるんだよ。抜け駆けはずりーぞ」

「抜け駆けって訳じゃ……偶然会っただけだ。つーか、あの時お前らの事で俺が無駄に説教じみたもん受けたんだけど?」

「おっと、なんか嫌な予感しかしないのでそれは閑話休題!」

 

 話を切るかのように手刀を振り下ろしながら、海は無理に話を続行する。

 

「会ったのは偶然かもしれねーけど、なんでそっから水瀬ちゃんの話聞く流れになってんだよ。明らかにテメーからアタック仕掛けてんじゃねーか」

「そ、れは……なんというか、いつの間にか聞き出してたというか……ほら、お前が言ってた通り何かトラウマを抱えてるんだとしたら、その……放っておくのはなんかモヤモヤするじゃん。俺もトラウマ抱える辛さは知ってるからさ。結局違ったけど」

「へぇー、なるほどねぇ……」

 

 何か言いたげな、絶妙にムカつく表情を作る海。

 

「……言いたい事があんなら言えよ」

「いんや別に。ただ、相変わらずだなーって思っただけだよ」

「相変わらずって?」

 

 火鈴が疑問の色を浮かべながら海に問い掛ける。

 

「なんつーかな……こいつ、いわゆる世話焼きなんだよ。お節介が多いっていうか、自分から問題に首突っ込むタイプなの」

「あー、なんかそうっぽいよね」

 

 音無が妙に納得したように頷く。

 

「関わる必要も無いのに、変に正義感が強いんだよなー。相談事とかも絶対断れないタイプ。そりゃもう、色々あったもんよ。休日、迷子になった子供見つけたら一緒に暗くなるまで親探してやったり、イジメの現場に遭遇して思いっきり啖呵飛ばしたり!」

「ああ……そんな事もあったなそういや」

「へー、そうなんだぁ。ツッキーヒーローみたいじゃーん」

「うん、本当……そんな零司君も素敵……」

 

 うっとりとした目で見つめてくる火鈴の視線に、なんだか羞恥心が湧いてきて、つい俯く。

 

「それにこいつ、トラブル体質っていうの? ヤケに面倒事に巻き込まれるタイプでさ」

「あー、それもなんか分かるかも。現に、火鈴(この子)と出会ったのもある意味トラブルだしね」

「という事は……私と零司君が出会ったのは、そのトラブル体質のお陰って事だ! 感謝しないとだね!」

「ま、確かにそのトラブル体質のお陰でって事も色々あったかもな」

 

 そう言いながら、海は陸也と空翔に視線を送る。

 

「えっ、何々今の意味あり気な視線。りっくんとアッキー、なんかあったの?」

「……ま、色々とな」

「今度ゆっくり話すよ。しかし、今回はあんまり良い方じゃねぇけどな。あの風紀委員長に噛み付かれたのも、お前のせいじゃねぇか?」

「とばっちりにも程があるだろ……元はお前らが原因だろバカップル」

「まあまあ、案外悪い事じゃねぇかもしれねぇぜ? もしかしたら、今回の一件をキッカケに水瀬ちゃんと仲良くなれるかもだし」

 

 お気楽な笑い声を出しながら、海は再びコーヒー牛乳を飲む。

 

「そー? あんな嫌な奴と仲良くなっても嬉しくなくなーい?」

「まあまあ。確かに性格に難ありな感じだけど、悪い人ではないでしょ」

「うん。なんとなくだけど、むしろ良い人な気がする」

「えー、そうかなー? 美笛っちもリンリンも甘くなーい?」

「ま、男としてはあんな可愛い子と仲良くなれるなら万々歳……ハッ!?」

 

 突然、海が何か大変な事に気が付いた風な声を上げる。その拍子に口に咥えた紙パックが落ちる。

 

「どしたの明坂君」

「俺、大変な事に気が付いたかもしんねぇ……」

「うん、そういう顔してたね」

「零司、テメェまさか……水瀬ちゃんを攻略するつもりじゃなかろうな……?」

「…………」

 

 彼が何を言ってるのか理解出来ず、思わず言葉を失う。

 すると俺の理解が追い付くよりも先に、海がハイテンションに突入しながら言葉を続ける。

 

「最初は険悪な状態で知り合い、そこから彼女の内面を探り、そして最後はそれを解決してハートをゲッチュ! ……完全に口説きに掛かってるじゃねぇかテメェ!」

「……はぁ!? 口説きって、何言ってんだお前!」

「だってそうとしか考えられねぇじゃん! 仲良くもねぇ女子に優しくする理由なんて、口説き落としたいか周りからの好感度上げたいかのどっちかじゃん!」

「明坂くーん、今の発言で周りの好感度下がったよー」

 

 音無が警告を飛ばすが、海はそれを無視して暴走を続ける。

 

「テメェがそんなに世話焼きな理由が分かったわ! 女子にモテる為だなコンニャロー! このジゴロ! ギャルゲ主人公! 四、五人の女子に告られて修羅場に落ちて地獄に落ちるがいいわ!!」

「本当に何言ってんだよ……! 俺は恋愛なんかしたくないんだから、そんな訳――」

「そうなの零司君!?」

 

 と、唐突に火鈴が迫真の表情で顔を近付けて来る。

 こっちもか面倒臭いなぁ!

 

「零司君あの風紀委員長さんを口説き落とそうとしてるの!? 嘘だよね!?」

「真に受けるなよ! あんなの海の妄言だろ!」

「いーや! 海君のお言葉を舐めたらいけない! 俺の言葉はまー、それなりに当たるってどっかしらで評判だからな!」

「フワッとしてんなその評判!」

「どーなのー! 零司くーん!」

「はいはーい。火鈴一旦落ち着こうかー」

 

 海に釣られて暴走気味になってる火鈴を、音無が宥める。

 

 全く……海のふざけっぷりには毎度迷惑被る……なんか疲れた。一旦離脱しよう。

 

 ほとぼりが収まるまでこの場を離れておこうと、俺はその場から立ち上がる。

 

「あ、テメェどこに行く! 裁判はまだ終わっていなーい! 被告人は速やかに席に戻りなさーい!」

「誰が被告人だ。トイレだよ、トイレ」

 

 適当な理由を付けて、俺は屋上から逃げた。

 

「はぁ……念の為遠くに行っとくか」

 

 俺はそのまま一階まで階段を下り、適当に辺りをブラブラとぶらつく。

 

 海の奴、適当な事言ってくれてさ……口説き落とすとか、冗談じゃないっての。こっちは恋愛とは無縁でいたいんだから。口説き落としたとしても、こっちとしては良い事無いんだよ。

 

 まあ、あの水瀬は簡単に男に惚れるような奴じゃないだろうし、そんな心配しなくても良いだろ。……でもまあ、これ以上は関わらない方が無難ではあるか。必要以上のトラブルは避けるように行動しよう。

 

「……そろそろ戻っていい頃かな」

 

 流石に海や火鈴の熱も冷めただろう。屋上に戻ろうとしたその時、ふと喉の渇きを覚える。

 

 あの暑苦しい奴に関わったからだろうか……戻る前に飲み物でも買って行くか。確か、向こうの方に自販機があったな。

 

 ポケットに必要な小銭が入ってるのを確認してから、俺は渡り廊下を抜けた先にある自販機を目指した。

 

 

 ――が、それが失敗だった。渡り廊下を抜け、自販機に辿り着くと、そこには彼女が居た。

 

「ぐっ……! あと、ちょっと……」

 

 何故か地べたにほぼ寝そべった状態で自販機の下に手を突っ込む、水瀬莉緒が。

 

 こいつ、こんなところで何をしているんだ……いや、大体察しは付くんだが。自販機の下に手を突っ込む理由など、一つしか無いからな。

 

 さて、問題はここからだ。俺はこの後どう行動するべきか。幸いというべきなのかは分からないが、周囲には俺達以外人が居ない。まあ、だからこそ彼女はこんな格好でいるのだろう。

 

 そして俺はこのまま見なかった事にしてこの場をそっと立ち去るべきか? それとも、声を掛けて彼女の手助けをしてやるべきか? 普通なら迷わず後者を選ぶのだが、相手は水瀬だ。どんな事を言われるか分かったもんじゃない。でもだからといって、このまま見なかった振りをするのも忍びない。

 

 どうしたものかと自問を繰り返す最中、疲れたのか水瀬が急に立ち上がり――ふと、後ろを向いた。

 

「なっ……!? つ、月村!? 何故お前がここに居る!?」

 

 すると案の定、水瀬は驚愕の声を上げて俺を睨み付ける。若干、恥じらいの色を浮かべながら。

 

「あー、そのだな……俺はただ飲み物を買いに来ただけで……」

「……見たか?」

「へ?」

「見たかと聞いたんだ!」

「それは……あの四つん這い?」

「それもあるが……! その、だな……」

 

 モジモジと体を揺らしながら、水瀬はスカートの裾を下に伸ばすようにギュッと掴む。

 

 その仕草で彼女が何を言いたいのかようやく理解出来た俺は、ポンと手を叩きながら返答する。

 

「安心しろ。そこは見えてなかったよ。流石風紀委員長様、ガードはしっかりしているようで」

「余計な事は言わなくていい……!」

 

 場を和ませようと海のノリを真似てみたが、より空気が悪くなった。もう二度とあいつの真似しない。

 

「……で、お前は何してたんだ? ま、大体想像付くけどさ」

「その想像通りだ。飲み物を買おうとしたら、小銭を落としたんだ。はしたないのは分かっているが、ついな……」

「まあ、周りに人も居ないしそうするのも仕方ないさ。安心しろよ、誰にも言いふらさねぇから」

「……そうか。一応礼は言っておく。てっきり、これをネタに良からぬ事を命令するとでも思っていたのだがな」

 

 男が性欲の塊とでも思ってんのかね……偏見が酷い。つーか大した脅迫材料にならないだろうよそれ。

 

「それで、取れたのか?」

「……いや。案外奥まで入ってしまったようでな。こんな事で怪我しては仕方ない。諦めるさ」

「そうか……じゃあ、俺が代わりに取るよ」

 

 袖を捲り、地べたに寝そべって自販機の下を覗きながら、手を突っ込む。

 

「な、何をしている!?」

「俺の方が手が長いし、取れるかもだろ。っと、思ったより狭いな……」

「そうではなく、どうしてお前がそこまでする! お前には関係無いだろう!」

「事情知ったんだから、関係無くは無いだろ。おっ、これかな……」

 

 指に当たった何かを指先で摘まみ上げ、そのまま一気に腕を引き抜く。

 

「ッ……!」

 

 途中、どこかで擦りむいたのか微かな痛みが手の甲に走る。が、無事に百円玉の回収には成功していた。

 

「うっし取れた。これでいいか?」

「あ、ああ……」

 

 困惑したような顔を見せる水瀬の手の上に百円玉を落とし、袖を戻して服に付いた汚れを落とす。

 

「……怪我をしたんじゃないか?」

「ん? ああ、かすり傷だよ。ほっときゃ直る」

「……どうしてこんな事をした。お前にはなんのメリットも無いだろう。それに、私はお前に対して割と酷い事を言っていただろう。そんな相手に手を貸すとは、どういうつもりなんだ?」

「どういうって……別になんも考えてないけど。メリットどうこうでやるもんじゃないだろ、こういうのって」

「……そう、か」

 

 そう呟きながら、水瀬は一層困惑したような表情を作る。

 まるで自分の知る事実とは違うと思っているような、そんな顔だと、なんとなく思った。

 

「それより、なんか飲み物買うつもりだったんだろ? 早くしろよ」

「……言われなくても」

 

 水瀬は自販機に向き合い、俺が回収した百円玉と残りの金を入れて、ボタンを押す。

 

「へぇ、コーラか。なんか意外」

「私は炭酸は飲めん」

「へ? じゃあどうして?」

 

 しゃがんで出て来たコーラを取り出すと、水瀬はそれを俺の目の前に突き出す。

 

「お前にやる。金を取ってくれた礼だ」

「礼って……いいよそんなの。大した事じゃないし」

「いいから受け取れ! 私は借りた恩は返さないと気が済まない性格なんだ! 事の大小に限らずな! だから決して特別な意も無い! 黙って受け取れ! それで貸し借り無しだ!」

「そ、そうか……じゃあ、遠慮無く」

 

 俺がコーラを受け取ると、水瀬は改めて自販機に金を入れて再度飲み物を買う。イチゴ牛乳だった。

 

 案外可愛いの買うんだな――そう口に出そうになったが、睨まれそうな気がしたので、寸前で飲み込む。

 

「ではな」

「え? ああ、おう……」

「……これも受け取っておけ」

 

 俺から顔を背けながら、水瀬は何かを俺に手渡す。

 渡されたのは絆創膏だった。ピンク色で、愛らしいウサギのキャラクターが描かれた。

 

 これまた随分と可愛らしい……案外可愛い物好きなのか?

 

「怪我したのだろう。貼っておけ」

「あ、どうも……」

「それからだな……ありがとう」

 

 どこか照れ臭そうに吐き捨て、水瀬はそそくさとその場を立ち去った。

 

「……意外に良い奴なんだな、あいつ」

 

 呟きながら、水瀬から貰った絆創膏に目を落とす。

 

「これ貼るのは、ちょっとハードル高いかなぁ……」

 

 どうしようかと考えながら、俺は彼女に買ってもらったコーラの蓋を開けた。プシュッという炭酸の弾ける音が、誰も居ない廊下に響き渡った。

 

 

 

 

 




 莉緒編も折り返し。もう少しお付き合い下さい。



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