『三好in戦極姫』   作:零戦

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思ったより早くに書けたので投稿


第十一話

 

 

 

「久しぶりです晴元殿」

 

 八上城に入城した三好軍は晴元と晴通の首実験を済ませた。最期の形相をする晴元の首が運ばれてきたのを政康達は「いい気味だわ」と呟いていたが長慶は木の板に置かれた晴元の前まで来ると手を合わせた。

 

「長慶様……」

「……生前の行いは許す事は出来ないが今は死者だ。手厚く葬ろう」

 

 長慶の言葉に将和も近寄り手を合わせたのである。

 

「波多野の一族はどうする?」

「女子供は近くの寺に放り込んで僧と尼にするのが良いだろう。遺恨は少ないしたい」

 

 波多野の一族はそのまま近くの寺に放り込まれる。そして長慶は赤井直正に使者(将和)を立て降伏の書状を渡す事にした。

 

「その武勇を散らすのは惜しい。我が三好家でその力を存分に発揮してほしい」

 

 表面上は直正の武勇を褒め称えての降伏を促していたが裏では少々違っていた。

 

「赤井氏は丹波国では波多野に次ぐ有力な国人だ。その赤井氏が三好家に降伏すれば他の国人も降伏しやすくなるだろう」

 

 丹波の状況を理解しての事だった。一方で降伏の書状を見た直正は驚いていた。

 

「某を丹波の大名にすると……?」

「如何にも」

 

 驚く直正に将和は頷く。両者は先日、敵同士で戦ってはいたが今は将和が使者なので容易くは将和を斬れない。しかも将和は細川晴元を討つ程の猛者である。

 

「しかし某と貴殿は先日まで斬り合っていた敵同士ではあろう?」

「確かにそうである。しかし、我が三好は近隣を手に入れるだけで満足をしておらん」

「……天下を取る……と?」

「如何にも。既に天下を握っていた細川晴元を俺自ら討った」

「その話は聞いている。だが降伏して丹波の大名とは……」

「虫が良すぎると?」

「……正直に言えばそうなる」

「ふむ……確かに疑心暗鬼になるのもそうだろう。だが無理に力で抑えるのも良くない……我々には反面教師という者がいたのでな」

「……成る程、それが晴元ですか」

「さて、何の事やら……」

 

 ニヤリと笑う将和に直正も苦笑する。

 

「成る程。それに某を討って丹波を攻略しても国人の抵抗はあるでしょうな。そして国人でも波多野に次ぐ有力な国人である赤井氏を抑えれば……というわけですか」

「如何にも。それに人的被害が減る要因にもなりましょう」

「成る程。その後の統治をも視野に入れてると……敵わんなぁ」

 

 直正は溜め息を吐くと服装を整えて将和に頭を下げる。

 

「分かりもうした。三好家に降伏致しましょう」

「忝ない」

 

 丹波の赤鬼こと赤井直正が三好家に降伏した事は直ぐに丹波中に広がり、他の国人衆も「赤井が降伏したなら……」と次々に三好家に降伏していき三好家の丹波攻略は二月で完了したのである。

 

「さて……丹波を攻略したわけだが……」

「そのまま丹後でも取りますか? 一色が色々と丹波にちょっかいをかけているのは攻略前から知っていますが……」

 

 将和は居城である飯盛山城の茶室で久秀と茶をしていた。

 

「俺としては播磨と近江の同時侵攻をしたいがな」

「へぇ……紀伊ならいざ知らず、播磨と近江ね……」

「うむ。まぁ他にも同時攻略すべきところはあるがな」

 

 久秀から出された茶を将和は一口飲む。

 

「うん、ホッとする味だ」

「何ですのそれ……それで同時侵攻の理由は教えてくださらないのかしら?」

「今度の軍議の時に言うよ。それに具申する案もあるしな……ま、今は茶を楽しみたい」

「それもそうね」

 

 数日後、芥川山城に将和達が集まり軍議を開催する。

 

「それで今回の議題だが……」

「やはり丹波の治安回復でしょう」

「それに丹波の石高も調べませんと……」

 

 長慶の言葉を合図として長逸達はそう口々に議論する。粗方出尽くしたのか、長慶が将和の方をチラリと見る。

 

「兄様は何かあるか?」

『………』

 

 長慶の言葉に長逸達はピタリと議論を止めて将和の方に視線を向けるが将和はすくっと立ち上がる。

 

「まぁ待て、一先ずは休憩としよう。皆も喉が乾いておるだろう。喉を潤してからでも遅くはない」

「……そうだな。一刻後に軍議を再開しよう」

 

 将和の言葉に長慶は苦笑して場を解散させる。そして一刻後、改めて軍議が始まる。

 

「さて、喉も潤った事だし俺から具申しよう」

 

 将和は側にいた小姓に紙を配るように言い、小姓達も紙を長慶達に配る。

 

「まずは最初から説明しよう。我が三好家は現在、他国を攻略する時は農民が主体となって軍を成しているので田植えや稲刈りの時期は除いた戦いとなっているな?」

「確かに」

「俺としては一年中、戦える事を想定したい」

「一年中……でも農民兵ですよ」

 

 将和の言葉に長逸は反論する。農民兵だと二つのシーズンは特にヤバイはずだ、その事を申す長逸だがあっと小さく叫んだ。

 

「もしかして将和様は……」

「そう、三好家で常備兵を持とうという事だ」

『常備兵を!?』

 

 将和の言葉に場はざわめきだす。

 

「し、しかし将和様。常備兵となるとその者達は……」

「うむ、銭で雇う必要がある」

「銭で雇う……果たして三好家の資金で賄えるか……」

「何も全軍を銭で雇う必要はない。即応に動ける部隊だけでもあればいざという時に動ける」

「成る程……」

「ですがやはり資金が……」

「うむ、そこがやはり問題なんだ。今の三好家が常備兵を持とうとすれば精々2、3000くらいだ」

「まさか堺を……?」

「今はまだ早い」

 

 今はである。将和としては何れ堺を攻める気である。

 

「そこでだ。三好家が独自に常備兵の態勢を整える方法が四通りある」

「……聞こうか兄様」

「まず一つ目、丹後一色を攻めると同時に舞鶴の湊を支配して利益を独占しその余剰分を以て常備兵を整える。しかしこれには時間が掛かる」

「舞鶴という畿内から離れているからか?」

「うむ。そして二つ目、南近江の六角を攻めて大津と草津を奪い取る」

「フフ、確かに大津と草津は商業が賑わっている都市ね」

「その通りだ久秀。そして三つ目、堺を攻略する。ただし堺の会合衆の抵抗は激しいと思う」

「ふむ……それで四つ目は?」

「簡単な事だ……全てを攻略して三好家の財となして常備兵を整える」

 

 ニヤリと笑う将和に長慶は苦笑する。

 

「なんだ、それならいつも通りじゃないか兄様」

「いやなに、これでも選択肢は与えているつもりだよ」

 

 将和はそう言って茶菓子を一口、口に入れる。

 

「ならまずは堺を取ろう。周りが敵だらけでは可哀想だからな」

「なら先ずは矢銭を要求して出方を図ろう」

 

 斯くして三好長慶は堺に対して3万貫の矢銭と服属を要求する。その要求には勿論、会合衆は怒り狂った。

 

「おのれ三好め!! わてらを愚弄する気やな!!」

「こうなったら戦うしかないで!!」

「せや!!」

「町の周りに堀を築いて三好軍を待ち構えるんや!!」

 

 会合衆は浪人等を約6000を銭で雇い長慶に対抗しようとする。しかし、長慶の軍勢は25000で堺を包囲した。しかも和夏達の忍び隊が先の八上城の時同様に食糧庫を放火したりして堺の士気を低下させ戦意を喪失させるのである。

 そのため、主戦派だった会合衆も降伏を決意し包囲から三ヶ月で三好家に降伏し矢銭の支払いも合意した。

 更に久秀の伝手を通じていた今井宗久が務めていた堺の代官職を安堵する事で三好側の傘下に組み込む事に成功するのであった。

 三好家の堺攻略には将軍義輝も難癖をつけようとしたが将和は先に朝廷に寄進して妨害工作を依頼していたので義輝が思った効果は出なかった。そして堺の重要性を知っていた尾張の戦国大名である織田信長は丹羽長秀からの報告に舌打ちをする。

 

「そうか、御苦労だった五郎左。下がってよい」

「ははっ」

 

 長秀が下がり、信長一人の部屋となるが次第に信長は笑い出す。

 

「クク……そうでなくては困るな……倒す相手が高ければ高い程燃えてくる!!」

 

 信長も漸く尾張を統一したばかりだが東の今川義元が京へ上洛しようとする気配を見せていたのだ。そのため、信長も軍備の増強を急がせていたのだ。

 

「私が天下を取る」

 

 ニヤリと笑う信長だった。

 

 

 

 




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