「何? 陶が毛利に負けたと?」
「うん、暴風雨の中を厳島に奇襲攻撃したそうだよ」
将和は飯盛山城で和夏からの報告を聞いていた。堺を攻略後、矢銭の軍資金を手に入れる事が出来た三好家は常備兵の保有を整えつつ和夏達忍び隊の増強をしていた。
特に忍びで有名な伊賀から多数の忍びを雇い、場合によっては将和が家臣にしていた。和夏も飯盛山城付近の土地を将和から貰い配下の忍び達に分け与えていたりしている。
(歴史通りではあるが年代が大分違うな……あれか?戦極姫の世界の女性は不老説でもあるのか?)
まぁ原作では人魚の肉を食べて不老不死の女性も出たりしているので強ち、間違いとは言えない。
「それと東海道の今川義元が尾張へ侵攻したそうだ。兵力は凡そ二万五千だな」
「何!?」
和夏の報告に将和は今度こそ立ち上がる。それほど重要な報告だったからだ。
「ど、どうした?」
「いや……済まん。報告を続けてくれ」
「あ、あぁ。この報告は昨日の夜半に届いた」
「夜半……今川軍が何処まで尾張に攻め行ってるか分かるか?」
「昨日の時点だと今川義元は沓掛城に入城したとの事だな」
「……そうか(となると戦闘は始まっていそうだな)」
将和の予想は当たっていた。今川軍は松平元康や朝比奈泰朝らはそれぞれ丸根、鷲津砦を攻めてこれを陥落、大高城周辺の制圧を完了した義元は沓掛城を出て桶狭間で陣を張り一息をついていた。天候は暴風雨であるがそれ織田軍が味方につけ善照寺砦から一気にこの桶狭間まで躍り出たのである。
「天は信長に味方したか……」
大雨の中、信長はニヤリと笑い後ろを振り返る。後ろには長秀や前田慶次等有力な武将が控えていた。
「……突撃するぞ!! 義元の首以外は捨て置け!!」
『オオォォォォォォォ!!』
「全軍突撃ィィィィィィ!!」
『ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
彼等は一気に駆け抜けた。今川の軍勢は不意を突かれた。特に足軽等、付近の村からの差し入れである酒を飲んでおり酔っぱらっていた事もあった。
「御屋形様を守れェ!!」
それでも松井宗信ら重臣達は義元を守ろうとするがそれが返ってそこに義元がいるという答えを出してしまっていた。義元を守っていた重臣も一人、また一人と信長が生み出した馬廻によって倒れていき……。
「織田家馬廻の一人、服部小平太!!」
「小癪な!!」
服部小平太が槍で義元の腹部を突き刺す一番槍をかますが義元に膝を割られた。更にそこへ躍り出たのは同じ馬廻の毛利新介である。
「同じく毛利新介推参!!」
「グォ!?」
毛利新介は義元に一斬りをして組み伏せる。その最中、義元に指を食い千切られるがそれでも毛利の一斬りは義元には致命傷だった。口周りは指を食い千切ったので血だらけであり、数歩歩くと水溜まりにバシャリと倒れこむ。
「都へ……みやこぇ……」
それが義元の最期の言葉だった。
「今川義元、討ち取ったァァァァァァァ!!」
斯くして、織田信長は尾張に侵攻した今川義元と桶狭間にて戦い、見事に義元の首を取るのであった。
今川義元の討死は直ぐに将和の元にも届いた。
「そうか、尾張のうつけがやったか……(あの時の女か……成る程、大層な自信は持っていたが本当にやるとはな)」
報告を受けながら将和は感心していた。だが同時に将和は歴史の速度に焦っていた。
(このままだと信長は松平元康と清洲同盟を結ぶのは必須……史実だと美濃侵攻は約10年を費やしてはいるが……問題はこの軍師だ)
将和は一枚の書状を見る。それは松平家の家臣名が記載されていたがその中に天城颯馬と書かれていたのだ。
(……絶対にこれ主人公だよな……そうだよ、俺もこいつでプレイした事あるし……となると織田家√かよ……)
厄介な事に頭を抱える将和である。
(まぁこいつも三国志の某種馬野郎と同じようなニコポナデポ野郎だとは思うが……最悪、消すしかないな)
あくまで三好家の天下統一事業を邪魔するのであればである。だが信長が一地方を統一するだけで満足する筈ではない。
「……めんどくさい世の中だな……」
「どうした将和君?」
「いや、何でもない」
和夏の問いに将和はそう答えるのであった。そして将和は独自で情報を更に集める事にした。
(やはり織田家が台頭してくるなら此方の領土もやはり大きくしなくてはならんな……)
将和は机に地図を広げつつ領土を確認する。
(……やはり近江を取って信長を牽制するしかないか……最悪は山崎か……)
将和は早急に近江攻略を乗り出して軍議が始まる前日まで徹夜で作業して軍議に提出した。
「近江攻略を具申する」
「この時期にか将兄?」
「若干、無謀な気もしますが……」
「………」
将和の具申に場は荒れに荒れた。これまでに丹波や堺の攻略等で兵を多く出して資金も堺の矢銭で何とか賄えているが出費が激しいのは事実であった。
「今、近江を取らねば今川を討った織田が台頭してくる。その織田に対抗するために近江攻略は必要だ」
「だがその織田はまだ尾張一国で義元が討たれたのは油断があったからじゃないのか将兄?」
「そうですよ。それに織田はうつけですし義元もそこに油断していたと思いますよ」
「織田は堺並の津島を所有しているし信長は銭の理解もある。それに織田家はその資金で我々より早くに常備兵の整備をしている。つまり織田家は一年中の出兵が可能なんだよ」
「だけどな将兄、俺らの障害となるなら美濃とか取っているなら分かるけどよぅ……」
議論は思わぬ将和の苦戦が続き、やがては長慶が軍議の閉廷を促した。
「今回は此処までにしよう。近江攻略はまだ時期早急と思う」
「長慶!?」
「兄様、まだ我々は常備兵を完全には整えていないんだ」
「ッ……」
「それに兄様は最近寝てないと聞く。たまには休むべきじゃないのか……?」
「長慶………」
長慶はそう言って場を後にし一存達もゾロゾロと出て行った。残ったのは将和と久秀である。
「焦ったわね」
「……だな。あーッ!!」
久秀の言葉に将和は頷きながらゴロンと床に転がる。
「織田家の対抗のために近江を取る。中々の案ね」
「そして美濃の関ヶ原で決戦に挑もうとしたんだよ、ホラ」
将和はそう言って久秀に一枚の地図を見せる。地図には三好家が布陣予定のが記載されていた。なお、将和は史実関ヶ原の西軍の布陣をほぼ丸パクリにしていた。
「……この布陣は中々のものね」
「だろ? だがああまで拒否されたら御蔵入りってわけよ」
そう言って将和は立ち上がる。
「帰るよ」
「あら、拗ねたのかしら?」
「違うわい。休め言われたから休むんじゃい」
「フフ、なら茶でもどうかしら?」
「そうだな……久しぶりに信貴山城にでも行こうかな」
「あら、なら平蜘蛛を出さないとね」
「むしろ見してくれ」
そうい言いながら廊下を歩く二人だった。
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