『三好in戦極姫』   作:零戦

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超が付く程のお久しぶりです


第十六話

 

 

 

 

 

「南近江を取ったのだからついでに北近江も取りたいのだがな……」

「ですがそうなると、その上にいる朝倉が絡んでくる……その可能性もありますわ」

 

 観音寺城で将和の呟きに久秀はそう答えた。

 

「だろうなぁ……だが……」

「織田を迎え撃つためには北近江も取る……そういう事ですわね?」

「そういう事だな」

 

 荒れていた南近江もある程度は静穏を取り戻しつつも将和の軍勢は観音寺城から動く事はなかった。

 

「六角の備えは山崎らに任せる。全軍を上げて北近江……浅井を討つ」

「そして織田を警戒……ね」

「あぁ」

 

 久秀の言葉に将和は頷く。

 

「朝倉に文を出すか」

「褒美は若狭一国……妥当な線かしらね」

「コメもあるし小浜湊もある……美味い餌とは思わんか?」

「安全策を取らせる腹ね……若狭を取る事で三好との国境はあるが朝倉は北の一向宗に専念出来るわけね」

「そゆこと」

 

 将和はニヤリと笑いつつ朝倉への文を認めて和夏の忍びを通じて朝倉の元に届けられるのである。

 

「うーん……三好の思惑に乗せられる形だけどなぁ……」

「断りますか?」

 

 朝倉の居住である一乗谷城で朝倉義景はそう呟き、重臣の山崎吉家はそう具申するが義景は首を横に振る。

 

「宗滴が亡き今、無理な事は止めよう。だからこそ三好と結んで一向宗に備えるべきかな」

「御意。直ちに使者を出しましょう」

 

 義景の判断に吉家は頷き朝倉は将和の元に使者を出すのである。

 

「分かり申した。朝倉義景殿の御英断、真に感謝致すと伝えてくだされ」

 

 使者の報告に将和はニコニコ笑いながらそう告げて使者が下がった後に地図を出す。

 

「これで浅井の命運は消えた……高島や朽木の調略は?」

「朽木らも此方の味方側よ」

「上々だな」

 

 久秀の言葉に将和はニヤリと笑う。

 

「今攻めるのかしら?」

「いや……もう一芝居を打つ………どうだ?」

 

 将和は扇子で口元を隠しながらヒソヒソと久秀に話すと久秀はニヤリと笑う。

 

「謀略には謀略を……成る程ね」

 

 数日後、浅井家の居城である小谷城で浅井久政は憤慨していた。

 

「朽木が謀反の疑いだとォ!?」

「いえ、あくまでも噂程度です」

 

 怒る久政に家臣の磯野はそう訂正をする。

 

「どちらも同じ事よ!! 直ちに兵を集めよ、朽木を討伐する!!」

「お待ちください父上!? 無闇に朽木を刺激してはなりませぬ。此処で朽木を刺激すれば朽木は三好家に走るやもしれません。此処は慎重になるべきです」

「黙れ長政!! 浅井の事はワシが決める、貴様は黙っておけ!!」

「………」

 

 長政は反論するが久政はその反論を押しきって朽木討伐の軍勢を準備するのであるがそれは将和側にも情報は漏れていた。

 

「おい、久政の周りはアホしかおらんのか?」

「だから動かしやすいのでしょう」

 

 観音寺城で将和と久秀はそう話していた。三好側も朽木支援の軍勢と浅井討伐の軍勢を整えていた。

 

「久秀、朽木支援の軍勢を率いてくれ」

「成る程。重臣を出せば朽木も本気で支援してくれ、浅井も本気で朽木が裏切ったと判断するわね」

「そんなわけだ。これが済めば堺で遊んで来てもいいぞ」

「あら、ならそうさせてもらうわ」

 

 将和の言葉に久秀は嬉しそうな表情をする。ここ最近は久秀も堺に遊びに行ってなかったので張り切るだろう。久秀には実休と直正を加えて9000の兵力で高島郡へ向かい将和の主力は15000の兵力で愛知郡まで進軍し待ち構えていた浅井軍6000と宇曽川を挟んで対陣する。

 後に言われる『野良田の戦い』と呼ばれる戦いである。

 

「浅井は先鋒と思わしき2000の兵が順慶の陣と衝突しています」

「ん(なら……)」

 

 伝令からの報告に将和は頷き床几から立ち上がる。

 

「程なくして長政は突っ込んでくる。迎撃態勢を整えろと伝えろ。それと……」

「御意」

 

 そして戦いが始まって一時間と半が過ぎた時、浅井は動いた。残った全兵力を以て中央突破を図り真っ直ぐ将和の本陣へ迫ろうとしたのだ。

 

「この磯野員昌に続けェ!!」

「突き進めェ!!」

 

 一番手を磯野員昌と藤堂高虎が務めて将和本陣の前衛と衝突する。だが浅井軍の士気は高い、浅井には後が無い。そのため浅井はこの戦いに全てを賭けているのである。

 だが将和もそれには備えていた。

 

「磯野殿!! 左右から敵部隊です!!」

「チィ!!」

 

 一番手の左右から伏兵が突撃してきたのだ。左右からの挟撃に瞬く間に磯野隊はその数を減らしていく。

 

「損害に構うな!! 我々の目的は三好将和の首ただ一つだ!!」

 

 それでも磯野隊は構わず正面にいる将和の元へ食らいつこうとする。だが……。

 

「磯野殿!?」

「如何した!?」

「長政様の本陣が……」

 

 物見からの報告に磯野と藤堂は驚愕する。長政の本陣は別の部隊が側面から攻撃していたのだ。

 

「いてまえ!! からくり左近!!」

 

 別動隊3000を率いていたのは島左近だった。彼女自身が作成した『からくり左近』を先頭に別動隊は側面攻撃を開始、初めは防御していた長政の本陣だが『からくり左近』を投入した事で態勢が崩れたのである。長政の陣は敗走を開始したがそれ以前に長政は撤退を決意して準備をしていた。

 

「父上の朽木討伐軍が敗退!? しかも父上が討死だって!!」

「長政様、このままでは浅井家は滅びます」

 

 宮部継潤はそう具申した。宮部の言う事は長政も分かっていた。

 

「……撤退しよう。直ちに員昌と高虎に連絡を!!」

「御意!!」

 

 その直後に左近の別動隊が襲撃してきたのである。長政らはそれでも撤退をしようとしたが馬が鉄砲で被弾、落馬したところを左近によって捕縛されたのである。

 そして将和の本陣へ突撃した磯野と藤堂は覚悟を決めた。

 

「長政様が撤退する時を稼ぐ。死に場所は此処だと心得よ!!」

「掛かれェ!!」

 

 将和隊と磯野・藤堂隊が激突する。不意に将和は殺気を感じた。その方向を見ると一騎の騎馬女武者が将和の元へ馬を走らせていた。

 

「そこにいるのは敵将三好将和とお見受け致す!! あたしは浅井家家臣藤堂高虎也!! その頸頂戴致す!!」

「将和様には触れさせません!!」

「行くな順慶!!」

 

 隣にいた順慶が馬を走らせて藤堂に向かう。将和が止めようとするが順慶は聞く耳を持たない。

 

「貴様に用には無い!!」

「きゃ!?」

「順慶様!!」

 

 藤堂が順慶を落馬させ筒井家の者が順慶を助ける。

 

「おりゃァ!!」

 

 そして藤堂が将和に槍を投げた。

 

(投げた!? 俺死ぬぞ!!)

「将和君!!」

 

 そこへ和夏が苦無で槍を叩き落とした。

 

「済まん和夏(マジで助かった……)」

「ちぃ、ならば!!」

「むっ」

 

 そして藤堂が抜刀したのを視認した将和も咄嗟に太刀を抜刀した。藤堂が馬を走らせて将和に斬りかかろうとするが将和は太刀で受け止めて鍔迫り合いとなる。

 

「ぐっ……」

「ぐぐ……」

「(予想以上に藤堂の力が強い……だけどなァ!!)負けて……たまるかァ!!」

「く!!」

「将和君!!」

 

 何とか力を振り絞って押し返した。そこへ和夏がまた加勢して苦無を投げた。苦無は藤堂の太刀が折れさせる事に成功した。

 

「………はぁ」

 

 折れた太刀を見た藤堂は深い溜め息を吐くと納刀して馬を降り地面に座り込んだ。

 

「些か邪魔が入ったがあたしの負けだ。好きに頸でも討つといい」

「……捕縛しろ」

 

 将和の言葉に足軽達が直ぐに藤堂を縄で捕縛した。

 

「将和君、勝負の邪魔をして済まないね。ですも将和君が死ねば……」

 

「いや、良くやったよ和夏。あのままだと俺は死んでた。助けてくれてありがとう和夏(流石忍、次の給料は上げておこう)」

 

 将和はそう言って和夏を褒めた。

 

「……褒めてくれるなら俸禄を上げてくれないか?」

「……また借金か?」

「配下の紫達からのだよ……」

(……前言撤回しようかな……)

 

 将和は深い溜め息を吐いたのであった。斯くして野良田の戦いは終了した。戦果は浅井長政らの捕縛であり北近江攻略も順調に進める事が出来たのである。

 

 

 

 




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