『三好in戦極姫』   作:零戦

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第十七話

 

 

 

 

将和は北近江の残務処理で小谷城にいたがその座敷牢を訪れた。座敷牢には一人の浅井側の武将がいたからである。

 

 

 

「久しぶりだな藤堂高虎」

「……三好将和……大将自らお出ましとはな」

「カッカッカ、今は暇だからな」

 

 将和は笑いながら冷たい地面に座り高虎に視線を向ける。

 

「なぁ藤堂。四の五は言わん、三好家に仕えんか?」

「……それは浅井を裏切れと申すのか?」

「隠居した前当主は討死して当主は此方側……裏切る行為ではないが?」

「!? ……成る程。浅井の事情をよくご存知で……」

「某の手元には優秀な忍がおるからな。浅井はそのまま北近江を任せる所存だ。どうだろうか?」

「………」

 

 将和の言葉に高虎は目を瞑る。幾分か経つと目を開き正座をして将和に視線を向けた。

 

「……お仕えします。ですが少々御願いがあります」

「聞こう」

「長政様に害をせぬ事を書面で認めてもらう事を願います」

「……あい分かった、そうしよう。念のために長慶にも一筆頼んで書名しておこう」

「感謝致します」

 

 こうして藤堂高虎は将和の家臣となった。

 

「長慶の家臣じゃなくて良かったのか?」

「直臣より陪臣の方が楽です。それに長慶殿は会った事ないので」

「……あ、そう」

 

 なお、高虎は非常に優秀な人材であった。

 

「政は高虎に任せようかな」

「それは駄目よ。貴方サボるじゃない」

 

 将和の呟きに頭を押さえながらそう答えた久秀である。また浅井長政にも面会して再度北近江の統治を委任するのである。

 

「破れた者なのに良いの?」

「構わん。国の根本は人であり農民だ。その農民を妨げていた久政に国を治める資格は無い。だが長政は人を考えての統治をしていた……そういう事だな」

「……敵だった三好将和からそのような評価を貰えるとは思いませんでした」

「敵だからとそう切り捨てるのは良くないな。使える者はドンドン使う……俺はそう思うがな」

「成る程……」

「ま、頼むよ」

「御意、その期待に答えます」

 

 将和の言葉に長政は頭を下げるのである。そして長慶は北近江の攻略を播磨国で聞いた。

 

「流石は兄様……」

 

 長慶の軍勢15000は三木城を攻略中だが三木城主の別所就治の激しい抵抗により未だ落城していなかった。それでも長慶は周辺にある七つの支城を落城させ、明石氏が立て籠る枝吉城を十河一存に包囲させこれを落城させている。

 

「我々は美嚢郡を切り取っているが兄様は一気に北近江か……虚しいものだな」

「長慶様……」

 

 当主である自分達の主力がこの様である。だが、それを奮起させたのは猛将の十河一存である。

 

「だらしないぞ姉さん!!」

「一存……」

「将和兄が領土を取ったからどうした、姉さんは三好家の当主なんだ。此処はドッシリと構えておけばいいんだよ」

「……ありがとう一存」

 

 一存の言葉に長慶は微笑むのであった。

 

「ところでドッシリという言葉……何処を見て言ったのか……姉さんは聞きたいな一存?」

「え、な、な、何の事かな姉さん。お、俺にはサッパリだなぁ………アハハハハハハ」

「「アハハハハハハ」」

 

 その夜、長慶の本陣で一存によく似た悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか……。

 それはさておき、ネガティブから払拭した長慶は三木城への攻勢を強めて二日後には別所就治もこれ以上の抵抗は不可能と判断して降伏するのである。これにより美嚢・明石郡は三好家が占領するのである。

 それで以て長慶の軍勢は勢いを増すように印南群の志方城を攻略し加古・印南郡までを占領するのである。無論、赤松晴政や小寺政職等は激しく抵抗を行い長慶はそれを全力で応えた。

 結果として赤松晴政や小寺政職等は戦場で討死をして多数の家臣が離散するがその家臣の中に黒田家もあり黒田家は織田家の元へ身を寄せるのだがそれはまだ先の話である。

 それはさておき、話を近江の将和にもどす。その将和は長政に商売の話を持ってきていた。

 

「近江のコメを使って清酒を作らんか? 一工夫をすればあら不思議、濁り酒があっという間に清酒へ生まれ変わる」

「その話……詳しく」

 

 将和は澄んだ清酒を長政に渡し、長政は一口付けると目を変えた。

 

「こ、これは……」

「味がまろやかだろ? 近江のコメは品質が良い……これを元に清酒を売れば……」

「近江への商人の往来も多くなる」

「その通り。そしてこれだけの清酒があれば縁起物や出陣式に使えるよな……?」

「……将和殿、是非近江での製造を!!」

 

 将和の言葉に長政は全力で頭を下げた。

 

(戦で負けた浅井をこれだけ買っている……なら何としてもこの綱を切っては駄目!!)

 

 長政は全力でそう思っていた。対して将和も満足そうに頷いた。

 

「宜しい、頼みますよ長政殿」

「ははッ!!」

 

 浅井との結びつきも強くした将和であった。そして朝廷への寄進も忘れてはいない。

 

「ホホホ、久しいですなぁ将和殿」

「山科殿もお変わりなく」

 

 将和は公家である山科言継の屋敷を訪れていた。

 

「今回、帝への献上としまして米六千石、麦二千石、金銀をそれぞれ用意してあります」

「ほんに御苦労さんどす。肥後の相良家等も麿らによう寄進してくれはるけど……あんさんだけやで、しっかりと麿らにも施しをしてくれはるのわ」

「……ハッハッハ、いやなに。前にも言ったぁ我らが戦場で働くように公家も朝廷で働く……そうでござろう?」

「……ほんに感謝しますわ。それで今回はどのような頼みを?」

「……長慶への官位をと思いましてな」

「ふむ……長慶はんねぇ……」

 

 将和の言葉に言継は口元を扇子で隠す。

 

「麿や帝は問題無いと思う……三好家はこれまでに多く朝廷に寄進してくれたからの。その功績には報いるべきと思うておる。じゃが……」

「やはり花の御所ですか……?」

 

 将和の問いに言継は無言で頷いた。

 

「三好の躍進……それをあの剣豪将軍は良くないと思うてる」

「………」

「最近……花の御所の周りには少なからずその手の者が出入りをしていると聞く……もしかするとあの剣豪将軍はやるかもしれんでおじゃる」

「……やりますか」

「あんさんかて分かっているからこその官位を貰おうとしてるんやろ?」

「まぁ……警戒のための布石なもので……」

「官位に関しては授ける事は出来るであろうのぅ……恐らくは修理大夫くらいじゃろうのぅ」

「それでも十分です」

「あい分かった(それにお主にもの……)」

 

 斯くして数日後、長慶は修理大夫の官職を朝廷から貰いまた将和も国司である河内守の官職も受領するのである。

 

「自分ですかよ」

「ホホホ、将和殿にも世話になっておるからの。その礼じゃよ」

 

 思わず言継の屋敷に押し掛ける将和がいたとかいないとか……。再びそれはさておき、年の瀬の年末。長慶らは久しぶりに芥川山城で年を越せるようだった。

 

「今年は領土拡大の年だったな」

「近江に播磨の攻略……それに私と兄様の官職……目出度い事です」

 

 将和の呟きに長慶はそう返す。周りはどんちゃん騒ぎをしており今は一存と政康が酒の一気飲みを勝負しているところだった。

 

「兄様、杯が空いてますよ」

「ん、済まんな」

 

 将和は長慶から酒を注いでもらい飲み干す。

 

「長慶、播磨攻めで悩んでいたのは一存から聞いたよ。済まなかった」

「……良いんですよ兄様。私はまだ戦場の経験がまだ少ない。これに限るのです」

 

 そう言って長慶は自身で酒を注いで一気に飲み干す。頬が赤らんでいるがまだ大丈夫だろう。

 

「大丈夫だ。これから積んでいけば問題ない」

「……ッ………」

 

 将和は長慶の頭をポンポンと撫でる。撫でられた長慶は一気に顔を赤くし、それこそ漫画で見られる『ボンッ!!』と擬音が出る勢いの赤らめである。その光景をコッソリと見ていた高虎でさえ「ほぅ…将和殿に撫でられるのはよっぽど良いものか」と納得する有り様である。

 いつもの長慶なら顔を赤くして終わる……が、今回は年末であり酒も入って最高にハイッて状態である。そのため長慶は行動をした。

 

「ごくっ……ごくっ…ごくっ……プハァ!!」

「あっ俺の酒……」

 

 長慶は徳利を一気飲みをし据わった目を持ちながら将和にジロリと視線を向ける。向けられた将和は(あっ……夕夏だわこれ)と思っていた。

 

「兄様」

「はい」

「私に力をください」

「えっ……むぐっ」

「んちゅぷ、はぁ、ちゅぷ……れろぉ、じゅぷ、ちゅぷ、ちゅるっ、じゅるるっ、はぁ、ちゅぷ、じゅるるっ」

 

 長慶は皆から見えない位置で将和の唇を奪いあまつさえ舌まで絡めていた。

 長慶はタップリと5分程の時を使って将和との口吸いを楽しみにゆっくりと唇を離す。名残惜しそうに二人の唾液が糸を引き重力に引かれて落ちていく。

 

「……力は貰ったか?」

「……いえ、まだです兄様」

「………ちゅぷ……れろぉ、じゅぷ、ちゅぷ、ちゅるっ、じゅるるっ、はぁ、ちゅぷ、じゅるるっ」

 

 その言葉に将和自身が動いて長慶の唇に合わした。なお、今度は先ほどの倍である10分も頑張った模様である。ちなみに他の面々は既に酔い潰れており二人の行為を見ていなかったが一人は影から見ていたのである。

 

「……馬鹿……これじゃあ私、将和殿のを待ってる事になるじゃないの……あぁもう!!」

 

 そう叫ぶ久秀であった。そして新年が明けた1月2日、大きく動く事態が発生するのである。

 

「足利義輝が挙兵!! 中尾城に立て籠った模様です!!」

 

 足利義輝の挙兵であった。

 

 

 

 

 

 

 




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